影絵とレンズ 3

 物心ついたころから、それは見えていた。

 人について回る、影絵のようなもの。

 それは様々な形をしていた。明らかに、なにか生き物の形をしていることもあれば、よくわからない丸いものや細長い紐状のものだったりした。見上げるほど大きいこともあれば、目をこらさなければ見つけられないほど小さいものもいた。共通しているのは、影絵のように薄っぺらく、真っ黒であることだけだった。

 影絵は、誰にでもついているわけではなかった。ついている人もいれば、ついていない人もいた。年齢や性別、本人の性格といったものは、あまり関係なかったように思う。僕のわかる範囲では、生活環境だとか生育環境だとか、そういうものも関係なかったと思う。

 初めて見たのは、今は亡き祖母の背中だ。仏間で背中を丸めて、ちくちくと静かに裁縫をしていた祖母の背中。そこに留まった、巨大な蝶のような影絵がそれだった。祖母の頭と同じくらいの大きさをした蝶は、祖母の背中でゆっくりと羽根を開いたり閉じたりを繰り返していた。僕は最初、祖母の背中から羽根が生えたのだと思った。けれど見ているうちに背中の蝶はふわりと飛び立ち、祖母の周りをひらひら飛び始めた。祖母が立ち上がり仏間を出て行くと、それを追ってひらひらと飛び去っていく。僕はそれを、ぽかんと見送った。──これが、最も古い影絵の記憶だ。

 蝶の影絵は常に祖母の周りにいた。身体に留まることもあれば、周りを飛んでいることもあった。虫嫌いの母がそれを全く気にしていないのが不思議だったが、そのうちどうやら母には──いや、僕以外には見えていないらしいことに気付いた。

 保育園でも、小学校でも、時々それにつかれている人がいた。それまでつかれていなかった人が、ある日突然影絵につかれていることもあった。その逆に、昨日まで存在していた影絵が消えていることも稀にあった。

 いったいどういう原因で影絵が現れ、また消えるのか。

 それは僕にはわからない。

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