憧れたヒーローとその先は

そばあきな

憧れたヒーローとその先は


 圧倒的ヒーロー属性の君は、いつだって世界の中心だった。


 対して僕はというと、いつも出しゃばっては怪人に襲われてしまうような、迷惑な街の住民その一くらいの立ち位置だった。そんな僕だったから、小さい頃は友達らしい友達もおらず、日曜朝にやっているヒーローのまねごとにも参加したことがなかった。

 

 それでも君だけは、街の住民その一の僕にもずっと優しかった。


「君には助けてくれるヒーローがいなきゃダメだね」

 そう笑う君は、いつも楽しそうだったことを覚えている。


 けれど、成長するにつれて、君はだんだんと悪に苦戦するようになっていった。

 具体的に言うなら、体格差。

 女の子だった君は、少しずつ男女差で離されていき、ついには僕よりも小柄な少女になってしまっていた。


 傷つく君に、僕は言葉をかける。


「僕は、ずっと君のことをヒーローだと思ってきた。憧れていたんだ」


 だからもう大丈夫、と僕は君に手を伸ばす。


「今までありがとう。だから次のヒーローに、世代交代しなきゃ」


 あの、日曜朝にやっているヒーローだって、時が来ればまた別のヒーローにバトンを繋いでいるのだから、と。


 そう言って安心させるように笑おうとすると、瞬時に両頬を掴まれてしまう。


「無理してるのバレバレだよ。君に慰められるなんて不覚だな」


 しかしすぐに君は、どこか吹っ切れたように笑みをこぼした。


「でも、ありがとう」


 そして君はヒーローの座を譲り、一人の強気な女の子の座についた。



 そうして、僕らはさらに成長していく。



 僕は変わらず、君の隣にいてもいいか悩みながらも傍にいる。


 この世界の全ての悪に立ち向かうほどの力は、相変わらず持っていないけれど。

 それでも、大切な君の手を繋いだり、抱きしめたりできるだけの力は、ちゃんと持っているから。


 誓いをたてるように隣の君の手を握ると、体温より少しだけ冷えた指輪の感触が伝わった。

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