4 宿題やれよ!

 それから僕たちは邸宅のバルコニーに天体望遠鏡を設置した。

 マモル先生は楽しそうだ。

 なのに。


「どうした」


 本日は宿題の会だと家には言って出てきたチームが、その隣にテーブルを出して、全員うつむいて赤色ライト片手にノートを埋めているのだった。目によくないんじゃないか。


「宿題だと?」


 マモル先生もやっぱり先生なので、一瞬なんと指導すべきか迷ったみたいだ。


「お前たち、気持ちはわかるけどなあ……」

「見逃してくださいよー」

「観測したら、みんなばっちり宿題仕上げるんだから。悪いことじゃないでしょ?」

「……まず観測はしてくれ。

 宿題はその後にして……寝不足気をつけろよ」


 その時、午後七時。


「こうして見ると、星町は空が広くてきれいなんだね」

「天文クラブが、細々と続いてきた理由だよ。

 みんな、塾とかが忙しかったり、夜の活動の迎えになかなか来られないとか、事情がいっぱいあって、年々クラブ員は減っているけど、でも、この空があるからね」


 マモル先生、今日はよく語るなあ。


「どんなにクラブ員が少なくなっても、この空は町の大事なものだから。

 それを伝えていく活動は、学校のためにも町のためにも大切なものだ。たとえクラブ員がひとりになっても続けていきたいんだ」


 こんな、いい話をしていたんだ。


「あ、ちょっと」


 先生、スマホかな。


「みんなで順番に見ててくれ」

「はあい」


 望遠鏡は、白鳥座一等星デネブの輝きに向けられている。


   * *


「今のところ、こちらも異常はないけど」


 全員と通信がつながっている。ルルウラ=レイたちがそれぞれ町内を巡っての報告をくれた。


〈「鏡を使うっていうから、うちの銭湯危ないかな、って思ったんだけど、今のところ何ともないかな」〉

「そうか」


 今、わかっているのは〈ミラー夫人〉という怪人が送り込まれたという情報のみ。


〈「マモル。子供たちには引き続き気をつけて。僕らもあとでそっちの周りを見に行くけど」〉

「ありがとう。

 そうだ」

〈「どうした」〉

「あとで、父兄も数人来るんだった」


 急に押しかけて食事と宿泊なんて、との気遣いから、天体観測時の飲み物や菓子を差し入れると聞いていた。


〈「僕たち、周りで待機していたほうがよさそうだね」〉


 ルルウラ=レイの話では。


〈「家族に成り代わるのが、ミラー夫人の常套手段だよ」〉


   * *


「カオルさん」


 お母さまが、スター☆トンゴロン先輩を呼んだ。


「はい。お母さま」

「先ほど、クラブ員のご家族の方々が差し入れを届けてくださったわ。みなさんに持って行って差し上げて」

「はい」


 返事をしながら先輩、誰も観測会の様子を見に来ないで帰ってしまったのだろうか、と不思議に思った。


「誰のご家族からか、お伝えしなければ」

「邪魔をしてはいけないからと、そっと帰ってしまったの。サオリさんのお母さまと、武山さんのお母さまが」

「わかりました」


 コンテナボックスの中に、ペットボトルの飲み物とお菓子が入っていた。

 先輩はそれを持って、みんなのところへ戻る。


 階段の踊り場を過ぎたとき。


 先輩は、そこにあった鏡に気が付けばよかった。


 そこには三人の顔があった。


 サオリン先輩のお母さんと、スター☆トンゴロン先輩のお母さん、そして、

 武山さんのお母さまって、僕のお母さんじゃないか!

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