異世界最弱のヒーロー!

夕日ゆうや

落ちこぼれの勇者

 魔法がある世界に転生した僕。

 でも僕には重い剣を振るう体力も、魔法適正もなかった。弓を引く力もなく、特別な知識があるわけでもない。

 ただの落ちこぼれだ。

 こんな僕に何ができるのだろうか。

 何もできやしないのだ。

 無力だ。

 そんなおり、アリスが僕を気遣ってくれる。

「あなたはあなたのままでいいのですよ。無理をなさらないでください」

 僕は勇者召喚に失敗したのだ。

 民衆の前で勇者召喚した、その結果、無力なことは見せていない。

 僕が政治的な利用の価値があると、知っている。

 勇者としての才能を発揮すれば、民衆の心は一つになる。プロパガンダらしい。

 そんな僕でもできることが一つあった。光魔法の〝閃光〟だ。ただ光るだけの能力。目くらましにはちょうどいいが、それしか僕の能力はない。

 そんな僕の前に立ちはだかるゴウ。暗闇に鈍く光る斧。明らかに攻撃の意思をしめしている。

「どんなに足掻こうが、無駄だ。死を受け入れろ。お前には無理だ。落ちこぼれ」

「……!」

 斧を振り下ろすゴウ。

 なんで僕を狙ったのか、なぜ殺されようとしているのか、分からない。

 でも僕はアリスを守らなければならない。

 僕は斧をかわし、アリスの手を引く。

「こっち」

「は、はい!」

 王侯貴族であるアリスはドレス姿でついてくる。

 ドレスのせいか、そんなに早くはない。

 僕は振り返り、ゴウに向かって閃光を放つ。

「くっ。目くらましなど!」

 夜闇なので、この光に気づく衛兵も多いだろう。

 その間、僕はこのお嬢さんを守らなければならない。

「きゃっ!」

 アリスがスカートの端を踏み、転ぶ。

「アリス!」

 僕は慌ててアリスをかばう。

 斧が振り下ろされる。

 背中に焼けるような痛みが走る。

「ぐぁああっ!」

「タケルさん!」

 アリスの悲鳴に似た声音が耳朶を打つ。

「は、かばうなんてバカだな」

 ゴウはうねり、再び斧を振るう。

 背中に何度も痛みが走る。

「やめて、やめてください!」

 アリスが悲しそうに叫ぶ。

「やめられっかよ! こいつ、さっさとどけ」

「どくのはお前だ」

 僕は地の底から沸き立つような怒りで返す。

 その言葉におののくゴウ。

「いたぞ! 姫様を守れ!」

「ちっ。もう来たのか」

 やってきた衛兵たちを見て、ゴウは斧を捨てて、走り出す。

 逃げられた。

 でもアリスは無事なようだ。

 意識が遠のいていく。


※※※


 目を覚ますと、白い天井が視界に入る。

「ここは?」

 声に出すと、近くにいたアリスが嬉しそうに華やいだ顔を見せる。

「タケルさん! ご無事でなによりです!」

「僕は?」

「私をかばって大けがを負ったのです」

 慌てて背中を触る。

「安心してください。すぐに治癒師ヒーラーが回復魔法をかけてくれました」

「でも、僕は倒せなかった」

「何を仰っているのですか。あなたは、私だけのヒーローですよ!」

「……!」

 その言葉を聞き、僕は涙する。

 この世界では厄介ものと言われている勇者ぼくだが、アリスを守ることができたらしい。

 僕は守り切ったのだ。アリスを。この国の未来を。

 これからも最弱の僕が民衆を欺き、最強を偽る必要があるだろう。でもやり遂げる。

 そして魔王を倒す。

 僕はそのために召喚されたのだから。例え失敗だったとしても。


 落ちこぼれの勇者だとしても。

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