第16話 冒険者ギルド

-領都バスール-


領都バスール。バスク領の中央に位置し、連合王国の中で大都市と呼ばれている都市のひとつである。他の大都市と同様に、ここではあらゆる種族の人々が共に暮らしている。


「あの耳が長い人がエルフ?それに立派な髭の人はドワーフか」


『そんなにジロジロと。失礼ですわ』


クルスは都市の中に入って街の美しさに感動していた。そして人々が行き交う中、初めて見るエルフやドワーフの姿に思わず見入ってしまった。


広場のような所に着き、クルスとソルト、そしてベルは荷馬車から降りた。商人達にお礼を言う。護衛もここまでらしく、冒険者たちは商人から依頼完了の判を押してもらっている。


「黄金の翼と赤雷団の皆さん、ありがとうございました」


「おう、ギルドで会った時は声をかけてくれ」


商人に続いてクルスとソルトもノルドや他の冒険者達にお礼を言うと、彼らは街の中に消えていった。そして商隊もその場から去っていく。


「クルス、領主様に謁見する前に、冒険者ギルドへ用事があるから、私が案内しよう」


ソルトの後ろをクルス達は付いていった。


※※※


冒険者たちが四六時中、冒険者ギルドの中でワイワイと騒いだり、冒険者同士の喧嘩を想像していたクルスは、静まりかえったギルドの室内を見て少し安心していた。クルスは前を歩いているソルトに声をかける。


「思ったより静かですね」


「今の時間はもう冒険者は出払っていて、誰もいないのだよ」


奥に進むとカウンターがあり、人族の受付らしき女性が座っていた。ソルトが受付の女性に声をかける。


「ギルド長に面会したい。取り次いでもらえるか」


「面会予約はございますか?」


事務的な会話が進んでいく。


「すまんが無い。緊急を要するのだ。ナムル村のソルトが来たと言ってもらえれば、取り次いでくれるはずだ」


「わかりました。少々お待ち下さい」


受付の女性がカウンターの後ろにある扉を開き、奥へと入っていった。


村長と言えども簡単にギルド長に面会が出来るのだろうかと、クルスは不思議に思っていた。少し経ってひとりの男性と、受付の女性がカウンターに入ってきた。その男性はソルトに話しかけた。


「ソルト!本当にお前なんだな。大人しく村の村長をしていると思ったが、どういう風の吹き回しだ?」


「今も村長をしているさ。久しぶりだな。元気でよかった」


ソルトも男性も笑っている。どうやら旧知の仲だったらしい。


「それでソルト村長が友の顔を見るためだけに、ギルドに来ただけではあるまい?」


「ああ。領主様に謁見しなければならない事態が発生したのだ。ギルドにも関係するから、謁見の前にお前に相談しに来たという訳だ」


先程とはうって変わって、真剣な表情でソルトは話している。その顔を見て男性は頷く。


「わかった。奥に案内しよう。その前にその少年は?」


男性はソルトの後ろにいたクルスに気付く。


「すまん、失念していた。村の少年でクルスという。冒険者になるためにここに来た。クルス、紹介しよう。バスール冒険者ギルド長のビルさんだ」


「よ、よろしくお願いします!」


「よろしく」


ギルド長を前にして緊張しているクルスを、ビルはジロジロと見ている。クルスは緊張で気付いていないが、どうやら値踏みしているらしい。それを見たソルトが注意する。


「無垢な少年にギルド長がそんな目を向けるな。少し冒険者の心得を教えたが、才能があるかは知らない」


「ほう。ソルトに教えてもらえるとは。たしかにのメンバーの中でも――」


ソルトがビルの話を遮る。


「昔の事はいい。謁見の時間が迫っている。ビル、早く案内してくれ。クルス、冒険者登録の申請が終わったら、一番最初にする事は自分の拠点となる宿を探す事だ。次に自分に合う装備を見つける事」


クルスにそう言い残すと、ソルトはビルと共に奥へと消えていった。


「うちの村長は何者なの?」


「本当に何者なのでしょう」


クルスの呟きに反応したのは受付の女性だった。


「ギルド長は若い頃冒険者をしていたそうですが、その頃の知り合いなのでしょう。それはいいとして、クルス君でしたね。冒険者ギルドへようこそ。私は受付をしております、セーラと申します。ご用は何でしょうか」


クルスより3つほど年上だろうか。セーラはニッコリと笑っている。ギルド長がいた時は気付かなかったが、なかなか綺麗な人だ。


「ごめんなさい。決まり文句なのよ。ご用はわかっているわ。冒険者の登録でしょう?」


「は、はい。よろしくお願いします、セーラさん」


クルスは少しだけ顔を赤くしている。


『あんな小娘に鼻の下を伸ばして!(ニャ)』


冒険者ギルドに入ってから、静かにしていたベルが呆れた顔でクルスを見ている。


「あら、キレイな猫ね。こんなに懐いて、クルス君の相棒かな。この紙に必要事項を書いて。筆記は出来る?バスール領以外だと書けない人もいるの」


『小娘にしては見る目がありそうですわ。クルス、丁寧に書きなさい(ニャー)』


その心変わりは猫だからかなと思いながら、クルスは筆記は大丈夫とセーラから筆をもらい、用紙に名前や出身などを書いていく。


「登録料は銀貨1枚よ」


クルスは袋から銀貨を取り出し、用紙と銀貨をセーラに渡した。


「ちょうど明日、新人冒険者対象の講習を行うの。その講習を受けて冒険者の登録が完了するわ。朝からだから絶対に遅れないで来てね。あとこれ」


セーラがカウンターの中から冊子を取り出し、クルスに渡す。


「明日の講習で使うから、忘れずに持ってきて。講習で何か聞かれるかもしれないから、読んでおいたほうがいいかも」


「丁寧にありがとうございます。ついでに良い宿ありませんか?」


セーラが少し考える仕草をする。


「ギルドでも宿をやってるんだけどね。職員の私が言うのも変だけど、他の冒険者さんが言うには普通らしいの。近くに何件かあるから、紙に名前を書くわ」


宿の名前が書いた紙をセーラから貰い、重ねてお礼を言ったクルスはギルドを後にした。


「よし。村長も言ってたけど、一番最初にする事は――」


『聖樹教会に行きますわ』


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