新しい聖女が見付かったそうなので、天啓に従います!
月白ヤトヒコ
天啓です!
「・・・ふゎ、ねむ~」
眠気に、堪えられなかった欠伸が出る。
「聖女ともあろう者が、人前で欠伸などと……」
と、周囲に嫌そうな顔をされた。
でも、お腹が空いて眠いのだから仕方ない。というか、そう言うんだったら、もうちょっと聖女の生活を考慮してくれてもいいと思う。
こちとら、聖女の務めであちこちぼろぼろよ? 幾ら孤児上がりでなんの後ろ盾も無いからって、酷使し過ぎじゃね?
というか、王室からの喫緊の召集ってなんだろ?
ぼんやりする頭で考えていると――――
演説などをする広場の真ん中へ連れて来られた。
既に民衆が集まっているその場で、
「聖女アルムよ」
陛下がわたしを呼んだ。ぼへーっと見上げると、
「この度、新しき聖女が発見された。其方のこれまでの働き、ご苦労であった。
とのお達し。要は、新しい聖女が見付かったからお役御免。解雇ということなのだろう。
「新しい聖女をここへ!」
嬉しげな声を上げたのは、どこぞで見覚えのある金髪碧眼のキラキラした美男子。王子のうちの一人だったような気がする。まぁ、興味無いからうろ覚えだけど。
「紹介しよう! この度、聖なる力が顕現した新しい聖女のフローレシア・ロッティル公爵令嬢だ!」
美男子のエスコートで現れたのは、これまたキラキラした美女。
聖女、ねぇ・・・?
わたしは孤児で、ストリートチルドレンとして生活していた。特に取り柄も無く、生きることで手一杯のその日暮らし。
そんなある日、ガラの悪い連中に絡まれて死に掛ける程殴られて、意識が飛んだ。
死んだ……と思った。けど、そのまま地面で目を覚ました。自分の流した血溜りの中、無傷の状態で。最初は意味がわからなかった。
もしかしたら、誰か親切な人が通り掛かってわたしのことを助けてくれたのかもしれない、と思った。けど、そういうことが何度かあって――――
偶々起きているときに大きな怪我をして、自分で自分の傷を治していることに気が付いた。
そうやって、わたしの治癒魔術が開花した。結局……というか、やっぱり、わたしに親切にしてくれる人なんていなかったのは、少し残念な気持ちになったけど。
それを神官に見付かって、神殿に連れて行かれた。そして、瀕死の重傷でも治せる程に強い治癒魔術が使えることがわかると、あれよあれよという間に聖女扱い。
朝は日の出と共に起きて、冷たい水で
その後、マナーがどうたらと小言を言われながら
そして、少ない朝食が終われば礼儀作法、所作、聖女としての式典の勉強。
勉強が終われば、聖女としての務めだなんだと、表に出ての奉仕活動……という名の、金持ち共への治癒。移動時間も無駄にするなと、聖女の能力についての勉強。
昼食? そんな物、食べてる暇は無い。というか、出ない。
奉仕活動が終われば、神殿に戻って小言を言われながらの質素な夕食。
一応、一日二食と最低限の衣服、寝床は完備されて、神殿に庇護されているとは思う。ちなみに、聖女の衣装は目玉が飛び出る程高いらしい。式典で数度しか着てないけど、働いて返せと言われた。
まぁ、自由は無いに等しい。
あとは……成長期なんだから、もっとごはん寄越せっ!! と思うくらいには、お腹が空く。空腹だと、ぼーっとして眠くなる。力使うと余計にお腹が空くんだよね。
前に、何度かごはんが足りないと言ってみたら、「賎しい孤児が神殿の食事に文句を言うとはなにごとだ!」と、食事を抜かれた。それ以来、食事量にはなにも言ってない。
そして、お腹が空いてぼーっとしたまま、聖女として働けと言われる。神殿に拾われて、聖女として祀り上げられているのだから、その恩を返せ、と。
偶に、痩せっぽちのわたしを見兼ねた優しい人が食べ物を手渡してくれる。聖女のお付き? というかわたしの監視の連中は、そういうのが気に食わなさそうだけど。
でも、食べ物くれる人はマジでありがたい。直ぐに食べられる物だったら、取り上げられてしまう前に、その場で食べるようにしている。嫌な顔はされて、文句は言われるけど。
そんな生活を、公爵令嬢に耐えられるの? まぁ、お偉いさんのお嬢様だから特別待遇でもするのか? と、思った瞬間――――
ピカっ!! と、眩い閃光が溢れた。
次いで、脳裏に刻まれたのは・・・
ここでわたしが、国やら国民のこと、自分の将来を心配して聖女の座を降りなかった場合の未来。
聖力が顕現したとは言え、公爵令嬢である彼女に厳しい修行が課せられることはなく、磨かない力では使いこなすことはできない。大した功績も上げられず、そんな彼女の代わりに劣悪な環境で聖女の力を酷使され、使い潰され、挙げ句の果てには、「お前がいるから、彼女が聖女として認められないのだ!」と理不尽な嫉妬とよくわからない政治的判断とやらで処刑される。
そんな悲惨なわたしの末路が――――視えた。
更には、聖女であるわたしを処刑したことで神の祝福が薄れ、新しい聖女にどうにかさせようと藻掻くが、大した力を行使できない彼女には荷が重く、聖女を辞めると言い出す始末。
無論、聖女を辞めることなど赦される筈もなく、死ぬまで彼女は聖力を絞り取られて息絶える。聖女を失ったこの国は、やがて衰退して滅びる。
そんな未来が、走馬灯のように
そして、収まる閃光。
一気に目が覚めた。そして、常に身体にあった不調や倦怠感がさっぱりと消えていることに気付く。きっと神さまの祝福だ。
弱くなった光が消える前に、魔術で新しく光を作り出してわたしにまとわせて、その光を公爵令嬢の方へ向かわせ、彼女の身に降り注ぐようにして消した。
うん。我ながらいい演出だ。
「なんだ今の光はっ!?」
ざわつく民衆。動揺を抑えようとして、けれど顔色の悪くなっている陛下。
「・・・今のは、天啓です! 彼女が聖女であるとの神のお導き。そして、彼女へとわたしの聖女の力が移りました。わたしはもう、なんの力も無いただの無力な小娘に過ぎません。つきましては、聖女の地位を彼女へとお譲り致します。そして、わたしがこの国に留まると不吉なようなので、このまま退去させて頂きたく存じます!」
と、大声で言いながら聖女のローブを脱ぎ、近くの人へ押し付ける。中は質素だけどちゃんとワンピースを着ているから、大丈夫。
「ああ、供は要りません」
下手に護衛なんかを付けられて、監視やらされて窮屈な思いをした挙げ句、国を出た途端に即行で殺されては堪らない。
神殿にも、戻るつもりはない。大した持ち物も無い。どうせわたしは元々孤児だ。恩を返せと、蔑まれながら労働させられていた場所に、未練もなにも無い。待つのは過労死か餓死か、という環境だったし。
「ただ、馬を一頭頂きます」
と、見える範囲で一番いい馬へ向かってダッシュ。ひらりと飛び乗り、馬と自分の身に全力の身体強化を掛けて駆け出した。
おお、なにやら魔術の効果が上がっている。
さて、このまま国境まで、ぶっちぎってやる!
まぁ、荷物もなんにも持ってないけど・・・
一応、あれだ。万が一男に襲われたら、聖女の能力を失わない為に相手を殺してでも
聖女の慰問で、馬車が通れない遠方へと何時間も馬で駆けて行ったことも、そして野営をしたこともある。「薄汚い元孤児など、乗せたくない」と相乗りを拒否してくれた神殿騎士、めっちゃ感謝してる! お陰で誰も乗せてくれなくなって、乗馬ができるようになったから。
あとは……数ヵ国分の外国語も簡単な受け答えができる程度には叩き込まれてるし。
なんとかやっていけるでしょ。
きっと、さっきのあれは本当に神の啓示に違いない。こうなる未来を避けなさいという神の温情。
ああ、自由って素晴らしい♪
ありがとう、神さま!
わたしがいなくなった後の国がどうなるか? そんなの知らん。
新しい聖女とか、わたしを解雇した陛下がなんとかするんじゃね?
✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧
『え? あれぇっ? 本物の聖女だってことを知らしめて、大切に扱わせるつもりだったんだけどな?』
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