風船を持った私だけのヒーロー
アほリ
風船を持った私のヒーロー
かー!かー!かー!かー!かー!かー!かー!かー!かー!かー!かー!かー!かー!かー!かー!かー!かー!かー!かー!かー!かー!かー!かー!かー!かー!かー!かー!かー!
河原に捨てられてか弱い子猫だった私。夥しい数のカラスの群れがわらわらと群がって私をいじめていた。
「おらおらーーー!!かっかっか!!」
「子猫ちゃーーーん!あそびましょーー!!」
かー!かー!かー!かー!かー!かー!かー!かー!かー!かー!かー!かー!かー!かー!かー!かー!かー!かー!かー!かー!かー!かー!かー!かー!かー!かー!かー!かー!
助けて!!誰かー!!助けて!!
もう駄目だわ・・・もうすぐ私はこの獰猛カラス軍団に啄まれて殺されて・・・食われるんだわ・・・!!
もっと生きてたかったのに・・・
私は震えて必死に命乞いをしていた。
くわばら・・・くわばら・・・
その時だった。
う~~~~~~~~~!!
う~~~~~~~~~!!
かぁーーーーー!!かぁーーーーー!!かぁーーーーー!!かぁーーーーー!!かぁーーーーー!!
1匹の黒い影が私を狂暴なカラスの群れを遮って割って入ってきた。
「お嬢ちゃん!!あぶねぇ事だったな!!
これから俺はこの陰湿なカラス軍団を成敗するからな!!
かかってこいや!!」
草葉に隠れたわたしは、その白い影の正体を見た。
雑種の犬・・・尻尾に赤い風船が?!
その雑種の犬は、唸りをあげて群がるカラスどもをジャンプして追い払った。
ばうっ!!ばうっ!!ばうっ!!ばうっ!!ばうっ!!ばうっ!!ばうっ!!ばうっ!!ばうっ!!ばうっ!!ばうっ!!ばうっ!!ばうっ!!
「こ、こいつ!!」「つ、強い!!」
かー!かー!かー!かー!かー!かー!かー!かー!かー!かー!かー!かー!かー!かー!かー!かー!かー!かー!かー!かー!かー!かー!かー!かー!かー!かー!かー!かー・・・
狂暴カラス達が逃げていった後、尻尾に赤い風船を結んだ、目に黒い縁取りの白い野良犬は、擦り傷だらけ汚れ放題のわたしをペロペロと舐めまわした。
うわっ!くすぐったい!!
「大した怪我じゃなくて良かったぜ・・・」
野良犬は、まだ緊張している私を優しい目で見つめると「じゃあな。」と夕陽に向かって去っていった。
名前が聞けなかった。というか、尻尾の風船を輝かせて夕陽へ溶け込んでいく野良犬の姿を私の目に焼き付いた。
私だけのヒーロー・・・
正にあの野良犬は私の為にやって来たヒーローだった。
ただ心残りなのは、あの野良犬の名前を聞けなかった事だった。
・・・・・・
私のヒーローの、あの尻尾に風船を結んだ野良犬の事を忘れられぬまま、私は野良猫として成長していった。
飢えて家に忍び込んで失敬した時、
飢えに耐えられず生ゴミを漁っていた時、
激怒してる人間に追いかけられてた時も、あの私のヒーローの野良犬は来なかった。
またあの風船を尻尾に付けた野良犬・・・私のヒーローに逢いたい・・・!!
子供が風船を持ってはしゃいでるのを見掛けた時、
空に風船が飛んでいるのを見た時、
あの時カラスにいじめられて時に、颯爽とやって来て救ってくれた私だけのヒーロー・・・尻尾に風船を結んだ野良犬・・・を思い出して、愛しくて涙が溢れる。
逢いたい・・・逢いたい・・・
でも、お腹空いたな・・・
あ、いい匂い。
ガシャッ!!
シマッタ!!人間の罠に捕まった!!
私は焦った。
「やったぜ!!三味線の材料ゲットだぜ!!」
「また加工業者に売り飛ばして、一儲けだぜ!!へっへっへ・・・」
私は不覚だった。猫の捕獲業者に捕まるのんて・・・
終わった・・・私の猫生は終わったわ・・・
私が人間の家の魚をくすねたり、生ゴミ漁った天罰なのよ・・・
私は三味線の皮になるのがその償いなのよ・・・!!どうせ・・・
私はどうする事も出来ずに、諦めの深いため息をついた。
私の入った檻がトラックに持ち運ばれる・・・もうダメだわ・・・
その時だった。
ばうっ!!ばうっ!!ばうっ!!ばうっ!!ばうっ!!ばうっ!!ばうっ!!ばうっ!!ばうっ!!
「ひいいっ!!ワン公!!」
「変な野良犬め!!あっちいけ!!シッ!シッ!」
猫捕り業者は、目の周りの縁が黒い白い雑種の野良犬が攻撃してくるのを必死に追い払おうとパニックになっていた。
私は、雑種犬の尻尾に結ばれた3つに増えた風船を見て感嘆の声をあげた。
にゃーーーっ!!私のヒーロー!!助けてーー!!
ガシャン!!
「しまった!!猫が!!」
取り乱すした猫捕り業者が誤って私の入った捕獲檻を落とした弾みで、扉が開いた。
しめた!チャンス!!
私は急いで檻の扉から飛び出した。
「にゃんこ!俺の上に乗れ!!」
私のヒーロー・・・雑種の野良犬の呼び掛けに応じて私は背に飛び乗った。
「にゃんこ!俺の身体に掴まれ!!振り落とされるなよ!!」
私を背に乗せた雑種の野良犬は、猛スピードをあげてその場を去った。
「き、危険なところ、あ、ありがとう!!わんちゃん!!何度も!!」
「いえいえ、どういたしまして!!」
リズミカルな野良犬の足取りと、ぽんぽんぽーーんと弾む赤と青と黄色の風船の束の音が、安心しきった私を眠りに誘った。
気がつくと、いつぞやの河原。
私は、目の前に夕陽に向かって歩いていく3色の風船を尻尾に結わえた雑種犬のシルエットが見えた。
また名前が聞けなかったわ・・・
それでもあの野良犬は私のヒーロー。
私を守ってくてた私だけのヒーロー。
・・・・・・・
その後私は雄猫と結ばれて子猫を産み、母猫になった。
みゃー!みゃー!みゃー!みゃー!みゃー!みゃー!みゃー!みゃー!
「ママー!お腹空いたー!!」
「ママー!何かたべたーい!!」
我が子は食いしん坊で、何処からか食べ物を持ってくると、直ぐにペロリと平らげるからもう大変よぉ。
食べ物探しにいくだけでも大変なのに・・・
しかし、
何処よここは!?
ブロロロロ~~~~~~!!
ゴォーーーーーーー!!
ぷっぷーーー!!
ブロロロロ~~~~~~!!
ブロロロロ~~~~~~!!
何で私は道路のど真ん中に居るのよ?!
そうだわ!?食べ物探すのに夢中になりすぎて、目の前を気にしなかったからこうなったのよ?!
ドジだわー!私!!
早く我が子の元へ帰りたいのにぃーー!!
ブロロロロ~~~~~~!!
うにゃーーー!!怖いっ!!うっかり車に轢かれそうになったわ!!くわばらくわばら!!
引き戻せないしどうしよう・・・私・・・
このまま私はこの道路のど真ん中にぺちゃんこにされるの?!
どうしよう・・・どうしよう・・・
ブロロロロロローーーーーー!!
うにゃーーーーーーーー!!!!!!!!私の目の前に大型ダンプがぁーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!
ひゅうん・・・
?!
私・・・飛んでる・・・?
赤、
青、
黄、
桃、
緑、
5つの風船?????
あっ!私の・・・ヒーローだ?!
どさっ!!どさっ!!
ぱぁーん!!ぱぁーん!!ぱぁーん!!ぱぁーん!!ぱぁーん!!
・・・助かっ・・・たの・・・私?
・・・あれ・・・あっ!!
・・・目の黒い縁取りの白い野良犬?
・・・私の・・・私のヒーロー?
・・・ぐったりとして動かない。
・・・えっ?まさか・・・私の為に・・・?!身を挺して・・・?!!
私は、朦朧とした目でぐったりと横たわる野良犬に話しかけた。
わんちゃん!!わんちゃん!!私の為に死なないで!!
もう、今度から交通ルール守って横断歩道を歩くからぁ!!
もうあんたは私のヒーローよ!!身を呈して今まで私を守ってくれてありがとうね!!
だから!!死なないで!!私の為に!!ねぇ!!目を開けて!!
私は大粒の涙を流して私を大型ダンプから護った野良犬を抱き締めてすすり泣いた。
「泣くなよ、母にゃんこ。愛する子猫がお腹を空かして待ってるぞ。」
野良犬・・・生きてる?!
すると野良犬の目から涙が流れてしゃくりあげると、いきなりギャン泣きした。
「きゃいーーーん!!風船割れちゃったーー!!」
でもあの風船が無ければ、2匹とも命が無かったよね。
5つの風船が、2匹が地面に墜ちるクッションになったんだから!重みで割れちゃったけどね。
「この風船、君にプレゼントする為に持っていたんだけど。君と、子猫の分。
あ、でも顔合わせるの初めてだよね・・・
俺の名前は、ケン。君が子猫の頃からずーっと見続けていたよ。
ホントに君ってドジだねぇ。俺のヘルプが無いと今頃命何個あっても足りないよ。
おかげで、何度も風船を君にあげ損なった。」
まあ!そうだったの!失礼しちゃうわ!と、膨れたが逆に私を影で見守ってくれていたんだと感極まった。
野良犬のケン!ありがとう!
あんたが先々で助けてくれたから、ここまで成長出来たのよ!!
あんたこそ、私だけのヒーローよ!!
私の名前はマコ!私も風船好きよ。
あんたの影響だからね。
「君、子猫に宜しくな。今度逢ったら、今度こそ君に風船あげて、一緒に遊ぼうぜ・・・」
私だけのヒーロー、野良犬のケン。
彼は夕陽の中へ溶け込むように、尻尾に結ばれた割れた5つの風船の破片を引きずって去っていった。
~風船を持った私だけのヒーロー~
~fin~
風船を持った私だけのヒーロー アほリ @ahori1970
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