破れる恋あれば生まれる恋あり

九戸政景

破れる恋あれば生まれる恋あり

 誰もいない夕暮れの公園。そこでは一人の少女がブランコに揺られていたが、その表情は暗く、目には涙を浮かべていた。


「……ほんと、私カッコ悪いな。先輩の卒業式で会えるのもたぶん最後だからって告白なんかして、結局申し訳なさを感じさせながら断らせたあげく、そのまま立ち去っちゃったんだから……」


 目に溜まっていた涙は俯いた事でポロリと落ち、地面に小さな染みを作った。


「……春は出会いと別れの季節なんて言うけど、私の場合は最悪の別れになっちゃった。もっとも、私のせいではあるけど、こんな形になったのは、やっぱり辛いな……先輩にも申し訳ない事しちゃったし、本当なら今頃はクラスの人達と一緒に卒業パーティーを楽しんでいたはずなのに……!」


 悲しみを堪えきれなくなった少女は目からポロポロと涙をこぼし、その雫は顔を濡らしながら落ちると、続いて地面を次々と濡らしていき、しばらく悲しみの雨は降り続いた。

そうして少女が一人で泣き続けていたその時、公園に一人の少年が現れた。少年は何かを探すように辺りを見回しながら公園内を歩いていたが、やがてブランコに揺られながら泣く少女の姿を見つけると、安堵したように息をついてから少女へと近づいた。


「……ここにいらしたんですね。探す手がかりが無くて、だいぶ探し回ってしまいましたが、こうして見つけられてよかったです」


 少年のその声に少女は顔を上げたが、少年の顔にピンと来ていない様子で首を傾げていると、その様子に少年は苦笑いを浮かべる。


「まったく誰かわかってないみたいですね。まあ、貴女からすれば初めて見た相手なわけですからそういう反応も仕方ないですよ」

「……君は?」

「僕は……貴女が告白をした生徒の弟、と言えばわかりやすいですか?」

「先輩の……同じ学校にいるって噂では聞いていたけど、君がそうなんだね」

「はい、初めまして。でも、僕は貴女の事を前から知っていましたよ。貴女が兄を想い始めた頃からずっと知っていたんです」

「その頃からって……去年の4月からだよね? その時に君が私を知るきっかけなんてあったかな……」


 少女が不思議そうに考え始めると、少年は微笑みながら静かに口を開いた。


「入学式の後、兄と話したくて校内を探していた時、貴女が落としたハンカチを兄が渡しているのを見かけたんです。その時の貴女は兄の姿しか見えなかったと思いますが、僕もその時は貴女の姿しか見えませんでした。

 僕は今まで誰かを異性として好きになった事がありませんでしたが、その時の貴女はとても魅力的に見え、その日から僕は貴女の事が好きになっていたんです」

「好きって……わ、私を……?」

「はい、そうです。ただ、貴女が兄の事を好きなのはわかっていましたし、そんな貴女に想いを伝えるだけの勇気も無かったので、貴女と兄が付き合えるように祈る事にしました。

けれど、貴女が兄に告白して、いつの間にか彼女さんが出来ていた兄がそれを断ったのを聞いて、いてもたってもいられなくなって捜しに来たんです。兄から貴女が返事を聞いたらすぐにいなくなってしまったと聞いたので、どこかで悲しんでいるかもしれないと思ったので」

「そうだったんだ……でも、突然好きって言われてもどう答えたら良いかわからないよ……」


 少女が俯く中、少年は微笑みながら首を横に振る。


「告白を断られたばかりの貴女から返事を貰おうとは思っていません。ただ、これからは友達として貴女に度々関わらせてほしいんです。

そして、貴女との距離が程良く近づいたと思ったら、その時には改めて想いを伝えさせてもらいます。傷心中の貴女を利用して想いを遂げても仕方ないですし、そんな卑怯な真似は出来ませんから」

「…………」

「とりあえず、貴女をお家まで送らせてもらいますね。言う事だけ言って、後はそのままという事は出来ませんし、少しでも貴女の傍にいて色々お話ししてみたいですから」

「……うん、わかった。でも、本当に私なんかを好きになってくれて良いの?」


 少女が不安そうに言うと、少年は少女の顔を真っ直ぐに見ながら優しい笑みを浮かべる。


「貴女だからこそ好きになったんですよ。他の誰でもない貴女だからこそ僕は好きになれたんです」

「私だから……」

「はい。だから、もっと自分に自信を持って下さい。それに、想いは実りませんでしたが、兄も貴女の事は可愛らしい女の子とは思っていたようですよ」

「先輩がそんな事を……」

「ただ、兄にはそれ以上に好きになった相手がいただけです。だから、自分なんかって言わないで下さい。貴女はしっかりと魅力的な女性ですから」

「……うん、ありがとう……本当に、ありがとう……!」


 少年の言葉に少女は嬉し涙を流し、少年はゆっくり近づくと、少女の体を静かに抱きしめた。そして少女が泣き止んだ後、少年に伴われて少女は自宅へ向けてゆっくりと歩き始めたが、その手は少年の手をしっかりと掴み、家に帰るまで一度も離れる事は無かったという。

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破れる恋あれば生まれる恋あり 九戸政景 @2012712

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