明日世界が滅びるとしたら
髙橋
1
世界が滅びるというのはどうやら本当らしい。
なぜかは分からない、だがそうなってしまった。私はシャベルで地面に穴を掘りながらそう思った。
ある日を境に世界中の人が次々に死んでいった。
何がきっかけは分からない。原因は結局誰にも分からなかった。
人々がただ死んでいく。そして決して止められない。
様々な仮説が立てられた。新種の病気やウイルス。生物兵器。
神からの天罰を主張する者もいれば、宇宙人が地球を侵略するために強力な放射線のようなものを照射いるなんて説もあった。
科学的にありえそうな話からとんでもない空想まで、可能性はいくつも考えられたがどれも違ったようだ。
私も違うと思う。なぜかは説明できない。だが違うのだ。
この人類の絶滅はもしかしたら運命というやつなのかもしれない。
私は最近、直感でそう思うようになった。
謎の大量死が止められないと分かると、各地で一気に混乱が広がった。
暴動や略奪が起こり、自暴自棄になった人が多く現れた。
しかしそれも長続きしなかった。
人類同士が滅ぼし合うまでもなかった。
それほど速やかに、確実に、死は世界中に広がっていった。
誰かが言っていた。死のみが唯一の平等である、と
なるほど、そうなのかもしれない。
今まさに私はそれを肌で実感している。
膝ほどまでの深さの穴を掘り終えると私はシャベルを置いた。
なぜこんなことになってしまったのか。
私は最近までこればかり考えている。
テレビやラジオ、インフラも既に止まって久しい。
私が何よりも大切にしていた家族。気の合う友人たち。
私が生涯かけて出会った素晴らしい人たちも、もう全員死んでしまった。
恋人や友人も出会った時は他人だ。
そこから少しずつ関係を深めていき、生涯を共にする伴侶となったり、親友となったりする。
これほど素晴らしいことがあるだろうか。
失って初めてそれを実感させられる。
私は全てを失ってしまった。
私にはもう誰もいない。
一方的に別れて、消えてしまった。
皆、死んでしまった。
今、はっきりと感じる。
“もう残っているのは自分だけだ”
私が住んでいるこの国だけではない、もう世界中で私しか人間は生き残っていない。
信じられないが、はっきりと自覚できる。直感で分かるのだ。
ならばなぜ、私は残されたのか。
考えても分からない。理屈では説明できないことが起きているのだから。
一人でできることなどたかが知れている。
ただでさえ私は何の特徴もない平凡な人間だ。ごく普通の家庭で育ち、友人を持ち、恋人を持ち、家族を持った。
しかしもう一人もいない。誰も残っていない。
私だけが残された。
ならばせめて、と思った。たいした理由があるわけでもない。
こんなことをしても何の意味もない。
それでも穴を掘り、近所の植木屋で見かけた苗木を持ってきた。
掘った穴に苗木を植え、土をかぶせた。バケツでくんでおいた水をかけ、私はようやく満足した。
リンゴの木は青々と光り、空に向かって手を伸ばしていた。
明日世界が滅びるとしたら 髙橋 @takahash1
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます