視界良好
八木寅
第1話
新しい出会いを求めていたオレは、個性的なタイプが集まる店へと向かった。
ビシッとスーツを着こなした紳士が対応してきて、少し気おくれしそうになった。けど、目的を果たすために、自分の好みを伝えた。
彼が紹介したものとは、一目でフィーリングが合った。
オレの心は一瞬でつかまれた。
艶やかなボディ。
洗練されたシェイプ。
大人びていながらもカジュアルな遊び心があるセンス。
曇っていた視界が晴れていく予感がした。
「アヤメです」
見つめていたら、名を教えられた。
はやる気持ちを抑え、紳士的にコトを進める。
取り扱いに細心の注意を払って、エスコートしてみる。
ともに反射した姿を拝むと、やはりアヤメが一番だとわかった。
「どうですか」
耳ざわりが心地よく、離れたくなくなった。ずっと一緒にいたくなった。
「とてもお似合いですね」
紳士におだてられて、オレは心を決めた。アヤメを大事にすると。
それから、アヤメとの日々は最高で、オレの視界が開けた。
アヤメという銘柄の眼鏡は生活の質を変えたのだ。
新たな眼鏡を入手したことで、五年以上使用して見づらくなっていた眼鏡とはお別れすることになった。
けど、五年間毎日つけていた愛着があって、少し名残惜しい。
あんなことやこんなこと、花粉症で泣いた日もカクヨム読んで笑った日も一緒に見てきたのだ。この屈折角度が合わなくなった眼鏡は。
「今までありがとう」
感謝の涙でぼやける視界で見送った。
眼鏡が新たに生きられるよう祈って、リサイクルへと送りだした。
【終】
視界良好 八木寅 @mg15
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