実験者Xの実験

仕える白銀

一日目 赤い太陽

この世界は赤い。

目が痛くなるほど真っ赤だ。

一年前、突如現れた二個目の太陽が世界を変えてしまった。

その瞬間を見た人は言う。


曰く、それには口があった。

曰く、これが世界の本来の色なのだ、と悟った。

曰く、これは色を溢れさせた罰なのだと。


世界は赤い。

少しずつ毎日濃くなっていく。

この一週間で他の色が認識できなくなった。

信号を見た人は言う。


曰く、一瞬、車を動かしていいか迷った。もう慣れたけど。

曰く、色覚障害はこんなんだな、って悟った。

曰く、心の中で軽く馬鹿にしていた罰なのだと。


世界は赤い。

夜もなくなってしまうほど赤い。

赤いものが分からなくなった。

唐辛子を食べた人は言う。


曰く、食べたら辛くなかった。どうしよう。

曰く、味覚障害かな、と悟った。

曰く、今度病院に行こ。


世界は赤い。

更に赤くなっていく。

物と物の区別がつかなくなった。

リンゴを落とした人は言う。


曰く、落としたら地面に吸収された。

曰く、踏みそうで動けない、と悟った。

曰く、これは寝不足だった罰なのだと。


世界は赤い。

どこまでも、どこまでも赤くなっていく。

もう何も分からなくなった。

毎日二個目の太陽を観察した実験者は言う。


曰く、この世界はじきに終わる。

曰く、もう誰も話さないのだな、と悟った。

曰く、これは赤が与えた、我々への罰なのだと。

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