十彩の音を聴いてーPower Switchー
七兎参ゆき
プロローグ
邂 逅
大きな樹の梢であたしは待っている。
いつからか判らないほどの
大樹の他には何もない
何もない代わりに揺らぎと同調しかたちを変える様は川の流れみたいなもの。
その中を誰かがゆっくりとした足取りで歩いて近づいて来る。
初めての来訪。
誰とも出逢う事のなかった永遠の中で。
その姿を
満面の笑みで涙が溢れた。
嬉しくて。でも切なくて。もどかしくて。
歓喜に包まれながら。
満たされてく。
潤ってくる。
熱を帯びた想いが溢れだす。
「待たせたかな?」
「待ってた。ずっと」
「ごめんな。やっと逢えた」
「うん。やっと」
彼は両手を開き真っ直ぐあたしを
躊躇なくその胸に跳び込むあたし。
「ずっとここに居たのか?」
「そうよ。ずっとここに居たわ」
「随分探したよ。最初からここに来てれば」
「ありがとう。あたしを魅つけてくれて」
彼の腕が優しくあたしを包み込む。
全身の力を抜いて、彼に委ねるあたしをそっと。
壊れないように。
柔らかく。でも力強く。
「ねぇ。ずっと探してくれてたの?」
「ああ。ずっと探してたよ」
「迷ったりした?」
「迷子になってた」
あたしの零れる涙は一向に止まる気配は無い。
でもそんな事は全然気にならない。
「あたしも迷子になってたかも」
「そうか。二人で迷子になってたのか」
「そう。あたしはここから一歩も動けなかったけど迷子だったのよ」
「寂しかったか? 悪かったな」
「寂しかったわよ。当たり前じゃない」
「もう離さないから。責めないでくれよ」
「責めてなんかない」
「知ってる。久し振りなんだ。言葉を間違えたよ」
「間違えないで。言葉は紡ぐものよ」
「そうだな。これからは二人で紡ごうな」
「どうしてくれるの?」
「そうだな。涙が枯れるのを待つかな」
「枯れないわよ。ずっと」
「そうか。それならその涙を俺に刻んでくれないか」
「刻んでどうするの?」
「忘れないように。もう寂しい想いをさせないように」
「涙を拭おうとしないのね?」
「だってその涙は悲しいものじゃないだろ?」
「そうよ。悲しくなんて無い」
「嬉しいんだから涙は枯れないわよ」
「そうか。嬉しいのか。ありがとう」
「想いはずっと続いて行くの。だから」
「それなら
「貴男の腕の中で眠らせて」
「勿論。さぁおいで」
「引き寄せて。あたしはまだ動けないのよ」
「そうだった。俺の首の腕を廻してくれないか?」
「これで良いの? 何をする心算なのよ」
「こうするんだよ。黙って瞼を閉じておやすみ」
貴男はあたしを優しくその両手に抱き立ち上がると
静かにそしてゆっくりと歩き出す。
決意の篭った確りした足取りで。
真っ直ぐに何の迷いもなく。
輝く
そんな祝福と祈りに満たされた
この
はじめられる。やっと。
未来永劫と想えるくらいの
遂に出逢えた二人の。
二人で紡がれる物語を。
貴方に立ち逢って欲しい。
貴方に
願わくば祝福の祈りを捧げて欲しい。
そして貴方にも運命の邂逅を果たして欲しい。
その
祝福の祈りを捧げさせて欲しい。
貴男と貴女に。
プロローグにしてエピローグ。
はじまりの終わり。
いまここから紡がれる
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます