3 天文クラブの観測会:怪人カゲカドワカシあらわる!

1 夜の屋上

 夜の校舎の屋上。今は夏休み。


「じゃあみんな、夏の大三角は、こと座、わし座、はくちょう座のそれぞれ一等星を結んでできる。それを実際に見てみよう!」


 星町第三小学校天文クラブは毎年、夏休みになると学校に泊まって天体観測をする。

 体育館に敷物を敷いて、段ボールで仕切りを作り、寝袋やタオルケットで眠るんだけど、夜の学校に泊まるというだけで何だかドキドキする。

 安全管理?

 大丈夫。

 商店街の人たちもいっしょに泊まってくれるから。

 クラブ顧問の阿賀川あかがわマモル先生は、この小学校の卒業生で、町の商店街の人たちとも幼なじみ。


佐倉井さくらいさん、宇宙カレーおいしかった」

「そうだろう、そうだろう」


 あそこで望遠鏡の順番を待っているカレー店〈ゴンゴン〉の佐倉井さくらいヘイタさんは、夕ごはんを僕たちのために作ってくれた。


「コーヒー牛乳のむひと?」


 銭湯〈星の湯〉の黄川田きかわだナミさんは、飲み物を差し入れてくれたし、


「寝る前、みんなに怖い話しちゃおうかなあ」


 青柳あおやぎユウスケさんは、なんの仕事かよくわからない。探偵、って噂があるんだけど。住んでいるのは喫茶店〈タチバナ〉の二階だ。


「屋上で転んじゃだめよ?」


 安全管理上、一番頼りにされているのはこの翠川アオイさんだ。ダンス教室の先生だけど、時々合気道の道場にも呼ばれているのをみんな知ってる。


「じゃ、つぎ、武山」

「はい」


 僕の望遠鏡の順番が回ってきた。

 そうそう。僕は五年三組の武山マコト。天文クラブは四年生の時に入った。

 星空がほんとに好きで、一年生の頃から貯めている望遠鏡貯金もそろそろいいかんじ。


「やっぱり、望遠鏡はいいなあ」


 目の前には。星の海に浮かんだこと座のベガがひときわ大きくまたたいている。青白い宝石。


「これ、昔の校長先生が寄付してくれたの?」

「そうだよ」


 いい人だなあ。大人はそうでなくっちゃ。


「マコッチ、こっちも」


 あっちは星座早見を片手に、肉眼での観測組。


「北極星」

「あれが見えることが、昔の船乗りには必須なのじゃ」


 トモッチが、おじいちゃんみたいなしゃべり方をする。


「あいてて」


 頭の上に星座早見をかざしているうちに、背中を反らせすぎてしりもちをついた。


「あはは。マコッチ、なにやってるんだよ」

「ほんとに雲ひとつない」


 最高の天体観測日和だった。

 天文クラブは四年生から入れるんだけど、今のところ各学年三人ずついる。


 四年生は、ヒロ、かんな、みずき。

 五年生は、トモッチとシノハラさんと、ぼく。

 六年生は、サオリン先輩、スター☆トンゴロン先輩(名前の由来が長いのでそこのところは割愛)、タナカ先輩。


 各学年三名ずついるのは多いほうで、昔はクラブ員がいない学年もあったんだって。


 でも、この人数でちょうどいいような気がする。

 みんな、星や宇宙が好きだというそれだけで、なんとなく仲がよい。


「女子い!」


 サオリン先輩が、かんな、みずき、シノハラさんを呼ぶ。


「これからお風呂タイムじゃない? いっしょに行こ!」


 見ればナミさんとアオイさんもいる。


「男子も、行きたい人はいっしょに行こう?」


 大勢の女子といっしょは、なんだか気がひけるなあ。


「あ、男子の引率は、ユウスケ! ユウスケ来てよ」


 アオイさんの命令で決定し、天体観測の道具のいろいろを片付けたあとに、お風呂タイム参加者は〈星の湯〉へ向かった。


 そう。学校に残る、お風呂タイム参加者ではないクラブ員もいるんだよね。


   * *


「よし! じゃあ、計画通りいくぞ!」

「ヘイタ先輩! よろしくお願いします!」


 佐倉井ヘイタが三人の生徒を引き連れ、理科室へ向かう。


 三人の生徒。


 ヒロ、トモッチ、そしてスター☆トンゴロン。


「マモル先生、メールと電話の対応でしばらく動けなそうだからな」

「先生って大変だよなあ。何の用なんだろう。夜までこんなんじゃ」

「そう、だからこそ我々のサバイバル訓練の絶好の機会である!」


 生徒たちはそれぞれボディソープとタオルを持っている。


「サバイバルその一!

 理科室で風呂に入る!

 いかなる事態でも清潔を保つための訓練だ!」

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