独
義仁雄二
第1話
結局、出会いも別れも他人が存在していて初めてできる娯楽だと、この荒廃した世界で一人になって思った。
建物は風化し所々崩れ、道路はひび割れ、物は壊れている。およそ人間が創り出した文明は全て、その形を、役割を、何もなすことは出来ないものへ。つまり残骸へと成り果てていた。
生き物も居ない。
野良の猫も、飼っていた文鳥も、潰しても潰しても居なくならない虫さえもいない。植物だってほとんどが枯れ果てた。
植物も生き物なのだろうかと灰色に覆われた空を見上げる。
あるのは人間だった物が混じっているだろう灰塵と、憎たらしいほど綺麗に咲く深紅の花。
この深紅の花はそこら中に咲いている。アスファルトだろうが、ビルの壁面にだろうが関係なく。軒の下面に逆さまで生えていたりもする。
浅く積もっている灰塵と曇天がより赤を際立たせている。
気のせいかもしれないが、屋根の下や家の中にある花より外に露出している花の方が大きく艶やかに、むしゃぶりつきたくなる魅力がある。芳醇な香りも漂わせており、あきらかにヤバいものだと思う。
あの花を食べたら死んでしまうのか。死んだら楽になれるのか。そもそも僕はどうして生きているのか。これは現実なのか、夢なのか。
何度も考えた。
一体全体この世界で、地獄か天国かも分からないこの場所で、独りっきりで、何をしろと言うのか。
分からない。
分からないけど、誰でもいい。人に会いたい。
僕は人肌を求めた。
世界がこうなる前、僕は可もなく不可もなく生きてきた。四人家族で食卓を囲み、学校の成績は中間ぐらいをうろちょろし、気の合う友達と遊ぶ。人がぎゅうぎゅうに詰まった電車に乗って通勤して――。
誰かが隣に居るのが当たり前だと思ってたんだけどな。
とりあえずそこら辺に転がっていた鍋で、綺麗な川の水を沸騰させて人肌ぐらいのお湯にした。温かいものに触れるだけでもほっとするが、形がない。
次に僕は形を求めた。
でも形があるものはみんな不揃いで冷たかった。辛うじて五体無事なマネキンを見つけた。
けれどマネキンは温かくない。
温度と形。
ただこの二つの条件を満たすものがこれほどまでにないとは……。
さらにこれに動きを求めるのは傲慢なのだろうか。
それとも今までの僕が不遜だったのだろうか。
当たり前だと勝手に思い込み、誰かの努力でなしえていたものをそれが当たり前なことだと享受し、こうして生きていくのが当たり前だと思っていた。
ああ、確かに振り返ってみると不遜以外の何物でもなかったなぁ。
深紅の花と灰塵の中で寝転がる。
何処を見渡しても紛れるものがなく、僕が世界に晒されていた。
どうやったってこの世界ではその他大勢にはなれそうにない。
独 義仁雄二 @04jaw8
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