2 部屋間違うなよ!
「お母さま」
そのようにお母さまを呼ぶスター☆トンゴロン先輩は、こう呼ばれている。
「カオルさん」
お母さまは音楽学校の講師で声楽家でもある。ふくよかで美声、比類なきソプラノと呼ばれている。
「学校のお友達がいらっしゃるお部屋のお片付けは済みましたか?」
「はい。二人部屋のゲストルームを四部屋」
「珍しいことなので、
長和さんはハウスキーパーの責任者で、庄田さんは料理番の責任者である。
そんなたいそうなお宅の子息がなぜ〈スター☆トンゴロン〉なのか。
それは次第に読者諸君の前に明かされるであろう。
「『二人部屋のゲストルームを四部屋』ね」
だがそれとは別に、スター☆トンゴロン先輩、このときのお母さまの様子に気がつけばよかった。
「先日、とりこぼした子供たちね……今回の目的は違うから、急ぐこともないけれど……」
「え? どうしました? お母さま」
「なんでもないのよ。
それより、夜と朝のお献立は、これでよろしいかしら?」
クラブの仲間たちにふるまう料理の内容は、スター☆トンゴロン先輩の胸ひとつにかかっているのであった。
* *
「二人部屋がこんなにあるんだ」
部屋の割り当てをされて、僕を含めたメンバーはあらためて屋敷の広さに驚いた。
階段の踊り場に、大きな丸い鏡が置いてあるしホテルみたい。
長い廊下の途中に、小さい椅子が置いてあるのもホテルみたい。
「どうしてこんなにお部屋があるんですか?」
「ええとね、」
スター☆トンゴロンは控えめに説明する。
「お母さまが、音楽学校の奨学生に住居を提供しているんだ。練習室とは別のね。
だいたい一人でひとつの部屋を使うんだけど、ご家族や友達が訪ねてきたときのために補助ベッドが置ける広さなんだ。
部屋にそれぞれ電子ピアノがあるのはそのせいだよ。こないだ、みんな留学が決まってそれぞれ行ってしまってね。それで空いていたんだ」
全員、ほえー。と、口を開けて聞いている。
でも、僕は思った。スター☆トンゴロン先輩のお母さんは、立派な心がけの方なんだなあ。
「じゃあ、部屋割り決めるよ」
サオリン先輩と、みずき。
タナカ先輩と、トモッチ。
シノハラさんと、カンナ。
マコッチこと僕とヒロ。
それぞれの部屋に荷物を置いて、早めの夕食をごちそうになって、それからバルコニーに集合。
「迷いそうだなあ」
広いんだもん。
「夕ごはん楽しみ」
そうそう。ごちそうになるので、うちのお母さんはじめクラブ員の父兄がいろいろ気をつかっているみたい。
「あとで差し入れくるかもよ」
「やったあ!」
ヒロは、素直だなあ。
とにかく楽しい観測会になりそうで、僕もうきうきしていたさ。
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