食中植物系大学生

@11Ii11

第1話

7月の終わり頃、歩くだけで体中から汗が噴き出るような日のことでした。耳障りな蝉たちの声が聞こえないほど僕はひたすら歩いています。目的地までは30分ほど。電車で動くとかえって遠回りになるし、バスも本数が少ないこの土地では自動車を持たない人間は、夏は炎天下にさらされながら、冬は寒さに凍えながら歩いて移動する方が案外早いんです。自転車は持ってません。大学に入学する前の春休みで免許を取っておけばよかったと後悔しながらひたすら歩いています。汗で地面にマーキングしながらついに目的地につきました。ある男の家です。名前をSとしましょう。Sは5歳ほど年上の男で、大企業に勤めるいわばエリートでした。スマートな見た目に優しい性格を持ち合わせる彼は僕にとっては歳の近いお兄さんのような存在で、頼れる兄貴分のようなものでした。Sの家はマンションの一室であり、もう何度も来ています。いつものようにマンションの一階にあるインターホンを押して、自動ドアが開き、Sの部屋に向かいます。301。部屋に行く途中に目に入たのは3階から見渡す周辺の街並み。坂の上にあるマンションだから、3階からでも結構眺めがいい。結構来てるはずなのにこんな眺めを見たことがないのはいつもここに訪れるのが夜だから。そんなことを考えながらSの部屋の前に立ちました。インターホンを押すと、Sが出てきました。開いた扉の先にいるSの顔は、僕を見るとニコッとして扉のチェーンを外して僕を迎え入れます。

「すごい汗だね、シャワー入る?」

と言われたので、入ることにしました。着替えは持ってきてないけどどうせ貸してくれるだろうし。昼間からシャワーに入ることってあんまりないからシャンプーは使わなくていいかなとか考えながら10分ほどでシャワールームを後にしました。僕もSも細身だけど、Sの身長は184センチなのに対して僕は170センチだから借りたシャツは少しぶかっとします。パンツはまぁまぁ普通に履けました。

Sは「おまえはお子ちゃまだからちゃんとオレンジジュースでいいよな」と言いながら僕の好きなオレンジジュースに氷を入れて出してくれました。Sはビールでした。Sはいつも氷をたくさん入れるので少し冷たすぎるし飲みづらいしすぐ薄まるんだよねって思いましたが、早く遊びたかったので言いませんでした。そのあとはゲーム機で遊んだり、映画を見たりしました。夕方頃、エアコンの効いた部屋が少しぬるくなりました。Sが洗濯物を取り込み始めたからです。僕はその様子を見ています。一人暮らしの男の人って漫画とかだと脱いだものはて脱ぎっぱなしで放置、たまにコインランドリーで洗濯とかなのでSはしっかりと生活しているんだなと思いました。少し眠くなったのでクッションに頭を置いて目を閉じました。3分ほどするとガラガラとベランダへの入り口が閉まる音がしました。その刹那寝転がる僕の背中の上にSが乗ってきました。そのまま首を舐めてきたのでくすぐったくて少し声を出してしまいました。いや、出しました。前から気持ちいい時とかくすぐったい時とか素直に声を出せと、言われていたからです。Sが「ベット行こ」と言ってきたので、背中から退いてもらい僕はベットに向かいました。僕はキスが好きな男なのでそれをわかってるSは少しはにかみながら僕に顔を近づけて、ディープキスをしてきました。僕はこの瞬間がお気に入りです。唾液の交換、やってることはそれだけなのにすごく幸せな気分になるからです。変な味、多分ビール。それが終わるとそれからはいつものようにセックスです。男同士なのでお互いが射精するととりあえずひと段落つきます。本当はもう眠りたい気分でしたが、綺麗好きなSは僕がSと僕が出した体液と汗に塗れながら布団にくるまることを許してくれず、抱っこされてシャワールームに連れて来られました。55キロある僕を簡単に抱っこできるSは高校まで剣道をしていたらしいし、今も筋トレは欠かさないらしい。すぐシャワールームにつきました。そのまま寝ちゃってもいいように今回は髪の毛を洗っていると、急に体を洗われました。綺麗好きだから僕の洗い方じゃ満足できないのか、それともまださっきまでの延長線にいるのかとか考えていましたが、「頭流したら俺のことも洗って」と言われたので、多分延長線にいるんでしょう。脇をくすぐりながら洗ってあげたらビクビクしてて面白かったです。シャワーを終えたら眠気が飛んでいました。これはいつものことです。そのあとはマンションからすぐ近くにあるラーメン屋さんに行きました。Sのおごりです。その後またSのマンションに戻ります。夜の道は涼しくて、昼のあの暑さが嘘のようでした。この町はベットタウンでマンションがたくさん建っていて、たまに僕達と同じように男性と男性が歩いてて、案外僕とSのような関係なのかなと勝手な妄想をしたりします。Sの部屋に戻ったら歯磨きをします。僕の歯ブラシはありませんが出張の多いSは各地のホテルで集めてきたアニメティの歯ブラシを毎回僕様に用意してくれます。歯磨きが終わったらもう寝ます。とは言え同じベットなので軽くイチャイチャして、いつの間にか眠りにつきました。これが僕の大学一年の夏休みの始まり。前期最後の授業の日のことでした。

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