第8話 ローラとアリア②
翌朝。アリアはいつも通り、大広間に集まったメイドに指示を出す。さり気なくメモ帳を見たが、全員とも支給された赤いメモ帳を使っていた。異質な一行が書かれたメモは、城で支給されたメモ帳と同じだった。これだけの人数が同じ物を使っていたら、そこから犯人を捜し出すのは不可能に近い。
メイドのアスミ・トナーに話を聞くため、後でエリリカの部屋に来るよう伝えた。
「アリアさ~ん、今日はお昼一緒に食べましょう」
「ローラ、何回言えば分かるのよ。廊下を走っては駄目よ。あなたが怪我したらどうするの」
メイドのローラ・ウェルが向かいから走ってきた。何度注意しても走るのを辞めないが、アリアにだって立場がある。続けてお説教しようとしたら、ローラが笑い出した。
「急に笑い出してどうしたのよ。落ちていたものを拾って食べたりしていないでしょうね」
「どうしてそうなるんですか。しませんよ、そんなこと」
「あなたのことだから分からないわ」
「酷いですよ~。そうじゃなくて、アリアさんが心配してくれたのが嬉しいんですぅ」
ローラは頬を膨らませた。その様子を見て、アリアは口に手を当てて小さく笑う。アリアは、彼女のことを妹のように思っている。ちょっとした仕草でも可愛いと思えてしまう。
「お昼ご飯のことだけど、ごめんね。無理そうなの」
「ええっ!? なんでなんで。じゃあ夜は」
「ごめんね。当分は無理かしら」
「そ、そんなぁ」
ローラは悲しそうにしていたが、ふっと顔から表情が消えた。そのままの顔でアリアを見つめる。
「昨日の事件のせいですか」
「えっ」
別に隠し立てすることではないが、最初に正解を言い当てられて驚いた。アリアが黙ったままなので、ローラは自分の考えをぼそっと話す。
「お嬢様の性格を考えると、落ち込むだけじゃないだろうなって思います。犯人捜し、一緒にするんですよね」
ローラに真顔で見つめられ、アリアはたじろいだ。彼女はこう見えても賢い。よく書斎に入って本を読んでいるし、知識もある。
エリリカとローラは同い年で、どちらもアリアが教育係を務めていた。そういったこともあって二人は同じように育っている。だから、ローラにはエリリカの行動が読めたのかもしれいとアリアは思った。
「後であなたにも話を聞こうとしていたから、言っても良いかしらね。エリリカ様と私で絶対に真実を掴んでみせるわ。犯人が誰か分からないけれど、ローラは心配しなくても大丈夫よ。すぐに犯人を捕まえるわ」
「そう、ですか。二人が犯人を捕まえるの、楽しみにしてますね。早く犯人を捕まえて、あたしとお昼ご飯食べて下さいよ」
「ふふ、約束ね」
アリアが小指を出したので、同じようにローラも小指を出して、二人で指切りする。それから、お互いの仕事に戻ることにした。
「やっぱり、優先はお嬢様なんですね」
アリアが背を向けた時、後ろからローラの声が聞こえてきた。アリアは慌てて振り返ったが、彼女は扉の向こうへ消えていた。
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