現代社会人は猫という存在に救われたい
仲仁へび(旧:離久)
第1話
猫になりたい。
ああ、猫になりたい。
心の底から、猫になりたい。
身も心も、猫になりたい。
私はペットの猫を眺めながらそう思う。
私の一日のスケジュールには、灰色しかない。
一人ぐらしで、仕事をして、毎日夜遅くに帰宅。
遊ぶ時間もなく、次の日に出勤。
休日は、どこにもいかずに家の中でずっと寝てる。
遊びにいけるほど、気力も体力も残っていないからだ。
最近は特にそう。
子供向けの体験イベントを考えろと、上司がうるさい。
うちの会社は玩具を販売している。
その玩具を売るために、楽しいイベントでお客を釣ろうと考えているのだろう。
けれど理想が高すぎる。
だから上司は、何か思いついては無茶な条件をしつけてくる。
おかげで私達は、そのたびに右往左往だ。
子供達がのびのびできるイベントで、みんなが笑顔になれるイベントで、開放的になれるイベントで、少しめずらしいイベントで、話題性になりそうなイベント、なんて注文が多すぎる。
どれか一つあきらめてほしい。
そういう事を考えていると。
いつも思う。
猫になりたい。
そんな風に。
犬ではだめだ。
鳥とかでもだめだ。
なるなら、猫でなければならない。
誰かの機嫌をとってへこへこする必要がない。
自分のペースで生きて、人間を下僕の様にしてしまう。
ありのままでいる事を望まれる。
そんな猫になりたい。
叶うならば、今すぐなりたい。
永遠になりたい。
この先ずっとなりたい。
猫である事で救われたい。
というか今の状況から救われたい
しかし、そんな事は不可能だ。
私は、飼い猫をなでながら心の中でしくしく泣く。
ある日、突然この世界の常識が変わって、猫になりたい人が猫になれるようになれないだろうか。
疲れすぎると、人間は馬鹿らしいことを真面目に考えるようになる。
私は、そんな未来を切に願っていた。
「いやあ、大盛況だよ」
「はぁ」
数日後、私は上司から褒められていた。
玩具の販促イベントで、猫になろうという企画をやけっぱちで出したら、なんと通ってしまったのだ。
猫耳をつけたり、猫尻尾をつけたりして、おおいにうけてしまった。
「一体どうやって思いついたんだね?」
まさか、あなたへの不満や忙しい会社への不満から生まれたものですよ、とは言えない。
「家で、猫を飼っていますので」
猫になりたい。
猫である事に救われたい。
でも、猫がいる事で少しは救われている分もあるのかもしれない。
現代社会人は猫という存在に救われたい 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032
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