夕暮れの家庭科室

嬾隗

出会いと別れ

「おれたち、別れよう」


 そんな言葉で切り出された、別れの言葉。

 ここは、実技棟にある家庭科室。ちょうど夕暮れで、夕日が斜めに差し込んでくる。


「……どうして?」

「……やっぱり、おれは高望みしすぎたんだ。おれはきみには釣り合わない」


 ああ、ライトノベルでありがちな別れの切り出し方ね。こう言われたら、こう返そうと考えていた。


「そっか、いいよ」

「……いいの? 何か聞きたいこととか……」

「いいの。それがあなたが選んだことなら」


「あなたは、男子では珍しく調理部に入った。そして、この家庭科室で初めてわたしと出会った」

「……うん」

「何か下心があるんじゃないか、とは思っていた。まあ、最初は純粋に、料理が友達だったみたいだけど」

「……」


 彼が黙ってしまったので、一人で過去を振り返る。


「わたしはあなたと比べて料理が上手じゃなかったから、わたしのハンバーグの出来で笑ったっけ。あなたに料理を教えてもらううちに、仲良くなって、昼休みにあなたの教室で会ったら、あなたは教室では爪弾きにされていて、わたしが行ったあの日から、あなたはいじめの対象になった。わたしは自分で知らなかったけど、学校のマドンナと呼ばれていた。だから、あなたはいじめられた。そして、普段からわたしをよく思わない女子がわたしをいじめ始めた。だから、あなたは別れを切り出した。そうでしょ? このままでは二人とも不幸になるから」

「……そうだよ」

「だから、いいよ。別れましょう」


 彼は、何か言いたそうにしながらも口を噤み、下を向いて家庭科室を出て行った。


 しばらくして、わたしは家庭科室から出ることができずに、ずっと泣いていた。


 わたしは、あなたと出会って幸せだったもの。



   完

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夕暮れの家庭科室 嬾隗 @genm9610

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