歩いた先に君がいたから、話しかけてみた

奏流こころ

プロローグ

「好きです、付き合って下さい!」


 人生初の告白。


「ごめんなさい」


 玉砕となった。



「はぁ…」


 キャンパス内の学食にいて、項垂れた。

 フラれた。ショックが大きい。

 1年の時、早めに教室にいてゆっくりしていると、その子が現れて。

 隣に座って、その子もゆっくりし始めた。

 何度か会う内に、いつの間にか話すようになっていて、交流を深めていった。

 連絡先の交換以降、ちょくちょく連絡をするようになって、休日には一緒に出掛けるようになって。

 2年の今年に入って、決意した。

 告白する、と。

 それで、先程、告白したら、フラれた。


『恋愛として見れない。友達としてで、お願い』


 恋愛対象外だったのだ。

 午後の講義に出席する気力体力はない。

 サボることにした。

 学食を出て、キャンパス内をただ歩く。

 足取りはとぼとぼと弱く、強さはなかった。

 フラフラと歩いていると、ベンチに座って読書をしている女子を見つけた。

 背筋をピンと伸ばして座っている。

 綺麗だな、と思った。

 ブラウスにカーディガン、ブラウンのスカート、というシンプルな服装。

 ストレートのセミロング、眼鏡をかけていた。

 聡明に見える。

 少し気になって、彼女の座るベンチに座った。

 1人分くらい空けて。

 チラッと見ると、横顔の美しさにドキリとした。

 視線に気付いたのか、その子は俺の方を向いた。

 目が合った。

 こんなに澄んだ瞳を初めて見た。

 吸い込まれる感覚がある。

 ずっと、見ていられる。


「あの…」


 体が震えた。

 声が、とても可愛かったから。


「私に、何か?」


 小首を傾げて訊ねたその子。

 何と答えれば良いのやら。


「えっと…」


 言葉に詰まる。

 とれていた、とは言えない。

 クスッと、突然その子は笑った。


「変な人ですね」


 ふふふ、と笑うその子。

 ドキッとした。


「あの、名前は?」


 彼女のことを知りたくなった。


清瀬きよせさら」


 清瀬、さら、さん。


「良い名前ですね」

「貴方は?」


 まだ言っていなかった。


棚部たなべ淳音あつと


 うんうんと頷く清瀬さん。


「私、3年」


 おっと…先輩だったか。


「2年です」

「そっかぁ…後輩かぁ」


 年上の女性。

 初めてかもしれない、気になるのは。


「また、どこかで会ったらよろしくね♪」


 そう言って、清瀬さんは文庫本を鞄にしまい、ベンチから立つ。

 スッと音を立てずに静かに。

 フワッと軽くスカートが広がった。

 振り向くことなく、立ち去った。

 清瀬さんの背中が見えなくなるまで、ずっと見てしまった。


 また、会えるかな…

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