ドM勇者は追放を悦(よろこ)ぶ。~ダメージを受けるほど強くなるマゾヒスティック勘違い無双~
アメカワ・リーチ@ラノベ作家
1.追放
「これより、適性の儀を始める」
神官が高らかに宣言する。
人々は、18歳になると神によって<クラス>を授けられる。
クラスによって、適性のあるスキル系統が変わってくる。
<戦士>なら、剣技や身体能力強化。
<魔道士>なら、遠距離攻撃魔法。
<回復術士>ならヒールや補助魔法。
といった具合である。
適性のないスキルを身に着けることもできるが、その場合効率は著しく落ちる。
だから<クラス>によって将来が半分以上決まると言っても過言ではない。
「ようやくこの日が来たな」
そう言ったのは、ジャーク・スプリングスティーン。
このスプリングスティーン領を統治している伯爵である。
ジャークは、かつて適性の儀で超レアクラスである<聖騎士>を授けられた。
元々ただの平民であった彼は、<聖騎士>を得たことで、大きな武功を収め、一代で貴族にまで上り詰めたのである。
それゆえ、彼は息子のルークにも同じようにレアクラスを期待していた。
ジャークは、ルークの肩に手を置いて、その期待を示した。
「お前がレアクラスを授かれば、スプリングスティーン家はまずます発展するのだ」
「はい、父上」
ルークは素直にそう返事をした。
(……戦闘系のクラスだといいんだけど……)
ルークは冒険者になりたいと思っていた。そのためには、少なくとも戦闘系のクラスを授かりたい。もちろん、欲を言えば、父のように<聖騎士>の力を得たかった。
――一方、その父と子のそのやりとりを、後ろで苦々しく見つめる者がいた。
ルード・スプリングスティーン。
素直で、いかにも良家の生まれというルークと違い、その瞳の奥はギラついている。
ルードは、ルークの兄。つまり本来はスプリングスティーン家の長男である。
だが、彼は妾(めかけ)の子であった。
そのためスプリングスティーン家を継ぐ資格はない。
ゆえに、父ジャークはルードに一切期待をしていなかった。
今日、ルークと同様に適性の儀を受けることになっていたが、ジャークの期待はもっぱら跡取りであるルークに寄せられていた。
(ちッ。ルークばっかりに期待しやがって……)
ルードは内心父と弟への不満を募らせていた。
「それでは、ルード・スプリングスティーン。前に出よ」
まず、兄のルードが神官に呼ばれる。
ルードは、神官をにらみつけながら前に出た。
「それでは、神託を始める。水晶に手をかざしなさい」
ルードが手をかざすと、水晶はわずかに光を帯びる。
「貴殿のクラスは――」
――と次の瞬間、水晶を見つめる神官が驚愕の表情を上げる。
そして告げたクラス名は――
「――<聖騎士>!!」
その言葉に、その場にいた全ての人間が息を飲んだ。
「せ、聖騎士!?」
ルード自身も驚いた。
なにせ、<聖騎士>は、全てのクラスの中で最上位のものだからだ。
発現する確率は何十万分の一。まさに奇跡のレアクラス。
このクラスを発現した者の成功は、約束されたも同然だった。
誰より、後ろにいる父ジャークがそれを証明している。
振り返り、父の元へと向かうルード。
すると、
「よくやった! さすがは俺の息子だ!!」
父親は手のひらを返し、息子を称賛した。
自分と同じ<聖騎士>を授かったとなれば、当然の反応だろう。
(うわぁ……まさか<聖騎士>が出るなんて)
ルークは内心で汗をかく。
兄が何十万人に一人と言われる<聖騎士>を得た以上、同じ日にルークがそれを得られる可能性はほとんどないと言っていい。
もちろん、二人連続で<聖騎士>にはなれないなんてルールはないが、しかし歴史上そのような例は存在しなかった。
「次、ルーク・スプリングスティーン! 前へ!」
神官によってルークの名前が呼ばれる。
「はい」
ルークは緊張しながら壇上に上がっていく。
そして大きな水晶を挟んで、神官と向かい合う。
「水晶に手をかざしなさい」
ルークは一呼吸おいてから、神官の指示どおり、水晶に手をかざす。
「貴殿のクラスは――」
神官の言葉を、誰もが固唾を飲んで見守る。
だが次の瞬間、神官の顔がわずかにゆがんだ。
「ん? これは――」
神官は少し言葉に詰まってから、その後クラスを告げる。
「貴殿のクラスは<耐える者>じゃ」
その言葉を聞いた誰もが呆然とした。
「<耐える者>ですか?」
おもわずルークは聞き返す。
「その通りじゃ。何十年この仕事をしてきたが、まったく聞いたことはないクラスだ」
次の瞬間、ルークは嫌な汗をかいた。
「えっと、例えばどんなスキルが使えるんですか?」
ルークが聞くと、神官は一つ息を吐いてから確認する。
と、次の瞬間、神官が驚愕の声を上げた。
「……む!?」
「な、なにか?」
「…………貴殿の初期スキルは……<苦難>じゃ」
「<苦難>ですか……?」
「……なんと、このスキルを持つ者は、魔物や人を倒しても経験値が上がらないと書いてある」
「そ、そんな!?」
通常、冒険者は魔物や対人戦等を繰り返すことで経験値を得る。
この経験値が上昇することで、魔力や体力などの各種ステータスが上がっていくのである。
逆に言うと、経験値を得ない限り、強くなることができない。
すなわち、経験値を得られないということは、今後成長の見込みが一切ないということである。
「な、なにかの間違いではないんですか?」
ルークが聞くが、神官は首を横に振る。
「残念ながら、これが真実じゃ。何十年とこの仕事を続けてきたが、神託を間違ったことは一度もない」
「そんな……」
「……気を落とされるな。クラスが全てではない」
神官はルークを慰めるように言った。
だが、そうは思わない人間がいた。
「ルーク」
ルークの父親――いや。
<聖騎士>、ジャーク・スプリングスティーン伯爵だ。
彼はルークを冷めた目で見て言う。
「貴様は今日からスプリングスティーン伯爵家の人間ではない」
スプリングスティーン伯爵は、冷徹にもそう告げた。
今日まで家族だったはずの人間の、存在を抹消しようとするのだ。
「ち、父上? それはどういう……」
ルークは驚いて言葉を詰まらせる。
「ルードよ。今日からスプリングスティーン家の跡取りはお前だ」
父は、そう言って息子を――昨日まで家族とも思っていなかった妾の子供を――まっすぐ見る。
「父上……!」
ルードは突然転がり込んできた話に、困惑しつつも喜びを隠せない。
妾の子供であるルードは、本来貴族になることはできない存在。大人になれば、家を追い出されて平民として生きていくしかない存在だった。
だが、<聖騎士>のクラスを得て全てが変わった。
いきなりスプリングスティーン家の跡取りとして、将来家督を継ぐ存在になったのだ。
「父上! ありがたき幸せ!」
「期待しているぞ、ルード」
父ジャークは、<聖騎士>の息子の肩を叩いて期待を示す。
そんなできごとを呆然と見ていたルーク。
と、父が改めてルークの方を見ると、冷たく言い放つ。
「なんだ、まだいたのか。早々に立ち去れ!」
「――ッ!!」
父ジャーク――いや、スプリングスティーン伯爵の命令に、ルークは拳を握りしめ、踵を返す。
ルークは震える足で、その場を離れる――――――
ルークは、伯爵家の跡取りとして生まれ、これまで必死に努力してきた。
一流の剣術を学び、魔法についての座学も怠らなかった。
それが、<外れクラス>で、冒険者として活躍できないとわかったばかりでなく、
突然、家を追い出された。
突然、全てを失った。
順調だったはずの人生が――突如ハードモードに切り替わった。
ルークは街の路地裏に入り、誰もいない暗がりの中で立ち止まる。
そして、震えていた手をそっと開き――
「父上! 僕に試練(ごほうび)を与えてくださったのですね!!」
――その表情は、悦(よろこ)びに満ち溢れていた。
◇◇◇ルーク・スプリングスティーンの所持スキル
<苦難> ← new!
このスキルを持つ者は討伐によって経験値を得ることができない。
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隠れスキル①
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隠れスキル②
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