ヒーローメーカーベータテストに参加しませんか?

@aqualord

第1話

朝、私は眠さを引きずりながら、出社後のルーチンとなっているメールのチェックをした。


取引先からの照会や社内の事務連絡、それにいつも部内の飲み会でお世話になっている居酒屋の、夜の宴会営業再開のメール。

一つずつ確認していつものように処理してゆく。


私のメール処理の手を止めたのはスパム行きのはずの一通のメールだった。


「ヒーローメーカーベータテスト参加御礼と参加方法のご案内」


なんだこれ?


ヒーローメーカーなんて聞いたことがない。だから参加したこともなければ、応募したことすらない。

添付ファイルがついていたら速攻でウィルス扱いにする代物だ。

だが、添付ファイルはない。


私は、日々の変化のない生活にそれなりに満足していると思っていた。

だから、このヒーローメーカーなる言葉に強く惹かれている自分がいることに驚いた。いや驚いたという感情をあえて作ったのかもしれない。


とにかく私は、このメールを見てみたいという願望に駆られてしまった。


テキスト表示で見れば危険はあるまい。それにベータテストにうちの社の誰かが応募していて、私のメールアドレスを勝手に使ったのかもしれない。それなら社用アドレスを使って何をしてるんだととっちめてやらねば。


私は言い訳であることを自覚し、ヒーローという言葉にわくわくしてメールを開けた。



結論から言えば、やはりこのメールはスパムだった。


ただ。

タイトルにあった「ヒーローメーカー」という言葉はあながち嘘ではなかった。

つまりこのメールは、海外の戦災孤児となった子供に生活費と勉強をするためのお金を援助する団体が送ってきたものだったのだ。


その団体は、子供に確実にお金を届け、顔の見える援助をするために、間に現地の団体などを経由させず、援助者と子供を直接結びつけるという新しいシステムを立ち上げたそうだ。

その子供とはネット経由で直接顔を見たりメールのやり取りが出来という。

まさに、援助者はその子だけのヒーローであり、その子にとっては援助者は私だけのヒーローという位置付けになる。

なるほど、こういう一対一の関係になってしまえば、途中で援助を打ち切ることも心情的に難しい。


ヒーローメーカーか。


こういうヒーローもあるのだな。


私はわくわくを引きずったまま、参加方法のリンクをクリックした。


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