我が儘なグリード ~でもだからってそれはないっ!!
藤瀬京祥
月嶋兄弟に告ぐ
「あれ?」
どんなに人混みにいても見間違えることのない真っ黒なストレートのロングヘア。
しかも彼女は高校一年の女子にしては170㎝を超える長身だ。
その見慣れた後ろ姿を見つけた
「今日は一人?」
「一人って……あんたもどんだけ律弥が好きなのよ、文彦」
挨拶もそこそこに尋ねると、
一応 「違うから」 と訂正しておく。
そして琴乃が通学鞄以外に持っている袋に気がつく。
「ひょっとしてそれ……」
心当たりを覚えて尋ねると、琴乃も 「ああ、これ?」 と文彦の嫌な予感を強めてくれる。
「律弥の制服。
あいつ、なに考えてるの?」
「双子の琴乃にわからないのに、ただの幼なじみの俺にわかると思うか?」
呆れながらも質問に質問を返すと 「んー……」 と考え込んでしまう琴乃の背を押し、文彦も学校に急ぐことにする。
月嶋琴乃の双子の兄弟、律弥。
琴乃より一足先に家を出て登校し、なにをしているのかといえば、裏庭で同級生の
下駄箱で靴を履き替えているところで呼びかけられ、そのままここに連れて来られたのだが、そもそも今日の律弥は佐竹の登校時間にわざわざ合わせたのである。
しかも律弥は琴乃の制服を着て、琴乃と同じ黒髪のストレートロングヘアのウィッグまで付けて琴乃に変装。
屈む時は、髪を掻き上げる仕草まで琴乃を真似て。
さすがに履き替える靴は自分の上靴。
琴乃とはサイズが違っていて履けないのである。
そのことに佐竹が気がつけば引っ掛からなかったのだが、恋は盲目というべきか。
あるいは欲に目がくらんだのか。
全く気づくことなく琴乃に声を掛け、まんまと裏庭に連れ出すことに成功した……と本人は思っている。
「月嶋、ちょっと話があるんだけどいい?
俺と付き合ってくれない?」
逸る気持ちを抑えきれない佐竹は、琴乃に扮した律弥の返事も聞かず本題を切り出す。
だが切り出した瞬間にその胸ぐらを掴まれる。
「お前さ、俺と琴乃の見分けもつかないくせになに言ってんだよ?」
「…………お前、律弥?」
「律弥君でーす」
琴乃の身長が高いとはいえ、双子とはいえ、律弥の身長はもっと高い。
わざと屈めていた腰や背をすくっと伸ばすと、視線が佐竹よりほんの少し高くなる。
そして被っていたウィッグを無造作に取ると、天然パーマの月嶋律弥が現われる。
着ている制服は琴乃のものだが……。
「なんだ、丁度いい。
お前にはもう告ってるんだ。
返事を聞かせてくれるとか?」
それこそわざわざこんな手のこんだ方法で呼び出して……とポジティブシンキングで律弥の眼前に迫る。
その顔を、大きな手で押し返す律弥。
「おーまーえー、脳みそ沸いてんの?」
「沸いてる沸いてる」
「まだ
森村さくらは二人の同級生にして琴乃の友人。
そして最近付き合い始めた佐竹の彼女である。
その彼女と付き合ったまま、双子の月嶋兄弟に交際を申し込む佐竹は自称二刀流のバイセクシャルで、実はさくらとは別に彼氏もいるらしい。
どういうつもりだと詰め寄る律弥だが、佐竹は平然とした顔でとんでもないことを言い出す。
「お前ら二人と付き合えるまで、あいつらと別れるつもりはない」
「はぁ~?」
呆れる律弥に、佐竹はさらなるとんでも持論を展開し始める。
「月嶋琴乃は森村と仲がいいからさ、言えるはずがないよな。
俺が森村から自分に乗り換えようとしてる……なんてこと。
お前はシスコンだし?
木嶋はお前のいいなりだしな」
考えていた以上に脳みそが腐っている佐竹に、律弥はもう言葉も出てこない。
代わりに出て来たのが文彦である。
途中から話を聞いていた文彦は、手に持っていた袋を律弥に押しつける。
「なに、これ?」
「制服。
琴乃から預かってきた。
まさか一日その格好で過ごすつもりだったのか?」
どうやら自分の制服を持って来忘れていたことに気づいていなかったらしい律弥は、受け取った袋の中をのぞいて 「ああ……」 と間の抜けた声を出す。
だがそのやりとりを聞いて佐竹は 「いいね」 とにやける。
「月嶋琴乃が二人っていうのも」
「ってかお前、まだそんなこと言ってるわけ?」
佐竹のとんでも発言に呆れ、自身の失敗に気づいてすっかり気が抜けてしまった律弥に代わり、文彦が話し掛ける。
「言ってるわけ。
お前もさ、幼なじみとかいって親しげに名前呼びしてんじゃねぇよ」
「それは琴乃と律弥が決めること。
二人に言われたら止めるよ。
それよりお前、なに考えてるわけ?
森村とか、誰か知らないけど、彼氏に悪いとか思わないわけ?」
「なに言ってるんだよ?
そもそも出会いと別れはセットなんだよ。
出会えばいつかは別れるもの。
それこそ結婚まで行ったっていつかは死に別れるんだぜ。
たかだが高校生の付き合いで、死が二人を
「ただでさえ二股掛けてるくせに、現状四股だろう?
お前には倫理観ていうものがないのか?」
「俺は欲しい物は手に入れる。
そう決めてるんだ」
「どんな強欲?」
「知ってるか?
我が儘は強欲の真骨頂なんだぜ」
開いた口が塞がらない。
それでも頑張って言い返す文彦だが、佐竹はどこまでも強欲に持論を展開。
ついには律弥に続き、文彦まで言葉を失ってしまった。
ー了ー
我が儘なグリード ~でもだからってそれはないっ!! 藤瀬京祥 @syo-getu
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