シンジンルイ
@ore_strawberry
新たなる旅立ち
第1話 山本ミドリはヒーローに憧れる
僕は、山本ミドリは考える。
登校中、動く電車の中でいきなり暴漢がナイフを振り回して車内が恐怖に支配される中、勇敢にも立ち向かい人々を救う自分の姿。突如として地球に舞い降りた地球外生命体と戦い英雄と称えられる自分の姿。紛争地帯に放り込まれてもたった一人で敵陣を切り裂く自分の姿。
僕は昔からヒーローになりたかった。
とはいえ幼稚園や小学校低学年の頃にスーパー戦隊シリーズや仮面ライダー、その他ヒーローと呼ばれる像を子供たちに示してくれる存在に強く影響を受けたというわけではなく、ただ漠然とヒーローになりたいという感情がそこには存在していたのである。
だが僕はヒーローではない。英雄でもない。勇者でもない。
誰かにとってのヒーロー。そういった意味であるならばなれることもあるかもしれない。例えば病気を治してくれた医者や敗北必至の状況をひっくり返したサッカーの代表チームのエースはそれに準ずる存在であろう。
しかし、僕の思い描くヒーロー像というものは圧倒的なヒーローなのである。常に人を助け、見返りを求めず、世界の為に尽くすスーパーヒーロー。そのヒーローは戦争に放り込まれれば一人で敵軍を粉砕して回り、地球外生命体の侵攻を受ければそれもたった一人で、その圧倒的な力で地球を守るのである。
圧倒的な力、人間離れしたスーパーパワー、英雄的存在、孤高の人間。
そんな存在に昔から憧れを抱いていた。
高校二年生になる今になってもその思いは消えることはなく燻っている。授業中、登校中、寝る前、幾度となく自分がヒーローとなる姿を想像してきた。
だが現実にヒーローは存在しない。地球外生命体の侵攻もスーパーマンの存在も非現実的な妄想であり物語の産物である。それを未だに理解できないほど愚かではない。
物語の世界のように人と人が剣を持ち馬に乗って戦う時代は終わったのである。今でも僕の知らない世界のどこかでは紛争が起きていることは知っている。だがそれらの世界にヒーローの介在はない。重火器や爆弾、地雷が使用される現代の戦争においてはたった一人で戦況を変えるほどの英雄は生まれることはない。
もし仮に英雄と呼ばれる人物がいるとしたらそれは紛争国同士での和平交渉を成立させた者に与えられる称号だろう。
とはいうものの、僕は決して暴力的な世界が好きなわけではない。ただどうしても圧倒的な力をもつヒーローに憧れを抱いてしまうのである。
きっと男なら誰でも抱く感情の一つに過ぎない。そう言い聞かせてこれまでの人生を過ごしてきた。
そしてこれからもずっと、僕はヒーローに憧れる一般人として生涯を終えていくのである。
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