現実のヒーローは、英雄と呼ばれない

八五三(はちごさん)

帝国の亡霊。

 私を助けてくれたのは、少女と二匹の犬でした。




 遠吠えが聞こえた瞬間、拉致監禁されていた薄暗い倉庫のどこから入ってきたのか?  二匹の犬が姿を現し、私を拉致した男たちに襲いかかりました。

 一人の男がテーブルの上に置いていた拳銃で、一匹の犬に撃ちました。

 犬はそれを容易く躱してしまいました。俊敏性が高い動物だとしてもあの動きは、犬、生来の運動能力を凌駕していました。

 あれは、私が考案開発した動物用兵器装備の一つである――猟兵装イェーガーを装着しているからです。

 柔軟性と強靭性を合わせた特殊素材を身体に装着することにより、筋肉の収縮運動を手助けすることで、犬、本来の瞬発力を数倍高める性能があります。


 銃弾を避けた、犬は、そのままおくすることなく銃を撃った男の喉に噛みつき、押し倒し、喉肉を引きちぎりました。

 残りの四人の男たちが、慌て、仲間を噛み殺した犬に向かって、自分たちが持ってる拳銃で撃てるだけの弾を撃ちまくりました。

 鳴り響く、銃声が鉄骨構造で反響し、犬の痛み叫ぶ声に聞こえました。

 

 しかし、

 

 立ちはだかっていたのです――扇状に広がった装甲が。

 もう一匹の犬が身をていして、銃弾の嵐から護ったのです。これも、私が考案開発した動物用兵器の一つである――装甲兵装パンツァーの性能です。

 軍が使用しているレヴェルⅣ防弾プレート。それを軽量化し左右に装備させてあります。首元に取り付けてある装置に触れることで、自らの判断で装甲を開閉、出来るようにしてあります。

 あと、装甲パーツと装着部位の間に液体金属を注入してあり。それが、装着している犬に対し、最小限に衝撃を抑える役目をしています。


 男たちは身じろぎました、が。すぐに、予備の弾倉と空になった弾倉を交換しようとしたときでした。

 

 三回、くぐもった音が聞こえました。

 すると、

 一人の男から、三箇所の血飛沫が。残りの男たちも、次々に、三箇所に銃弾を受け――地面に倒れていきます。

 沈むことのない血の海に、四人の男たちが死体となって浮かんでいます。


 カチャン、と物が落ちる音がし、そちらを視ると。カチッという音と共に物陰から、猟犬ライラプスを纏った小さな人影が出てきました。

 装いは真っ黒なライダースーツです、が。こちらに向かって歩いてくると、スーツの表面に、無数の青白い光の管が浮き上がりは消え、浮き上がりは消えを繰り返します。

 あの現象は人体の構造に備わっている、生体信号を増幅させているからです。生体信号の速度を極限まで高めることで、着用者の身体機能を限界まで引き出すことができます。

 私が開発した生体強化スーツの試作品プロトタイプです。

 この生体強化スーツには。いま、現在、最大の欠点が二つあります。

 一つは、生体信号速度が増すことにより、流れる電気信号が強くなり発光すること。

 もう、一つは――ある少女だけしか、使いこなすことができない、こと、です。




 私は、小さいときから物を作るのが好きでした。夢中になって、いろいろな物を作りました。いろいろな人たちから褒めてもらい、嬉しくて、楽しかった。

 でも、

 いつの間にか。

 悪用する者たちから――私は狙われるようになりました。

 それを極秘裏に解決するのが、記章を許されない者たち。帝国特殊作戦組――別名、帝国の亡霊。

 


「こちら、ハンドラードッ障害物排除完了オールクリア。」

『了解した、ハンドラーD。探しものは。』

「探しものは。ワイ、が――確保。」

『了解した。探しものの状態は。』

「軽い打撲と擦過傷。命に別条なし。」

『了解した。あとはこちらで処理する、ハンドラーD。W、B、と共に速やかに帰還せよ。』

「了解、ハンドラーD。W、B、と共に速やかに離脱する。通信終了。」




 人知れず自分たちの命を掛けて、私を助けてくれた。

 同い年の少女と二匹の犬は……。

 ……ヒーローや英雄と呼ばれることはない。

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現実のヒーローは、英雄と呼ばれない 八五三(はちごさん) @futatsume358

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