飴ちゃんマン

かなたろー

飴ちゃんマン

 ボクは、小学校四年の時から大好きだった女の子に告白した。

 卒業式に、大好きだったミツキちゃんに告白した。


 そしてフラれた。


 いやフラれたと言うのは、ちょっと図々しいかもしれない。

 だって、告白した時の返事は「あなた誰?」だったんだもん。


 そもそもミツキちゃんに認識をされていなかった。


 ボクの三年間の、淡く、トロ火で、ゆらめいていた恋心は一瞬で消化されてしまった。


 はあ……。


 ボクは、今の気分におあつらえむきの河川敷をトボトボと歩いていると、目の前にヒーローが現れた。


 そのヒーローは、ヒーローと言うには、少々はばかれる風貌だった。

 そのヒーローは、髪を紫色に染めて、崩れない頑丈なパーマーを当てて、割烹着を着て、ママチャリでさっそうとやってきた。


 ヒーローと言うには、なかなかにはばかれる人物だった。

 ヒーローの名前は『飴ちゃんマン』58歳、職業パート主婦。


 能力は、頭の中に仕込んだ飴ちゃんを、困っている人に渡すこと。


 飴ちゃんマンは、困っている人がいると放っておけない人物で、困っている顔をしている人がいると「どないしてん?」と話しかけてくる。


「この飴ちゃんマンが相談にのったる!」


 ボクは、河原の土手に座ると、おばちゃん……じゃない飴ちゃんマンにことの顛末を説明した。飴ちゃんマンは「ほんで? ほんで?」と根掘り葉掘り聞いてくるもんだから、赤裸々に話してしまった。


 飴ちゃんマンは、腕組みをして「うーーーーーーーーん」とうなると、ボクの肩をぽんと叩いて、


「ま、しゃーない。飴ちゃんなめて元気だし?」


 と、紫色のパーマ頭から、見たこともないようなメーカーの飴ちゃんを取り出した。


 ボクは、その見たこともないメーカーの、見たこともないような個包装をピリリと破いて、見たこともない形の飴を口の中に放り込んだ。


 知らない味だ。味わったことがない味がした。


「苦い苦い思い出を、その飴ちゃんの味に変えたった。くよくよせんと前向きにいきやー」


 飴ちゃんマンはそう言って、自転車をチリンチリンと流しながら去っていった。


 なんだか狐につつまれたような気分だった。

 でも、飴ちゃんマンは、確かにボクのヒーローだった。自分だけのヒーローだ。


 なぜって?


 だって、あの時飴ちゃんマンがくれた、へんてこりんな飴を、ボクはあの時以来、一度も味わったことがないんだもの。


 おかげ様で、大人になった今のボクは、あの小学校の時の苦い苦い思い出を、まるで笑い話のように語ることができているんだもの。

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飴ちゃんマン かなたろー @kanataro_

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