あまりにクズだったので、四天王を解雇されたのだが。

クズの極み男

01 突然の解雇通達?!

 ここは世界の北の果てに存在する魔王城。

 この世の光と闇の均衡を保つために、魔王自ら設計・建設した難攻不落の巨城である。


 そしてここは、この城でも特に重要な部屋の1つである"玉座の間"。

 今、その玉座にはこの世に敵う生物はいないという、世界最強の"魔王"が座していた。

 そして今宵、この場に呼ばれたのは魔王軍四天王と言う肩書きを持つ4人の幹部たち。


 "不死鳥"のフェニックス

 "巨人"のヒガンテ

 "堕天使"のルシファー

 "悪魔"のディアブロ


 これからの世界の命運を左右する、魔王と四天王たちとの会議が今、始まる──



 ■■■■■



「よく来てくれたな、栄光ある我が軍の四天王たちよ」


 魔王様が出迎えの言葉を述べてくださった。

 俺たち四天王たちが跪いている中、4人の筆頭であるフェニックスが体制を維持したまま口を開いた。


「魔王様も、御壮健そうで何よりです」

「ありがとうフェニックス。皆、頭をあげよ」


 言われた通り、俺たちは頭をあげた。

 魔王様は威厳にあふれ、いつものように身体からは瘴気を放っている。

 その表情は固く、世界中の誰がどう見ても邪悪な魔王様そのものだと答えるだろう。

 そんな魔王様の前で、ルシファーは口を開いた。


「ご主人様、失礼を承知で妾の発言を許していただきたい」

「許そう、どうしたのだルシファー」


 ルシファーの言葉に、魔王様は答える。


「はっ、それでは僭越ながら申し上げまする」


 おそらく、いつもの提案だろう。


「今、この玉座の間には妾たちしかおりませぬ。したがって、いつも通りでもよいと思いまする」

「そうか、では──」


 そこまで言うと、いきなり魔王様の周りの空気は一変した。


「──いつも通りでいくわ~」


 そこに威厳はもはやなく、身体から発していた瘴気も消え失せている。

 これが素の魔王様だ。


「普段お疲れのようなので、我々四天王の前くらいは、どうぞ素の状態でリラックスしてください」


 心から労るように、ヒガンテが魔王様へ言った。


「シフもガッちゃんも、心遣いありがとうね~。そっちもリラックスしていいから~」


 魔王様はこの状態のとき、俺たちをいつもあだ名で呼ぶ。俺はアブーだ。


 このお方は500年前に、魔王になるべくして生まれた。

 人間どもから頻繁に現れる多くの勇者を適度に屠り、闇の管理者としてこの世界のバランスを保っておられる。

 故に、闇の使者たる多くの魔王軍を従えるためには、威厳を保たねばならなかった。


 だが、魔王様といえど一つの人格を持つ一塊の生物。

 どんなに義務で塗りたくられた運命があっても、生来の性格は中々矯正できないものだ。

 そのため魔王様は表と裏を使い分け、表では魔王然とした態度で軍をまとめあげ、裏では軽薄で砕けた態度で休むという、二重生活を送られている。

 このことを知っているのは、魔王様本人と俺たち四天王だけだった。


「それにしても、ニックはこの前大活躍だったそうじゃんか!何でも、また乗り込んできた新手の勇者を倒したんだってね~」

「いえ、私たちも仕事ですので、そのような労いは私には勿体ないと思います」

「そんな堅苦しい考え方してると、いつか不死のお前でも疲れて死んじゃうよ?あんまり無理しないでね」


 やはり魔王様は優しい。

 この慈愛の心が、俺たちを憔悴させてしまう。


「それからガっちゃん!この前の王国との戦い、俺たちはほとんど無傷で圧勝だったよね?びっくりしたよ~!」

「我も当然の仕事をしたまででございます。ご命令とあらば、今度は神々にでも戦って参りましょう」


 平然としているが、褒められたことが心底嬉しいようだ。

 鼻の穴が膨れている。


「ガっちゃんも堅いよ~。別に世界を征服しようってんじゃないんだから~」


 確かに、かの神々には魔王様でないと太刀打ちできないだろう。

 そんなところへ大事な部下を送ることなど、優しい魔王様なら絶対にしない。


「そしてシフも!君の財政管理はやっぱりすごいよ~。今年の収益も10%上がったじゃない」

「そんな~、魔王様ったら褒めるのがお上手ですわ~!私はただ、魔王様の命令に従ったまでですよ~」


 なぜこいつまでリラックスしてるのかと、いつもツッコミたくなる。

 だが、彼女は本当に有能だ。

 彼女が財政管理をしているおかげで、年々俺たちの給料が上がっている。


「本当にお前たちは、自慢の四天王だよ~」


 あれ、俺には何もないんだ。

 まあ、最近あまり活躍していないのは事実だし、話にできる成果がなかったのか。


「それで会議の前に、一つ伝えることがあるんだけど──」


 えっ、急に俺の方を向いたんだけど。

 見てもらうのは嬉しいけど、何か恥ずかしい。

 まさか、俺を次の魔王に──


「アブー、お前四天王クビね」


「──へっ?」


 えっ、今クビって言わなかった?

 クビってなに、頭を支えてるこれ?

 それとも本当に──


「えっと~、俺の聞き間違いでしょうか。今──」

「いいや、聞き間違いじゃなくてクビって言ったの」


 ──えええええええええええええ?!


「心当たりくらいあるんじゃない?」


 魔王様がさも当然のようにいってくる。

 いいえ、何も心当たりがないんですが……。


「──思い、当たりません」


「お前、本気か」

「ここまでクズだったとは」

「サイテーよ」


 まるで犯罪者を見るような口調で、立ち上がった四天王の面々は次々に口を開く。

 すると、呆れたように溜息をついた魔王様は、俺に話しはじめた。


「アブーさぁ、少し自分の行動を振り返ってみろって」


「──行動、ですか?」


「遅刻欠勤は当たり前、部下の女の子にはセクハラを繰り返し、任された仕事は成果を出さない。それなのに仕事と称して夜な夜な経費で遊び放題で、その上居眠りまで……」


 クズだった~!

 俺ってば控え目に言って、ただのクズじゃん……

 他人の口から言われると、ものすごく実感が湧いてしまう~。 


 でも仕方ないじゃん!

 朝は眠くて起きられないし、部下のサディちゃんは可愛すぎる方が悪い。

 最近は難しい仕事が立て込んでるし、その心を癒すために経費を使うのは当たり前だと思う。

 仕事中眠くなるのは、難しい仕事ばかりを俺に押し付けるからだ。


「そういうところだと思うわよ」


 クソッ、ルシファーめ、お得意の心を読みやがったな!


「ディアブロ、これはお前を除いた俺たちからの提案だ」


 なんだとフェニックス、お前たちが俺を裏切ったのか!

 俺たちは仲間だろ!


「当り前でしょう?四天王が皆あなたと同じような仕事をしてると思われては、私たちの品位が疑われるわ」

「我もそう思うぞ」


 こいつらぁ~!


「まあ、そういうことだから。アブー、今までありがとうね」

「魔王様、お待ちください!」

「いいや、聞かない。お前は悪魔で口が上手いからな、丸め込まれそうだ」


 そういうと、俺の足元に魔法陣が形成された。


 ──これはまずい気がする。


 そんな俺の気持ちとは裏腹に、魔王様は俺に笑顔で手を振りはじめる。


「今までありがとうね~。どこかで元気に暮らすんだよ~」


 まさか……。


 その瞬間、俺は足元から溢れ出た青白い光に包まれた。



 ■■■■■



「よろしいのですか?」


 ニックが側まで歩いてきて、俺に聞いてきた。

 おそらく、今俺が皆の前で使った転移魔法のことだろう。


「いいのいいの、一応今までの感謝もあるしね~」


 現に、長年こんな俺に仕えていてくれたのだ。

 粛清など、できるはずがない。


「そうですか……。それなら私も異論はありません」

「我もです」

「私もですよ~。少し癪ですけどね~」


 皆も少し不満気だが、根は優しい奴らだ。

 きっとどこかで気持ちに折り合いをつけてくれるだろう。


「そしたら始めよっか、会議」

「「「はっ!」」」


 ──アブー、遠くでも達者にやれよ。



 ■■■■■



 こうして、魔王と四天王たちの会議が始まった。

 会議は5日間に渡り開かれ、今後の魔王軍についての激論が交わされたのだ。

 終わる頃には、皆が次なる目標を見つけ、晴れやかな顔になっていた。


 ただ1人、魔王軍を追放された元四天王を除いて……。

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