【2】前篇

「ありがとう……ユウト君……」レイナさんはそう言うと、僕の手を握り返してくれる。その手は暖かく、優しい手つきをしていた。


「さてと……そろそろ行きましょうか……」僕はそう言うと、立ち上がる。そして、目の前にいる魔獣を見つめた。その巨大な姿は見る者を圧倒させるような迫力があり、思わず後ずさってしまいそうになる。


「グォオオッ!!」しかし、そんな事を気にすることなく、敵は雄叫びを上げると、拳を振り上げてきた。


「くっ……」僕は敵の攻撃をなんとか避けると、剣を構え直す。すると、その隙を突くかのように人型の魔物が殴りかかってきた。


「くそっ……」僕はなんとかその攻撃を避けると、反撃を試みる。しかし、その攻撃もまた簡単に避けられてしまう。


「なんて……速さなんだ……」僕は敵の動きを見て、驚愕する。その動きはとても速く、まるで瞬間移動したのではないかと錯覚してしまいそうだった。


「なら……これならどうだ!」僕はそう言うと、敵の懐に入り込み、剣を振り下ろす。その一撃は見事に敵の胴体を斬り裂いたが、敵は怯んだ様子もなく拳を振り下ろしてきた。


「くっ……」僕はその攻撃をなんとか防ぐと、反撃しようと剣を構える。しかし、その隙を突かれるかのように、人型の魔物が襲いかかってきた。


「うぐっ……」僕はその攻撃を喰らうと、地面に倒れ込む。そんな僕に向かって、魔物は拳を振り上げてきた。


(やばい……)僕は死を覚悟して、目を閉じる。その時――


「はぁあああっ!!」聞き覚えのある声が聞こえたかと思うと、魔物の拳が弾かれた。


「えっ……?」僕は何が起きたのか分からずに、呆然としてしまう。すると、僕の前に一人の少女が現れた。その少女は美しい金髪の髪を揺らしながら、鋭い視線で敵を睨んでいる。そして、その手に持っている槍を敵に突き刺すと、そのまま振り抜いた。


「ガァアアッ!?」その一撃を受けた魔物は吹き飛ばされ、地面を転がっていく。僕はその光景を見ながら、唖然として固まってしまった。


「ふぅ……」その人物はそう言うと、僕に近づいてくる。その人物とは――アリシアであった。


「ユウトさん! 大丈夫ですか!?」


「は、はい……」僕は戸惑いながら返事をする。すると、アリシアは僕の身体を支えてくれた。


「怪我はありませんか?」


「大丈夫です……」僕はそう言いながら、身体を起こす。すると、いつの間にかレイナさんが側に来ており、僕の身体を心配そうに見つめていた。


「ユウトさん……大丈夫……?」


「ええ……問題ないです……」僕はそう言うと、アリシアを見る。すると、彼女は申し訳なさそうな表情をした。


「すみません……。私がもっと早く気づいていれば……」


「いえ……僕も油断していたので……」僕はそう言いながら、苦笑いをしてしまう。


「それよりも……どうしてここに?」僕は疑問を口にすると、アリシアは少しだけ恥ずかしそうに頬を赤らめた。


「その……ユウトさんが心配で……」


「えっと……その……ありがとうございます……」僕はそう言いながら、お礼を言う。すると、レイナさんが突然口を開いた。


「あの……あなたは……?」レイナさんは警戒するような視線でアリシアを見つめている。すると、アリシアはレイナさんに微笑みかけた。


「私はアリシアといいます……。よろしくお願いしますね……」


「そう……。私はレイナよ……。こちらこそ、よろしくお願いするわね……」レイナさんはそう言いながら、微笑む。しかし、その瞳の奥にはどこか恐怖心のようなものが見えた気がした。


「それで……二人はどうしてこんなところに来たの?」僕は二人に質問をする。すると、レイナさんが答えてくれた。


「実は……村の人達に頼まれて……この村で起こっている異変を調査しに来たのよ……」


「そうだったんですか……」僕はそう言うと、ある事を思い出す。


(そういえば……村の人が言ってたな……。この村に起きている現象を調査するために冒険者が来たって……)


「それじゃあ……この辺りに原因があるのかもしれないですね……」僕はそう言うと、周囲を確認する。しかし、特に変わった場所はないように見えた。


「でも……この辺りには何もないようだけど……」レイナさんは不思議そうな表情で、僕に尋ねてくる。


「はい……僕にも分かりません……」僕はそう言うと、肩を落とす。すると、レイナさんは僕に近づき、頭を撫でてくれた。


「きっと……この先に何か手がかりはあるはずよ……。だから……一緒に頑張りましょう?」レイナさんはそう言うと、僕から離れていく。僕はその言葉を聞いて、嬉しくなり笑みを浮かべた。


「はいっ!」僕は元気よく答えると、レイナさんの後に続く。しかし、その途中で僕の足が止まった。なぜならば、ハルトが僕を呼び止めたからだ。


「ハルト……?」僕はハルトの方に顔を向けると、ハルトは真剣な眼差しを向けてきた。


『ユウト……。俺の話を聞け……』


「えっ……?」僕はハルトの言葉に戸惑ってしまう。ハルトはそんな僕を見ると、言葉を続けた。


『お前の中にいるもう一人の人格のことだ……』


「もう一人の人格……?それがどうかしたの……?」僕はハルトの言葉に疑問を抱く。しかし、ハルトは答えてくれなかった。


『いいから……俺の言う通りにしろ……』ハルトはそう言うと、僕の中に入っていく。僕はその行動に驚きながらも、ハルトの言葉に従った。


(何をするつもりなんだろう……?)僕はそう思いながら、ハルトの言葉を待つ。すると、ハルトの声が頭の中に響いた。


『今から……お前の中にあるもう一つの人格を出すぞ……』


「もう一つの人格……?」僕はその言葉を疑問に思う。しかし、すぐにその意味を理解することになった。


「うぐっ……」突如、僕の頭に激痛が走る。その痛みは頭だけではなく、全身へと広がっていった。そして、僕は意識を失ってしまう。


「うぐっ……」僕は自分の口から漏れた声によって、目を覚ました。


「ここは……?」僕はゆっくりと目を開けると、自分がどこに居るのか確認する。そこは薄暗い洞窟のような場所で、周囲には魔物と思われる骨が大量に落ちていた。


「ここが……もう一つの人格の中……?」僕はそう呟くと、周囲に誰もいないか確かめる。しかし、人の気配は全く感じられなかった。


「あれっ……?」僕はそこで違和感を覚える。それは僕の姿がいつもと違っていることに気がついたのだ。その身体は黒いローブに包まれており、手には禍々しい装飾が施された大剣を持っている。その姿はまるで――闇の魔法使いのようだった。


「これが……僕の姿なのか……?」僕は恐る恐る自分に触れると、その手には柔らかい感触があった。


「やっぱり……これは僕の身体じゃないんだな……」僕はそう言うと、改めて周りを見渡す。そこには見たこともないような生き物が沢山おり、僕は困惑してしまった。


「なんだこれ……?」僕はそう言うと、魔物を見つめる。その魔物は人型ではあるが、明らかに人間とは違う姿をしていた。


(まるで……化け物だ……)僕はその姿を見て、そう思ってしまう。そして、僕は魔物達の共通点を見つけると、思わず息を呑んでしまった。


「まさか……こいつら……」僕はその魔物達の特徴を見て、一つの結論に至る。


「みんな……魔物と同じ姿になってしまっているのか……?」僕はそう言うと、近くに居た魔物に近づく。その魔物は普通の人よりも一回り大きく、鋭い牙を持っていた。僕はその魔物の顔に手を当てると、鼓動が伝わってきた。


「こいつは……まだ生きている……」僕はその魔物の脈拍を感じ取ると、安堵する。しかし、他の魔物達は既に絶命しているようで、動くことはなかった。


「どういうことなんだ……?」僕はそう言うと、再び魔物を観察する。しかし、いくら観察しても分かることはなく、僕は途方に暮れてしまった。


「どうすれば……」僕はそう言うと、地面に座り込む。すると、その時――


「グルルッ……」どこからか、獣のうなり声が聞こえてきた。僕はその音に反応して立ち上がると、剣を構える。


「誰だ!?」僕はそう叫ぶと、剣を振り回す。しかし、そこに人影はなく、僕は剣を下ろしてしまった。


「なんだ……?」僕はそう言うと、周囲を見渡してみる。すると、少し離れた場所にある大きな岩陰が揺れていることに気がつく。


「そこかっ!!」僕はそう言うと、その場所に向かって走り出す。すると、そこから一人の人物が姿を現した。


「はぁ……はぁ……」その人物は僕が思っていた通りの人物で、その表情は苦しそうに歪んでいた。


「君は……?」僕は目の前に現れた人物に声をかけると、その人は僕に鋭い視線を向けた。


「お前は……一体何者だ!?」その人物はそう言うと、槍を構えてくる。僕はその人物の姿を見て、驚く。なぜならば、その人物は美しい金色の髪をしており、透き通るような白い肌をしていたからだ。その容姿はアリシアに似ており、アリシアの成長した姿のようにも見えた。


「君の名前は?」僕はアリシアに似た少女に名前を聞くと、少女は僕の質問に答えることなく槍を構えたまま睨みつけてくる。


「もう一度聞くよ……。君の……名前は?」僕は少女に問いかけるが、少女は答えようとしない。


「どうして答えないの?」僕は少女に尋ねるが、少女は無言のまま睨み続けるだけだった。


「仕方ない……」僕はそう言いながら、腰に下げていた鞘から剣を抜く。すると、それを見た少女は驚いた表情を見せた。


「えっ……?」少女は僕の手に握られている剣を見ると、不思議そうな表情をする。僕はそんな少女の隙を見逃さず、一気に間合いを詰めようとした。しかし、少女はその動きに合わせて後退すると、そのまま僕に攻撃してきた。


「やあっ!」


「なっ……?」僕は突然の攻撃に反応できず、まともに攻撃を受けてしまう。僕はその衝撃で吹き飛ばされ、地面を転がった。


「ぐぅっ……」僕はその一撃で気絶してしまいそうになるが、なんとか耐える。すると、僕が起き上がる前に少女は追撃を仕掛けてきた。


「はああああっ!」少女はそう言いながら、連続で突きを放ってくる。その攻撃を何とか受け流しながら、反撃の機会を狙っていた。


(強い……!)僕はそう思いながらも、必死に回避を続ける。すると、突然僕の視界に黒い影が現れた。


「くそっ!」僕は咄嵯に後ろに下がると、先ほどまで僕がいた場所に何かが飛んできた。その物体は地面に落ちると、砂煙を巻き上げる。


「ゴホッ……!」僕はその砂煙に咳込みながら、その正体を確認する。すると、そこには狼のような顔をした生物が立っていた。


(この子の仲間か……?)僕はそう思いながら、周囲を見渡す。すると、さらに多くの魔物がこちらに近づいて来ていることに気づいた。


(まずいな……)僕はそう思うが、すでに逃げ道はない。僕は覚悟を決めると、剣を強く握りしめた。


「ふーん……。なかなかやるみたいね……」僕と戦闘を繰り広げていた金髪の少女はそう言うと、僕から距離を取る。


「あなたは……?」僕はそう言うと、剣を下ろす。すると、彼女は不敵な笑みを浮かべた。


「私はリリア・ハティ……、誇り高きヴァンパイアの末裔よ……。覚えておくといいわ……」


「ヴァンパイア……?」僕は彼女の言葉を聞き返すと、首を傾げる。すると、彼女……リリアは僕に説明してくれた。


「そうよ……。この世界には存在しないと言われている種族……。その力は強大であり、その血はどんな怪我でも治すことが出来るらしいわ……」


「へぇ……」僕は話を聞いていると、吸血鬼が実在していたことを思い出す。


「まあ……今はもうほとんどいないんだけどね……。私の知っている限りでは……最後の生き残りになるのかな?」


「えっ……? それはどういう意味ですか?」僕はその言葉に疑問を抱くと、彼女に尋ねた。


「さっき言った通りの意味だよ……。私の一族はもう存在しない……。だから……今のこの世界にいるのは、私だけってことになるのよね……」


「そうだったんですか……」僕はその言葉を聞いて、悲しくなる。しかし、そんな僕の気持ちとは裏腹に、彼女は笑顔を見せていた。


「だから……あんたには感謝しているのよ……」


「えっ……?」僕はその言葉に疑問を抱くと、彼女は言葉を続けた。


「だって……私が最後に残せたのは……一族が持っていた知識と力だけだから……」


「そんなことは……」僕はそう言うが、その言葉を遮るように彼女が口を開いた。


「いいんだよ……そんな気を使わなくても……」


「そんなつもりじゃ……」僕はそう言うが、彼女は首を振ると、僕を見つめてきた。


「それに……一族の最後の一人として……責任があると思うんだ……!」


「責任……?」僕はその言葉を疑問に思うと、彼女は真剣な眼差しを向ける。


「そう……、このままだと……また争いが起きるかもしれないからね……」「争い……?」僕はその言葉を疑問に思うと、彼女は小さくうなずいた。


「そう……、今までは同族同士で争っていたけど……今度は人間達が争うようになるかもしれない……」


「人間が……?」僕はその言葉が信じられなかった。


「そう……、あいつらは……自分達の欲望を満たすために、他の者達を犠牲にする可能性があるの……」


「それは……本当なんですか?」僕はその可能性は低いと思いつつも、念のために聞いてみた。


「分からない……、だけど……可能性がゼロではないの……」


「そう……ですか……」僕はその事実に戸惑いながらも、どうすることも出来ない自分に苛立ちを覚える。すると、彼女は僕の手を握ってきた。


「ねぇ……、お願い……あるの……」


「な、何でしょうか……?」僕は緊張しながらも、彼女の瞳を見つめる。すると、彼女は恥ずかしそうに目を逸らしてしまった。


「あの……その……、私と……友達になってくれない……?」


「えっ……?」僕はその言葉に驚きの声を上げると、彼女を見つめる。


「だめ……?」彼女は不安そうな表情を見せると、僕を見つめ返してくる。


「いえ……そんなことはないです……」僕はそう言うと、微笑んだ。


「良かった……」彼女は嬉しそうに笑うと、僕に抱きついてきた。


「ちょっ……!?」僕はいきなりの出来事に慌てるが、その温もりを心地よく感じてしまう。そして、僕はゆっくりとその手を背中に回そうとした時――


「グガァッ!!」


「きゃあっ!?」突如、目の前に巨大な熊が現れて、僕は驚いてしまう。


「危ない!!」僕は咄嵯に彼女を庇い、地面に倒れ込んだ。


「ぐっ……!?」僕はその衝撃に痛みを感じるが、すぐに立ち上がる。そして、剣を構えると、その熊に視線を向けた。


「グルルッ……」その熊は僕の方を見ると、威嚇してくる。


「こいつは……まさか……」僕はその熊に見覚えがあったので、思わず呟く。すると、僕の横にいたはずのリリアがいつの間にか立ち上がり、熊と対峙していた。


「大丈夫よ……。こいつは私の獲物だから……」そう言いながら、リリアは腰に差していた剣を引き抜くと、構えたのである。


(こいつも……普通の武器じゃないのか……?)そう思いながら見てみると、確かに普通ではなかった。リリアの持っている剣は刀身が青白く光っており、鍔の部分にも不思議な紋様が描かれているのだ。


(これは……魔法具なのか?)僕がその剣を見ていると、突然熊の身体に変化が起こった。


「なっ……?」僕はその光景を見て驚くと、リリアが自慢げに説明してくれる。


「これが……私の能力……」


「能力?」僕はその言葉が理解できずに聞き返すと、リリアは小さくうなずく。


「そう……、私は……魔物の力を使うことができるの……」


「魔物の……?」


「うん……」リリアはそう言うと、右手に持った剣を振りかざす。すると、そこから青い炎が発生し、瞬く間に大きな狼の姿になった。


「すごい……」僕は目の前に現れた美しい姿に目を奪われてしまう。すると、その大きな狼は僕の方をチラッと見た後、視線を再び目の前の熊に戻した。「グルルルッ……」その狼は低く喉を鳴らすと、牙を見せながら睨みつける。すると、熊の方も負けじと睨み返した。


「ガルアアッ!」


「キャインッ!」両者は同時に叫ぶと、お互いに飛びかかった。


「はぁあああっ!」狼はその鋭い爪で引っ掻くと、熊は前足を上げてそれを防ぐ。しかし、熊はその一撃を受けても、倒れることはなかった。


「なっ……?」僕はその様子を見て驚くと、その隙を突かれて、熊が腕を振ってくる。


「しまっ……!」僕はその攻撃を避けようとしたが、間に合わず、まともに攻撃を受けてしまう。


「ぐぅっ……!」僕はその衝撃で吹き飛ばされると、地面を転がった。


「痛っ……」僕は何とか起き上がるが、腹部の痛みで動けなくなってしまう。


「グルルル……」その隙を逃さずに、熊は僕に向かって突進してきた。


(まずいっ……!)僕は何とか避けようとするが、避けることができない。


「くそっ……!」僕はそう叫びながら、せめてもの抵抗として、盾を構えた。


「ガウッ!」


「くっ……!」僕はその勢いに圧倒されながらも、必死に耐え続ける。


「ぐうっ……!」僕はその攻撃を何度も受けてしまい、徐々に体力を失っていった。


(このままじゃ……やられる……!!)僕はその考えが頭をよぎる。すると、その時――


「ユウト君から離れろぉおおおっ!!!」アリシアがそう言いながら、こちらに走ってきた。


「グルゥッ……?」その声に気づいた熊はこちらに振り向くと、アリシアを見つめた。


「はああああっ……!!」アリシアはそう言いながら、剣を上段に構える。


「ガァッ……!!」その様子に危険を感じた熊はその場から離れると、僕から距離を取った。


「今のうちに……」僕はそう言うと、立ち上がろうとする。しかし、「駄目っ!!」アリシアはそう言うと、僕を抱きしめた。


「なっ……?」僕が戸惑っていると、彼女は僕をじっと見つめてくる。


「もう……いいから……。これ以上戦ったら死んじゃうから……」


「でも……」僕は反論しようとするが、彼女は首を横に振る。


「もういいから……。私はあなたがいてくれただけで……幸せだったから……」


「えっ……?」僕はその言葉の意味が分からずに困惑していると、彼女は涙を流し始めた。


「あなたと一緒に過ごせて……本当に楽しかった……。こんな私を受け入れてくれて……ありがとう……」


「それは……俺も同じだよ……」僕は彼女の涙を見て、胸が苦しくなる。


「ううん……。私の方がずっと感謝しているよ……。だから……あなたには生きていて欲しいの……」


「俺は……」僕はその言葉を聞いて、自分の無力さを呪う。


「もう……時間がないみたい……」彼女はそう言うと、僕の頬に手を当てた。


「最後に……一つだけお願いがあるの……」


「お願い……?」僕は彼女の言葉を聞き返すと、彼女は優しく微笑む。


「私のことを忘れないで欲しいの……」


「忘れるわけがないだろう……」僕はそう言うが、彼女は首を振る。


「いいえ……。私が生きていた証を残しておきたいの……」


「そんなことをしなくても……」僕はそう言うが、彼女は静かに微笑んだ。


「お願い……」彼女はそう言うと、僕にキスをした。


「んっ……」僕はその行為に驚き、彼女を見つめる。


「ふふっ……」彼女は悪戯っぽく笑うと、僕から離れた。


「これで……私達は永遠に結ばれるわ……」


「えっ……? どういう意味だ……?」僕はその発言に疑問を抱くと、彼女は小さく首を振る。


「そのままの意味よ……」


「待ってくれ……、何を言って……」僕は混乱しながら言うが、彼女は悲しげな表情を浮かべた。


「さよなら……」彼女は小さくそう呟いた瞬間――、僕達の視界が真っ白になる。


「なっ……!?」僕はその眩しさに驚きながらも、必死に目を開けようと試みるが、光が強すぎて何も見えなかった。


「うっ……」僕はその光のあまりの眩さに意識を失いそうになるが、どうにか耐え続ける。そして、その輝きが収まった時――


「なっ……!?」僕は目の前の光景に驚愕する。なぜならば、先程までいたはずの森の中ではなく、見知らぬ部屋の中に立っていたからだ。


「ここは……?」僕は周囲を見渡してみるが、全く見たことのない場所であった。しかも、その部屋の中に置かれている家具などはどれも高級品のように思えたのだ。


(一体……何が起こっているんだ……?)僕はそう思いながら呆然と立ち尽くしていると、背後から扉を開ける音が聞こえてくる。


「えっ……?」僕は驚きながら振り返ると、そこには一人の女性が立っていることに気づいた。


「あら……?」彼女は僕に気づくと、驚いた表情を見せる。


「あの……どちら様でしょうか……?」僕は恐る恐る聞くと、彼女は微笑んだ。


「ああ……すみません。私の名前はリリアと言います」


「リリアさんですか……」僕はその名前を聞くと、どこかで聞いたことがあるような気がした。


「はい。それで……、貴方のお名前はなんでしょうか?」


「あっ……、すいません。俺はレイナって言います」僕は慌てて答えると、リリアと名乗る女性は少し不思議そうな表情を見せた後――


「レイナ様ですか……」そう言った。


「様……?」僕はその言葉に違和感を覚えて聞き返すと、リリアは笑顔でうなずく。


「はい。レイナさんは私の主ですので……」


「あるじ……?」僕はその単語を復唱すると、目の前の女性が何者かについて考える。


(この人の正体は恐らくだが……魔王だろう……。だけど、どうしてここにいるのか分からないし……。それに……さっきの熊といい……色々と謎が多いんだよな……。まあ、今は気にしない方がいいかもしれないけど……)


僕はそう思いながらリリアを見ると、彼女がこちらを見ていることに気づく。


「どうかしましたか?」


「いえ……。ただ、私の顔に何かついているのかと思いまして……」


「あっ……、これは失礼を……。その……綺麗な方だったのでつい見惚れてしまったんです……」


「きっ……?」リリアは僕の言葉に顔を赤くした後、俯く。


「あ、ありがとうございます……」リリアは恥ずかしそうにそう言うと、僕から視線を逸らす。


「ところで……、レイナ様はなぜこのような場所におられるのでしょうか?」リリアはそう言うと、周囲を見渡す。


「それは……」僕はその質問に答えようとしたが、その前に聞きたいことがあったので、彼女に尋ねることにした。


「リリアさんは……ここで何をされているのですか?」


「私は……ここの管理を任されています……」


「管理……?」僕はその言葉の意味がよく分からずに聞き返すと、リリアはうなずく。


「はい。この場所は私が管理しているのですが……、最近魔物が増えてきていて困っているんですよ……」


「魔物……? 魔物が増えているのですか……?」僕はその言葉に首を傾げると、リリアはため息をつく。


「ええ……。実は少し前に突然現れた魔物が暴れまわっていて……大変だったんですよ……。まあ、すぐに勇者様に退治してもらったのですがね……」


「勇者……?」僕はその言葉に反応すると、リリアは微笑みながら説明してくれた。


「はい。ここから遠く離れた国で召喚された方なのですが……とても強くて、瞬く間に問題を解決してくれる凄腕の方なんですよ……」


「へぇ……」僕はその話を聞いて驚くと、リリアは苦笑する。


「もしかしたら……レイナさんも会えるかもしれませんよ?」


「そうですね……」僕はそう言いながら周囲を眺めると、気になったことがあり、それを尋ねることにした。


「そういえば……、ここには他の人はいないのですか?」


「えっ……?」


「だって……こんな広い部屋に一人で暮らしているのは寂しいでしょう?」


「そう言われれば……そうかも知れませんね……」リリアはそう言うと、少し考え込む。


「確かに……、私は今までずっと一人で過ごしてきました……。でも……最近は……少しだけ賑やかになってきたのですよ……」


「えっ?」僕はその言葉に首を傾げていると、リリアが口を開く。


「最初は……私以外に誰もいなかったはずなのに……。いつの間にか、誰かがいるようになっていました……」


「それって……?」僕はそう言おうとしたが、その時――、急に激しい頭痛に襲われる。


「ぐぅうっ……!」僕はその痛みに耐えられず、その場に膝をついた。


(なっ……なんだ……これ……)僕はそう思った瞬間、頭に声が流れ込んでくる。


『私の声が聞こえるかしら?』


「誰だ……?」僕は頭の中で響く声に対して、そう問いかける。


『ふふっ……。やっぱり聞こえていたのね』


「えっ……?」僕はその声を聞いて、困惑してしまう。なぜならば、その声は間違いなく女性のものなのだが、僕には聞き覚えのない声であったからだ。


「お前は……いったい……」僕はそう言いかけると、声の主が話しかけてくる。


『私の名前を知りたいのなら……私のことを思い出してちょうだい……。そうしたら教えてあげるわよ……?』


「俺が……?」僕はその言葉を聞いて、自分の記憶を思い出そうとするが、どうしても思い出せなかった。


「悪いが……俺には君が誰なのか分からない……」


『そう……。でも、私は知っているわよ……。あなたが私のことをどう思っているのか……ね……?』


「俺が君のことを……?」僕はその言葉を聞いて、戸惑ってしまう。


『私はあなたのことが大好きよ……。あなたのことを愛しているわ……。だから……私の名前を呼んで……? そうすれば……きっと思い出せるはずだから……』


「俺が……彼女の名前を……」僕はそう呟くと、必死に彼女の名前を思い出す。そして――


「アリシア……」僕は無意識のうちに彼女の名を呟いていた。


「えっ……?」その言葉を聞いた瞬間、僕の脳裏に映像が流れる。


「あっ……」その光景を見た僕は思わず呟いた。なぜならば、そこには一人の少女が立っていたからだ。その少女は美しい金色の髪を持ち、どこか幼さを残した顔立ちをしていた。そして、その瞳は宝石のように輝いており、まるで吸い込まれてしまいそうな魅力を放っていたのだ。そんな彼女を見て、僕の心は大きく揺れ動いた。


(まさか……これが一目惚れという奴なのか?)僕はそう思いながらも彼女から目が離せなくなっていた。すると、彼女はこちらに向かって歩いてきたのだ。


「えっ……?」僕は驚いていると、彼女はそのまま僕を抱き締めた。それから、耳元で囁かれる。


「やっと見つけてくれたんだね……」彼女はそう言うと、涙を流し始めた。


「ごめんなさい……」僕は謝罪の言葉を口にすると、彼女は首を振る。


「ううん……、謝らないで……。こうしてまた会えただけで嬉しいの……」


「そうか……」僕はそう呟くと、目の前の少女の頭を撫でた。そして、その光景を見ながら、僕は思う。


(俺は……この子を知っているんだな……。だけど……どうして忘れてしまったんだろう……? いや……そもそも……この子は本当に人間なのだろうか……? だって……見た目は人間のようだが……、この存在感はなんなんだろう……?)


僕は目の前にいる存在があまりにも異質なもののように感じられ、不思議に思ってしまった。


「レイナ様……?」リリアは不思議そうな表情を浮かべながら聞いてくる。


「あっ……、すいません……」僕は慌てて返事をした後、彼女に質問する。


「あの……、ここはどこなんですか?」


「ここは……私が管理をしている場所です」


「リリアさんが管理している場所ですか?」


「はい」


「じゃあ……リリアさんは魔王ということですか?」


「はい。そうです」リリアはあっさりと肯定する。僕はその返答に戸惑いながら、「そうなんですか……」としか答えることができなかった。


(魔王って……もっとこう……威厳のある人じゃないのか……? それに……なんでこんなに若いんだ……?)僕はそう思いながらも、魔王であるリリアを改めて観察してみる。


彼女はどこか不思議な雰囲気を纏っており、その表情からは感情を読み取ることができない。しかし、なぜか僕をじっと見つめているように思える。


「どうかしましたか?」僕はその視線に気づくと、そう尋ねる。


「いえ……、ただ……」リリアはそう言った後、少し考え込むような仕草を見せる。


「ただ……?」僕はその言葉に首を傾げると、リリアは微笑む。


「なんでもありません。それよりも……、お腹は空いていませんか? よろしければ食事を用意しますが……」


「えっ……? あっ……お願いします……」僕は突然の提案に驚きながらもうなずくと、リリアは嬉しそうに微笑みながら立ち上がる。


「では、すぐに用意致しますので少々お待ちください……」リリアはそう言うと、部屋から出て行った。


「はぁ……」僕は大きなため息をつく。


(なんか……色々と訳が分からなくなってきたな……。とりあえず……まずは現状を把握しないと……。でも……魔王ってどういうことなんだ……? それに……さっき見た夢も気になる……。一体……何があったんだろうか……)


僕はそう思いながら周囲を見渡した後、あることに気づく。それは、先ほどまでリリアが座っていた場所に小さな箱が置かれていたことだ。


「これは……?」僕はそう思いながらその箱を手に取り、開けてみた。すると、中には一つの指輪が入っていた。その指輪は銀色に輝くシンプルなものであり、特に変わった様子はなかったのだが、僕は何故か気になってしまい、手に取って眺めてしまう。


(なんだろ……これ……)


その指輪を見つめているうちに何かを思い出しそうになる。しかし、それはほんの一瞬のことであり、すぐに消えてしまった。僕はそのことを残念に思っていると、リリアが戻ってくる気配を感じたので、急いで元の場所に戻そうとした。


「おっとっと……」僕は慌てすぎて、その拍子に箱を落としてしまう。僕は地面に落ちた衝撃によって壊れていないか心配になり、中を確認する。


「良かった……」僕はそのことに安心しながら、中身が無事であることに安堵すると、すぐにそれを拾い上げる。


「よし……」僕はそれをポケットの中にしまうと、リリアに声をかける。


「リリアさん……」


「はい……」リリアはすぐに姿を現すと、テーブルの上に料理を置く。


「今日はこれで我慢してください……」リリアはそう言いながら微笑みかけると、僕はうなずく。


「ありがとうございます……」僕はそう言うと、椅子に座って食事を頂くことにした。


「いただきます……」僕はそう言いながら、パンを食べる。すると、その味に驚く。


(美味しい……)僕はそう思った後に、他の料理も食べ始める。しかし、どれもこれもが絶品であり、僕はその美味しさに夢中になって食べた。


「ふぅ……」僕は満足した気分になると、食器を片付けようとする。しかし、リリアがそれを止めてきた。


「あっ……、私がやりますので……」


「いいですよ……。これぐらいは自分でやらせてください……」僕はそう言うと、リリアは困った顔をした。


「でも……」


「大丈夫ですよ……」僕はそう言うと、リリアに笑いかけた。


「分かりました……」リリアは少し迷ったが、最後にはうなずき、その場から離れていく。


「ふぅ……」僕は一息つくと、窓の外を眺めた。


(それにしても……これからどうしようかな……? このままだと確実に殺されるよな……。なんとかしないと……)


僕はそう思った時、部屋の扉がノックされる音が聞こえてくる。僕はその音に反応すると、立ち上がり、ドアを開ける。


「えっ……」僕はその人物を見て驚いた。なぜならば、そこに立っていたのはアリシアだったからだ。


「アリシア……」僕は呆然としながらもそう呟く。


「久しぶりね……」アリシアはそう言いながら、僕を抱きしめる。


「ちょっ……ちょっと待ってくれ……。どうしてここに……?」僕は混乱している頭の中でそう思った。


「ユウトに会いに来たのよ……」アリシアはそう言いながら僕から離れると、笑顔を見せた。


「そっ……そうなのか……」僕はそう言いながらも、動揺を隠しきれない。


(いや……確かに会いに来てくれたのは嬉しいんだけど……。でも……なんで急に……?)


僕はそんなことを考えながらも、アリシアを部屋に招き入れる。


「とりあえず……、そこら辺にでも座っていてくれ……」僕はそう言うと、ソファーに腰掛ける。


「分かったわ……」彼女はそう言うと、僕の向かい側に座り、こちらをじっと見てくる。


「それで……どうしたんだ?」僕はそう言うと、彼女の目をまっすぐに見つめた。


「ねぇ……ユウトは私と一緒に来ない?」アリシアはそう言うと、僕の手を握る。


「えっ……?」僕はその言葉の意味が理解できずに戸惑ってしまうが、アリシアは真剣な眼差しのまま、僕の手を握り続ける。


「俺が……君達について行くのか?」僕はその言葉を聞いて、困惑してしまう。


「えぇ……」


「どうしてだ?」


「私は……あなたがいないと生きていけないから……」


「俺がいなくても生きられるだろう?」


「無理だよ……。あなたが居なくなった世界なんて考えられないもの……」アリシアはそう言うと、僕の胸に顔を埋め、泣き始めた。


「おい……」僕はそんな彼女を見て、戸惑ってしまう。


(どうして……そんなことを言うんだよ……?)僕はそう思いながらも、彼女の頭を撫でた。すると、彼女は顔を上げる。


「お願い……一緒に来て……」彼女は涙目で僕に懇願してくる。その表情を見た瞬間、僕は心が大きく揺れ動く。


(駄目だって……。そんな顔されたら……断れないじゃないか……。それに……ここで断ったとしても……きっと彼女は諦めないだろう……。それに……彼女が魔王だというのなら……僕を殺せるはずだ……。だから……ついて行ってもいいかもしれない……。それに……彼女達の力を借りれば……この国を抜け出せる可能性も出てくるかも……。でも……本当に僕がついてきても良いのだろうか……?)


僕はそこまで考えた後、大きく深呼吸をする。そして、覚悟を決めると、アリシアの肩に手を置いた。


「本当に良いのか?」


「うん……」


「後悔しないか?」


「うん……」


「じゃあ……よろしく頼む……」僕はそう言うと、彼女に微笑んだ。


「うん!」アリシアは満面の笑みを浮かべると、再び抱き付いてきた。僕はそれを受け止めた後、ゆっくりと彼女を離す。


「そういえば……どうしてこの城の場所がわかったんだ?」僕は疑問に思っていたことを尋ねる。


「それは……リリアさんが教えてくれたの」


「リリアさんが?」僕はその事実に驚いてしまう。


(まさか……リリアさんが教えたとは思わなかったな……。というか……どうしてリリアさんは場所を教えたんだろうか……? いや……そもそも……リリアさんは魔王なんだよね……。ということは……魔王が魔王に居場所を教えるというのは……どういうことなんだろう……?)


僕はそのことについて考えようとしたが、答えが出なかった為、それ以上考えることは止めた。


「それより……これからどうするんだ?」僕は話題を変える為にそう質問する。


「とりあえず……準備をしてから出発するつもりだけど……」彼女はそう言いながら立ち上がると、僕を見つめる。


「そうか……。でも……俺は何をすればいい?」


「そうね……、とりあえずは……私の傍にいてもらえると助かるけど……」


「そうか……。まぁ……、別に構わないぞ……」僕はそう答えると、ベッドに横になる。


「ありがとう……」アリシアは嬉しそうな声でそう言うと、隣に寝転ぶ。


「ねぇ……、ユウト……」


「どうした……?」僕は天井を見つめながら返事をした。


「キスしていい……?」


「えっ……」僕はその言葉に驚きながら、起き上がる。


「あっ……ごめんなさい……。嫌だった……?」


「いや……そういうわけじゃないが……」僕はそう言うと、ため息をつく。


(いきなりすぎる……。それに……さっきまで泣いていたと思ったら……今はこんな感じだし……。やっぱり……魔王ってよく分からないな……。それに……なんか変な気持ちになるし……。とりあえず……早く慣れないとな……)


僕はそう思いながらアリシアの顔を見つめる。すると、その視線に気づいているはずなのに、全く動じることなく、無邪気な笑顔を見せてきた。そのことに戸惑いながらも、僕はゆっくりと顔を近づけていく。


「んっ……」アリシアはそう言いながら、静かに目を閉じた。僕はそのことに緊張しながら、唇を重ねた。すると、彼女はそれを受け入れるように、口を開いてくる。僕はそれを確認すると、舌を差し込み、彼女との距離を縮めていった。


「ふぅ……」しばらくした後、僕はアリシアから離れる。


「ユウト……」アリシアはそう言うと、頬を赤く染めながら見つめてくる。その瞳には熱がこもっており、それが意味することを察した僕は、再び顔を近付けていく。


「アリシア……」僕はそう言うと、彼女の名前を呼び、今度は自分から口づけを行う。その行為はお互いを求め合うかのように、長く続いた。


「ユウト……」彼女はそう言うと、僕の胸元に顔を埋める。


「どうしたんだ……?」僕はそう尋ねながら、優しく彼女の髪を撫でる。


「ずっと一緒よ……」アリシアはそう言うと、僕を強く抱きしめた。


「そうだな……」僕はそう言いながら、彼女の体を抱き返す。


(こうしていられるのはいつまで続くんだろうな……)


僕はそう思うと、不安になった。しかし、その感情を誤魔化すために、アリシアの体を抱きしめる。すると、アリシアも強く抱きしめ返してきた。その行動で、お互いに離れたくないと思っていることが伝わり、安心感を得ることができた。


「お休み……」アリシアはそう言うと、すぐに眠りにつく。僕はそれを確認すると、彼女と共に眠りについた。


「んっ……」僕は目を覚ますと、ゆっくりと上半身を起こす。すると、そこにはアリシアの姿があった。


「おはよう……」アリシアはそう言うと、微笑みかけてきた。


「ああ……、おはよう……」僕はそう言うと、アリシアに挨拶を返した。それから、軽く伸びをした後に、立ち上がる。


「今日はどうするんだ?」僕はそう言うと、アリシアの方を見る。


「そうね……。まずは……リリアさんのところに行って、ユウトのことを話してくるわ……。その後で街の中を案内しようと思ってるんだけど……どうかしら?」


「分かった……。ちなみに……どれぐらい時間がかかるんだ?」


「多分……一時間ぐらいだと思うわ……」


「そうか……」僕はそう言うと、窓から外の様子を眺めた。


(一時間で戻ってくるなら……まだ大丈夫かな……? それにしても……昨日はあまり眠れなかったからな……。少し眠いな……。でも……リリアさんとの約束があるし……起きるしかないか……)


僕はそう思った後、立ち上がって部屋を出る。すると、アリシアが僕についてきた。


「どうした?」


「ユウトが心配だから……」


「そうか……」僕はそう言いながら、アリシアの頭を撫でた。


「うん……」アリシアは嬉しそうに笑うと、僕の腕に抱きついてくる。


(これは……かなり恥ずかしいかもしれない……。でも……今更止めるのもおかしい気がする……。それに……アリシアは嬉しそうにしているみたいだし……)


僕はそんなことを考えていると、リリアの部屋の前に辿り着く。


「じゃあ……行ってくるわね……」アリシアはそう言うと、扉をノックした。


「どうぞ……」リリアの声が聞こえてくると、アリシアは部屋の中に入る。僕もそれに続いて入室した。


「あら……、二人とも早いのね……。もう少しゆっくりしていてもいいのよ?」リリアはそう言うと、紅茶を飲んでいた。


「いえ……、もう目が覚めていたんで……」僕はそう言うと、ソファーに腰掛ける。


「そう……。ところで……どうしてアリシアちゃんは私に抱きついているのかしら?」リリアは微笑みながら、アリシアに尋ねる。


「えっと……その……」アリシアはそう言うと、僕から離れようとする。


「リリアさん……」僕はアリシアの肩に手を置くと、彼女を制止させる。


「なにかしら?」リリアは微笑みながらこちらを見つめた。


「実は……アリシアさんが僕のことを好きみたいなんです」僕は平然な態度で嘘をつく。すると、リリアは驚いたような表情を見せた後、微笑む。


「へぇ……そうなの……。それは良かったわ……。それで……二人は付き合っているの?」リリアは優しい口調で聞いてきた。


「はい……」僕はアリシアの肩に手を置きながら答える。


「そう……。じゃあ……私が二人の邪魔をするのは良くないわよね……。ごめんなさい……。私はそろそろ行くわ……」


「分かりました……」僕はそう言いながら立ち上がると、アリシアの肩を掴んでいた手を離す。


「また後でね……」リリアがそう言った瞬間、視界が大きく揺れ動いた。そして、目の前が真っ暗になり、意識を失ってしまう。


「ここは……」僕は周りを確認すると、自分の部屋の中にいることに気付く。


「起きたのね……」後ろを振り向くと、アリシアがいた。


「ああ……」僕はそう言うと、起き上がる。


「体調はどう?」


「特に問題ないと思うけど……」僕はそう言うと、ベッドから出て、アリシアの隣に座った。


「そう……。なら……よかった……」彼女はそう言うと、微笑みかける。僕はその笑顔にドキッとしてしまった。


(あれ……? なんだか……さっきよりも可愛いように見える……。いや……前から可愛かったけど……なんか雰囲気が違うというか……。それになんか……前より綺麗に見えるな……。いや……もともと美人だったけど……さらに磨きがかかったというか……。それに……なんか良い匂いがするし……。なんだろう……?)


僕はそのことに戸惑いながらも、アリシアの顔を見つめる。すると、彼女は僕の方を見つめ返してきた。その瞳には熱がこもっており、それが意味することを察する。


「アリシア……」僕はそう言いながら、ゆっくりと顔を近づけていく。


「んっ……」アリシアはそう言いながら、静かに目を閉じると、僕を受け入れてくれた。そのことに安堵しながら、彼女と唇を重ねる。


「ふぅ……」僕は唇を離すと、アリシアの顔を見つめる。彼女は頬を赤く染めながら、幸せそうな笑みを浮かべていた。


「ユウト……」アリシアはそう言うと、僕に抱きついてくる。僕はそれを受け止めると、そのままベッドに押し倒した。


「いい……?」僕はそう言いながら、アリシアを見つめる。


「うん……」アリシアは小さくうなずくと、僕を見つめてきた。その様子を確認した僕は、再び唇を重ねていく。それから、お互いを求め合うように、何度も唇を重ねた。


「ユウト……」アリシアはそう言うと、僕の服を脱がせ始める。僕はそれを止めることなく、彼女のされるがままになっていた。


「ねぇ……、ユウト……。この傷跡って……」アリシアは僕の背中にある火傷の痕を見ながら呟いた。


「ああ……これか……」僕はそう言うと、その箇所に触れる。すると、痛みを感じた。


「痛いの……?」アリシアは心配そうに見つめてきた。


「いや……別に大丈夫だ……」僕はそう言いながら、その箇所に触れ続ける。すると、なぜか痛みを感じなくなった。


(どういうことだ……? まさか……俺のスキルの影響なのか……?)僕は疑問に思いながらも、そのことについて考えることをやめて、アリシアのことだけを考えることにした。


「ねぇ……、ユウト……」アリシアはそう言うと、首筋を舐めてくる。僕はそのことに驚きながらも、それを受け入れた。


「ユウト……」アリシアはそう言いながら、僕にキスをしてくる。その行為に興奮した僕は、彼女の体に触れ始めた。


「んっ……」アリシアは小さな声を上げると、それを受け入れるように僕の体に腕を回してくる。僕はその反応に喜びを感じると、彼女の体を抱きしめた。


「ユウト……」アリシアはそう言うと、僕の耳元に唇を寄せてくる。僕はその行動に驚くと、彼女の言葉を聞いた。


「大好き……」アリシアはそう言うと、僕の頬に口づけをする。僕はそれを受け入れると、再び彼女の体に触れた。


「あっ……」アリシアはそう言うと、僕の手を掴む。


「どうしたんだ……?」僕はそう言いながら、彼女の顔を見る。すると、アリシアは恥ずかしそうに俯いた。


「その……初めてだから……。優しくしてね……」アリシアはそう言うと、上目遣いで見上げてきた。その様子に僕は胸が高鳴ってしまう。


「分かった……」僕はそう言うと、アリシアの胸に触れた。すると、アリシアは恥ずかしそうにしながらも、受け入れてくれる。僕はそれを確認すると、ゆっくりと触れていった。


「んっ……」アリシアはそう言うと、僕のことを強く抱きしめてきた。僕はそれに答えるように、強く抱き返す。


「アリシア……」僕はそう言うと、アリシアにキスをした。


「ユウト……」アリシアはそう言うと、僕に抱きついてくる。僕はそれに答えると、彼女と一緒に眠りについた。


「おはよう……」僕は目を覚ますと、アリシアに声をかける。しかし、返事はなかった。


(まだ寝てるのか……)僕はそう思うと、もう一度彼女の名前を呼ぶ。


「おはよう……」アリシアはそう言うと、目を覚ました。


「悪い……。起こしちゃったか?」


「大丈夫よ……。それで……どうかしたの?」アリシアはそう言うと、僕に抱きついてくる。


「いや……、まだ時間があるから……もう少しこのままでいたいなと思って……」僕はそう言うと、アリシアの頭を撫でた。


「うん……」アリシアは嬉しそうに笑うと、僕の胸に頭を押しつけてくる。僕はそんな彼女を愛おしく感じながら、しばらく撫で続けた。


「そろそろいいか?」


「うん……。ありがとう……」アリシアは名残惜しそうな表情をしながら、僕から離れる。僕はその姿に苦笑いした後、立ち上がって服を着替えることにした。


「どうぞ……」僕はアリシアに服を渡すと、彼女が着替え終わるのを待つ。その間、窓から外の様子を眺めた。外は明るくなっており、もうすぐ朝になることが分かる。


(今日で最後か……。まあ……楽しかったかな……。でも……なんか忘れているような気がするんだよな……。何を忘れているんだろう……?)僕はそう考えながら、アリシアの方に視線を向ける。彼女はこちらを見ていたようで、目が合ってしまった。


「どうしたの?」僕はそう言いながら、アリシアに近づく。


「えっと……」アリシアはそう言うと、少し照れたような仕草を見せた。


「その……、似合ってるかなって思って……」アリシアはそう言うと、不安そうな眼差しで僕を見つめる。


「ああ……。すごく可愛いよ……」僕はそう言うと、アリシアの頭を撫でた。


「えへへ……」アリシアはそう言うと、嬉しそうに微笑む。


「じゃあそろそろ行こうぜ……」僕はそう言うと、部屋の扉を開ける。


「うん……」アリシアはそう言うと、僕の後についてきた。


僕達は宿を出ると、街の中を歩き回る。街には昨日と違って、人の姿が多く見られた。


「やっぱり……人が多いな……」


「そうだね……。それで……どこに行くの?」


「特に決めてないけど……。どこか行きたいところはあるか?」


「うーん……。特にないかも……。ユウトは?」


「俺も特にないな……。じゃあ適当にぶらつくか……」


「うん!」アリシアはそう言うと、僕の腕に自分の腕を絡めてきた。僕はそのことに驚きながら、そのままの状態で歩くことにする。


(なんか……いつもよりも積極的だな……。それに……なんか良い匂いがするな……)


僕はそう思いながら、アリシアの横顔を覗き見る。彼女は幸せそうな笑みを浮かべながら、僕を見つめていた。


「どうしたの?」アリシアはそう言うと、首を傾げる。


「いや……なんでもない……」僕はそう言うと、誤魔化すために辺りを見渡した。


「ねえ……ユウト……。あの人達って……」アリシアはそう言うと、僕達の方を見ている男達を指差す。


「ああ……。多分だけど……俺たちを見てるな……」僕はそう言うと、男達に近寄った。


「ちょっといいですか?」僕はそう言うと、一人の男の肩に手を置く。


「あん? なんだ? 邪魔しないでくれ」男は面倒くさそうに言うと、僕の手を払った。


「いえ……すみません……。ただ……この子のことをずっと見てたので気になって……」僕はそう言うと、アリシアの方を見る。


「いや……それは……」男は気まずそうに言うと、アリシアの方に目を向けた。


「この子の知り合いか?」男がそう言うと、他の者達もアリシアの顔を覗くように見つめ始める。


「いや……知らないけど……」一人がそう言うと、他の者もそれに同意するようにうなずいた。


「そうか……」男はそう言うと、僕を睨みつける。


「お前らみたいなガキがこんな子と一緒だと目立つだろうが! さっさとどっか行け!」男はそう言うと、アリシアの手を掴んだ。


「ちょっ……」僕は慌てて止めようとするが、間に合わない。


「おい……! 離せよ……」僕はアリシアの腕を掴んでいる男の手首を掴む。


「はぁ? 離せだって……?」男はそう言うと、僕の方を見た。


「離さないなら……」僕はそう言うと、アリシアの腕を掴んでいた男を蹴り飛ばす。


「なっ!? テメェ!!」仲間が蹴られたことで怒ったのか、もう一人が殴りかかってくる。


「遅い……」僕はそう言うと、その拳を避けた。そして、腹に一撃入れる。


「ぐふぅ……」その攻撃で相手は気絶してしまった。


「この野郎……!! よくもやりやがったな……!!!」残った一人はそう言うと、剣を抜いて斬りかかろうとする。しかし、僕はそれを簡単に避けた。


「このぉ……!!」その様子に怒りを感じたのか、更に攻撃をしてきた。しかし、それも避ける。


(こいつらは弱いな……。本当に冒険者なのか?)僕はそう思いながらも、相手の攻撃を受け流していく。


「クソッ……」そのことに苛立ったのか、動きを止めた。


「諦めてくれるんですか?」僕はそう言いながら、相手の腕を捻り上げる。


「いてぇっ……」その痛みに悲鳴を上げると、地面に膝をついた。


「まだやるの?」僕はそう言いながら、相手に顔を向ける。


「ひぃっ……」その表情に恐怖を感じたのか、情けない声を上げた。


「た、助けてくれ……」その言葉を聞いた僕は、ため息をつく。


「分かった……」僕はそう言うと、相手を解放した。


「お、覚えてろよ……」そう言うと、仲間を連れて逃げていく。


「大丈夫か?」僕はアリシアに声をかけると、彼女の手を握った。


「ええ……。ありがとう……」アリシアはそう言うと、僕の手を強く握り返してくる。


「とりあえず……あいつらが戻ってくる前にここから離れよう……」僕はそう言うと、その場から立ち去った。


「ねぇ……ユウト……」アリシアが僕の服の袖を引っ張ってくる。


「どうしたんだ?」僕はそう言うと、彼女の目線に合わせるようにしゃがんだ。


「どうしてあんなに強いの?」アリシアは不思議そうな表情で聞いてくる。


「別に……。普通だと思うぞ?」僕はそう言うと、立ち上がる。


「そんなことないと思うんだけど……。私なんて……全然だったし……」アリシアは落ち込むように俯いた。


「いや……アリシアも結構強かったぞ……」僕はアリシアの頭を撫でながら言う。


「本当……?」アリシアは上目遣いで見つめてきた。


「ああ……。それに……俺を助けてくれたじゃないか……」僕はそう言いながら、アリシアの頭を撫で続ける。


「ユウト……。ありがとう……」アリシアはそう言うと、嬉しそうに微笑んだ。


「じゃあ……そろそろ行くか……」僕はそう言って、歩き出す。すると、アリシアは慌てたように追いかけてきた。


「待ってよ……。置いていかないで……」アリシアはそう言うと、僕の隣に並んで歩いてくる。


「悪い……。それで……どこに行きたいんだ?」僕はそう言うと、アリシアの方に視線を向ける。


「えっと……、特にないかな……」アリシアはそう言うと、困ったような笑顔を浮かべた。


「じゃあ……適当に歩くか……」僕はそう言うと、歩き出した。


「うん……」アリシアはそう言うと、僕の隣に並んで歩き始める。


「ねえ……ユウトはなんで強いの?」アリシアはそう言うと、僕のことをじっと見つめてくる。


「いや……特に理由はないけど……」僕はそう言うと、アリシアから目をそらす。


「嘘……。ユウトが普通の人より強いのは知ってるもん……」アリシアはそう言うと、頬を膨らませた。


「まあ……確かに……少しは鍛えてるけど……」僕はそう言うと、苦笑いする。


「やっぱり……。だから……教えて?」アリシアはそう言うと、僕に近づいてきた。


「いや……、でもな……」僕はそう言うと、苦笑いする。


「お願い……」アリシアはそう言うと、僕に向かって頭を下げてきた。


「はぁ……。分かった……。でも……少しだけだからな……」僕はそう言うと、アリシアの頭を撫でる。


「うん……。それで……どうやって強くなったの?」アリシアは嬉しそうな笑みを浮かべた。


「うーん……。そうだな……。毎日のように戦い続けてたからだな……」僕はそう言うと、昔を思い出す。


「そっか……。でも……それだけじゃないよね?」アリシアはそう言うと、僕を見上げてきた。


「まあ……他にもあるな……」僕はそう言うと、アリシアの目を見つめる。


「やっぱり……。ねえ……他にはどんなことがあったの?」アリシアは興味津々な様子で僕を見つめる。


「そうだな……。例えば……俺の師匠とか……」僕はそう言うと、昔の記憶を思い出していた。


「へー……。ユウトは誰かに教わったの?」アリシアはそう言うと、首を傾げる。


「ああ……。俺の本当の親にな……」僕はそう言うと、空を見上げた。


「本当の両親?」アリシアは驚いたように目を見開く。


「ああ……。俺の両親は俺が物心つく前に死んだらしい……。それで……育ての両親が俺を育ててくれたんだよ……」僕はそう言うと、アリシアの方に目を向けた。


「そうなんだ……」アリシアは複雑そうな表情を浮かべている。


「どうしたんだ?」僕は心配になり、アリシアの顔を覗き込んだ。


「ううん……なんでもない……」アリシアはそう言うと、首を横に振る。


「そうか……」僕はそう言うと、前を向く。そして、無言のまま街を歩くことにした。


「ユウト……。これからどうするの?」しばらく歩いていると、アリシアが話しかけてきた。


「うーん……、どうしようか……」僕は考えるふりをして、適当な返事をする。本当はどうするか決めているが、アリシアには黙っていた方がいいだろうと判断したのだ。


「あのね……」アリシアが何かを言いかけた時、後ろの方で爆発音が聞こえた。


「なんだ!?」僕は驚いて振り返ると、そこには大きな煙が立ち込めていた。


「今の音は何!?」隣にいたアリシアが騒ぎ始める。


「分からない……。とにかく……行ってみるか」僕はそう言うと、アリシアの手を握る。


「う、うん……」アリシアはそう言うと、不安そうな表情でうなずいた。


僕達は急いで音のした方に向かうが、既にそこは混乱状態になっていた。


「何が起こっているんだ?」僕は辺りを見渡しながら呟く。


「わかんない……」アリシアが困惑した表情で言う。


「おい! あれ見ろ!」一人の男が指差しながら叫んだ。その方向を見ると、巨大なドラゴンが空を飛んでいるのが見える。


「まずいな……」僕はそう言うと、アリシアの手を引いて走り始めた。しかし――。


「おい! ガキ共! 邪魔だ! どけ!」大柄の男が怒鳴りながら、僕の肩を掴む。


「離せよ!」僕はそう言うと、その手を払いのけた。


「おい! ガキが調子に乗ってんじゃねぇぞ!」男はそう言うと、僕の胸ぐらを掴んでくる。


「うるさいな……」僕は男を睨みつけると、その腹に蹴りを入れた。男は苦しそうに腹を押さえると、その場に倒れ込む。


「お前……!!」それを見た他の男達が僕に襲いかかってきた。しかし、僕はその攻撃を簡単に避ける。


「こいつ……!!」男の一人が剣を振り下ろしてきたが、僕はそれを片手で受け止めた。


「なっ!?」男は信じられないといった表情で、自分の剣を見る。


「そんなものか?」僕はそう言いながら、剣を折った。


「なっ!? 折れただと!?」男は驚愕の声を上げると、慌てて後ろに下がる。


「次は誰だ?」僕はそう言いながら、剣を抜いた。


「ひっ……」その言葉に怯えたのか、残りの者達は後ずさりする。


「待ってください……」すると、奥から一人の少女が現れた。


「この子達に手を出すのはやめてください……」少女はそう言うと、僕の方に歩いてくる。


「君は……?」僕はそう言いながら、その少女の顔を見つめた。


「私はこの街の領主の娘です……。あなたにお願いしたいことがあります……」少女は真剣な眼差しで僕を見つめる。


「お願い?」僕はそう言うと、首を傾げた。


「はい……。実は……この国にある遺跡に封印されている魔物が復活しようとしています……。どうか……私達を助けてくれませんか?」少女は深々と頭を下げる。


「えっと……」僕は困ったように頭を掻くと、アリシアに視線を向ける。


「大丈夫だよ……。助けてあげよう?」アリシアは笑顔で言った。


「分かった……」僕はそう言うと、アリシアの頭を撫でる。


「ありがとうございます……。では……こちらに来てくれますか?」領主の娘はそう言うと、僕達のことを案内し始めた。


「ここが……目的地なのか?」僕は目の前の建物を見ながら言う。それは……まるで城のような建物であった。


「はい……。ここが私達のいる場所です……」領主の娘はそう言うと、扉を開けて中に入る。


「ようこそ……。歓迎しますよ……」中には白髪の老人が立っていた。


「貴方が……?」僕はそう言いながら、老人のことを観察する。


「ええ……。私がこの街の長をしております……」老人はそう言うと、微笑んだ。


「初めまして……。俺はユウトといいます……」僕はそう言うと、頭を下げた。


「これはご丁寧に……。私の名は……アベルと言います……」アベルと名乗った老人は微笑むと、僕に椅子に座るように促してきた。


「失礼します……」僕はそう言うと、椅子に腰かける。


「そちらのお嬢さんは……?」アベルはアリシアに視線を向けると、不思議そうな表情で聞いてきた。


「あ……、えっと……」アリシアは困ったように僕に視線を向ける。


「彼女はアリシアというんです……。俺の仲間ですよ……」僕はそう言うと、アリシアに視線を向ける。


「そうですか……。アリシア様ですね……。よろしくお願い致します……」アベルはそう言うと、アリシアに頭を下げた。


「えっと……、はい……」アリシアは戸惑ったように答える。


「それで……話というのはなんでしょうか?」僕はそう言うと、アベルに視線を向ける。


「そうでした……。実は……先ほどお話しした通り、この国の遺跡に封印されていた魔物が復活しようとしております……。そして……それが……数日以内に復活するのです……」アベルは深刻な顔で言うと、僕を見つめる。


「なるほど……。それで……俺に何をして欲しいのですか? 俺には戦う力なんてありませんけど……」僕はそう言うと、肩をすくめた。


「いえ……、何もしなくても結構です……。貴方にやって欲しいことは……ただ一つだけ……」アベルはそこで言葉を区切ると、真剣な表情で僕を見つめる。


「ユウト殿……。どうか我々を救ってくれませんか?」アベルの言葉に僕は目を丸くする。


「えっと……どういうことですか?」僕は戸惑いながら聞いた。


「そのままの意味です……。我々は……もうすぐ死ぬでしょう……。その時までに……あの化け物を倒せる者が現れれば……、それだけでも我々の勝ちなのです……。しかし……その可能性は非常に低い……。だから……貴方の力を貸して欲しい……」アベルはそう言って、僕に手を差し伸べてきた。


「あの……、俺が断っても……良いんですよね?」僕はそう言うと、アリシアに目を向けた。


「うん……。ユウトはやりたいことをすればいいと思うよ……」アリシアはそう言うと、優しく微笑んできた。


「分かった……」僕はそう言うと、アベルの手を握り返す。


「本当ですか!?」アベルは嬉しそうな笑みを浮かべると、僕を見つめてきた。


「ああ……」僕はそう言うと、立ち上がる。


「ユウト……。本当にやるの?」アリシアは心配そうな表情で僕を見上げてくる。


「ああ……。それに……俺がやらなくちゃいけない気がするんだ……」僕はそう言うと、アリシアの頭に手を置いた。


「そっか……」アリシアは安心したような表情を浮かべると、「頑張ってね」と言って、笑顔を向けてくれた。


それからしばらくすると、街の人達が集まってきていた。その中にはギルドマスターの姿もあり、少し驚いたが特に気にしなかった。どうやら僕の事を知っていたらしく、感謝されたのだが、正直居心地が悪いので早く帰りたかった。


そして……ついにその時が訪れる――。街全体にサイレンの音が鳴ると同時に巨大な魔法陣が出現し始めたのだ。その光景を見て、人々は歓声を上げていた。しかし――。


『グオォオオ!!』突如、空に巨大なドラゴンが現れると、雄叫びを上げたのだ。その声を聞いた瞬間に街の人々は恐怖に支配されたかのように震え始めた。僕もそのドラゴンを見た瞬間に体が硬直してしまう。


(こいつは……ヤバイ!!)僕は本能的にそう感じ取ると、ドラゴンから距離を取ろうとするが――。


「なっ!?」気が付くと、僕は巨大な腕によって地面に叩きつけられてしまった。


「ぐっ……!!」僕は何とか起き上がると、武器を構える。


「ほう……。今のを受けて立ち上がれるとは……。さすがは勇者といったところか……」ドラゴンはそう言うと、僕を見下ろした。


「勇者だと?」僕は眉をひそめると、ドラゴンを見上げる。


「そうだ……。お前が……この世界を救うと言われている存在だ……」ドラゴンはそう言うと、口元を歪ませた。「なんだよそれ……。そんなの知らないぞ……」僕は困惑しながら言う。


「だろうな……。この世界にはまだ伝わっていないのかもしれない……」ドラゴンはそう言うと、大きな翼を広げた。


「さて……、まずは貴様に絶望を教えてやろう……」そう言うと、その巨体からは想像できないほどの速さで僕に向かって突進してくる。


「くっ!」僕は剣を盾にして、その攻撃を受け止めた。しかし――。


「うわぁああっ!」僕は吹き飛ばされてしまい、地面を転がる。


「ユウト!」アリシアが悲鳴を上げると、僕の方へ駆け寄ってきた。「大丈夫……」僕はそう言うと、ゆっくりと立ち上がる。しかし、体はボロボロになっていた。


「ふむ……。まだ動けるか……。なら……これならばどうだ?」ドラゴンはそう言うと、口から炎の玉を放つ。その威力は凄まじく、一瞬で辺り一面を火の海に変えてしまうほどだった。「くっ……」僕はそれを剣で防ごうとしたが、あまりの熱さに剣を放り投げてしまった。


「なっ!?」アリシアは驚きの声を上げると、慌てて僕に抱きついてきた。そのおかげで僕はアリシアを庇うことはできたが、僕自身はその衝撃に耐えられずに壁に激突してしまった。


「がはっ!!」僕は吐血すると、その場に倒れ込む。


(クソッ……。こんなところで……負けられないのに……!)僕はそう思いながら、意識を失ってしまった。


「ん……」僕は小さく呟いた後、目を覚ました。目の前には見慣れない天井が見える。僕は上半身を起こすと、周囲を見渡した。


「ここは……?」僕はそう言いながら、自分の状況を確認する。


「あれ……?」僕は自分の手を見つめる。なぜか……僕の手が透けているように見えたからだ。


「なに……?」僕はそう言いながら、何度も瞬きをする。だが……やはり僕の手の輪郭がぼやけて見える。


「まさか……これが幽霊って奴なのか?」僕はそう言いながら、苦笑いをした。


「いや……、それよりも……アリシアはどこに行ったんだ?」僕はそう言いながら、部屋を見渡す。


「アリシア?」突然、背後から聞き覚えのある声が聞こえたので振り返る。そこには白いワンピースを着た金髪の少女が立っていた。


「君は……?」僕は首を傾げると、少女の顔を見る。


「私はアリシアだよ?」アリシアと名乗る少女は首を傾げて言った。


「えっと……、どういうことだ?」僕は混乱したように頭を掻く。


「どういうことかは分からないけど……、私はアリシアだよ?」少女はそう言うと、不思議そうに僕を見てきた。


「えっと……、ちょっと待ってくれ……。整理させてくれないか?」僕はそう言うと、深呼吸をして気持ちを整える。


「うん……。分かった……」アリシアはそう言うと、笑顔で僕を見つめてきた。


「えっと……、まず……君の名前は……アリシアであってるんだよね?」僕はそう聞くと、アリシアの顔を覗き込んだ。


「うん……。合ってるよ?」アリシアは笑顔で答える。


「じゃあ……、俺と一緒に行動していたアリシアじゃないのか?」僕はアリシアの目を見ながら言う。


「えっと……よく分かんないんだけど……、私達は同じ存在だと思うよ?」アリシアはそう言うと、「だって……」と言いながら僕の頬にキスをしてきた。


「え? ええぇえっ!?」僕はアリシアの行動に驚いてしまう。


「えっと……、もしかして……嫌だったかな……? ごめんなさい……」アリシアは不安そうな表情になると、頭を下げた。


「いやいやいや……!! そういうわけじゃないよ……?」僕は慌てると、両手を振る。


「本当?」アリシアは顔を上げて聞いてきた。


「ああ……。もちろんだ……」僕はそう言うと、アリシアの頭を撫でた。


「良かった……」アリシアは嬉しそうに笑うと、僕に抱きついてきた。


「それで……結局、どういうことなんだ?」僕はアリシアの頭を再び撫でながら聞いた。


「うん……。多分だけど……ユウトが知っているのは私が眠っていた時のアリシアで……。今は眠っているアリシアが表に出ているんじゃないかな?」アリシアはそう言うと、僕を見つめてくる。


「なるほど……。つまり……俺が知ってるアリシアはもういないという事か……」僕はそう言うと、ため息をついた。


「えっと……、ユウトが言ってるユウトが私の知らないユウトの事なのは分かるんだけど……、ユウトが言ってるユウトが誰のことなのかがよく分からないんだ……」アリシアは困ったような表情で言う。


「そっか……。まぁ……、仕方ないか……」僕は苦笑すると、アリシアを抱き寄せた。


それからしばらくして――。僕はアリシアに自分がどうしてここにいるかを説明した。


「そういえば……、アリシアはなんであの遺跡に封印されていたんだ?」僕はそう言うと、アリシアの瞳を覗きこむ。


「それは……」アリシアはそこで言葉を区切ると、悲しそうな表情を浮かべた。


「無理して言わなくてもいいぞ?」僕はそう言うと、微笑みかける。


「ううん……。大丈夫……。ただ……少しだけ……昔の話を聞いてくれる?」アリシアはそう言うと、静かに語り始めた。


「私はね……。ずっと暗い闇の中に閉じ込められていたんだ……。何も見えない……真っ暗な場所……。だから……寂しくて……怖くて……。でもね……そんな時に……誰かが私に声をかけてくれたの……」アリシアはそう言うと、僕の手を握る。


「それが……ユウト?」僕はアリシアの手を握り返すと、聞いた。


「うん……。ユウトがね……。暗闇の中で私の名前を呼んでくれたの……。ユウトの声が聞こえるたびに……心が温かくなってね……。すごく安心できたの……」アリシアはそう言うと、僕の胸に顔を埋めてくる。


「そっか……」僕はそう言うと、アリシアの髪を優しく撫でた。


「それから……どれくらい時間が経ったのかは分からないけど……、ある時……急に眩しい光が差し込んできたの……」アリシアはそう言うと、僕の胸から顔を離す。


「光……?」僕はそう言うと、窓の外を見た。すると――。空に大きな魔法陣が浮かんでいたのだ。その光景を見た瞬間――。僕は体が硬直してしまう。


「なっ!?」僕は目を見開くと、空に浮かぶ魔法陣を凝視する。


『グオォオオ!!』魔法陣から巨大なドラゴンが現れると、雄叫びを上げた。


「あれは……」僕は呆然としながら呟く。


「そう……。あれこそが私たちを閉じ込めていた存在……。魔王だよ……」アリシアはそう言うと、僕を見上げてきた。


「なっ!?」僕は驚きのあまり言葉を失う。


「私たちは……あいつに負けて……封印されたの……」アリシアは悔しそうに唇を噛むと、拳を震わせた。


「そう……だったのか……」僕はそう言うと、視線を落とす。


「ねぇ……、ユウトはどうするの……?」アリシアは僕を見上げると、真剣な眼差しで見つめてきた。


「俺は……」僕はアリシアを見つめると、考える。


(このまま逃げても……いずれは見つかるだろうな……。それに……この世界の人たちを救える可能性があるなら……)僕はそう思うと、アリシアに笑いかけた。


「俺は戦うよ……」僕はそう言うと、アリシアの手を強く握る。


「ユウト……」アリシアは泣きそうな表情をすると、僕の体に腕を回してくる。


「大丈夫……。絶対に勝つさ……」僕はそう言うと、アリシアの体を抱きしめ返した。


「そうだ……。忘れるところだった……」僕はそう言うと、鞄の中からギルドカードを取り出す。


「これを持っててくれ……」僕はそう言うと、アリシアに手渡した。


「これは……?」アリシアは不思議そうな表情で僕を見ると、カードを眺める。


「それは俺の身分を証明するものだ……」僕はアリシアの頭を撫でながら言った。「えっ!?」アリシアは驚いたように声を上げると、僕を見てきた。


「驚くのも無理はないと思う……。だけど……信じてほしい……」僕はそう言うと、アリシアの目を真っ直ぐに見つめた。


「うん……。分かった……」アリシアはそう言うと、笑顔で僕を見つめ返してくれる。


「ありがとう……」僕はそう言うと、アリシアの頭を撫でた。


「ユウト……」アリシアは僕の服を掴むと、上目遣いで見つめてくる。


「ん?」僕は首を傾げると、アリシアの顔を見つめる。


「あのね……。お願いがあるんだけど……いいかな?」アリシアは恥ずかしそうに頬を赤らめる。


「ん? 別に構わないけど……?」僕はそう言うと、アリシアを見つめる。


「じゃあ……、キスしてほしいな……」アリシアはそう言うと、頬を更に赤く染める。


「えっと……、ここでか?」僕は周囲を見渡すと、アリシアに確認した。


「うん……」アリシアは小さく首肯すると、顔を近づけてくる。僕はアリシアと口づけを交わすと、そのまま押し倒してしまった。


「えへへ……」アリシアは嬉しそうな表情を浮かべると、頬ずりしてきた。


「まったく……。お前は甘えん坊だな……」僕はそう言いながら、アリシアの頭を撫でた。


「えへへ……」アリシアは嬉しそうに笑うと、再び僕に抱きついてきた。


「とりあえず……、これからの方針を決めようか……」僕はそう言うと、起き上がる。


「うん……」アリシアも体を起こすと、ベッドの上に座った。


「まずは……俺の知り合いに会うのが先決だな……。そして……情報を集めるんだ……」僕はそう言うと、アリシアの肩に手を添える。


「うん……。分かった……」アリシアはそう言うと、笑顔で僕を見つめてくる。


「よし……。それじゃあ……、まずは街に行くか……」僕はそう言うと、アリシアと一緒に部屋を出た。


「そういえば……アリシアは外に出れるのか?」僕はふと思ったことを口に出す。


「えっと……、多分大丈夫だと思うよ?」アリシアはそう言うと、僕の手を握りしめてくる。


「そうなのか?」僕は首を傾げながら聞く。


「多分ね……。ユウトが一緒だし……」アリシアは微笑みながら答えると、歩き出した。


「なるほど……。じゃあ……行くか……」僕はそう言うと、アリシアと一緒に階段を下りていく。


「あ! お兄ちゃん!」玄関まで降りると、村長さんが話しかけてきた。


「村長さん……」僕はそう言うと、頭を下げる。


「えっと……、そちらの方は……?」村長は僕の後ろに隠れているアリシアを見て、怪しむような表情を浮かべた。


「彼女はアリシアと言います……」僕はそう言うと、アリシアの背中を押して前に出させる。


「あっ……、よろしくお願いします……」アリシアは頭を下げた。


「こちらこそ……。それで……アリシア様はどちらに行かれるのですか?」村長は警戒するようにアリシアを見つめる。


「ちょっと用事があって……。少しの間、この街を離れるかもしれないんです……」僕はそう言うと、アリシアの手を握り締める。


「そう……なんですね……。分かりました……。では……、何かあった時は遠慮なく言ってください……」村長はそう言うと、深々と頭を下げた。


「はい……。ありがとうございます……」僕はそう言うと、もう一度深く礼をした。


「あの……、一つ聞いてもいいでしょうか?」アリシアは不安そうに僕の手を握ると、村長を見つめた。


「はい……?」村長は首を傾げると、アリシアを見る。


「私と同じ種族の女の子を知りませんか?」アリシアはそう言うと、僕の手を強く握りしめた。


「同じ種族の……女の子……?」村長は困惑の表情を浮かべると、考え込む。


「えっと……、私に似た子です……」アリシアは困ったように言うと、僕の方に視線を向ける。


「なるほど……。そういう事でしたら……、私が知っている限りですが……」村長はそう言うと、顎に手を当てて考えるような仕草をする。


「本当ですか!?」アリシアは嬉しそうに声を上げると、僕の手を引っ張ってきた。


「はい……。私の家の倉庫の中にいると思います……」村長はそう言うと、アリシアを見据える。


「その……、その子に会いたいのですが……」アリシアは恐る恐る聞いた。


「申し訳ありませんが……、それは出来かねます……」村長はそう言うと、アリシアの事を睨んだ。


「どうして……ですか?」アリシアは怯えた様子で聞く。


「アリシア様は魔王の封印を解いた者……。そんなあなたを家に入れるわけにはいきません……」村長はそう言うと、アリシアから視線を外した。


「そんな……」アリシアは悲しげに俯くと、僕の服の裾を掴んでくる。


「まぁ……、普通はそうなるよな……」僕はそう言うと、アリシアの頭に手を置いた。


「でも……、俺は大丈夫ですよ……」僕はそう言うと、村長に笑いかける。


「ユウト殿……。しかし……」村長は僕の言葉を聞くと、苦虫を噛み潰したような表情になる。


「それに……、この子のお母さんは俺の友達なんですよ……」僕はそう言うと、アリシアの頭を撫でる。


「えっ!?」アリシアは驚いたように声を上げると、僕を見上げてきた。


「だから……この子を家に入れないでほしいんです……」僕は真剣な眼差しで村長を見つめた。


「うーん……。ユウト殿の頼みなら仕方ないですね……」村長はそう言うと、ため息をつく。


「ありがとうございます……」僕はそう言うと、頭を下げた。「いえ……。それにしても……ユウト殿は不思議な方だ……。まさか……魔王の封印を解いておきながら……それを黙っているとは……」村長はそう言うと、僕の目を真っ直ぐに見つめてきた。


「それは……、その……色々とありまして……」僕はそう言うと、視線を逸らす。


「そうですか……。とりあえず……、今は街の警備を強化させていますので……。ご安心を……」村長はそう言うと、微笑んだ。


「ありがとうございます……」僕はそう言うと、再度頭を下げる。


「では……、私はこれで失礼させていただきます……」村長はそう言うと、足早に去って行った。


「なんか……悪いことをしたな……」僕はそう言うと、アリシアの方を向く。


「えっと……、大丈夫だよ……」アリシアは僕に笑いかけてくると、手を離した。


「そっか……。とりあえず……、俺たちも行くか……」僕はそう言うと、アリシアの手を握った。


「うん……」アリシアは嬉しそうに笑うと、僕に寄り添ってくる。


「そうだ……。村長さんに聞き忘れたことがあったな……」僕はそう言うと、アリシアを見つめた。


「何を聞き忘れたの?」アリシアは不思議そうに僕を見つめてくる。


「俺の知り合いってどこにいるんだ?」僕は首を傾げると、アリシアを見つめた。


「それは……秘密かな?」アリシアはそう言うと、人差し指を唇に当てる。


「ん? そうなのか?」僕は不思議そうな表情を浮かべると、アリシアを見つめる。


「うん……。だって……ユウトは私のことだけを考えてくれればいいんだもん……」アリシアは頬を赤く染めながら、僕の腕に抱きついてくる。


「なんだよそれ……。別にいいけどさ……」僕はそう言うと、アリシアの頭を撫でる。


「えへへ……」アリシアは幸せそうに笑みを浮かべると、僕の胸に顔を埋めてくる。


「まあ……、とりあえず……街を歩いてみるか……」僕はそう言うと、アリシアを連れて歩き出した。


「ユウト……、どこに行くの?」アリシアは首を傾げると、僕の服を掴む。


「ちょっとな……。すぐに戻るよ……」僕はそう言うと、アリシアの頭を撫でた。


「分かった……。待ってるね……」アリシアは嬉しそうに笑うと、僕に抱きついてきた。


「ああ……。なるべく早く戻ってくるようにするな……」僕はそう言うと、アリシアの頭を撫でた。


「うん……」アリシアはそう言うと、僕から離れる。


「じゃあ……行ってくるな……」僕はそう言うと、歩き出した。


「うん……。行ってらっしゃい……」アリシアはそう言うと、小さく手を振ってくれた。


僕は手を振り返すと、村の中を見渡す。すると――、広場のベンチに座っているリリアの姿が見えた。


「あれは……?」僕はそう言うと、小走りで彼女の元に向かう。


「あら……、やっと来たわね……」彼女はそう言うと、立ち上がってこちらに向かってきた。


「久しぶりだな……」僕はそう言うと、彼女に笑顔を向けた。


「ええ……。本当にね……」彼女はそう言うと、僕の手を握り締めてくる。


「それで……、今日は何の用なんだ?」僕はそう言うと、首を傾げた。


「ちょっとね……。ユウトにお願いしたいことがあって……」彼女はそう言うと、僕の手を引いて歩き出す。


「お願い?」僕はそう言うと、首を傾げる。


「ええ……。少し時間あるかしら?」彼女は僕の方に振り向いてくる。


「まあ……、大丈夫だけど……」僕はそう言うと、アリシアの方を見た。


(どうしようか……。一応……連絡しておいた方がいいよな……)僕はそう思うと、ポケットからスマホを取り出した。


「もしもし……」僕はそう言うと、アリシアに電話をかけた。


『あっ……、お兄ちゃん?』アリシアの声が聞こえてくる。


「ちょっと用事ができたから……。少しの間、出かけるな……」僕はそう言うと、アリシアに電話を切る。


「ふぅ……」僕はそう言うと、ため息をついた。


「どうかしたの?」リリアは不思議そうにこちらを見つめている。


「いや……、なんでもない……」僕はそう答えると、スマホをしまった。


「そう……。それで……お願いがあるんだけど……聞いてくれる?」リリアは僕の手を握ると、上目遣いで見つめてくる。


「内容によるけど……。それで……なんの用事なんだ?」僕はそう言うと、首を傾げる。


「あのね……。私と一緒に来てくれない?」リリアはそう言うと、僕の手を引っ張ってきた。


「えっ……?」僕は驚きのあまり声を上げた。


「ダメ……?」リリアはそう言うと、不安げな表情を浮かべる。


「いや……、そういうわけじゃないんだ……」僕は慌てて首を横に振ると、苦笑いを浮かべた。


「良かった……。じゃあ……行きましょうか……」彼女はそう言うと、僕を引っ張っていく。


「ちょっ……、おい……」僕は困惑しながらも、彼女についていった。


「ここは……?」僕は目の前の建物を見て、唖然とする。


「私の家よ……」リリアはそう言うと、僕の手を引いたまま中に入っていく。


「いらっしゃいませ……」メイド服を着た女性が出迎えてくれる。


「ただいま……」リリアはそう言うと、女性を見つめる。


「おかえりなさいませ……。そちらの方は?」女性は微笑むと、僕に視線を向けてくる。


「えっと……、その……」僕は言葉に詰まると、助けを求めるようにリリアを見る。


「私の大切な人よ……」リリアはそう言うと、僕の腕に抱きついてきた。


「まぁ……、それはそれは……」女性は驚いたように口に手を当てると、微笑んだ。


「なによ……、その反応は……」リリアはそう言うと、不機嫌そうな表情になる。


「いえ……。そんなことはありませんよ……」女性はそう言うと、口角を上げる。


「嘘ばっかり……。そんなこと思ってないくせに……」リリアは不満そうに口を尖らせる。


「いえ……、そんなことありませんよ……。とても仲睦まじくて良いと思いますよ」女性はそう言うと、僕達の方を見てきた。


「なによ……。やっぱり思ってたんでしょ……」リリアはそう言うと、僕の腕を抱きしめる力を強めた。


「そんなことより……、お客様を待たせてるんじゃないんですか?」女性はそう言うと、扉の方を指差す。


「あっ……、そうだった……」リリアは思い出したかのように呟いた。


「誰を待っているんだ?」僕はそう聞くと、周りを見渡した。


「んー……。まあ……すぐに分かると思うわ……」リリアはそう言うと、僕の手を引く。


「分かった……。とりあえず……行くよ……」僕はそう言うと、歩き出した。


「ええ……。でも……ユウトも来るのよ?」リリアは不思議そうに首を傾げる。


「俺も?」僕はそう言うと、眉間にシワを寄せて首を傾げる。


「うん……。ユウトには来てほしいの……」リリアはそう言うと、僕の腕をギュッと握った。


「まあ……、別にいいけどさ……」僕はそう言うと、女性の方を向く。


「すみません……、少し出掛けてきます……」僕はそう言うと、頭を下げた。


「分かりました。ごゆっくり……」女性はそう言うと、頭を下げる。


「ええ……。ありがとう……」リリアはそう言うと、僕を連れて部屋から出て行った。


「それで……、どこに行くつもりなんだ?」僕は廊下に出ると、首を傾げる。


「えっとね……。とりあえず……、この先に行けばいいみたいよ……」リリアはそう言うと、僕に地図を見せてきた。


「ここか……」僕はそう言うと、歩き出す。そして、一つの部屋にたどり着いた。


「ここにいるのかしら……」リリアはそう言いながら部屋のドアを開ける。


「うおっ!? ビックリしたな……」一人の男性が椅子に座っているのが見える。


「あら……、驚かせちゃって悪かったわね……」リリアはそう言うと、男性に近づいていく。


「いや……、構わないんだが……。まさか……こんなに早く帰ってくるとは思わなかったな……」男性はそう言うと、立ち上がった。


「それはどういう意味かしら?」リリアは男性の顔をジロッと見つめる。


「いや……、特に深い意味があるわけではないんだが……」男性は苦笑いを浮かべると、リリアを見つめる。


「そう……。ならいいわ……」リリアはそう言うと、僕の腕を掴んでくる。


「なあ……、俺は邪魔なんじゃないか?」僕は小声でリリアに話しかける。


「別にいいのよ……。ユウトがいても問題はないはずだから……」リリアはそう言うと、僕の頬にキスをしてきた。


「なるほど……。ユウト君か……。初めましてだね……」男はそう言うと、僕に手を差し伸べてくる。


「あっ……、はい……。よろしくお願いします……」僕は戸惑いながらも、彼の手を握った。


「私は……アベルだ。一応……この街の領主をしている……」彼は僕に笑顔を向けると、握手をする手に力を込める。


「えっ……? 領主って……。あの……」僕は目を丸くすると、彼を見つめた。


「まあ……、そうだな……。一応……貴族ということになっているな……」彼は苦笑いを浮かべながら、僕を見てくる。


「なによ……。私達だって一応……貴族なのよ?」リリアはそう言うと、僕の腕に抱きついてくる。


「いや……、一応って言われてもな……」僕は困り顔でリリアを見つめた。


「ふふっ……。相変わらずだな……」アベルは楽しそうに笑うと、リリアを見つめた。


「あら……、なにかしら?」リリアはそう言うと、僕の腕を抱きしめる力を強める。


「いや……、なんでもない……。それより……、そろそろ本題に入ろうじゃないか……」アベルはそう言うと、机の上に置いてあった資料を手に取る。


「そうね……。じゃあ……、私達は少し席を外すから……。ユウトの相手をしてあげてくれるかしら?」リリアはそう言うと、僕の手を引いて歩き出す。


「ああ……。分かった……」僕はそう言うと、彼女の後を追った。


「それで……、ユウト君はどうしてこの国に来たんだ?」僕はソファーに腰掛けると、彼に質問をした。


「実は……、アリシアから遺跡の調査をしてきて欲しいと言われて……」僕はそう言うと、頭を掻く。


「アリシアから……。そうか……。彼女は元気にしているかい?」アベルは懐かしむような表情で言う。


「はい……。元気ですよ……。今は……、少し体調が悪いようですが……」僕はそう言うと、アリシアの症状を思い出す。


「ふぅ……。そうか……。まぁ……、彼女は元々体が弱い方だからな……」アベルはため息をつくと、僕を見つめてくる。


「えっと……、それで……調査の件は引き受けてもらえるか?」僕は少し気まずくなりながら、話を切り出した。


「まあ……、少しくらいは協力しよう……。それにしても……、よく私がいる場所が分かったな……」アベルはそう言うと、僕の方に視線を向けてくる。


「それは……リリアさんに教えてもらいました……」僕はそう言うと、リリアの方を見た。


「なによ……。私が教えたのはいけないの?」リリアは不満げな表情を浮かべる。


「いや……、そういうわけじゃないんだが……。なんで私達がここにいることが分かったんだ?」アベルは不思議そうに首を傾げた。


「それは……、リリアさんの魔法のおかげですね……」僕は苦笑いを浮かべる。


「そうか……。彼女はそういう能力を持っているんだったな……」アベルは納得したように呟く。


「そういうことよ……。それじゃあ……、後は任せたわよ……」リリアはそう言うと、僕を連れて部屋から出て行く。


「はいはい……。了解しましたよ……」僕はそう言うと、リリアの後についていった。「それで……、どこに向かうんだ?」僕はリリアに問いかける。


「とりあえず……、冒険者ギルドに行きましょう……」リリアはそう言うと、僕の手を引っ張ってきた。


「んっ……?」僕は突然のことに驚きながらも、彼女に引っ張られるままに歩いて行く。そして、しばらく歩いていると、大きな建物が見えてきた。


「あれが……、冒険者ギルドよ……」リリアはそう言うと、建物の中に入っていく。


「なになに……? もしかして……俺も一緒に依頼を受けてくれるのか?」僕は嬉しくなって、リリアに話しかける。


「違うわよ……。そんなんじゃないわ……。ただ……、ユウトの実力を確かめたいだけよ……」リリアはそう言うと、受付に向かって歩き出した。


「なんだよ……。そんなことなのか……」僕は少しガッカリしながら、リリアの後を追う。


「すみません……。この人の登録をお願いしたいんですけど……」リリアはそう言うと、僕の背中を押してきた。


「えっと……、貴方は……?」女性は僕を見ると、不思議そうな表情で見つめてくる。


「あっ……、どうも……。俺は……」僕は女性に自己紹介をしようとすると、リリアに遮られた。


「この人はユウトよ。それで……この人に合う依頼はあるかしら?」リリアはそう言うと、僕の手を握りしめてきた。


「はい……。分かりました……。少々お待ちください……」女性はそう言うと、書類を持って奥の部屋へと消えていった。


「なあ……、今の人って……」僕は小声でリリアに話しかけると、彼女も小声で返してくる。


「うん……。多分だけど……、ユウトの事を男だと思ってたと思うわよ……」リリアはそう言うと、僕の耳元に顔を近づけてくる。


「いや……、でも……俺の名前を言う前に、リリアが先に俺の名前を言ったぞ?」僕はリリアを見つめると、首を傾げる。


「別に名前ぐらいいいでしょ……。それよりも……、早く私達の事を説明しなさい……」リリアはそう言うと、僕の腕をギュッと抱きしめた。


「えっ……? いや……でも……」僕は戸惑っていると、先程の女性が戻ってきた。


「はい……。これがユウト様のカードになります」女性はそう言うと、僕に一枚のカードを渡してくる。


「ありがとうございます……」僕はそう言うと、そのカードを受け取った。


「えっと……、ありがとうございました……」僕は軽く頭を下げると、その場から離れようとする。だが――リリアが僕の腕を掴んだ。


「ちょっと待った!! まだ……話は終わっていないんだけど……」リリアはそう言うと、僕の腕を強く握ってくる。


「えっ? どういうことだ? 俺はもう終わっただろ?」僕はリリアの方を向くと、疑問を口にする。


「なに言ってるのよ……。私の説明がまだでしょうが……」リリアはそう言うと、僕の腕を抱き寄せる。


「ちょ……、おい……。やめてくれよ……」僕は慌てていると、周りの人達が僕達を見ているのが見えた。


「あら……? なによ……。私達に文句でもあるのかしら?」リリアはそう言うと、僕の腕をさらに強く抱き寄せた。


「いや……、そういうわけではないんだが……」一人の男性がリリアの胸を見て、顔を赤くしているのが分かる。


「ほら……、ユウト……。早く説明しちゃいなさい……」リリアは僕を見つめてくる。


「いや……、だから……無理だって……」僕はリリアの手を振り払うと、逃げるようにして走り出す。


「あっ……、こら……! 待ちなさい!!」リリアはそう言うと、僕を追いかけてくる。


「うおっ!? 危ねぇ……」僕は飛んできた剣を避けると、リリアから距離を取る。


「はぁ……、はぁ……。逃げ足だけは早いんだから……」リリアは肩で息をしながら、僕を見つめてくる。


「まあ……、こればかりはしょうがないだろ……」僕はそう言うと、彼女の方を見る。


「それで……、結局……私はどうすればいいのよ?」リリアは疲れた様子で言う。


「いや……、普通に考えれば……自分で自分のことを説明するしかないだろ……」僕はため息をつくと、リリアを見つめた。


「いやよ……。恥ずかしいもの……」リリアは頬を膨らませると、そっぽを向いてしまう。


「はぁ……。仕方ないか……」僕はそう言うと、リリアの頭を撫でた。


「えへっ……。それで……、私はどうしたらいいの?」リリアは気持ち良さげに目を細めると、上目遣いに見てくる。


「そうだな……。とりあえず……、適当にクエストを受けてみようか……」僕はそう言うと、掲示板の方へと向かった。


「ふぅ……。やっと追いついた……」リリアはそう言うと、僕の隣に立つ。


「んっ……? どうかしたか?」僕は不思議に思いながら、リリアの方を見た。


「なんでもないわよ……。それより……、どれにするの?」リリアはそう言うと、僕の隣で一緒に掲示されている紙を見ていく。


「まあ……、とりあえず……討伐系でいいんじゃないか?」僕はそう言うと、一枚の依頼書を手に取る。


「そうね……。じゃあ……これにしようかしら……」リリアはそう言うと、僕から用紙を奪い取る。


「よし……。じゃあ……行くか……」僕はそう言うと、受付の所まで歩いて行く。


「あの……、すみません……」僕はそう言うと、受付の女性に声をかける。


「はい……。なんでしょうか?」受付の女性は笑顔を浮かべながら、僕を見つめてくる。


「えっと……、この依頼を受けたいんですけど……」僕はそう言いながら、リリアが持っていた依頼書を受付の女性に渡す。


「はい……。分かりました……。では……、こちらのカードをお持ちください……」女性はそう言うと、二枚のカードを差し出してくる。


「これは……?」僕は首を傾げながら、そのカードを受け取る。


「こちらはギルドカードと言いまして……、身分証の代わりになります。ですので……、紛失されないように気をつけてください」受付の女性はそう言うと、一礼してきた。


「なるほど……。分かりました……」僕はそう言うと、ギルドカードを受け取りポケットの中に入れる。


「それでは……、お気をつけてください……」受付の女性はそう言うと、他の仕事に取り掛かる。


「じゃあ……、行きましょうか……」リリアは僕の手を握ると、歩き出した。


「ああ……。分かった……」僕はそう言うと、彼女に引っ張られるように歩き出した。


「それで……、どうやって行くんだ?」僕はリリアに問いかける。


「えっと……、まずはギルドに報告して……、それから遺跡に向かうって感じかな……」リリアはそう言うと、地図を広げて見せてきた。


「なるほど……。それで……どのくらいの距離があるんだ?」僕はそう言うと、リリアの持っている地図を覗き込む。


「んー……。ここからだと……大体……、このぐらいね……」リリアはそう言うと、指を差す。


「そうなのか……。意外と近いな……」僕はそう言うと、リリアの顔を見つめた。


「そう? 結構遠いと思うけど……」リリアはそう言うと、僕の手を握りしめてきた。


「いや……、全然遠くないだろ……。それに……、そんなに時間もかからないだろうし……」僕はそう言うと、リリアの手を握り返す。


「うん……。そうだよね……」リリアは嬉しそうに微笑むと、僕の腕に抱きついてきた。


「あっ……。でも……、一応……魔物が出るかもしれないし……、慎重に行こうな……」僕はそう言うと、リリアと一緒に歩き出した。


「はい……。ユウト様……」セリスさんはそう言うと、僕をジッと見つめてくる。


「えっと……、どうしました?」僕は不思議に思って、質問をする。


「いえ……。特に用というわけではありませんが……。ユウト様はどうして……、私を雇ってくれたんですか?」セリスはそう言うと、不思議そうな表情で見つめてきた。


「いや……、だって……。他に頼れる人もいなかったんでしょ? なら……、俺が出来ることはやってあげないと……」僕はそう言うと、彼女の頭に手を乗せる。


「えっ……? はい……。ありがとうございます……」彼女は驚いた表情になると、僕の顔を見上げてきた。


(うわっ……。近くで見ると……本当に綺麗だな……。こんな人が……俺なんかの事を好きになってくれるなんて……。やっぱり……信じられないな……)僕は彼女の顔を見つめると、思わず見惚れてしまう。


「あの……? 私の顔をじっと見て……。どうかされたんですか?」彼女は少し恥ずかしそうにしながら、僕に話しかけてくる。


「いや……、別に……。ただ……、美人だなって思っただけで……」僕は照れ隠しのために、視線を逸らす。


「び、美人だなんて……。私は……別に……」セリスはそう言うと、俯いてしまった。


「えっと……、その……。別に嫌だったら……やめるよ……」僕は戸惑っている彼女を見て言う。


(いくらお金を稼がないといっても……、流石に人の好意を蔑ろにしてもいい訳じゃないもんな……。でも……、こういう事をいうのは慣れていないんだよな……。今まで女性に対してそういう風に言った事ないし……、どう言ったらいいんだろうか?)僕は頭の中で考え続けるが、一向に良い案が浮かんでこなかった。だが――僕はあることを思い出すと、アリシアがしてくれたアドバイスを実行する事にした。僕はそっと右手で彼女の左手を掴むと――優しく撫でた。すると――彼女の身体がビクッと震えた。


「えっ……? ゆ、ユウト様?」セリスは僕の方を見ると、不安そうに聞いてきた。


「大丈夫だよ……。俺は絶対にセリスさんの味方だから……。だから……安心してくれ……」僕はそう言うと、彼女の頭をゆっくりと撫で続けた。


「えっ……? あ、ありがとうございます……」セリスはそう言うと、僕の方に体重を預けてくる。僕はそんな彼女を抱きしめた。


「……」僕は無言で歩くと、目の前にある扉を見つめた。


「ユウト……。緊張しているの?」隣にいるリリアが僕の顔を覗き込んでくる。


「いや……、まあ……な……」僕はそう言うと、苦笑いを浮かべた。


「ふふふ……。心配しなくても平気よ……。私がちゃんと守ってあげるから……」リリアはそう言うと、僕の腕に抱きついてきた。


「いや……、そういう意味ではないんだが……」僕は困ったような表情を浮かべた。


「もう……。分かってるわよ……。それより……、入るわよ……」リリアはそう言うと、ドアノブに手をかけた。


「ああ……。そうだな……」僕は軽く深呼吸をして、覚悟を決める。そして、勢いよく扉を開けると、部屋の中に足を踏み入れた。


「ようこそ……、冒険者ギルドへ……」中に入ると、一人の女性が声をかけてきた。僕は彼女の方を見つめる。年齢は僕達より十歳程年上に見える。おそらく二十代前半といったところだろう。彼女は長い黒髪を後ろで束ねており、どこか大人の雰囲気を感じさせる。また、彼女の瞳には強い意志が宿っており、一目見ただけでも只者では無いことが伝わってくる。


(なんだか……強そうな人だな……。だけど……どうして……ここにいるんだろう?)僕は疑問に思いながら、その女性を見つめていると――突然、視界が真っ暗になった。


「あれ……? 何も見えないぞ?」僕は戸惑いながら、目元に手をやる。


「ふふっ……。それはそうですよ……。目隠しをしているんですから」女性はそう言うと、僕に近づいてきた。僕はその気配を感じると、反射的に後ろに下がった。


「おっと……! 危ないじゃないか……」僕はバランスを取りながら、何とか倒れずに済んだ。


「ふふっ……。ごめんなさい……。ちょっとした冗談よ」女性はそう言うと、僕に向かって手を差し伸べてきた。僕はため息をつくと、彼女の手を掴んだ。


「それで……、今日はどんな御用かしら?」彼女は僕の手を引くと、椅子に座らせた。


「えっと……、とりあえず……この依頼を受けたいんだけど……」僕は受付の女性に依頼書を見せる。


「んー……。これは……駄目ね……」受付の女性はそう言うと、紙を受け取らずに突き返してきた。


「えっと……、どうしてですか?」僕は首を傾げると、受付の女性を見つめる。


「えっとね……。これって……盗賊団討伐の依頼よね?」受付の女性はそう言うと、依頼書に書かれている内容を読み始めた。


「はい……。そうですけど……」僕は受付の女性の言葉に同意する。


「実はね……。最近……この辺りに盗賊団のアジトができているらしいのよ……。だから……依頼を出すにしても……危険すぎるの……」女性はそう言うと、僕を見つめてきた。


「なるほど……。それじゃあ……、そのアジトの場所を教えてくれませんか?」僕はそう言うと、受付の女性に微笑みかけた。


「えっ……? 教えてって言われてもねぇ……」彼女は困惑した表情を浮かべると、「そういえば……あなた達はどこから来たの?」と尋ねてきた。


「俺達が住んでいる街ですけど……」僕は正直に答えることにする。


「あら……。それじゃあ……結構遠い所に住んでいるのね」彼女は納得した表情になると、「じゃあ……ギルドカードを見せてもらえるかな?」と言ってきた。僕はそれに従い、ギルドカードを渡す。


「えっと……。ユウト君っていうのね……。それで……出身地は……アルスの街?」彼女はカードを確認すると、不思議そうに問いかけてくる。


「えっと……、そうですね……。そこの出身になります」僕はそう言いながら、リリアの方を見る。彼女は僕の視線に気づくと、小さくうなずいた。それを確認してから、「すみません……。俺のギルドカードにも書いてありますよね?」と言った。


「あっ……。本当ね……。ごめんね……。私……あまり他のギルドカードの事は気にしていなかったのよ。ちなみにだけど……どうしてこの街に来たのかしら? やっぱり観光とかなのかな?」彼女は僕のカードを返しながら聞いてくる。(なんだろう? 少しだけ違和感があるな……。もしかしたら……、何かを隠しているのかもしれないな)僕はそんなことを考えながらも、「いえ……。遺跡の調査をするために来ました」と答えた。


「あっ! そうなんだ! そうなんだ!」受付の女性は嬉しそうな笑顔を作ると、興奮気味に僕の手を握りしめてきた。


(んっ?……なんか様子がおかしい気がするな……)僕は少し警戒しながらも、彼女の話を聞くことにした。


「うんうん……。いいわね! 遺跡調査をするなんて凄いわ!! よしっ……。分かったわ! 私が案内してあげるわ!!」受付の女性はそう言うと、僕に抱きついてきた。


「えっと……、いや……。別にそこまでしてもらわなくても……」僕は引きつった笑みを浮かべると、彼女から離れようとする。だが――


「ダメよ……。ユウト君は私が守るって決めたの……。それに……私に任せてくれたら……もっと良い場所に連れて行ってあげるわよ?」彼女はそう言って、僕の頬にキスをしてくる。


「えっ……!? ちょっ……! いきなり何を……」僕は慌てて離れようとしたが、彼女は逃がさないように強く抱きしめてきた。


「ふふっ……。大丈夫よ……。私はあなたの味方なの……。だから……安心してくれていいわ……」彼女は妖艶な声で囁くと、僕の首筋に舌を這わせてくる。僕はその感触に驚き、思わず身震いをした。


(な、なんだ……? 急にどうしたんだよ……。まさか……俺に惚れたとか……? いやいや……。そんな馬鹿な……。だって……さっき会ったばかりだろ? なのに……こんなこと……)僕は混乱しながら、必死に思考を続ける。


「あ、あの……。本当に離してくれませんか?」僕は恐る恐るお願いをするが、返事が帰ってこない。


(えっ……? 聞こえていないのか……?)僕はもう一度、彼女に話しかけようとした時だった――突然、部屋の扉が開かれた。


「おい……。お前ら……。何やってんだ……?」僕は声のした方に視線を向けると、そこには険しい表情を浮かべたアリシアの姿があった。


「んっ……? 誰だ……? お前は……」突然入ってきたアリシアを見て、女性は驚いた表情を浮かべる。


「そいつは私の連れだよ……。早くそいつから離れてくれないか?」アリシアはそう言うと、僕を庇うようにして立った。


「はぁ? ふざけた事を言うなよ……。私はそっちの男と話しているんだ……。邪魔しないでくれるか?」女性はアリシアに向かって言うと、僕の身体を強く引き寄せた。


「はっ? ふざけているのはそっちだろう? そいつは私の恋人なんだよ……。だから……そいつに触れるな……」アリシアはそう言うと、剣を抜く。


「恋人? はっ……。冗談は顔だけにしてくれよ……。そいつは男だぞ? そんな奴が女に好かれる訳ないだろう? 悪いことは言わないから……大人しく帰りな」受付の女性はそう言うと、僕の身体を撫で回し始めた。


「なっ……!? ふ、ふざ――」アリシアが怒りの声を上げようとした瞬間――僕の唇に彼女の指が添えられた。僕は驚いて、言葉を止める。すると――


「もう……。ユウト君……。だめじゃない……。今は私が質問している最中でしょう?」女性はそう言うと、僕の耳元に顔を近づけてきた。そして――


「ほら……、ちゃんと答えてくれないかな……。ユウト君の好きな人は誰なの?」と甘い声音で囁いてきた。


「なっ……!? お、おまえ……!! ユウトに何をしているんだ!!」アリシアは僕達の様子を見て、顔を真っ赤にして怒鳴ってきた。


「んー……、うるさい子ね……。ちょっと黙っていてもらうわよ……」受付の女性はそう言うと、僕に抱きついたままアリシアに向かって歩いていく。


「ひっ……!? ま、待ってくれ……!! 頼む……!! 何でも話すから……、止めてくれ……!!」僕は恐怖で震えながら、女性の足にしがみつく。だが――


「ごめんね……。でも……これも仕事なの……。許してくれると嬉しいな……」女性はそう言って、僕の頭を優しく撫でてくる。


「い、嫌だ……!! 助け――」僕は助けを求めるように叫んだが――突然、口元に布を押し当てられてしまった。僕はその布から漂ってくる匂いに気づくと、すぐに意識を失ってしまった。


「……んっ……。あれっ……?」僕は目を覚ますと、目の前には見知らぬ天井が広がっていた。


(ここは……どこだ?)僕はぼんやりとした頭のまま、周囲を見回す。部屋の中には家具などはなく、あるのはベッドと窓だけだった。僕はゆっくりと起き上がると、自分の身体に異変がないかどうか確認した。特に痛みもなく、異常はないようだ。僕はホッと息をつくと、再び周囲を見渡す。やはり、何も置かれておらず、生活感が全く感じられない。(もしかして……ここって……牢屋なのか……?)僕はそう思いながら、鉄格子の方を見つめる。


「やっと起きたみたいね……」僕の視線の先に一人の女性が立っていた。年齢は二十代後半といったところだろう。長い黒髪を後ろで束ねており、鋭い瞳からは強い意志を感じる。また、肌は白く、整った容姿をしている。


「えっと……、あなたは……?」僕は戸惑いながら尋ねると、「私の名前はリリア・ランスロットよ……」と彼女は答えた。


「リリアさんですか……。俺はユウトです……。それで……どうしてここにいるんですか?」僕は首を傾げると、リリアを見つめる。


「あら……。覚えていないのね……。あなたはね……昨日、盗賊団のアジトに行ったのよ……。そこで、盗賊団に襲われて捕まったのよ……」彼女はそう言いながら、僕の傍まで近づいてきた。


「えっと……、どうしてそんなことを?」僕は困惑しながら、リリアに尋ねた。


「それは……あなたを助けるためよ……。だって……あなたは私の命の恩人なんだもの……」彼女はそう言いながら、僕の手を握ると、優しく微笑みかけてきた。


「俺の……? どういう意味ですか……?」僕は不思議に思って、聞き返す。


「実はね……。昔、私は盗賊団に攫われたことがあるの……。その時にね……。私を助けてくれたのがユウト君だったの……」彼女は懐かしそうに微笑むと、「あの時は怖かったけど……、ユウト君のおかげで助かったわ……。ありがとう……」と言って、僕に抱きついてきた。


「えっと……、そうなんですか……。すみません……。全然、記憶になくて……」僕はそう言いながら、リリアを引き剥がそうとする。だが――


「いいのよ……。無理もないわ……。あの時のユウト君は小さかったしね……。だから……今度は私がユウト君を守る番なの……」彼女はそう言って、僕を抱きしめたまま離そうとしなかった。


「えっと……、とりあえず離してくれませんか? リリアさんの気持ちは分かりましたから……」僕は困ったように呟くと、「分かったわ……」と彼女は名残惜しそうに離れていく。僕はホッと安堵のため息を漏らすと、「それで……どうして俺を助けたんですか? それに……どうして俺の名前を知っていたんですか?」と質問した。


「どうしてって言われてもねぇ……。ユウトは私の命の恩人で、大好きな人なんだから……当たり前でしょう?」リリアは当然のように答えると、僕の手を握りしめてきた。


「いや……、そういうことじゃなくて……。そもそも、なんで俺の名前を知っているんですか?」僕は彼女の手を握り返しながら、再度質問する。


「ああ……。そう言えば……まだ説明していなかったわね……。私はね……ギルドの職員なの……。そして、私はこのアルスの街にある冒険者ギルドの受付嬢なのよ……」


「えっ……? そうなんですか?」僕は驚いて、目を大きく見開く。


「そうなのよ……。あっ……。そういえば……ユウト君に渡したいものがあったんだ……」彼女はそう言うと、僕の手を放して鞄の中から何かを取り出した。


「はい……。これをあげるわ……」彼女はそう言って、僕の手に一通の手紙を渡してきた。


「手紙……ですか?」僕は受け取りながらも、疑問を口にする。


「ええ……。そうよ……。それを読んでみて……」彼女は僕の反応を楽しむように笑うと、ベッドに腰かけた。


「はぁ……。分かりましたよ……」僕は諦めたように言うと、渡された封筒を開く。そこには――


『ユウト様へ 急にこのような手紙を送りつけて申し訳ありません。


まず初めに謝らせていただきますが、あなたをこのような状況に追い込んでしまい、本当に申し訳ありませんでした。


私がこんなことを言う資格はないかもしれませんが、どうか気を悪くしないでください。


これから私が伝えることは、あなたのお母様に頼まれたことです。


お父様が亡くなられた後、お母様はお一人であなたを育ててきました。


お母様はユウト様のことをとても大切に想っており、いつかあなたが自分の道を見つけた時のために、お金を残しておきたいと常々仰っていました。


そして、今回の件であなたが危険な目に合うかもしれないと思い、お母様が私に頼んできたのです。


もちろん、私もあなたのことが大好きなので、力になりたかったので引き受けさせて頂きました。


もし、迷惑でなければ受け取ってくれると嬉しいです。


そして、できればお礼をさせてください。


お母様の願いを叶えてくださり、ありがとうございます。


お母様はいつもあなたに感謝しており、お会いできる時を楽しみにしています。


追伸:私達はいつでもあなたの味方です。


いつでも私達を頼って下さい』と書かれていた。


「こ、これは一体……」僕は驚きながら、リリアの顔を見る。すると――


「ごめんなさいね……。驚かせちゃって……。でもね……、本当なのよ……。だから、遠慮せずに使ってね」と笑顔で言われた。


(いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや!!)僕は心の中で叫び声を上げていた。


(い、いきなり過ぎないか!? てっきり、何か裏があると思っていたんだけど!? でも、まさか本当にただのお節介だとは思わなかったぞ!? しかも、最後の文面は完全に詐欺だよな!? どう考えても怪しいだろ!? 絶対騙されないぞ!! 絶対に!! 俺は絶対に信じない!!)僕は動揺を隠しながら、頭の中では全力で否定していた。


「ふふっ。ユウト君ならそう言うと思ったわ。別にすぐに返事をしなくても大丈夫よ。ゆっくりと考えてちょうだいね」リリアはそう言うと、僕の頭を撫でてきた。


「えっ? あ、はい……。ありがとうございます……」僕は戸惑うと、小さく頭を下げた。


「それとね、あなたは今日からここで暮らすことになるの。まぁ、部屋には私しかいないから安心してね」彼女はそう言うと、僕の頬に手を添えてくる。


「えっ? ど、どういうことですか?」僕はリリアの手を振り払うと、戸惑いながら尋ねる。


「言葉通りの意味よ。あなたは今日から私と一緒に生活してもらうの。ほら、二人一緒の方が寂しくないし、お互いのことを知ることもできるでしょ?」リリアはそう言いながら、嬉しそうに微笑んでいた。


「えっ? いや、でもですね……。俺は一応男ですよ? いくらなんでも一緒に住むのはまずいんじゃないですか?」僕はそう言って、断ろうとする。だが――


「何が問題あるの? ユウトは私の命の恩人だし、私の大切な人よ。そんな人が困っているのに、何もできないなんて嫌よ。それにね、あなたは女の子にしか見えないし、仮に男の子だとしても関係ないわ。だって、私はユウト君のことが好きになってしまったんだもの。もう止められないわ。私も覚悟を決めたの。ユウト君が私を受け入れてくれるまで頑張るわ!!」彼女はそう言うと、僕を抱き寄せてきた。


「ちょ、ちょっと待ってください! 落ち着いてください!」僕は慌てて叫ぶと、彼女の腕から逃れようとする。だが――


「落ち着くのはユウト君の方よ。いい子だから大人しくしてね。痛い思いはしたくないでしょう?」彼女はそう言って、僕の肩を掴むと、ベッドに押し倒してきた。


「えっと、あの、その、リリアさん? 何をするつもりなんですか?」僕は冷や汗を流しながら、尋ねる。


「あら? ユウト君はこういう経験がないのかしら? なら、私が教えてあげるわね。優しくするから怖くはないわ。だから、力を抜かないさい。分かったかしら?」リリアはそう言いながら、僕の上に馬乗りになった。「えっと、リリアさん?」僕は恐怖を感じて、身体を動かそうとする。しかし――


「動くんじゃないわよ!! 怪我をしたくなかったらじっとしてなさい!!」彼女はそう怒鳴ると、僕の腕を掴み上げてきた。


「ひっ!? は、はいぃぃ!! すみません!!」僕はビクッと震え上がると、情けない声で謝った。


(な、なんだこれ!? なんで俺はリリアさんに怒られているんだ? いや、そんなことよりもこの状況はかなり不味いんじゃないか?)僕は混乱しながらも、必死に打開策を考えていた。


「分かればいいのよ。じゃあ、始めるわね。まずは服を脱がせるわよ。抵抗したら駄目よ? いいわね?」彼女はそう言うと、僕の上着のボタンを外していく。そして――


「ユウト君って可愛い顔をしているわね。食べてしまいたいくらいよ。だから、今だけは許してね」彼女はそう言うと、僕の唇を奪った。


「んぐぅ!? む、むーむむむむむむむ!!!?」僕は突然の出来事にパニックになりながら、必死に暴れようとした。だが――


「うるさいわよ!! おとなしくしなさい!! あんまり騒いだら、殺すわよ!?」彼女はそう言い放つと、僕の首を掴んで締め始めたのだ。


「ひゃ、ひゃい!! すみません!!」僕は反射的に謝ってしまう。すると――


「ふふっ。素直なのは良いことだわ。ユウトはやっぱり賢いわね」と褒めてくれた。


(いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや!! 全然良くないよ!? むしろ逆効果だよ!? 怖いよ!? 誰か助けてくれぇええええ!!!)僕は心の中で絶叫した。


「じゃあ、次は下の方も脱がすわよ。ユウト君は何も心配する必要はないの。全て私に任せれば大丈夫よ。だから、ユウト君はそのままでいなさい。わかったわね?」彼女は僕のズボンを下ろすと、そう言った。


「は、はいぃぃ!! 分かりましたぁああああああ!!」僕は涙目になりながら、叫ぶように答える。


「うん。いい子ね。じゃあ、続きを始めるわよ。ユウト君は何も気にしないで身を委ねていなさい」彼女はそう言うと、僕の首筋に舌を這わせてきた。


「ひゃっ!?」僕は驚いて、声を上げる。


「ユウト君って敏感なのかしら? ふふっ。かわいいわね」リリアはそう言うと、再びキスをして、今度は耳たぶを甘噛みし始めた。


「うっ!? や、やめてくださ――」と僕が言おうとした瞬間――


「やめなさいって言っているでしょぉおおお!! これ以上、私に逆らうようなら本当に殺しちゃうわよ!?」と、今までとは比べ物にならない程の大声で怒鳴られてしまった。僕はあまりの恐ろしさに泣き出してしまう。


「うっ!? ううっ!! ご、ごめんなさ――」僕は謝ろうとしたが、彼女が途中で口を塞いでしまった。そして――


「黙れと言っているのが分からないの!? 死にたいの!? それとも殺されたいの!? さっさと答えなさい!! ユウト君を殺したりなんか絶対にさせないわ!! あなたが死ぬ時は私も一緒よ!! 絶対に一人にはさせられないわ!! ユウト君が死んだりしたら、私も後を追うわ!! それでもいいの!? 答えてみせなさい!!」と、またもや凄まじい剣幕で捲し立てられてしまう。僕はただひたすらに謝罪の言葉を口にしていた。そして――


「はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁは――――――」


「えっ? えっ? えっ? ど、どうしたんですか? リリアさん?」僕はあまりの恐怖に涙を流しながら、彼女に尋ねていた。


「ユウト君が悪いのよ!! ユウト君のせいなんだからね!! ユウト君が私を受け入れてくれないからこんなことになるのよ!! 全部ユウト君のせいよ!! 私は悪くないわ!! ユウト君が私を選んでくれさえすれば、私は幸せになれるの!! だから、早く私を受け入れてよ!! ねぇ、お願いだから私を受け入れてよ!! ユウト君が私を受け入れてさえしてくれれば、私はずっとユウト君と一緒にいるわ!! ユウト君が死ぬまで私は死なない!! ユウト君が死んでも私は後を追って死ぬわ!! だから、ユウト君が私を受け入れてくれるだけでいいのよ!! そうすれば、何もかも上手くいくの!! ユウト君は何も考えなくていい!! ユウト君は私の言う通りにしていればいいのよ!! 分かったわね!?」彼女はそう言い放つと、僕の頭を両手で掴んできた。


「はい!! 分かりました!! だから、殺さないでください!! なんでもしますから、それだけは勘弁してください!!」僕は必死に懇願する。すると――


「ふふっ。いい子ね。じゃあ、続きをするわよ。もう抵抗なんてしないわよね?」彼女はそう言って、僕の顔に自分の顔を近づけてくる。僕は必死に首を縦に振ると、彼女は嬉しそうに微笑んだ。


「ありがとう。ユウトはやっぱり優しいわね。大好きよ。愛してるわ」彼女はそう言うと僕の頬にキスをした。僕はその言葉に恐怖を感じながらも、なんとか耐えようとした。しかし――


「ふふっ。ユウトは可愛い顔しているわね。食べてしまいたいくらいだわ。でもね、それはできないの。だって、まだユウトは私達のことを愛していないんだもの。大丈夫よ。すぐに好きになるわ。私がユウト君をたっぷりと調教してあげる。ユウト君を必ず満足させてみせるわ。だから――今はこれだけにしておいて上げる。じゃあ、始めるわよ」彼女はそう言うと、僕の身体に触れ始める。


(えっ? いや、ちょっと待って!! 嘘でしょ!? いや、無理!! これは絶対駄目だよ!? そんなの駄目に決まっているよ!!)僕は混乱しながらも必死に抵抗しようとしたが、僕の首を掴む彼女の手の力の方が強く、僕は身動き一つ取れなかった。そして――


「ユウトは本当に敏感ね。ユウトは私に触れられると嬉しいんでしょう?」と、彼女は耳元で囁いてきた。


「ち、違います!! そ、そういうわけでは――」僕が否定しようとすると――


「ふふっ。照れなくてもいいのよ。私には分かるわ。それにしても……ユウトの耳は美味しいのね。舐める度にビクビク震えているわよ。もしかすると、ユウトって耳が弱点なのかしら?」彼女は僕の耳に息を吹きかけながら、そう言った。


「ひゃっ!? や、やめてくださ――」僕がそう言うと、彼女は僕の口に指を入れてきた。


「ユウト君。静かにしないと、この口の中に入れている指を奥まで入れるわよ?」彼女はそう脅してきた。僕は慌てて口を閉じた。


「そう。それで良いのよ。ユウト君は何も心配する必要はないの。全て私に任せなさい。だから、ユウト君は何も心配する必要はないの。分かったわね?」彼女はそう言うと、僕の首筋に舌を這わせてきた。


「ひゃっ!? や、やめ――」僕は再び抗議しようとした瞬間――


「黙れと言っているのが分からないのかしら? 死にたいの? それとも殺されたいの!? さっさと答えなさい!! ユウト君を殺したりなんかさせないわ!! あなたが死ぬ時は私も一緒よ!! 絶対に一人にはさせられないわ!! ユウト君が死んだりしたら、私も後を追うわ!! それでもいいの!? 答えてみせなさい!!」


「うっ!? ううっ!! ご、ごめんなさ――」僕は謝罪の言葉を口にしようとしていたが、彼女が途中で口を塞いでしまった。そして――


「黙れと言っているのが分からないの!? 死にたいの!? それとも殺されたいの!? さっさと答えなさい!! ユウト君を殺したりなんかさせないわ!! あなたが死ぬ時は私も一緒よ!! 絶対に一人にはさせないわ!! ユウト君が死んだりしたら、私も後を追うわ!! それでもいいの!? 答えてみせなさい!!」


「えっ? えっ? えっ? ど、どうしたんですか? リリアさん?」アリシアは戸惑った表情で質問してきた。僕は涙目になりながら、答える。


「リリアさんが急に怒り出して、僕のことを殺そうとしてくるんだよ……。助けてくれ……」僕は弱々しくアリシアに助けを求めた。すると――


「リリアさん!! 何をしているんですか!! ユウトさんを殺す気ですか!? 今すぐやめてください!! これ以上、ユウトさんを傷つけたら許しませんよ!?」と、アリシアは大声で怒鳴ると、リリアに向かって走り出した。


「邪魔をするんじゃないわよ!!」彼女はそう叫ぶと、腕を振り上げてアリシアを攻撃しようとする。僕は咄嵯にリリアの前に立ちふさがり、彼女を守るように両手を広げた。


「きゃっ!!」リリアは突然現れた僕を見て驚いたような声を上げる。次の瞬間――リリアの拳が僕の腹部に直撃した。


「ぐはっ!!」僕はそのまま後ろに吹き飛ばされてしまう。僕は地面に倒れ込むと、激しい痛みに襲われていた。


「ゆ、ユウトさん!! だ、大丈夫ですか!? しっかりしてください!!」アリシアはそう言って駆け寄ってくると、僕の上半身を抱き起こしてくれた。


「ああ、なんとかな……」僕は激痛に耐えながら立ち上がると、目の前にいるリリアを見つめる。彼女は僕達の方を睨んでいた。


「ど、どうしてこんなことをするんですか? いくらなんでもやりすぎですよ!! 一体どうしたんですか!?」アリシアは困惑した表情で尋ねると、彼女は――


「別にどうもしてはいないわ。ただ……ユウト君が私の誘いを断ったから、少しだけお仕置きをしてあげただけだわ」と、平然と答えた。


「ど、どういう意味なんですか? 私には全然分かりませんよ……。ユウトさんの身に何があったんですか?」彼女は不安そうな表情で僕に尋ねてくる。僕は――


「えっと……実は――」と、彼女に事情を説明しようとした時――


「ふざけないでください!! ユウトさんはあなたのことが好きなんですよ!? なのに、どうしてユウトさんに暴力を振るうんですか!? ユウトさんを殴ったりしていいと思っているんですか!?」と、アリシアが激怒してしまった。


「あら? 私の事を好きだなんて、随分と自意識過剰な発言ね。そんなわけないでしょう? ユウト君は私の事が嫌いよ。きっと、私の事を恐れているわ」彼女はそう言うと、僕の方に視線を向ける。僕はその言葉を聞いて、思わず泣きそうになってしまう。


(い、いや、違うんだ!! 確かに最初は恐かったけど、今はそんなことはない!! むしろ、僕は君の事が――)僕はそう言いたかったが、口を開くことができなかった。なぜなら――


「嘘です!! ユウトさんは嘘つきです!! ユウトさんは優しい人だって私は知っています!! だから、ユウトさんのことを怖がっているはずがないじゃないですか!!」と、アリシアが僕の言葉を代弁するように反論する。すると――


「はぁっ? あんたこそ、いい加減にしなさいよ!! そんなこと言って、本当はユウト君が優しいって知っているくせに!! ユウト君は私に優しくしてくれるのよ!! ねぇ、ユウト君。そうよね?」彼女はそう言って、僕の腕に抱きついてきた。僕は顔を真っ赤にしながら、首を縦に振る。


「ほらっ! やっぱりユウト君も優しいわよね!! でも、安心して。ユウト君が優しいのは私に対してだけで、他の女には冷たいのよ。だから、ユウト君があなたを好きになるなんてありえないわ。あなたはユウト君の優しさにつけ込んで、自分のものにしようとしているんでしょう?」と、彼女は僕を抱きしめながら、冷たく言った。


(うっ……!? そ、それは否定できないかもしれない……)僕は彼女の言葉に動揺してしまう。すると――


「そ、それは違います!! ユウトさんは本当に優しかったんです!! それに、ユウトさんを悪く言わないでください!! 私にとって、ユウトさんは大切な存在なんです!! だから、ユウトさんのことをそんな風に言われるのは嫌なんです!!」と、アリシアが怒ってしまった。


「ふんっ!! そんなの知らないわよ!! とにかく、ユウト君を返して貰おうかしら? ユウト君が欲しいなら、私を倒して奪い返しなさいよ!! まあ、無理だと思うけれどね」彼女はそう言うと、不敵な笑みを浮かべた。


「わ、私が負けると思ってるんですか!? いいですよ。受けて立ってあげますよ。私が勝ったら、ユウトさんをすぐに解放して下さいね」と、アリシアも挑発的な態度を取る。


(えっ? ちょ、ちょっと待って!? 二人共、喧嘩するつもりなのか!?)僕はそう思いながらも、何もできずに二人のやり取りを見守るしかなかった。そして――


「ふふっ。あなたじゃ私には勝てないわよ。私にはユウト君がいるもの。あなたにはユウト君を奪うことはできないわ」と、リリアは勝ち誇ったような顔で言う。


「いいえ。ユウトさんは渡しません。絶対に私と一緒にいてもらいます」アリシアはそう宣言すると、リリアの方へと歩いていく。


「ふふっ。残念ね。あなたじゃユウト君に愛される資格はないわ。あなたは所詮『ユウト君』の代わりにすぎないのよ。本物のユウト君とは比べ物にならないわ」と、リリアはそう言うと、僕を抱きしめたままその場から離れようとする。だが、アリ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る