第2話 あの頃の少女
「なんですか?」
僕は素直な疑問を男性にぶつけた。
「とてもお話しづらい話なのですが……」
「?」
何のことだろうと聞き返そうとしたとき、それより早く、男性は驚くようなことを口にした。
「その、お友達の女の子、私からは、見えておりません。あと、恐らく、他の人からも……」
「な……!」
僕は2階からこの小部屋へ来るまでの道中を思い出した。
確かに、僕や受付の男性を見ていたひとはいたかもしれないが、千代の方を見た人はいなかったような気がする。
「そんな!」
驚きを隠せずに、声を漏らしてしまう。
そして、隣に一緒に座っている、千代の顔を見ると、千代は僕から顔を背けて、こう言った。
「さっき、怜翔が言ってた通り、やっぱり私死んでるの」
そうなのか。知っていたことだが、「実は生きていた」という希望をこの短時間でつくり出していた僕にとってはやはり、落ち込まずにはいられなかった。
少し黙ったあと、冷静になると、ある不思議な点に気付く。
「あれ? じゃあどうして貴方は千代のことをあんな短時間で信じたんですか? 普通、誰もいないところに『女の子が』とか言われたら、『おかしい人なのかな?』とか思いません?」
「いや、単純なことですよ。この図書館では時折そういうことが起こるのでもしかしたらと思って声をかけてみただけですよ」
「この図書館そんなにこういうことが起こるんですか?」
「いや、そんな頻繁には起こらないですが時折、お客様のような反応をする方がいらっしゃいますので」
「なるほど。大体状況は把握しました」
「はい。こちらからできることはほとんどありませんが、説明するくらいのことはできますので、こういう方々にはこんな感じでお話をさせて頂くようにしております」
「じゃあ、千代が何故、現れたのかとかはわからないんですか?」
「はい。申し訳ありませんが、このようなケースもいろいろありますので。ただ――」
「ただ?」
聞き返すと、男性は僕だけに知らせたいのか、僕だけが近くに来るように指示し、耳元で小さな声で言った。
「原因はわかりませんが、皆さまほとんどこの現象が起きてから1週間後くらいにもう一度当館を訪れて、涙ながらに感謝を伝えられます」
「それってどういう……」
僕が聞き返す前に男性は、
「お時間を頂き、申し訳ありませんでした。もう、大丈夫ですので。あと、その本は[貸し出し]にしておきますね」
と言って、僕らを小部屋から受付あたりまで送り届け、僕等の前を去った。
僕等は、話す為に図書館を出て近くの公園のベンチに腰を下ろした。
「おまえ、やっぱり死んでんだな」
「うん。そうみたい」
彼女は当時と全く変わらない、美しく、儚いような様子で答えるのだった。
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