もっと自分を生きて

第1話

「人殺しはいけないと思います」

　突然後輩にそんなことを言われた。もちろん誰かを殺めたことなんてない。

「おいおいどうしたいきなり」

　真意が分からない。そんな状態では相手の正気を疑う以外できそうになかった。もちろん後輩が狂ったとは思っていない。

「先輩、あなたは何人自分を殺してきたんですか？」

　自分を殺す。その言葉がなぜだかズンとくる。

「それは――」

「自分を殺すことだけが生き方じゃないと思います」

　そんなことはしていない。その言葉は後輩の言葉にかき消された。

「もっと自分を生かしてください。先輩の歩いた跡には、先輩の死体が積み重なっているように見えます」

　そんな風に見えているが衝撃的だった。たしかに他人優先。自分の事など後回しが基本だった。それでも上手くごまかして生きているつもりだった。

「もっと自分を生きてください」

　それが上手くいかなくなっていたのだろう。そうでなければ後輩がこんなことを言わないはずだ。

「分かったよ」

　後輩に気付かされるとは情けない。

「少し考えてみる。いや、考えて行動に移してみるよ。ありがとう」

　この背中越しに希望を見せてやらねば。その思いが燃え上がるのを感じるのだった。