KAC2022 俺には彼女がいない!

かざみ まゆみ

第1話 俺には彼女がいない!

 俺、赤宮勇斗あかみやゆいとには彼女が出来たことがない。


 見た目は自分で言うのも恥ずかしいが、まぁまぁかな。悪くても中の上だろう。


 成績優秀、背も高く、スポーツも出来る。少々、喧嘩っ早いのは自分でも気をつけなくてはと思っているが、今まで十五年生きてきて一人もだ。


 いや少し語弊がある。彼女が出来たことは何度かある。中学生に良くある、告白したりされたり。


 だが、その殆どは次の日の朝には別れを切り出されて終焉を迎えた。


 ここ最近では不必要に俺へ近づいて来る女の子たちもいなくなってしまった。


 原因はわかっている……。

 あの幼なじみのせいだ。


 小緑梨生こみどりりお


 梨生は金髪に染めているとはいえ、背も小さめで可愛らしい顔立ちをしていた。正直、街を歩けばすれ違う男が振り返るぐらいの可愛さがあった。


 実家が隣同士で、俺の親父が梨生の実家の世話になっていた関係から、兄妹の様に育てられた。


 梨生はどこに行くにも一緒で、いつも俺といるのが当たり前だと思っているフシが有る。


 俺自身も小学生の頃まで梨生の実家に良く出入りをしていて、親父さんは実の息子の様に可愛がってくれた。


 先日は親父さんから梨生と所帯を持って三代目を継いで欲しいと言われた。


 梨生もそれが当然だと思っている様だ。


 ん? 所帯? 三代目?


 何か古臭い言い方だと思っただろ?


 そう、梨生の家は緑龍会という、あっちの筋の家柄だ……。


 梨生の家の世話になっていた俺の実父というのも、モチロン一家の構成員であって、俺が小さい時に出入りで死んじまった。


 それ以来、俺達家族は丸々緑龍会のお世話になっていた。


 そうは言っても、俺達家族は貧乏ながら全員カタギの生活をさせてもらっている。


 ただ、既に緑龍会の中では俺が三代目の跡取りに座ると認識されてしまっており……。


 俺が梨生以外の女の子と仲良くしていると、遠くで監視している若い衆達がそっと相手の子に声を掛けるらしい。


 早ければその日の晩に、遅くとも翌日には相手の女の子からお断りの連絡が来ることになる。


 だから俺は決めたんだ!


 せめて高校は梨生と違う学校に行くと。


 そして家から離れて生活が出来る様に、遠方から入学する生徒のために生徒寮を完備した私立百本桜学園を受験した。


 梨生の成績では絶対に入ることが出来ないランクの高校だ。


 まぁ、ギリギリ通学できる距離だが、入試成績上位者の特待生扱いになったことから学校側もすんなり入寮を認めてくれた。


 そして、入学式の日。


 俺は出会いに感謝した。


 この学園は芸能人や金持ちの令嬢からスポーツ万能な才女まで、男女ともに粒ぞろいである。


 ここなら俺の運命の人も見つけられるはず!


 心のときめきが止まらない俺はクラスの扉を開けて愕然とした。


 金髪ショートボブの可愛らしい女子高生が手を振っている。


「梨生……なんで」


 いるはずのない梨生がニコニコしながら座っている。


 俺は膝から崩れ落ちると両手を床についた……。

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