公平

富升針清

第1話

「やあ、兄弟。……と、言ってももうアンタには聞こえないんだろうな。もう、何処も繋がってないんだ……。あんなにもいつも通りだったのに、こんな急に逝く奴があるかよ……。いくら何千年でも生きてる悪魔公爵様だって出会った後にくる別れってもんは寂しいもんよ。私たちが初めて出会った日を、アンタは覚えているかい? 私は今でも覚えてるよ。あれは、数ヶ月前、雨が降っていた様な、降っていなかったような、昼間だった様な、夜だったような、それでいて私のお腹が空いていたような……」

「君、うっさいよ。思い出がないなら語らないでくれるかい? いい加減その壊れた備品の椅子を渡すんだ」


 そう、シルクハットの男が髭の男が抱きついている椅子を見る。毎回のごとく、その巨体を支えきれずに椅子が満期を待たずに壊れてしまうのだ。


「やだー!! こんな可愛がっていた兄弟を渡すもんかっ! だって、私こいつにレアシール貼っちゃったしこの椅子がいいー! 復活の魔法陣描いてよー!」

「会社の備品にシールを貼るなっ!! 復活の魔法陣に椅子を載せるな! ほら、次は君が熱望していた赤い椅子だぞ? 変えなくていいのか?」

「え……? 何その椅子、超クール! グッバイ、兄弟! 私は出会いと別れを繰り返して強くなるよ! ウェルカム私の赤い可愛子ちゃんっ!」


 壊れた方の椅子の方を見ながら、シルクハットの男は優しく声をかける。


「復活の魔法陣載る? 出会いと別れで強くなるなら、君も強くならなきゃフェアじゃないだろ? 髭ぐらいぶち抜いてやれ」


おわり

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

公平 富升針清 @crlss

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ