攻撃力ゼロ超え回復チート勇者が事件を解決して世界平和になるまで
あずま悠紀
【1】前篇
「歓迎しよう、勇者よ」
「異世界へ、ようこそ」
女神はそう言って、手招きをする。
僕は言われるがままに手を伸ばす――と、その時だ。突如として眩い光が辺り一面を照らし出す!
(え!? なにこれ? なんか……ヤバくない?)
本能的な恐怖を覚えたのもつかの間、光はよりいっそう強くなり視界はホワイトアウトする! *
***
どれほどの時間が経っただろう? 時間の感覚も曖昧でわからないけど……おそらく数十分程が経過したと思う。ようやく視界も落ち着きを取り戻して来る中、僕はある異変に気づく! 先ほどまで目の前に居た筈の女神の姿が見えなくなっていたのだ。それどころか――部屋全体が消え失せているではないか!!
『こ、ここは……どこ?』
混乱する僕の耳に聞こえてくるのは…… 《ようこそ、異世界へと招かれし者よ》 どこからともなく響いて来る声。それは女神様の声とも違うし、そもそも僕には喋る相手などいない筈なのに……。
『誰っ!』
思わず叫ぶと同時に周囲を見渡すが誰も見当たらない。
「どうしたんだい?」
再び響く謎の声。やはり姿はない。
「君は選ばれたんだよ、この世界を救う勇者としてね!」
その言葉を聞いた瞬間、脳裏に浮かんで来たのは"勇者召喚"の文字だった。
『ま、まさか本当に……』
「あぁ、君を呼んだのはこの私さ」
そう言うや否や突然姿を現したのは……なんと人ではなく真っ白な毛玉であった。
『うわっ!!』
驚いて飛び退く僕を見てクスリと笑う白い塊。
「驚かせてすまないね、私は神獣だよ」
『か、神獣?』
聞き慣れぬ単語に戸惑っていると……
「簡単に言えば神の使いってところかな?」
『神の使いですか?』
「そうだよ、そして君のパートナーでもある」
『パートナー?』
ますます意味がわからなくなってくる。
「これから説明するからよく聞いてくれたまえ……」
白い毛玉の言葉によるとこうである。
まず、僕を呼び出したのは間違いなくこの世界の創造主であり全知全能の神と呼ばれる存在らしい。しかし彼は既に寿命を迎えており、新たな肉体を得て転生する事を決めたのだという。そこで白羽の矢が立ったのが僕なのだとか……。
「本来であれば別の人間を呼び寄せる予定だったんだけどねぇ、何の手違いがあったのか誤って君を呼び寄せてしまったみたいなんだよねー」
はははっと笑いながら話す自称・神獣様だが、全然笑えないんですけど……。
「でも安心していいよ、ちゃんとお詫びも用意してあるからさ!!」……お詫び?
「ほら、これあげるよ~」
そう言って差し出されたのは何の変哲もないただの石ころだった。
『……あのぉ……これは一体どういうことでしょうか?』
「だからお詫びだってば! はいどーぞ」
石を手渡されるも困惑していると……
「じゃあ早速だけど説明を始めるね」…………うん? ちょっと待った! 今の説明の中にツッコミどころ満載じゃない!? そんな疑問を口にする前に話し始める自称・神獣様に慌ててストップをかける。
『ちょっ! まってください! 色々と突っ込みたい事が山積み過ぎますよ!! とりあえず質問に答えてもらえませんかね? そもそもあなたはいったい誰でここは何処なんですよ?』
「おっと! そうだったね。私の名は【オーディン】という。ここは天界と呼ばれている場所だね」
『……てんかい?』
聞いた事のない地名に首を傾げると……
「まぁわかりやすく言えば天国のような所だと思えば間違いないよ!」
自信満々で答えるけど……いや、やっぱりおかしい!絶対におかしいよっ!!こんな真っ白いもふもふな物体が神様なわけないし!第一それって死んでんじゃん!!……いやまて落ち着け自分!もしかしたらコイツは偽物かも……いや絶対そうだろ!こんな馬鹿げた事を言っている時点でヤバすぎるって!!……なんて考えを巡らせていると再び目の前の物体が話しだす。
「ちなみに君も死んだんだよ」……へ? はい?
『えぇー!!!』
「あっ大丈夫だよ! ただの死とは違うからね!!いわゆる仮死状態っていうヤツかな?」
『そ、そうなんですか……』
ホッとしたようなガッカリしたような複雑な気持ちになる。
「それにしても君面白い反応するね。普通ならここでパニックになって泣き喚くものなのにさ。もしかしてそういうの好きなの?」
『いやいやいやいや!! 好きどころかむしろ嫌いですよっ!』
「あれれ? 変だなぁ。私が読んだ本では皆喜んでたのに……」
『それは小説の話でしょうがっ!』
「でも実際問題どうするの?」
『どうするとは?』
「このまま地上に降りても死ぬだけだし、生き返る方法はないんだよ?」
『マジですかっ!』どうしよう……いきなり詰んじゃってるし……。
「だから提案があるんだけど……」
『はい、なんでしょうか?』
「私と契約しない?」
『契約ですか?』
「そう、君にはこの世界を救う勇者となってもらうんだ!」
『勇者ですか……』
「そうだよ、君は選ばれたんだよ!」
『それは……なんとなくわかりました。ですけど僕なんかより適任がいると思うんですけど?』
「あぁ、その辺については心配要らないよ。君にしか出来ない仕事なんだからさ」
『は、はぁ……それで具体的には何をすれば良いんでしょう?』
「なに簡単だよ。まずはこの世界を救ってくれればOKさ!」
『えっと……それだけですか?』
「あぁ、それだけさ」
『…………』
「……どうしたの? 何か不満な点でもあったかな?」
『いえ、その……本当に僕でいいのかなって』
「どうしてだい?」
『僕は普通の高校生なんですよ? 剣も魔法も使えないし、特別な力だって持っていません』
「あぁ、その点は気にしないでいいよ。君はただ勇者として召喚されたってだけで、勇者の力とかは無いからね」
『無いのですか?』
「あぁ、だから何も気負う必要はないよ」
『……そうですか』
「納得してくれたみたいだね。じゃあ改めて聞くよ、私と契約するかい?」
『はい、よろしくお願いします!!』
「そうか、ありがとう。これで契約成立だよ。それじゃあこれからよろしく頼むね」
『こちらこそよろしくお願いいたします!』
こうして僕と神獣オーディンとの奇妙な共同生活が始まったのだった。
***
「……という訳で、僕が勇者として召喚されたのはいいのですが……」
「……まさか、また女神様がいらっしゃるとは思いませんでした」
「はい、私としても想定外の出来事でして……」
「まぁ、仕方ありませんね。今回は私も悪かったと思っています」
「いえ、そんな事はございません。今回の件は全て私の不徳が原因でございます」
「ふむ、そうですか。ではお互い様ということでよろしいですね?」
「はい、勿論にございます」
「ところで……この子達は?」
「はい、実は――」
《おい、いつまで待たせるつもりだよ!》 突如響いて来る声に思わず振り返ると、そこには先ほどまでの光景とは打って変わり、大勢の人達の姿があった。
「こ、これは……?」
「おぉ、無事に成功したようじゃのう」
驚く僕に声を掛けて来たのは、真っ白な髭を蓄えたおじいさんだった。「あの、あなた方は?」
「ほっほ、わしらは神じゃよ」
「神……ですか?」
「うむ、お主をここへ呼んだ張本人じゃ」
「そう、なんですか……」
「お主を呼び出したのは他でもない、この世界の為じゃ」
「この世界の……ため?」
「うむ、この世界に危機が迫っておる。それをお主に助けて欲しいのじゃ」
「僕が……ですか?」
「うむ、頼めるかのぅ?」
「はい、僕で良ければ是非とも協力させて下さい!」
「おお、ありがたい!」「じゃあ早速、ステータスの確認をするよ」
『はいっ』
「よし、準備ができたようだね。ではいくよ」
そう言うと神を名乗る老人は僕の額に手を当てて呪文のようなものを唱え始めた。
「我、神の名の下に汝を鑑定す」
すると突然、頭の中に文字と数字が流れ込んで来た。
======
名前:神崎
光 性別:男
年齢:15歳
種族:人間族
レベル1 職業:学生
体力:50/50
魔力:25/100
攻撃力:10
防御力:20素早さ:5
賢さ :30
精神力:45
運 :80 特殊スキル 【言語変換】【全属性耐性】【アイテムボックス】【経験値増加】【獲得経験値低下】【成長促進】【自動回復】【全能力向上】【限界突破】【神の加護】【全才能】【無限の可能性】【完全隠蔽】【無詠唱】【剣術】【格闘術】【槍術】【弓術】【盾術】【棒術】【斧術】【鞭術】【杖術】
固有スキル 【身体強化】
称号 神の使徒 異世界人 女神のお気に入り 選ばれし者 努力家 精霊王の友 竜の相棒 聖女の師匠 武王の弟子 商人の卵 魔導士の卵 盗賊の卵 魔法使いの卵 農民の卵 農家の卵 魔物使いの卵 狩人の卵 錬金術師の卵 料理人の卵 薬師の卵 鍛冶師見習い 木工職人 裁縫師 大工 建築士 料理研究家 調合師 付与師 占い師 予言者 神獣の友 神獣の主 神獣の契約者 神獣の騎士 神獣の王 英雄の器 大魔王の盟友 魔族の天敵 龍殺し 魔獣の天災 迷宮踏破者 迷宮管理者 ダンジョンマスター ダンジョンコア所持者 迷宮守護者 ダンジョンマスター 神獣の祝福 神獣の寵愛 精霊の親愛 精霊の恩寵 妖精の祝福 神々の注目 精霊神の興味 風精の庇護 雷精の祝福火精の恩恵 水精の慈悲 土精の慈しみ 植物神の恵み 氷精の友情 光の導き手 闇精の絆 闇の導き手 星屑の探求者 月影の使者 太陽の化身 生命の神髄 進化の種 転生の鍵 魂の番人 運命の出会い 幸運の女神の微笑み 豊穣の守り神 農業の守護神 商業の守護神 軍神 闘神 死神の誘い 邪神の誘惑 神獣の知恵 神獣の祝福 契約紋 精霊の加護
『えっと……これって……』
「あぁ、おぬしは"特別枠"ということらしいな」
『特別枠?』
「うむ、通常の人間はこんなに多くの特性を持ってはおらん。だから色々と面倒なんじゃ」
『はぁ』
「まぁ、よい。それよりも次は装備じゃな」
そう言って老人は僕に向かって手をかざすと、今度は頭の中でイメージが浮かんでくる。すると目の前には様々な武器や防具が現れる。
「さぁ、好きな物を選ぶがよいぞ!」……えっと、どうしようかな? とりあえず剣にしてみるか……。僕は剣を手に取ると、試しに軽く振ってみた。すると、まるで自分の腕のように剣が動き、目の前にいたゴブリンを一刀両断にした。その瞬間…… ピコーン! レベルが上がりました。
レベルアップしました。
レベルアップしました。………………「おぉ、凄いのぅ! もうレベルが上がったのか!」
『はい、どうやらそうみたいです』
「うむ、なかなか筋が良いの。その調子ならすぐにでも強くなるじゃろう」
『そうですか? でもまだまだ先は長そうですけどね』
「ほっほ、そうかもしれんの。だが焦らずとも大丈夫じゃよ。お主はまだ若い。時間はたっぷりあるのだからな」
『はい、そうですね』
「では、そろそろ本題に入るとするかの」
『はい』
「まずはお主にやって貰いたい事を説明する」『はい』
「まずは――」
こうして僕は神と名乗る老人から色々な説明を受けた。その内容は驚くべきもので、僕はその内容に驚愕した。
『ちょ、ちょっと待って下さい! それってつまり――』
「うむ、お主には世界を救う勇者になってもらう」
『マジですか……』
「うむ、まじじゃ」
『……』
「お主なら出来ると信じておる」
『……』
「頼む!」
『はぁ……わかりました。やってみます』
「おお、ありがたい! これで助かるわい!」
『それで……具体的に何をすればいいんですか?』
「うむ、実はのう……」
それから暫くの間、僕達は話し合いを続けた。そして話も纏まったところでいよいよ出発となった。
『あぁ、そうだ。一つだけ質問があるのですが……』
「うん?」
『どうして僕なんでしょうか?』
「ふむ……」『すみません。変なことを聞いてしまったみたいで……』
「いやいや、謝る事はない。むしろ当然の疑問だと思うからの。そうじゃのう……」
そう言うと老人は少し考え込むような仕草を見せた後でこう言った。
「それはの、わしらが選んだ訳ではないからだ」
『どういうことですか?』「わしら神にも選ぶ権利はある。しかしわしらは人間の味方ではない。わしらはあくまでも中立の立場なのじゃ」
『な、なるほど……』
「じゃが、今回の件に関しては事情が違う。わしらは今回の件に関してのみ、お主らの味方をする」
『はい、ありがとうございます!』
「まぁ、そうは言っても……今回の件に関わっておるのは、お主と……あとは一人だけだ」
『そうなのですか……』
「まぁ、お主には関係のないことだ。気にすることはない」
『は、はぁ……』
「では、改めてお主には世界を救って欲しい」
『はいっ!』「うむ、頼んだぞ!」
そうして僕の異世界生活が始まった。
***
「……という訳で、今に至るんだけど……」
「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……。」……………………。………………。………………。…………。……。
***
《おい、いつまで待たせるつもりだよ!》 突然響いて来る声に思わず振り返ると、そこには先ほどの光景とは打って変わり、大勢の人達の姿があった。
「こ、これは……?」
驚く僕に声を掛けて来たのは真っ白な髭を蓄えたおじいさんだった。
「ほっほ、驚かせてすまんかったのぅ。これが本当の姿なんじゃよ」『本来の姿で失礼します』……な、なんだ!? 突然聞こえてきたのは女の子の声だ。しかもどこか聞き覚えのある声で――あれ? この声ってもしかして……?
『はい、私ですよ』!!!!!????????????? な、何が起きてるの? 混乱している僕に向かって白い髪の少女が話し掛けてくる。
『お久しぶりですね。神崎さん』……やっぱり!!
『えぇ、あなたの知っている通り私は女神です』
ま、まさか本当に神様なのか?
『ええ、そうです』
そんな馬鹿な!
『信じられないのも無理ありません。ですが、あなたは確かに私の加護を受けている筈です』
はぁ? 加護? 一体なんのことだろう? それにしても、相変わらず綺麗な子だなぁ。こんな子が妹とかマジで最高じゃん!
『あ、あの……』……ん?
『あ、いえ、なんでもありません……』……???????……あ、それより今はこんな事を考えている場合じゃない!
『えっと、それで……僕はどうしたらいいんですか?』
僕は目の前にいる少女に尋ねた。すると彼女は一瞬だけ困った表情を浮かべた後でこう答えてくれた。
『とりあえずはこのままで構いません。それよりもまずは自己紹介をしましょう』
『はい』『では改めまして初めまして。私がこの世界の女神です』
『はい、よろしくお願いします』『こちらこそ』……って、ええええええ!!! こうして僕は異世界にて新たな人生を歩み始めた。
僕の名前は神崎優斗。年齢は16歳。どこにでもいる普通の高校生である。ただ一つ違うところがあるとすれば――僕は転生者だということだろうか。
***
僕は前世の記憶を持っている。それも普通とは違う特殊な記憶だ。そのせいか僕は小さい頃から自分が他の人と少し違っている事に気付いていた。だから周りの人間からは気味悪がられ、ずっと孤独に生きて来た。だけど……そんなある日、運命の出会いが訪れた。それが妹の美月との出会いだった。彼女と出会った事で僕の人生は大きく変わったのだ。
美月はいつも明るく元気で、誰からも好かれるような可愛い子だった。でも僕は彼女のことをよく知らない。彼女がどんな風に過ごしているのか? 友達はいるのか? 家族はどう思っているのか?……僕は何も知らなかった。だから僕は彼女ともっと仲良くなりたいと思った。だから僕は勇気を出して彼女に話しかけることにした。最初は緊張したけど、次第に慣れて来て、今では毎日のように一緒に登校するようになった。学校に行く時も帰る時も一緒。僕にとってそれは幸せな時間だった。でも、ある時を境にそれは終わりを告げる。それは美月が僕以外の誰かと楽しげにしている姿を見かけた事が原因だった。その時から僕の心には黒い感情が生まれていた。そして、それは徐々に大きくなっていき、やがて僕の心を蝕んでいった。その結果、僕が取った行動が彼女を傷付けるものだったなんて思いもしなかった。
***
ある日の放課後、僕が教室で帰り支度をしていると一人の男子生徒が僕の元にやって来た。彼は僕のクラスメイトで名前は田端正樹というらしい。クラスの中でも目立たない存在であまり話したこともなかったから正直驚いた。そして、彼もまた僕と同じように一人で居ることの多い生徒だった。どうして彼が僕の元へ来たのかというと、それは彼の口から語られた。
『なぁ、お前ってさ……美月に何か恨みでもあるの?』……は?
『な、なんの話かな……?』
『惚けるなよ……俺見たんだよ』
『な、何を……?』
『お前と美月の関係だよ』……はぁ、面倒くさいことになったなぁ……
『ねぇ、それなら君に関係ある話なのかい?』
『ああ……あるね』
『ふーん……』
『それで?』
『単刀直入に聞くけど……あんたがやったんだろ?』
『はぁ?』
『しらばっくれんなって! 俺は全部知ってるんだぜ?』
何を言ってるんだコイツは……。まぁいいや、適当に誤魔化しておくか……。
『いやいや、何を根拠に言ってるんだい?』
『ふんっ! あくまでシラを切るつもりか……いいだろう。そこまで言うのならば教えてやる』
『いいか、良く聞け! まずは……そうだな、お前が美月と一緒に帰ってる所を見た奴がいる。それから、最近じゃあ二人で登下校してるところをよく見かける。そして極めつけは昨日だ。二人揃って遅刻してきたのは偶然じゃなかった。お前が美月を無理やり連れ出したに違いない』……い、言い掛かりもいい加減にして貰いたいなぁ。
『へぇ……随分と面白い話を聞かせてくれるじゃないか』
『なんだと……!』
『まぁ、待ってくれよ。そもそもどうして君はそう思ったのかい? もしかしたら勘違いかもしれないよ』
『ふん、そんなの決まってるだろ。今朝、お前が美月からラブレターを受け取ったのを見てたからだ』……なるほど、そういうことか。まったく……余計なことしてくれるなぁ。
『……』
『まぁ、そう睨むなよ。別に責めようって訳じゃないんだ』
『……』
『なぁ、頼む! あいつの気持ちに応えてやってくれないか? あいつは本気でお前のことを想っているんだ』
『悪いんだけど、君の頼みを聞くつもりはない。それに――もう遅いんだ』
『どういう意味だ……?』『そのままの意味だよ。僕は美月のことが好きだ。誰にも渡したくないぐらいに……』
『そっか……残念だよ。でも安心してくれ。美月には俺の方からちゃんと言っておく』
『……好きにすれば良いよ』
『おう、ありがとよ』………………ったく、本当に迷惑な男だな。
こうして僕達の奇妙な関係は始まった。
***
『な、なぁ……ちょっと聞きたいことがあるんだけど……』
『なに?』
『その……もし良かったら、今日も一緒に帰らないか?』
『……ごめん、無理なんだ』
『ど、どうしてもダメなのか……?』
『うん、ゴメン……』
『わかったよ……また明日な』
『……』……はぁ、これで何人目になるのだろうか? 最近はずっとこんな感じだ。おかげでクラスの連中からは変な目で見られるし、女子達からの視線も痛いしで散々だ。まぁ、元々一人ぼっちだったし、気にする必要もないのだろうけど……。それにしても、まさかここまでしつこいとは思ってもいなかった。でも、それも仕方のないことだ。だって、今までは告白された相手が全員美月狙いだったわけだし……。
『なぁ、お前は本当に美月のことが好きじゃないのか……?』
『だから何度も言ってるでしょ? 僕に妹なんかいないし、興味も無い』
『でも……』
『うるさいなぁ……』
『ひっ……』
『これ以上付き纏うようなら容赦しないよ?』
『わ、分かったよ……』
『なら、さっさと消えてくれ』
『あ、あの……』
『まだ何か用があるの?』
『い、いえ……なんでもありません』
『……』
『す、すみませんでした……』……全く、これだから男は嫌いなんだ。僕のことを怖がってばかりでちっとも話が進まない。でも、この男が諦めないお陰で僕は毎日のように呼び出されては断ってを繰り返す日々を送っている。正直、ウンザリしているけど、美月のためだと思うと我慢できた。でも、それも限界に近づいている。この調子だといつかバレてしまうかもしれない。そうなった時、きっと美月は悲しんでしまうだろう。それだけは絶対に避けたい。だから僕は覚悟を決めた。
「ねぇ、お願いがあるんだけど……」
「どうした?」
「実はさ……美月のことなんだけど」
「美月がどうかしたのか!?」
「えっと……その、僕と美月は兄妹なんだよね。それでさ、僕達はお互いに干渉しないようにって約束してたんだ。だから、これからも美月に近づかないようにして欲しいんだ」
「え、ええ……そ、それはつまり、美月を諦めろということか……?」
「うん、そうだね。僕も美月のことは大好きだけど、兄として妹の幸せを願うのは当然だと思ってる。だからさ、お願いできないかな……?』
「……分かったよ。俺も美月を傷つけるような真似はしたくないしな……でも、最後に一つだけ聞いても良いか?」
『なに?』
「美月は……美月はお前のことをどう思っているんだ? やっぱり……その、異性としては見てくれないのか……?」
『さぁね……』
「そうか……でも、俺は諦めないからな!」
『勝手にすればいいよ。でも、無駄なことはやめた方が良いと思うけどね』
「それはやってみないと分からないだろ。じゃあな、俺は帰るよ。またな……美月の兄さん」
『さようなら……』…………
『はぁ……』
『疲れましたか?』
『まぁ、少しは……』
『では、少し休みましょう』
『ありがとうございます』
僕は女神様の提案を受け入れ、しばらくの間は身体を休めることにした。すると――
『神崎優斗さん』『は、はい!』
『あなたは転生者です』
『ええ、そうですね』
『そして私は女神です』
『はい、そうみたいですね』
『そして、あなたの目の前にいるのは私です』
『はい、そうみたいですね』
『では――』
『ちょ、ちょっと待ってください!』『はい?』
『どうして急にそんな事を?』
『どうしてと言われましても……』
『いや、別に答えられないならそれでも構いませんが……』
『わかりました。理由をお話しします。それは――私が退屈だったからです』
『はぁ……』
『私は暇なんです。なので、こうして遊び相手を探していたのですが……どうにも上手くいきませんでした』
『まぁ、普通は信じられませんからね』
『そこで、私は思いつきました。そうだ! 異世界に行こうと』
『はい? 異世界……ですか?』
『はい! ちょうどいいことに私の管理する世界には困っている人が多くいます。そこに救世主が現れれば、人々は歓喜することでしょう。そして、感謝されることでしょう。まさに一石二鳥ではありませんか!』
『はぁ……』
『それに、せっかくのチャンスなんですよ? それをみすみす逃してしまうなんて勿体無いと思いませんか?』
『確かにそうかもしれませんね』
『という訳で、よろしくお願いいたしますね?』
『……はい、分かりました』
『ふふふ、ありがとうございます。それでは早速、向こうの世界について説明させていただきますね』
『はい、お願いいたします』
『まず、あなたがいた世界とは別次元に存在する世界となっています。よって、言語や文化も違ってきます。例えば……そうですね、魔法という概念が存在しない世界もあります』
『な、なるほど……』
『他にも、魔物と呼ばれる生物も存在しています。しかし、人間を襲うような危険な存在はいませんのでご安心下さい』
『そうなんですね』
『それから――』……
『――以上で簡単な説明は終わりとなります。何か質問などはございますでしょうか?』
『あ、はい。大丈夫です』
『そうですか。ところで、こちらの世界に持って行きたいものはありますか? ある程度であれば融通を利かせてあげることができますが……』
『いえ、特にありません。強いて言うのならば……平穏な日常を送れるだけの力があれば十分だと思います』
『そうですか。わかりました。他には何か?』
『あ、あと……美月を幸せにしてあげて欲しいんです』
『美月様を……?』
『はい。美月は僕の大切な妹なんです。美月が笑顔で過ごせるように見守っていて欲しいなって……』
『そうでしたか……わかりました。お任せください』
『ありがとうございます!』
『いえ、これも仕事の内ですよ。それと……これを渡しておきます』
『これは……』
『それは転移用の指輪になります。指にはめて念じることでいつでも元の場所に戻ることが可能になっています』
『なるほど……ちなみにどんな効果があるのでしょうか?』
『それは、使用者の能力に応じて変化するようになっております』
『なるほど……』
『それではそろそろ時間が迫ってきてしまいましたので、この辺りで失礼致します』
『あ、はい。色々と教えていただいて本当に助かりました』
『いえ、それでは行ってらっしゃいませ』
こうして僕は異世界へと旅立ったのだ。
***
『ん……ここは……』目が覚めると僕は見知らぬ部屋の中に居た。
『あら、起きたようね』部屋の奥の方から女性の声が聞こえてくる。
『あ、あの……ここはどこなんでしょうか?』僕は恐る恐る声の主に声をかける。すると――
『ここは王都にある宿屋よ』
『はぁ……あの、それで僕はどうしてここに居るんですか? それに、あなたは一体誰なのでしょうか?』『まぁ、そんなに慌てる必要はないわ。順番に説明するから、落ち着いてちょうだい。ほら、こっちに来て座って頂戴。話はそこからよ』
『は、はい……すみません』
『謝る必要は無いわ。さぁ、早く来て』
『わかりました』僕は女性の言われるがままに椅子に腰掛けると、彼女もまた向かい側の席に座り込んだ。
『それではまず自己紹介をさせてもらうわね。私はレイナ・アリスティリカよ。年齢は二十歳。職業は冒険者をやっているわ』
『えっと……神崎優斗です。年齢は同じぐらいだと思います。学生やってます』
『ユウトね……良い名前じゃない』
『あ、あはは……。ところでレイナさんは僕を助けてくれたんですよね?』
『ええ、その通りよ。森で倒れているあなたを見つけたの。だから、ここまで運んで来たのよ』
『あー……そうだったんですね……。えっと、その……助けてくれて本当にありがとうございました』
『気にしないでいいわよ。それより……本当に記憶を失っているの?』
『はい……。自分のこともよく覚えていなくて……気が付いた時には森の中で一人倒れていました』
『そうだったのね……』
『あの……もしかしたら僕の住んでいた場所とか分かるかもしれないので、もし良かったら案内していただけないでしょうか?』
『それは構わないけど……あまり期待しない方がいいと思うわよ?』
『えっ?』
『だって、あなたが着ていた服は明らかにこの国の物ではなかったもの。それに……その格好じゃ目立つし……』
『あっ……』僕は今の自分がどのような姿をしているのかを思い出した。そうだ。僕ってば……今、裸じゃないか!! しかも女の子の前で!! やばいやばいやばい……こんなの恥ずかしすぎるよぉ~!
『どうやら思い出してくれたみたいね。それで……どうするの?』
『うぅ……とりあえず服を着たいです』
『分かったわ。それなら私の貸してあげるから着替えなさいな』そう言って彼女は立ち上がると部屋の隅に置かれていた鞄を手に取り、中から衣類を取り出し始めた。そして――
『はい、これを着て』
『あ、ありがとうございます』僕は彼女に渡された衣服を受け取ると急いで袖を通した。
『うんうん、サイズは問題なさそうね』
『あ、はい。大丈夫だと思います』
『そういえば……どうしてあんな所で一人で倒れていたのかしら?』
『それが……分からないんです。どうしてあの森に居たのかも……』
『そうだったの……まぁ、今はゆっくり休んで体調を整えておきなさいな。まだ疲れが残っているでしょうし』
『はい、ありがとうございます』僕は改めて感謝の言葉を口にすると、彼女が用意してくれていた食事に手をつけ始めるのであった。………………『ふぁぁ……美味しかったぁ』
『それは何よりだわ』
『はい! すごくおいしくて感動しました!』
『ふふ、喜んでもらえて嬉しいわ。さて、そろそろ寝ましょうか。明日は忙しい一日になるだろうしね』
『え、ええ……そうですね』
『それじゃあ、私は先に休むことにするわね。おやすみ、ユウト』
『はい、おやすみなさい』そうして――夜は更けていくのであった。
***
翌朝――
『ふぁぁ……おはようございます』
『おはよう、よく眠れたかしら?』
『はい! おかげで元気いっぱいです!』
『それはよかったわ。それなら早速だけど、出かけましょうか』
『はい!』こうして――僕達は王都に向けて出発したのである。
***
『ここが……王都ですか……』
『そうよ。まぁ、そこまで大きな街ではないけれどね』
『そうなんですね。でも、活気があって賑やかな感じがします』
『まぁ、この街は国の中心でもあるからね。色々な人が集まってくるのよ』
『へぇ……そうなんですね』
『ところで、まずはギルドに向かうつもりなのだけど……いいかしら?』
『は、はい。構いませんが……どうしてですか?』
『昨日も言ったでしょう? あなたの身元を調べるためよ』
『あぁ……そうでしたね』
『それに、冒険者登録をすればお金を稼ぐこともできるからね。一石二鳥でしょう?』
『な、なるほど……』
『それとも、他に何かしたいことがあるのかしら?』
『いえ、特にありません』
『それなら決まりね。それじゃあ、行きましょうか』
『はい!』そうして――僕たちは街の中央に位置する建物に向かって歩き出した。
『これが……ギルドなんですね』
『そうよ。まぁ、見ての通り小さなところだけどね』
『はぁ……』
『それじゃあ、早速入るとしましょう』
『はい』そして――僕とレイナさんは建物の中へと足を踏み入れた。
『あ、あの……何か凄く見られてませんか?』
『そうね……多分、私が原因だと思うわ』
『レイナさんのせいですか?』
『ええ、そうよ。ほら、あれを見てみなさいな』そう言ってレイナさんが指差す方向を見てみると――そこには掲示板があり、沢山の紙が貼られていた。
『あの張り出されている紙に書かれている内容が依頼書なの。つまり、ここに来れば依頼を受けることができるという訳よ』
『な、なるほど……』
『それで、私が注目して欲しいのはあそこよ』そう言うと、今度は受付のカウンターを指差し始めた。
『あそこに居る人が受付嬢よ。困ったことがあったら彼女に相談すると良いわ』
『わかりました』『さて、そろそろ行きましょうか』
『あ、はい!』僕は彼女の後を追うようにして奥の部屋へと向かった。
***
『それでは、こちらの書類に必要事項を記入して下さい』
『は、はい……』僕は差し出された用紙に目を通していく。
『えっと……名前は神崎優斗で年齢も同じで……住所は……』
『ユウト、それは必要ないわよ』
『えっ?』
『だって、あなたは記憶を失っているのだから……』
『あ、そうでしたね……』
『それなら仕方がないわね。私の方で適当に書き加えておくとするわ』
『はい……お願いします』
『ええ、任せておいて頂戴』
『あ、あと……職業は何て書いておきます?』
『そうねぇ……』
『やっぱり、無難なところで剣士でしょうか?』
『そうね。それが一番いいと思うわ』
『わかりました。それで、後は何を書けばいいんですか?』『そうね……』
『あの、職業欄は空けておいた方が良いんでしょうか?』
『いえ、そこは正直に書くべきよ。職業は嘘を書いてもすぐにバレてしまうからね』
『な、なるほど……』
『それに、職業の恩恵は馬鹿にならないからね。例えば……魔法使いとかだと魔力が上昇するし、戦士だったら攻撃力が上がったりもするのよ』
『ほ、本当なんですか!?』
『ええ、間違いないわ。ただ、その職業に就くためにはそれなりの才能が必要になるんだけどね』
『えっと……僕は魔法の才能があるってことなんですか?』
『さぁ……どうかしらね? とりあえず試してみると良いんじゃないかしら?……はい、これで書き終えたわよ。確認してくれるかしら?』
『あ、はい!』僕はレイナさんから渡された用紙を確認する。すると――そこにはこう書かれていたのだ!
***
名前:神崎優斗(男)
種族:人間族・異世界人
年齢:15歳・18歳
性別:女・男
職業:無し・剣豪・大魔導士・聖騎士・賢者・魔術師・神官・盗賊・格闘家・弓使い・狩人・忍者・暗殺者・商人・錬金術師・鍛冶職人・料理人・調合士・薬剤師・農民・大工・木こり・炭鉱夫・薬師見習い・農家見習い・釣り人・漁師見習い・裁縫師見習い・木工細工師見習い・彫金師見習い・料理長見習い・執事見習い・メイド見習い・庭師見習い・花屋見習い・魚屋見習い・肉屋見習い・八百屋見習い・パン屋見習い・酒場マスター見習い・宿屋マスター見習い・雑貨屋見習い・鍛冶屋見習い・宝石商見習い・武器防具店店主見習い・服飾品店店主見習い・飲食店店長見習い・道具屋店主見習い・武具屋店主見習い・服屋店主見習い・靴屋店主見習い・宿経営者見習い・食堂経営責任者見習い・菓子工房オーナー見習い・カフェ経営リーダー見習い・料理店オーナー見習い・酒蔵管理者見習い・酒造担当者見習い・酒屋店主見習い・レストランシェフ見習い・コック見習い・調理場スタッフ見習い・調理補助者見習い
――以上 ***……って、何だよこれぇぇぇ!!!! えっ? これってどう考えてもおかしいよね? 何で僕がこんなにも色々とできるようになってるの? ってか、何でこんなことになってんだよぉぉぉぉ!! 僕は心の中で絶叫していた。
『あら、ずいぶんと沢山の職業を持っているのね』
『いやいやいや、ちょっと待ってくださいよ! こんなの絶対変ですよ!!』
『そう言われても……実際にそうなっているのだし、どうしようもないでしょう?』
『そ、そうかもしれませんけど……』
『まぁ、細かいことは気にしない方がいいわよ。ほら、それよりも早く冒険者としての登録をしましょうよ』
『うぅ……はい』僕はレイナさんの言葉に従い、受付嬢の元へと向かうのであった。
『あの……すいません』
『はい、どのようなご用件でしょうか?』
『あ、あの……この紙に書いた通りでお願いしたいのですが……』
『ええ、もちろん大丈夫です。それでは、お名前を聞かせていただけますか?』
『あ、はい。ええっと……か、神崎ユウトと言います!』
『カザミユウト様ですね。それでは、お預かりいたします』そう言うと受付嬢は手元にある機械のようなものを操作し始めた。
『ええっと……ユウトさんは……15歳で男性で年齢は……』
『ちょ、ちょっと待って下さい! どうしてそんなことが分かるんですか?』
『それは、ユウトさんのステータスを確認したからです』
『す、ステータスですか?』
『はい。ギルドカードには所持者の能力やレベルなどが表示されるようになっているんですよ』
『へぇ……そうなんですね』
『それじゃあ、ユウトさんの能力を確認していきましょうか』
『あ、はい。よろしくお願いします』
『まず最初に、ユウトさんは先ほど言われたように複数の職業に就いていますね』
『はい、そうなんです』
『まずは職業の方から説明していきましょう。職業の恩恵は――』
『あの……レイナさん』
『何かしら? 分からないことでも出てきたのかしら?』
『いえ、そういう訳ではないんですけど……』
『それじゃあ、何かしら?』
『あの……職業の恩恵というのはどういう意味なんでしょうか?』
『え? まさか……知らないの?』
『は、はい……』
『ふむ……まぁ、それもそうか。それなら仕方がないわね。いいわ、教えてあげる』
『ありがとうございます!』
『それじゃあ、説明するわね。職業にはそれぞれに特殊な効果が付与されているのよ』
『特殊ですか?』
『ええ、そうよ。例えば――魔法使いなら魔力が上昇したりとかね』
『ほ、本当ですか!?』
『ええ、本当よ。ただ、その効果は職業のレベルによって変動するのだけどね』
『えっと……ということは、僕の場合は?』
『そうね。ユウトの今のレベルではそこまで大きな上昇はないと思うわ』
『そ、そうですか……』
『でも、安心して頂戴。あなたは今の時点でも十分に凄いんだもの』
『えっ?』
『だって、あなたはたった一人であの魔物を倒したのよ。それだけで十分過ぎるくらいに凄いことなのよ』
『あ、あれはレイナさんが助けてくれたから……』
『確かに私のサポートがあったのは事実よ。だけど、あなたが居なければ私は間に合わなかったかもしれないわ』
『そ、そうでしょうか?』
『ええ、だから自信を持ちなさい。あなたは決して弱くなんかないのだから』
『あ、ありがとうございます!』
『いえいえ、いいのよ。それじゃあ、話を戻すけれど……あなたの職業についての説明を続けるわね』
『あ、はい!』僕は姿勢を正すと、彼女の話に集中することにした。
***…………とまぁ、こんな感じで僕は全ての職業についての話を聞いた訳だけれども……正直言ってあまり理解できなかった。というのも、そもそもの話として僕はそういった類のゲームをやったことがないのだ。なので……正直に言うと、彼女の言っていることが本当に正しいことなのか判断することができないでいる。
(まぁ、レイナさんは嘘を吐くような人じゃないし……多分、本当なんだとは思うんだけど……)
それでもやはり半信半疑になってしまうのは仕方がないことだろう。
『それでは、これで登録作業は終了となります。こちらがユウトさんの冒険者カードになります』
『あ、どうも』そう言うと受付嬢から手渡されたカードを受け取って確認してみる。すると――そこには僕の名前が書かれていて、更には色々な情報が表示されていた。
『これが……冒険者カード……』
『そうよ。それがユウトが冒険者になった証でもあるわ』
『なるほど……』『それで……これからどうするの? もうすぐ日も暮れる時間になるけど……』
『あっ、そういえば……今日泊まる場所を決めていないんでした』
『だったら、私の家に来るといいわ』
『え? いいんですか?』
『ええ、構わないわよ。それに……その様子だと行く当てもなさそうだしね』
『あ、あはは……その通りです』
『それじゃあ、早速行きましょうか』
『はい!』僕はレイナさんの後に続いて部屋を出る。そして……そのまま彼女の後を追って歩いていく。しばらく歩くと……レイナさんは一軒の家の前で立ち止まった。
『ここが私の住んでいる家よ』
『ほ、本当ですか!?』
『ええ、本当よ。さぁ、中に入ってちょうだい』
『あ、はい! お邪魔します!』
『あら、別にそんなに畏まった言い方をしなくても良いのよ? ここはあなたにとっても自分の家にするつもりなのだから』
『えっ? 僕の……ですか?』
『ええ、そうよ。だから遠慮なんてせずに、もっと気楽にしてもいいのよ』
『は、はい! 分かりました!……ん? ちょっと待ってください! ってことは……この家は……』
『ええ、私が買ったのよ』
『そ、そうだったんですね……』
『どう? 少しは驚いたかしら?』
『い、いえ……何というか……予想していたよりも普通だったので』
『ふーん……そう』
『す、すいません……』
『謝る必要はないわよ。まぁ、とりあえず上がってくれるかしら?』
『はい、わかりました』僕はレイナさんの家に上がる。家の中は綺麗に片付いていて、とても過ごしやすそうな空間になっていた。
「あ、あの……この家は……」
「ええ、元々は宿屋を経営している知り合いが持っていた物件らしいんだけどね」
「あ、そうなんですか?」
「ええ、なんでも宿屋を経営していた知人が亡くなってしまったらしくてね。それから誰も住まないままに放置されていたみたいなのよね。だから、それを買い取ったのよ。もちろん、宿屋を経営するつもりはなかったのだけどね。ユウトがここに住むのなら丁度いいと思ってね。ほら、宿屋なら夜遅くまで営業しているから、ユウトが仕事を探しに行くのにも都合が良いでしょう?』
『あ、そうですね! 確かにそれは助かります』
『でしょう? それじゃあ、まずはユウトの部屋を決めるところから始めましょうか』
『はい! お願いします』
こうして僕は冒険者としての第一歩を踏み出したのであった。
レイナさんに案内されてやって来たのは二階にある一室だった。
『はい、どうぞ。入ってもらえるかしら?』
『あ、はい。失礼します』僕はレイナさんの言葉に従って部屋の中へと入る。すると――そこは小奇麗な洋風の部屋にベッドや机などが置いてあるだけのシンプルな内装をしていた。
『あ、あの……』
『どうかしら? 住み心地は悪くないと思うのだけど……』
『えっと……すごく良いと思います』
『良かった。それじゃあ、この家でユウトが生活するためのルールを説明するわね』
『あ、はい。お願いします』『まず最初に――ユウトは基本的には住み込みで働くことになるわ』
『えっと……住み込みですか?』
『ええ、そうよ。基本的にユウトには宿の経営を手伝ってもらうことになっているのよ』
『えっと……でも……』
『ええ、言いたい事は分かるわよ。ユウトはまだ子供だし……いきなり一人でお店を任せるのは酷だと思っているわ』
『す、すみません……』
『ううん、いいのよ。でも……安心して頂戴。ちゃんと私もサポートをするから』
『えっ?』
『だから……そんなに心配そうな顔をしないで頂戴。あなたには期待しているんだからね』
『そ、そうなんですか?』
『ええ、そうよ。ユウトにはとても強い力があるみたいだしね』
『えっ?』
『だって……あなたがあの魔物を倒した時に使った武器は――剣聖専用のスキルでしょ? 普通の人間にあんなことができるとは思えないもの』
『ええっ!? ど、どうして分かったんですか?』
『ふふん♪ 私に分からないことはないのよ』レイナさんは自慢げに胸を張る。その仕草は年相応の可愛らしさを感じさせるものだった。
『え、ええっと……それじゃあ、やっぱり……』
『そうよ。あなたがあの魔物を倒したのは――あなたの職業のおかげなのよ』
『職業ですか?』
『ええ、そうよ。職業はあなたの能力値を上昇させるだけではなくて、特殊な効果を付与してくれるのよ』『そ、そういうことだったんですね……』
『ええ、そうよ。ちなみにだけど……ユウトの職業はどんな効果が付与されていたのか覚えてる?』
『いえ……あまり意識していなかったので……』
『そう……なら、今のうちに確認しておいた方がいいかもしれないわね。ステータスオープンと言えば、ユウトの目の前に現れるわよ』
『わ、分かりました。やってみます』僕は言われた通りに言葉を口にする。
『す、ステータス……』すると――僕の前に文字が浮かび上がってくる。
『こ、これは……』
『どう? 何か見えた?』
『はい。えっと……僕の職業は……【剣士】となっています』
『なっ!?』レイナさんは驚愕の声を上げる。
『えっ? な、なにか問題がありましたか?』
『い、いえ……何でもないわ。それよりも……職業の恩恵について説明できる?』
『え、ええ。一応は知ってはいるんですけど……』
『それじゃあ、教えてもらえるかしら?』
『はい。職業の恩恵というのは職業のレベルが上がることで得られる様々な特典のことです。例えば……魔力が上昇したりとか身体能力が向上したりするといった効果があります』
『なるほどね。他には?』
『他ですか?……そうですね、あとは職業によって使える技の種類が増えたりもしますね』
『へぇ~そうなのね。知らなかったわ』
『あはは……』僕は苦笑いを浮かべる。レイナさんの反応を見る限りだと本当に知らないようだった。まぁ、それも当然だろう。そもそも冒険者になって日が浅い僕でさえ知っていることなのだ。ベテランの冒険者であるレイナさんが知らなくても不思議ではないだろう。
(まぁ、そもそもの話として……僕が知っていたのもレイナさんに聞いたからなんだけどね)
『まぁ、とりあえずはこんなところかしらね。他に質問はある?』
『あっ……えっと……一つだけ聞きたいことがあるのですが……』
『ええ、どうしたの?』
『実は……この職業がレベル1のままなのは……』
『ああ、大丈夫よ。それはユウトが特別なだけで、普通は職業の恩恵を実感できないのよ』
『そ、そうだったんですか!?』
『ええ、そうよ。だから安心しなさい』
『あ、ありがとうございます!』
『ふふふ、いいのよ。それじゃあ、これからよろしく頼むわね』
『はい! こちらこそ、よろしくお願いします!』こうして僕は冒険者としての第一歩を踏み出すことができた。そして……レイナさんと一緒に宿屋を経営することになったのだった。
宿屋を経営し始めてから数日が経った。僕は相変わらずレイナさんの元で宿屋の仕事を手伝っていた。そんなある日のことだった。
「あら、いらっしゃいませ!」
「えっと……泊まりに来たんですけど……空いてますか?」
「ええ、もちろんよ! 一泊いくらになるかしら?」
「あ、えっと……銅貨三枚になります」
「あら、安いのね。もう少し高くても良さそうな気がするのだけど……」
「い、いえ! そんなことはありません! ただ……お客さんの数が少ないので……」
「あぁ……そうなのね。まぁ、確かにこの宿屋はあまり流行ってはいないからね」
「す、すみません……」
「いいのよ。あなたが悪い訳じゃないのだから。それに……この宿屋が繁盛していないのは私のせいでもあるのだから」
「えっ? そ、それはどういう意味ですか?」
「それはね……この宿には看板娘がいないからよ」
「め、看板娘!? ってことは……もしかして……」
「そうよ。私がこの店の店主であるレイナよ。改めてよろしくね。ユウト君」レイナさんはそう言うと笑顔を見せる。
「よ、よろしくお願いします。レイナさん」僕はレイナさんの言葉に少し照れながら答える。すると――レイナさんは少し考えるような素振りを見せた後で、何かを思い付いたかのように口を開く。
「ねぇ、ユウト君はこの宿屋に住み込みで働くことにしてくれたのよね?」
「えっと……まぁ、そうなるんですかね?」
「そうよね。それじゃあ、私の妹にならないかしら?」
「えっと……妹ですか?」僕はレイナさんの言葉に首を傾げる。
「ええ、そうよ。ユウト君の見た目なら……私の娘でもおかしくはないでしょうけど……流石に年齢的に無理があるでしょう? だから……私の妹ということにするのよ。どうかしら?」
「あぁ……そういうことなら……別に構いませんよ?」
「そう? それじゃあ、決まりね! それじゃあ……とりあえずは家族として接して貰えるかしら? ほら、私ももうすぐ三十歳だしね。そろそろ身を固めないといけないと思っていたのよ。ユウト君みたいな可愛い子なら大歓迎よ。それにユウト君には才能もあるみたいだしね」
「えっ? 才能ですか? 一体何の才能なんでしょうか?」
「それはね――剣術よ。ユウト君は剣を扱う才能があるみたいね。私には分かるのよ。なんて言ったって私は剣聖なんだからね」
レイナさんは自慢げに胸を張る。その姿はとても可愛らしくて、つい見惚れてしまうほどだった。だが――すぐに我に返ると僕はレイナさんの言葉に返事をする。
「えっと……そうですね。たしかに剣の扱いには慣れていると思います。といっても……まだ素人同然なのですが……」
「ううん、それでも凄いわよ。剣聖専用のスキルまで持っているんだもの。普通の人間にはなかなかできることではないわよ。誇っても構わないわよ」
「そ、そうですか?……でも、やっぱり……まだまだ未熟だと思います。もっと頑張らないと……レイナさんに迷惑を掛けてしまいそうで怖いですからね」
「ううん、そんなことはないわよ。でも……そうね。ユウト君は真面目な性格をしているからね。なら、まずはユウト君にお姉ちゃんが稽古をつけてあげるわね」
「えっ? お、お姉ちゃんですか? で、でも……僕の方が年下ですよね? なのに……お姉ちゃんと呼ぶのは変じゃないかと思うんですが……」
「いいのよ。細かい事は気にしないで。それよりも……ユウト君はまだ仕事が残っているんでしょう? だから、まずは仕事を終わらせてからにしましょ。それで……終わったら、私に剣を教えてくれるかしら? もちろん、報酬はちゃんとお支払いするわよ」
「わ、分かりました。それじゃあ……早く仕事を片付けちゃいますね」
「ええ、そうしてくれるとありがたいわ。それじゃあ、よろしく頼むわよ。お・ね・え・ち・ゃ・ん♪」
そう言って、悪戯っぽく笑うレイナさんはとても魅力的だった。
それからしばらくして――僕はレイナさんに剣を教えることになった。レイナさんの指導は厳しくて、何度も泣きそうになったけど……何とか耐え抜くことができた。そのおかげで……僕はレイナさんから剣を教わる権利を得たのだった。
そうしてレイナさんの弟子になってから一週間が過ぎた。僕はレイナさんの下で働きながら、剣の修行をしていた。レイナさんの教え方は上手かったので、僕はメキメキと実力をつけていった。今では――それなりに戦えるようになっていた。
そして――今日もいつものようにレイナさんに指導をしてもらっていたのだが……そこで事件は起きた。突然、レイナさんの身体が光り輝いたのだ。あまりの眩しさに僕は目を瞑ってしまう。
「こ、これは……まさか……勇者様!?」レイナさんは驚いた声を上げる。
(ゆ、ゆうしゃさま?)僕が不思議に思っていると、レイナさんの声が聞こえてくる。
『ふぅ……どうやら、無事に召喚されたようね』
(えっ!?)
『あぁ……ごめんなさいね。驚かせてしまったわね』
『あ、あの……今のは?』
『今の声は……女神の加護によって得られる恩恵の力なのよ』
『な、なるほど……』
『ふふ、本当に理解しているのかしら?』
『も、もちろんです!……多分』『まぁ、いいわ。とりあえずは……ステータスオープンと言えば、自分の能力値を見ることができるわ』
『わ、わかりました』僕は言われた通りに言葉を口にする。
『す、ステータス』すると、僕の目の前に文字が浮かび上がってくる。
『えっと……なになに……職業は【剣士】レベル1となってますけど……これって?』
『ああ、大丈夫よ。普通は職業のレベルが上がれば、新しい職業に転職することができるのよ。ただ……ユウトの場合は特殊なケースみたいね。おそらくだけど……ユウトの本当の職業は……【魔導士】だと思うのだけど……どうなのかしら?』
『えっと……たぶんそうだと思います。よく分からないんですけど……なぜかそんな気がするんです。どうしてかはわからないんですけどね……』
『そう……まぁ、いいわ。とにかく、ユウトは職業のレベルを上げていきなさい。レベルが1のままだと、他の職業に転職することができないからね』
『わ、分かりました』
『それじゃあ、頑張ってね』
『はい! ありがとうございます!』僕はレイナさんに感謝の言葉を告げると、再びレイナさんとの会話に集中する。
(あれ? なんか……レイナさんの姿が見えなくなってきたような……)
『あぁ……そろそろ時間切れのようだわ。またね、ユウト』
「えっ……ちょ、ちょっと待ってください!」僕は慌ててレイナさんを呼び止める。しかし――すでにレイナさんは姿を消していた。
「そ、そういえば……レイナさんはどこに行ったんだろう?」僕は周囲を見渡す。しかし、レイナさんを見つけることはできなかった。
「うーん……もしかしたら……もう帰ってきているのかな?」僕は少しだけ心配になりながらも、レイナさんを探すのを諦める。そして……そのまま宿屋の仕事を続けることにしたのだった。
「ユウト君! お客さんよ!」
「えっと……お客さんって……どっちのお客さんですか?」
「えっと……男の人だけど……ユウト君の知り合いじゃないの?」
「えっ? い、いえ……そんな人は知らないんですが……」
「そうなの? なら、とりあえずは応接室に案内しておいたから、後はお願いね」
「わ、分かりました」
「それじゃあ、よろしくね」レイナさんはそう言うと部屋から出て行く。僕はレイナさんの後に続いて、応接室へと向かう。すると――そこには見覚えのある男性が座っていた。
「えっ? あなたは……確か……」僕は男性の姿を見て、思わず驚きの声を上げる。すると――男性は嬉しそうな表情を浮かべて、こちらに話しかけてきた。「久しぶりだね。元気にしてたか?」
「えっと……あなたは……誰でしたっけ?」僕は恐る恐る男性に尋ねる。すると――男は悲しげに顔を歪める。
「おいおい……俺だよ。お前の幼馴染のコウタだよ」
「えっと……すみません。全然記憶にないんですけど……」
「マジで? ひょっとして……忘れられたとか?」
「う、ううん……そういう訳でもないんだけど……その……」
「まぁ、いいさ。それより……ユウト、少し聞きたいことがあるんだが……最近、街で妙なことが起きていないか?」
「あぁ……うん……起きてるよ」
「やっぱりか……それでどんなことが起きたんだ?」
「うーん……それが……なんというか……色々と不思議なことばかりが起きるんだよ」
「例えば……どういうことだ?」
「えっと……いきなり地面が割れたり、建物が崩れ落ちたり……他にも……突然、壁から人が飛び出して来たり……」
「はぁ? なんだそりゃ? そんなの……あり得るわけないだろう?」
「いや、でも……実際に起きたことなんだってば」
「いやいや、流石にそれは無理があるだろう? それに……そもそも、この世界は魔法が存在しないはずだぞ」
「それは……僕にも分からないよ」
「そうか……それじゃあ……最後に一つだけ教えてくれないか?」
「えっと……何をかな?」
「ユウトが見たっていう謎の現象についてだ」
「うーん……特に変わったことはしていないと思うけど……」
「そうか……まぁ、いいさ。邪魔をしたな」
「ううん、別に気にしないで」
「そう言ってくれると助かるよ」
「うん、それじゃあね」
「ああ、それじゃあな」そう言って、コウタさんは立ち去って行った。僕はその後姿を見送った後、レイナさんに頼まれた仕事をこなすために、受付の方へと向かったのだった。
「ふぅ……やっと終わった」僕はため息を吐く。そして、ゆっくりと背伸びをする。
「あっ……ユウト君、お疲れ様」レイナさんが僕に声をかけてくる。
「はい、お待たせしました」
「ううん、気にしないで。それよりも……今日は本当にありがとう。おかげで凄く助かったわ」
「いえ、仕事ですから気にしないで下さい」
「ふふふ、仕事熱心な子ね。それじゃあ、今日はゆっくり休んでちょうだい」
「分かりました。それじゃあ、失礼します」
僕はレイナさんに挨拶をしてから、宿の部屋へと戻る。
「ふう……ようやく落ち着けたよ。それにしても……今日は色々なことがあったなぁ……」僕はベッドの上に寝転ぶ。
「えっと……まずはレイナさんの身体が光ったのが始まりだったよね。それから……勇者召喚の儀式が始まったけど……結局は失敗したみたいだし……その後は……レイナさんの弟さんが現れて……勇者召喚に失敗した理由を教えてくれたけど……よく分からなかったなぁ……それから……コウタさんが来て……何か変なことを言っていたけど……何だったのかなぁ……それから……それから……あれっ? いつの間にか眠っちゃってたのか……。まぁ、いいか。とりあえずは……今日はもう寝ようっと。ふわ~ぁ……zZZ」
こうして――僕は夢の世界へ旅立ったのだった。
翌日――僕はレイナさんと一緒に冒険者ギルドへ向かうことになった。レイナさん曰く、今日は冒険者として登録をするつもりらしい。
「ねぇ、ユウト君。昨日は本当にありがとうね」レイナさんが笑顔で言う。
「いえ、仕事ですから」僕は素っ気なく答える。
「ふふ、本当に真面目な性格をしているのね。ところで……ユウト君は今日はどうするの?」
「えっと……今日は依頼を受けずに、剣の練習をしていこうと思っています」
「そうなのね。それじゃあ、頑張ってね。私はちょっと用事があるから、先に行かせてもらうわね」
「はい、分かりました。それでは……また後ほど」
「ええ、それじゃあね」レイナさんはそう言うと、足早に立ち去っていく。僕はレイナさんの後ろ姿を見送りながら、レイナさんの姿が見えなくなるまでその場に立っていた。
「よし! とりあえずは……レイナさんのためにも頑張らないとな!」僕はやる気を出して、レイナさんと別れた場所から離れる。そして――僕は街の外に向かって歩いていった。
しばらく歩いていると――大きな広場に出た。そこでは大勢の人々が訓練をしていた。
(うーん……こういう場所では、あまり練習できないよなぁ)僕は少しだけ困ってしまう。
(とりあえずは……街を出て、森の中で練習しようかな)僕は森の中に入ることにする。そして――そのまま歩き続ける。
すると――目の前に大きな洞窟が現れた。
(こんなところに……洞窟なんてあったっけ?)僕は不思議に思いながらも、中に入ってみる。すると――そこには一本の通路があった。
(あれっ? ここは……どこだろう? さっきまでは、森の中に居たはずなのに……)僕は戸惑いながらも、通路の奥に進んでいく。すると、今度は開けた空間に出る。
「えっ!? こ、これは……」目の前に広がる光景を見て、僕は驚く。なぜならば、僕の目に飛び込んできたのは――巨大なドラゴンの死体だったからだ。
(ど、どうして……あんなものが……? まさか……誰かが倒したとか? いやいや……そんなのあり得ないって!)僕は自分の考えを否定する。
すると――突然、頭の中で声が聞こえてきた。
『あら? どうして、私の死体がここに?』
「えっ? えっ? だ、誰ですか?」僕は慌てて周囲を見渡す。しかし――周囲には誰もいなかった。
『もしかして……私の声が聞こえるの? あなたは一体……誰なのかしら? どうして私の死体が見えるの?』
『あの……あなたは誰なんでしょうか? それに……どうして、死んだはずのあなたの姿が見えたり、あなたの声が聞こえるのですか?……って、うわぁぁぁぁぁ!!』僕は驚きの余り、大声で叫んでしまう。
『えっ? ちょ、ちょっと……急に大声出さないでよ! びっくりしたじゃない!』
「す、すみません。でも……その……あなたは……」
『ああ、なるほど。そういうことね』彼女は納得したように呟く。
「えっと……」
『ああ、ごめんなさいね。自己紹介がまだだったわね。私の名はラミアよ。よろしくね、ユウト君』
「えっと……こちらこそよろしくお願いします……」僕は困惑しながらも返事をする。
「それで……その……ラミアさんは何なんですか?」
『えっ? だから、私はラミアだって言ったじゃない。ちなみに……今はあなたの頭に寄生している状態だけど……それでも信じてもらえないのかしら?』「えっと……その……信じられないというか……なんというか……」僕は口籠る。
『はあ……まあ、仕方がないわね。それじゃあ、実際に見てもらった方が早いかもね。ほらっ、これでどうかしら?』
「えっ?」次の瞬間――僕の周りに無数の蛇が出現する。僕は驚いて、腰を抜かす。
「う、うわぁぁ!!」
『えっ? そんなに驚かなくてもいいじゃないの。ただ、あなたに姿を見せただけなんだし……』
「そ、そう言われても……」
『まあ、いいわ。それより……あなたには色々と聞きたいことがあるんだけど、いいかしら?』
「は、はい……」僕は恐る恐る答える。
『そう。それじゃあ、質問させてもらうけど……あなたはユウトで間違いはないのよね?』
「えっと……多分そうだと思いますけど……記憶が曖昧なんですよ」
『そう……やっぱり、そういうことなのね。それなら……もう一つ聞かせて欲しいんだけど……ユウトって女の子に興味はあるのかしら?』
「えっと……それはどういう意味でしょうか?」僕は首を傾げる。
『いや……ユウトは前世の記憶を持っているのよね? それで……ユウトの前世は男の子だったのよね?それで……今、この世界にいるユウトも男として生きているわけでしょ? つまり……ユウトってば、実は女性に目覚めたんじゃないかって思ったのよ。それで……ユウトってば、本当は可愛い物とか大好きだったりしない? 例えば……ぬいぐるみみたいな感じの奴が好みだとか……』
「えっと……確かに……そういったものは好きですけど……」僕は恥ずかしそうに俯きながら答えた。
『ふーん……そうなんだ。それじゃあ……私が可愛がってあげようか?』
「えっと……それは……」僕は戸惑う。
『冗談よ。別に取って食おうとは思っていないわよ。まあ……仮に食べちゃっても問題ないしね。それにしても……ふふっ、どうやら、あなたは本当に面白い子みたいね。気に入ったわ。これからも、仲良くしてちょうだいね。ユウト君』
「は、はい。分かりました」僕は緊張しながら答える。
『ふふ、良いお返事ね。ところで……ユウト君、さっきから気になっていたのだけど……あなたの後ろにある死体は……何なのかしら?』
「あっ、これはですね……僕が殺したんです」
『へぇ~そうなのね。ユウト君がねぇ……。ねぇ、それじゃあさ――ちょっと見せてくれないかしら?』
「えっ? 見せるって何をですか?」
『決まってるじゃないの。ユウト君に殺されたっていうドラゴンの死体をよ』
「えっと……」僕は返答に困ってしまう。
(正直に言うべきかなぁ……)僕は悩む。しかし――結局のところ、彼女に嘘を吐いてもバレてしまう気がしたので本当のことを話すことにした。そして――彼女の要望通り――僕がドラゴンを殺した時の状況を説明することになったのだ。
僕はドラゴンと戦った時の様子を彼女に伝える。すると――彼女はとても興味深そうに話を聞いていた。そして――彼女は興奮気味に喋っていたのだが……何故か途中から涙ぐんでいた。そして――話が終わると――嬉しそうに笑い出したのだ。そして、最後に僕の頭を優しく撫でてくれたのである。
(あれっ……なんだろう……凄く気持ちいい……。もっと……して欲しいかも……)僕の意識は次第に薄れていく……。そして――僕の視界は真っ暗になってしまった。
翌日――目を覚ますと、既にレイナさんの姿はなかった。僕は急いで冒険者ギルドへ向かう。すると――受付の前でレイナさんを見つけた。
「おはようございます」レイナさんに声をかけると、「あら、ユウト君。おはよう」と笑顔で挨拶をしてくれた。どうやら機嫌は良さそうである。
「昨日は大変だったわね」レイナさんが笑顔で言う。
「えっ? どうして知っているんですか?」僕は驚いた表情を浮かべる。
「ふふっ、だって昨日はユウト君のことでギルド中の噂になってたからね」
「えっと……そうなんですか?」僕は困惑する。
「ええ、そうよ。特にドラゴンの死体を見た人達はみんなビックリしていたわよ。なんでも、ユウト君はドラゴンを倒したらしいわね」
「えっと……はい」僕は小さく返事をする。
「それじゃあ、今日は依頼を受けに行くの?」レイナさんが尋ねてくる。
「いえ……今日は剣の練習をしていこうと思っています。昨日のドラゴンとの戦闘を思い出しながら練習したいので……」
「そう……分かったわ。頑張ってね、応援しているわよ。それから……今日は依頼を受けずに、剣の練習をしていこうと思っているのよね?」
「はい、そのつもりですが……何かありましたか?」僕は不思議に思い尋ねる。
「ええ、ちょっとお願いがあるのよ。実はね――私と一緒に森の奥まで行って欲しいのよ。私達二人で行けば、危険なモンスターと遭遇しても大丈夫だと思うのよ。だから――一緒に来てくれると嬉しいのだけど……」
「えっと……その……」僕は困ってしまう。
(うーん……どうしようかな? レイナさんの頼みだしなぁ……)
「駄目……かな? どうしても嫌なら無理にとは言えないけど……」レイナさんが寂しげな表情になる。
(えっ? ど、どうしてそんな顔をするの? そんな顔されたら……断れないじゃないか!)僕は心の中で叫ぶ。
「い、行きましょう! もちろん、喜んで同行させていただきます!」僕は力強く宣言した。
「本当? ありがとう! ユウト君なら、きっとそう言ってくれると思っていたわ! それじゃあ、早速出発しましょうか?」
「はい、わかりました。それでは、すぐに準備しますね」僕は慌てて部屋に戻る。そして――荷物の準備を終えると、僕達は街を出て森の中に入る。
しばらく歩いていると――目の前に大きな湖が現れる。
「ここが……目的地ですか?」僕は周囲を見渡し確認をする。
「ええ、そうよ。ここで私達が倒せなかった敵と戦ってみようと思うの。それじゃあ、まずは私からやってみるわね。危ないと思ったら助けて頂戴ね」そう言い残すと、レイナさんは一人で歩き出す。
「えっ? ちょっと……待って下さいよぉ~!!」僕は慌てて追いかける。
「もう……遅いわよ。ユウト君。そんなんじゃ、私についてこられないわよ」
「そ、そんなこと言わないでくださいよ……」僕は泣きそうな声で呟く。
「ふふっ、冗談よ。それじゃあ、始めましょうか?」
「はい……」僕は返事をすると、真剣な眼差しでレイナさんの動きを観察する。
「はぁぁぁぁ!!」彼女は雄叫びを上げながら、巨大な斧を振り回す。しかし――全く当たらない。
「ユウト君! 今よ! 攻撃してみて!」
「は、はい! いきます! はあぁぁ!! くらえぇぇぇ!!!」僕は渾身の力を込めて斬りつける。だが――当然の如く、当たるはずもない。
「まだまだよ! ユウト君、もう一回いくわよ!」
「はいぃぃ!!」僕は情けない声を上げる。しかし――僕達の特訓は続く。そして――僕が疲れ果てた頃、ようやく休憩を挟むことになったのであった。
「はぁはぁ……そろそろ終わりにしませんか?」僕は息も絶え絶えに提案する。
「そうね。それじゃあ、帰りましょうか……」
「はい……」僕は弱々しく答える。
「ふふっ、ユウト君ってば、意外に体力がないのね」
「そ、そんなことありませんよ」僕はムキになり反論する。
「ふーん……それじゃあ、もう少しだけ頑張れるかしら?」
「えっ?」僕は困惑する。
「いいから、いいから。それじゃあ、行くわよ」
「えっ……ちょ、ちょっと……」僕は必死に抵抗するが、あっさりと捕まってしまう。そして――そのまま引きずられるように移動を開始したのだった。
「ふぅ……着いたわね」レイナさんが額の汗を拭いながら言う。
「ぜぇ……はぁ……着きましたね……」僕も荒い呼吸をしながら同意する。
「それじゃあ、ユウト君には少し休んでもらっている間に私は水浴びでもしてくるわね」
「えっ? ちょっと……まっ……」僕は止めようとしたが……間に合わなかった。
「さぁて……ユウト君が来る前に済ませちゃわないとね……」そう言うと、彼女は服を脱ぎ始める。僕は思わず目を逸らす。
しばらくして――僕はレイナさんに呼ばれて彼女の元に向かう。
「お待たせ。それじゃあ……次はユウト君の番ね。ほら、早く脱いでちょうだい」
「えっ……あっ……はい……」僕は戸惑う。
(あれっ……これって……もしかして……裸のお付き合いって奴じゃないのか?)僕は動揺してしまう。
「どうしたのよ? ユウト君ってば、固まっちゃって……。もしかして……恥ずかしいの?」
「い、いえ……そういうわけではありませんけど……その……あの……お風呂って、男女で入るものなんでしょうか?」僕は疑問を口にする。
「ふふっ、何言っているのよ。当たり前でしょ。さっきから、何を変なことを聞いてくるのよ?」レイナさんが不思議そうな表情で僕を見る。
「そ、そうなんですか……」僕は恥ずかしくなり俯く。
「それじゃあ、ユウト君。先に入っていて。後で私が入って来るから」
「わ、分かりました……」僕は消え入りそうな声で返事をすると、浴室へと向かう。そして――体を洗い終えると湯船に浸かる。
(うーん……どうしよう……この状況……)僕は困惑しながら考える。
(そもそも……レイナさんはどういうつもりなんだろう? 本当にただ単に僕とお風呂に入りたいだけなのかな? それとも……何か別の目的があるとか……)僕は思考に耽る。
(うーん……ダメだ……全然わからない……。とりあえず、レイナさんが出てくるまで大人しく待っているしかないか……)僕はそう結論付けると、ゆっくりと目を閉じたのである。
それから数分程経過した時――突然、浴室の扉が開く音が聞こえてきた。僕は驚いて目を開けると、そこには――一糸纏わぬ姿のレイナさんがいたのだ。僕は慌てて目を瞑る。
「あら、起きていたのね。ユウト君」レイナさんが話しかけてくる。
「は、はい……さっきからずっと起きていました……」僕は小さな声で答えた。
「そう……それは残念ね」レイナさんが悪戯っぽい口調で言う。
(あれっ? これは一体……どういうことなんだ? えっ? まさか……)僕は混乱しながらも、一つの可能性に気づく。
(ひょっとして……レイナさんは僕のことを男だと思っていないんじゃないか? それで……こういう行動をとっているのかもしれないな……)
「ねぇ……ユウト君」再び彼女が話し掛けてくる。
(よし! こうなったら……覚悟を決めるんだ!)僕はそう決意すると、ゆっくりと目を開く。
「ど、どうしましたか?」僕は緊張した面持ちで言う。すると――彼女は微笑む。
「私の体に興味はない? 触りたくないかな?」彼女は妖艶な笑みを浮かべながら尋ねてくる。
「へっ?」予想外の言葉に僕は困惑する。そして――しばらくの間――沈黙の時間が流れる。その時間は長く感じられたのだが――実際にはほんの数秒程度だったと思う。やがて――彼女は静かに口を開いた。
「ごめんなさい。今のは忘れてくれるかな?」彼女は寂しげに笑う。その瞬間――僕は理解した。この人は僕に気を使ってくれているのだと。そして――同時に申し訳なく思った。僕は彼女に謝る。
「すみません……」
「どうしてユウト君が謝るのよ? 悪いのは私なのに……」
「いえ……そんなことは……」僕は首を横に振る。
「ふふっ、ユウト君は優しいのね」レイナさんが嬉しそうな表情で言った。
「そ、そんなことないですよ……」僕は照れくさくて頬を掻く。
「ふふっ、そんなことあるわよ。それじゃあ、そろそろ上がるわね。今日はありがとう。おかげで楽しかったわ」
「はい、こちらこそありがとうございます。それではまた明日」僕はそう言うと、彼女と別れたのであった。
翌朝――僕達はギルドに到着すると、いつものように依頼ボードを確認する。
「うーん……やっぱり討伐系の依頼ばかりですね」僕は呟く。
「ええ、仕方ないわね。でも、ユウト君が居るなら問題無いでしょう?」彼女はそう言って僕を見つめる。
「えっと……そうですね。それじゃあ、早速行きましょうか」僕はそう言うと、掲示板から依頼書を引き剥がす。
「ええ、よろしくね。それじゃあ、行きましょうか」
「はい」僕達は街の外に出る。
しばらく歩いていると――目の前に大きな湖が現れる。
「ここが目的地ですか?」僕は周囲を見渡し確認をする。
「ええ、そうよ。ここで私達が倒せなかった敵と戦ってみようと思うの。それじゃあ、まずは私からやってみるわね。危ないと思ったら助けて頂戴ね」そう言い残すと、レイナさんは一人で歩き出す。
「えっ? ちょっと……待って下さいよぉ trax」僕は慌てふためきながら追いかける。
「もう……遅いわよ。ユウト君。そんなんじゃ、私についてこられないわよ」
「そ、そんなこと言わないでくださいよ……」僕は泣きそうな声を上げる。
「ふふっ、冗談よ。それじゃあ、始めましょうか?」
「はい……」僕は返事をすると、真剣な眼差しでレイナさんの動きを観察する。
「はぁぁ!!」彼女は雄叫びを上げながら、巨大な斧を振り回す。しかし――全く当たらない。
「ユウト君! 今よ! 攻撃してみて!」「はいぃぃ!!」僕は情けない声を上げる。
「まだまだよ! ユウト君、もう一回いくわよ!」
「はいぃぃ!!」僕は情けない声を上げ続ける。そして――僕が疲れ果てた頃、ようやく休憩を挟むことになったのだった。
「はぁはぁ……そろそろ終わりにしませんか?」僕は息も絶え絶えに提案する。
「そうね。それじゃあ、帰りましょうか……」
「はい……」僕は弱々しく答える。
「ふふっ、ユウト君ってば、意外に体力がないのね」
「そ、そんなことありませんよ」僕はムキになり反論する。
「ふーん……それじゃあ、もう少しだけ頑張れるかしら?」
「えっ? ちょ、ちょっと……」僕は必死に抵抗するが、あっさりと捕まってしまう。そして――そのまま引きずられるように移動を開始したのだった。
「ふぅ……着いたわね」レイナさんが額の汗を拭いながら言う。
「ぜぇ……はぁ……着きましたね……」僕も荒い呼吸をしながら同意する。
「それじゃあ、ユウト君には少し休んでもらっている間に私は水浴びでもしてくるわね」
「えっ? ちょっと……まっ……」僕は止めようとしたが……間に合わなかった。
「さぁて……ユウト君が来る前に済ませちゃわないとね……」そう言うと、彼女は服を脱ぎ始める。僕は思わず目を逸らす。
しばらくして――僕はレイナさんに呼ばれて彼女の元に向かう。
「お待たせ。それじゃあ、ユウト君の番ね。ほら、早く脱いでちょうだい」
「えっ……あっ……はい……」僕は戸惑う。
(あれっ? これって……もしかして……裸のお付き合いって奴じゃないのか?)僕は動揺してしまう。「どうしたのよ? ユウト君ってば、固まっちゃって……。もしかして……恥ずかしいの?」レイナさんが悪戯っぽい口調で言う。
「いや……そういうわけではありませんけど……その……あの……お風呂って、男女で入るものなんでしょうか?」僕は疑問を口にする。
「ふふっ、何言っているのよ。当たり前でしょ。さっきから、何を変なことを聞いてくるのよ?」レイナさんが不思議そうな表情で僕を見る。
「そ、そうなんですか……」僕は恥ずかしくなり俯く。
「ねぇ……ユウト君」再び彼女が話し掛けてくる。「ど、どうしましたか?」僕は小さな声で答えた。
「私の体に興味はない? 触りたくないかな?」彼女は妖艶な笑みを浮かべながら尋ねてくる。
「へっ?」予想外の言葉に僕は困惑する。
「ど、どうしたのよ? ユウト君。そんなに驚いた顔をしなくてもいいじゃない。別に変なことはしないわよ」彼女はそう言うと、クスリと笑う。
「いえ……その……そうではなくてですね……その……触りたいです」僕は正直に答えた。
「そう……それじゃあ、遠慮なく触ってくれて構わないわよ」彼女はそう言うと、ゆっくりと目を閉じる。
(えっ!? 本当に触っても大丈夫なのかな?)僕は戸惑いながらもゆっくりと手を伸ばす。そして――その手が触れる寸前のところで――僕は動きを止める。
(いかんいかん……これは罠だ……。騙されるな……)僕は自分に言い聞かせる。
「あら、ユウト君。どうして途中で止めるのよ? せっかく、私が許可しているのだから、もっと触れてくれても構わないのよ」レイナさんが不満げに唇を尖らせる。
(これは絶対に何か企んでいるに違いない……)僕は警戒を強める。そして――意を決して口を開く。
「すみませんが……やっぱり止めます」僕は申し訳なさそうな口調で言う。すると――レイナさんは一瞬、呆気に取られたような表情をしたかと思うと――突然笑い出したのだ!
「ふふふふっ! ははははははははははははっ!! もう……ユウト君ったら、冗談が過ぎるわよ。私達、友達でしょう? そんなに警戒しなくてもいいわよ」彼女はそう言うと、僕の背中をポンッと叩く。
「えっと……冗談だったんですか?」僕は首を傾げる。
「ええ、そうよ。ごめんなさいね。ユウト君は真面目すぎるのよ。もう少し肩の力を抜いて生きた方がいいわよ」彼女はそう言うと、僕の頭を撫でる。「は、はい……」僕は照れくさくて頬を掻く。
「それじゃあ、帰りましょうか」
「はい」僕達はギルドに戻ると、それぞれ部屋へと戻ったのであった。翌日――僕達はギルドに到着すると、いつものように依頼ボードを確認する。
「うーん……討伐系の依頼ばかりですね」僕は依頼書を眺めながら呟く。
「ええ、仕方ないわね。それじゃあ、早速行きましょうか」
「はい」僕達は街の外に出ると、早速魔物を探すことにした。
しばらく歩いていると――目の前に大きな湖が現れる。
「ここが目的地ですか?」僕は周囲を見渡し確認をする。
「ええ、そうよ。ここで私達が倒せなかった敵と戦ってみようと思うの。それじゃあ、まずは私からやってみるわね。危ないと思ったら助けて頂戴ね」そう言うと、レイナさんは一人で歩き出す。
「えっ? ちょっと……待って下さいよぉ」僕は慌てて追いかけようとするが――遅かった。既にレイナさんの姿は見えなくなっている。
「もう……遅いわよ。ユウト君。そんなんじゃ、私についてこられないわよ」彼女はそう言うと、雄叫びを上げながら巨大な斧を振り回す。しかし――全く当たらない。
「ユウト君! 今よ! 攻撃してみて!」彼女は雄叫びを上げ続ける。
「はいぃぃ!!」僕は情けない声を上げる。
「まだまだよ! ユウト君、もう一回いくわよ!」
「はいぃぃ!!」僕は情けない声を上げ続ける。そして――僕が疲れ果てた頃、ようやく休憩を挟むことになったのだった。
「はぁはぁ……そろそろ終わりにしませんか?」僕は息も絶え絶えに提案する。
「そうね。それじゃあ、帰りましょうか……」
「はい……」僕は弱々しく答える。
「ふふっ、ユウト君ってば、意外に体力がないのね」
「そ、そんなことありませんよ」僕はムキになり反論する。
「ふーん……それじゃあ、もう少しだけ頑張れるかしら?」
「えっ? ちょ、ちょっと……」僕は必死に抵抗するが、あっさりと捕まってしまう。そして――そのまま引きずられるように移動を開始したのだった。
「ふぅ……着いたわね」レイナさんが額の汗を拭いながら言う。
「ぜぇ……はぁ……着きましたね……」僕も荒い呼吸をしながら同意する。
「それじゃあ、ユウト君には少し休んでもらっている間に私は水浴びでもしてくるわね」
「えっ? あっ……まっ……」僕は止めようとしたが……間に合わなかった。
「さぁて……ユウト君が来る前に済ませちゃわないとね……」そう言うと、彼女は服を脱ぎ始める。僕は思わず目を逸らす。
しばらくして――僕はレイナさんに呼ばれて彼女の元に向かう。
「お待たせ。それじゃあ、ユウト君の番ね。ほら、早く脱いでちょうだい」
「えっ? あっ……はい……」僕は戸惑う。
(あれっ? これって……もしかして……裸のお付き合いって奴じゃないのか?)僕は動揺してしまう。「どうしたのよ? ユウト君ってば、そんなに驚いた顔をしなくてもいいじゃない。別に変なことはしないわよ」レイナさんはそう言うと、クスリと笑う。
「いえ……その……そうではなくてですね……その……お風呂って、男女で入るものなんでしょうか?」僕は疑問を口にする。
「ふふっ、何言っているのよ。当たり前でしょ。さっきから、何を変なことを聞いてくるのよ?」レイナさんが不思議そうな表情で僕を見る。
「そ、そうなんですか……」僕は恥ずかしくなり俯く。
「ねぇ……ユウト君」再び彼女が話し掛けてくる。「ど、どうしましたか?」僕は小さな声で答えた。
「ど、どうしたのよ? そんなに固まっちゃって……。もしかして……恥ずかしいの?」彼女は悪戯っぽい口調で言う。
「いや……そういうわけではありませんけど……その……あの……お風呂って、男女で入るものなんでしょうか?」僕は疑問を口にする。
「えっ? それは……そうでしょう。だって、お風呂なんだし……。もしかして……ユウト君ってば、お風呂に入ったことがないの?」レイナさんが目を丸くする。
「いえ……そういうわけではありませんけど……その……お風呂って、男女で入るものなんでしょうか?」僕は疑問を口にする。
「ふふっ、何言っているのよ。当たり前でしょ。さっきから、何を変なことを聞いてくるのよ?」レイナさんが不思議そうな表情で僕を見る。「そ、そうなんですか……」僕は恥ずかしくなり俯く。
「ねぇ……ユウト君」再び彼女が話し掛けてくる。「ど、どうしましたか?」僕は小さな声で答えた。
「ど、どうしたのよ? そんなに怯えた顔をして……。もしかして……恥ずかしいの?」彼女はそう言うと、クスリと笑う。「い、いや……そんなことは……な、ないですよ……」僕は恥ずかしくなり顔を背ける。
「ねぇ……ユウト君」再び彼女が話し掛けてくる。「ど、どうしましたか?」僕は小さな声で答えた。
「ど、どうしたのよ? そんなに怯えた顔をしなくてもいいじゃない。別に変なことをしようとは思っていないわよ」彼女はそう言うと、クスリと笑う。「い、いえ……その……そうではなくてですね……その……お風呂って、男女で入るものなんですか?」僕は疑問を口にする。
「へっ!?」彼女は驚いたような声を上げる。「な、な、な、な、な、な、な、な、な、な、な、な、な、な、な、な、な、な、な、な、な、な、な、な、な、な、何を言い出すのよ!?」レイナさんの顔が真っ赤に染まる。
「えっ? いや……ですから……お風呂は男女で一緒に入るものなのかと……」僕は首を傾げる。
「そ、そうよ! 普通はそうよ! だから……だから……私達も一緒に入るのが当然なのよ!」レイナさんは何故か必死の形相で言う。
「えっと……そうなんですか?」僕は戸惑いながら答える。
「そうよ! だから……早く入って来なさいよ! ユウト君!!」彼女はそう言うと、強引に僕の背中を押したのであった。
「ふぅ……気持ちいいわね」彼女はそう言うと、体を洗い始める。僕はその様子をチラリと見る。すると――彼女は突然、僕の方を振り向いた。
「ユウト君……あんまり見つめられると……ちょっと照れくさいわね」彼女はそう言うと、頬を掻く。
「す、すみません!」僕は慌てて視線を逸らす。
「ふふっ、冗談よ。ユウト君が私の裸を見たいのなら……見てもいいわよ」
「い、いや……遠慮しておきます」僕は照れくさくて、思わず否定する。
「あら……残念ね」彼女はそう言うと、クスクスと笑った。
「ところで……ユウト君は好きな人とかいないの?」唐突に質問される。
「えっ? い、いませんよ」僕は慌てて答える。
「ふーん……そう。それじゃあ、気になっている人はいるの?」更に質問が続く。
「そ、それも……いないですよ」僕は動揺しながら答える。
「ふーん……それじゃあ、嫌いな人っている?」
「そ、それはもちろんいますよ」僕は苦笑いを浮かべる。
「例えば?」
「えっ? えーと……そ、それは……」僕は返答に困り沈黙する。
「ふふっ、やっぱりいるのね」彼女はそう言うと、ニヤリと笑う。
「そ、そう言うレイナさんはいるんですか?」僕は反撃を試みる。
「私? 私はね……もちろんいるわよ」彼女はあっさりと認める。
「そ、そうなんですか……」僕は落ち込む。
「そうよ。でも……ユウト君も知っている子よ」彼女は意味深に微笑む。
「えっ? 誰ですか?」僕は困惑する。
「さぁ……誰かしらね?」彼女は楽しげに言う。
「うーん……わかりません」僕は頭を悩ませる。
「ふふっ、それじゃあ、ヒントをあげるわね。私が今、一番大切にしている人よ」
「えっ? それって……」僕は驚きの声を上げた。
「ふふっ、どう? わかったかしら?」レイナさんが悪戯っぽく笑う。
「うーん……わからないですね」僕は正直に答える。
「そう……それじゃあ、仕方がないわね。教えてあげるわ」そう言うと、彼女は僕の耳元で囁いた。
「そ、そんな……嘘ですよね?」僕は動揺する。
「本当よ。それにしても……ユウト君ってば、意外に鈍感さんだったのね」レイナさんは呆れたように言った。
「そ、そんなことありませんよ」僕はムキになって反論する。
「それじゃあ、どうして気付かなかったのかしら?」彼女は不思議そうに尋ねる。
「そ、それは……」僕は言葉に詰まる。
「まぁ……いいわ。でもね……私は諦めていないからね」彼女は真剣な表情で言う。
「はいぃ?」僕は間の抜けた返事をする。
「ユウト君のことを諦めないって言っているのよ。私はあなたが欲しいの」彼女は真っ直ぐに僕を見据えて言う。
「えっ? それって……」僕は狼惑する。
「ユウト君……愛してるわ」レイナさんはそう言うと、僕に抱き着いてきた。
「えっ? えっ? えっ? えっ? ちょっ……まっ……待ってくださいよぉ~」僕は混乱する。
「嫌よ。絶対に待たないわ」レイナさんはそう言うと、僕を強く抱きしめたのであった。
「ユウト君ってば、そんなことで悩んでいたの?」レイナさんが可笑しそうに笑う。
「そ、そんなこととは何ですか! 僕にとっては重要な問題なんですよ」僕は恥ずかしくなり俯く。
「ごめんなさい。別に馬鹿にしているわけではないのよ。ただ……少し可愛らしいなって思っただけなの。気にしないでちょうだい」彼女はそう言うとクスクス笑う。
(可愛い……か)僕は何だか複雑な気分になる。「それで……ユウト君には好きな人はいないの?」彼女は悪戯っぽい口調で尋ねてくる。
「い、いませんよ」僕は恥ずかしくなり顔を背ける。
「ふーん……そう。それじゃあ、気になっている人は?」彼女は追い打ちをかける。
「い、いませんよ」僕は焦って答える。
「そう……本当に?」彼女は疑いの目を向ける。
「ほ、本当ですって」僕は顔を赤く染めながら答える。
「それなら良いんだけど……。もしいたとしても、その人のことを好きにならないでね」彼女はそう言うと、寂しそうに目を伏せた。
「へっ?」僕は思わず聞き返す。
「だから……ユウト君が他の女の子のことを好きになったらダメって言っているのよ」彼女は怒ったような顔で僕を見る。
「そ、そうなんですか……」僕は戸惑いながら答える。
「そうなのよ。だって……ユウト君が好きなのは私なんだから」彼女は自信満々に言う。
「そ、そうなんですか?」僕は困惑して言う。
「そうなのよ。だから……私以外の子を好きになったりしたら許さないんだからね!」彼女はそう言うと、僕の胸に顔を押し付けた。「はい」僕はそう言うと、彼女の髪を優しく撫でたのであった。
「ユウト君……私と一緒に寝ましょう」レイナさんはそう言うと、僕の手を引っ張る。
「すみません。僕はそういうのは結婚してからって決めてるんです」僕はきっぱり断り、手を突き放した。「そ、そうよね。ユウト君も男の子だし……その……したいのよね」彼女は頬を赤らめモジモジしながら言う。
「えっ? いや……その……そうではなくてですね」僕は困った表情を浮かべる。
「もう……いいわよ。わかっているわよ。どうせ……私が誘ってもユウト君は断るんでしょ」彼女は拗ねるように唇を尖らせる。
「いえ……その……レイナさんが望むのなら別に構わないんですけど」僕は照れくさそうに言う。
「えっ!? いいの?」レイナさんが驚いたような声を上げる。
「はい。でも……その前に確認しておきたいことがあるのですが良いですか?」僕は真面目な声で尋ねた。
「な、何かしら?」彼女は戸惑ったような声を上げる。
「えっと……レイナさんは僕のことが好きなんですよね?」僕はおずおずと尋ねる。
「ええ、そうよ」レイナさんは当然のように答える。
「それじゃあ……なんで、僕の告白を断ったんですか?」僕は疑問を口にする。
「えっ? そ、それは……あの時はちょっと頭が混乱していたというか……なんていうか……その……ユウト君に振られたショックで正常な判断が出来ていなかったのよ」彼女は気まずそうに答える。
「そうだったんですか……」僕は納得する。
「そうよ。悪い?」彼女は不満げに言う。
「いや……悪くはないんですが……それなら、今はどう思っているんですか?」僕は恐る恐る尋ねる。
「もちろん、ユウト君が好きよ」彼女は嬉しそうに微笑む。
「それなら……どうして、一緒に寝ようとか言い出したんですか?」僕は首を傾げる。
「えっ? ユウト君は……私の事が好きなのでしょう?」彼女は不思議そうに言う。
「い、いやまぁ……そうですけど……」僕は困惑する。
「それなら……何も問題は無いじゃない」レイナさんはニッコリ微笑む。
「そ、そうなのかなぁ……」僕は不安に思う。
「そうなのよ。さあ、早くベッドに行きましょう」彼女は強引に僕の腕を引く。
「ちょ、ちょっと……まだ、心の整理が……」僕は慌てふためく。
「ユウト君、大丈夫よ。私に任せて」レイナさんはそう言うと、僕の耳元に口を寄せ囁いた。
「ユウト君……愛しているわ」彼女はそう言うと、僕の首筋にキスをした。
「やめてください(半ギレ)」僕は彼女を突っぱねた。
「ユ、ユウト君……?」
レイナさんは動揺していたが、僕はすぐに部屋から出て行って、近くの森に走っていった。
***
結局、僕はその夜はずっと森で月の光を浴びては湖上のゆらめく水面を眺めていた。
「レイナさん……ごめんなさい」
なぜか、僕は独り言で謝っていた。
翌朝――僕は朝起きると、ギルドに向かう準備をする。すると、部屋の扉がノックされる。
「はーい」僕は返事をしながら扉を開けると、そこにはレイナさんの姿があった。
「おはよう、ユウト君」レイナさんは微笑みながら挨拶をする。
「あ、はい。おはようございます」僕は慌てて頭を下げる。
「ふふっ、そんなに緊張しなくても良いわよ」レイナさんはクスクス笑う。
「そ、そうですか……」僕は苦笑いする。
「ねぇ、ユウト君……今日は私と一緒に依頼を受けない?」彼女はそう言うと、僕の手を握る。
「あっ、はい。良いですよ」僕は笑顔で答える。
「良かったわ。じゃあ、早速行きましょう」レイナさんはそう言うと、僕の手を引いて歩き出す。
「ちょ、ちょっと……レイナさん、そんなに引っ張らないでくださいよ」僕は恥ずかしくなり抗議する。
「いいからいいから」彼女は楽しげに笑う。
それから、僕達は依頼をこなす為に街を出ると、近くにある森の中へと入っていく。
「それで……どんな依頼を受けるつもりなんですか?」僕は興味本位で尋ねてみる。
「うーん……そうね。とりあえず、ゴブリンの討伐かしら?」彼女は顎に手を当てて考える。
「なるほど……」僕は納得して言う。
「ユウト君ってば、ゴブリンと戦った事はあるのかしら?」レイナさんは不思議そうに尋ねてくる。
「はい。何度かあります」僕は正直に答える。
「そう……それなら安心ね」彼女は微笑むと、足を止める。
「どうかしましたか?」僕はキョトンとして言う。
「ユウト君ってば、本当に可愛いわね」レイナさんはそう言うと、僕を抱き寄せる。
「な、何を言ってるんですか!?」僕は驚きの声を上げる。
「ふふっ♪」彼女は悪戯っぽく笑うと、僕を強く抱きしめたのであった。
「こっちよ!」彼女が叫ぶと、僕達の目の前には三体の緑色の肌をした醜悪な怪物が現れる。それは、子供くらいの大きさで、手に棍棒を持っている魔物であった。
(あれが……ゴブリンか)僕は初めて見る生物を見て驚く。
「グギャッ!!」ゴブリンの一体が奇声を上げながら僕達に襲いかかってくる!
「ユウト君、危ない!」彼女はそう叫びながら、僕の前に躍り出る! そして、彼女は両手を広げて盾になる!
(レイナさんのステータスはレベル10だから……多分……耐えられる筈だ)
僕は彼女を信じて、その場から動かない!
(来る!)僕は覚悟を決める!しかし……いつまで経っても衝撃は襲って来なかった!僕は不審に思い目を開く! すると……彼女の身体が淡い輝きを放ち、彼女の前に薄い膜のようなものが現れて、彼女の攻撃を完全に防いでいたのだ!!
「へっ?」僕は唖然とした表情で呟く。
「ユウト君、危ないわよ」彼女はそう言うと、片手剣を振り下ろす。その一撃で、彼女の前に立ち塞がっていたゴブリンが真っ二つに切り裂かれる。
「えっ!?」僕は驚いて彼女の方を向く。
「ユウト君、怪我はない?」彼女は心配そうな顔で僕を見る。
「あ、はい……大丈……」僕は言いかけた言葉を途中で止める。なぜなら……レイナさんが突然僕に抱きついてきたからだ。
「よかったわ。ユウト君が無事で……」彼女は安堵の息を吐き、僕の頭を優しく撫でたのであった。
「えっと……レイナさん?」僕は戸惑いながら言う。
「どうしたの?」レイナさんは不思議そうに首を傾げる。
「あの……どうして、僕のことを守ってくれたんですか?」僕は戸惑いながらも尋ねる。
「だって……ユウト君に何かあったら嫌だから」彼女は当然のように答える。
「えっと……ありがとうございます」僕は戸惑いつつもお礼を言う。
「いいのよ。それより……ユウト君、怪我はない?」彼女は再び僕の顔を覗き込むようにして尋ねる。
「はい、大丈夫です」僕はそう言うと、彼女に笑みを向ける。
「そう……それなら良かったわ」彼女はそう言うと、嬉しそうに微笑んだのであった。
その後、レイナさんが倒した二体目のゴブリンの死体を回収した後に、僕達は街に戻ったのである。
***
「レイナさん、少し休憩しませんか?」僕は疲れた声で提案する。
「そうね。そろそろお昼だし、ちょうどいいわね」彼女はそう言うと、ベンチに腰掛ける。
「はい、これ」彼女はそう言いながら、鞄の中からサンドイッチを取り出す。
「あ、すみません」僕はおずおずと受け取る。
「気にしないで」彼女は笑顔で言う。
「いただきます」僕はそう言うと、パンに齧り付く。
「どう? 美味しい?」彼女は僕の反応を窺うように尋ねる。
「ええ、とても」僕は素直に答える。
「そう、良かったわ」彼女はホッとしたような声を出す。
「あの……レイナさん」僕は躊躇いがちに尋ねる。
「何かしら?」彼女は不思議そうに尋ねる。
「その……どうして、レイナさんは……僕なんかに構ってくれるんですか?」僕は恐る恐る尋ねる。
「あら? そんなの決まっているじゃない」彼女はそう言うと、僕の頬にキスをする。
「レ、レイナさん!?」僕は慌てて飛び退く。
「ふふっ、ユウト君は可愛いわね」彼女は嬉しそうに微笑む。
「そ、そういう事じゃないですよ」僕は困った様子で頭を抱える。
「ふふっ、わかっているわよ」彼女は楽しげに笑う。
「はぁ……」僕はため息をつく。
「ユウト君、そろそろ帰りましょうか」彼女はそう言いながら立ち上がる。
「はい」僕は返事をして、彼女と一緒に歩き出す。
***
ギルドに戻ると、レイナさんが受付嬢の方に話しかけているのが見えた。
「ユウト君、ちょっと待っていてくれるかしら?」彼女はそう言うと、僕の方を向いてウィンクする。
「はい」僕は返事をしてから、近くの椅子に座る。しばらく待っていると、レイナさんは笑顔で戻ってきた。
「ユウト君、行きましょうか」彼女はそう言うと、僕の手を握る。
「はい」僕は返事をしながら、手を引かれて歩き出す。
「ねぇ、ユウト君……私ね、貴方の事が好きよ」彼女は僕の耳元で囁いた。
「あっ、はい」僕は動揺して曖昧な答えを返す。
「ふふっ、ユウト君ってば、照れ屋さんなんだから」彼女は楽しげに笑う。
「いえ……そんなことは……」僕は口籠る。
「でも……ユウト君が私を受け入れてくれるまでは……私は諦めないからね」彼女はそう言うと、僕を抱き寄せる。
「ちょ、ちょっと……レイナさん!?」僕は慌てる。
「ふふっ♪」彼女は楽しげに笑うと、僕の唇にキスをする。
「レ、レイナさん……」僕は呆然として言う。
「ユウト君……大好きよ」彼女はそう言うと、僕の額にキスをした。
***
ギルドを出て家に帰る途中――僕はある事に気づく。
「あれ……そういえば……レイナさん、さっきの依頼で手に入れたお金はどうしたんですか?」僕は疑問に思って尋ねた。
「えっ……ああ、あれは全部ユウト君にあげるわ」彼女はそう言うと、笑顔で僕の手を握る。
「えっ……良いんですか?」僕は驚いて尋ねる。
「もちろんよ。ユウト君にプレゼントする為に頑張ったんだから」彼女は誇らしげに胸を張る。
(まぁ……レイナさんが良いって言ってるから良いのかな?)僕はそう思い、深く考えないようにした。
「そうですか……。じゃあ、ありがたく頂きますね」僕はそう言って、彼女の手を強く握り返したのであった。
(それにしても……やっぱりレイナさんのステータスって異常だよな……)僕は先ほどの戦いを思い出す。
(レベル10って……絶対おかしいだろ!)僕は心の中でツッコミを入れる。
(それに……スキルが二つって……どういうことなんだよ!)僕は困惑して頭を抱えたくなる。
(そもそも……レベル10ってなんなんだろう? ゲームだと、レベル1で最弱なのに……レベル10って……普通はあり得ないよな)僕は顎に手を当てて考える。
(レベル10が最高ってわけでもないのかもな)僕はそう結論付ける。
「ユウト君、どうかしたの?」彼女は不思議そうな顔で尋ねてくる。
「あ、いえ……なんでもありません」僕は慌てて答えると、彼女の隣に並ぶ。
「そうなの?」彼女は首を傾げて言う。
「ええ、本当に大丈夫ですから」僕は苦笑いを浮かべて答える。
「それなら……いいんだけど……」彼女は少し不満そうな顔で言う。
「それよりも……今日はありがとうございました」僕は感謝を込めて言う。
「ううん、気にしないでいいわよ。ユウト君の為なら……私はいくらだって頑張れるわ」彼女はそう言うと、僕の腕に抱きつく。
「そ、そうですか……あはは……」僕は戸惑いながら答える。
「ええ、だから……これからもよろしくね」彼女はそう言って、僕の頬に軽くキスをする。
「えっと……はい、こちらこそお願いします」僕はぎこちなく答える。
「ふふっ、ユウト君ってば、可愛いわね」彼女はそう言いながら、僕の頭を撫でる。
「あの……恥ずかしいので、あまりこういう事はやめてください」僕は赤面しながら言う。
「ええ、わかったわ」彼女はそう言うと、僕の頭を撫でていた手を離す。
「それなら良かったです」僕は安堵の息を吐く。
「ええ、その代わり……私がユウト君に甘える時は、いつでも受け入れてね」彼女はそう言うと、再び僕に抱きついてくる。
「は、はい……」僕は少し躊躇いながらも、彼女の背中に手を回す。
「ユウト君……大好きよ」彼女はそう言うと、僕の首筋にキスをする。
「はい、僕もです」僕は彼女の温もりを感じながら言ったのであった。
次の日、いつものように朝起きてから朝食を食べた後で訓練場に向かう。するとそこには既にアリシアの姿があった。
「おはようございます」彼女は僕を見つけるなり、元気よく挨拶してくる。
「お、おはようございます」僕は少し緊張気味に答える。
「ユウトさん、昨日の約束覚えていますよね?」彼女は少し不安そうに尋ねる。
「ええ、勿論です」僕はそう言うと、深呼吸をしてから彼女に向き合う。
「では……いきますよ!」彼女はそう言うと、剣を構える。
「はい、大丈夫です」僕は覚悟を決めて構える。
「それなら……遠慮無く行かせてもらいます!!」彼女はそう言うと、僕に向かって斬りかかってきた!! ***
「お疲れ様でした」彼女はそう言いながら、タオルを渡してくれる。
「はい、お疲れ様です」僕はそう言うと、タオルを受け取る。
「ユウトさん、凄いですね」彼女は感心した様子で僕を見る。
「いえ、そんな事はないですよ」僕は照れ臭そうに言う。
「そんな事ありますよ。まさか……私から一本取るなんて」彼女は驚きの表情で呟く。
「いえ、たまたまですよ」僕は苦笑混じりに言う。
「そんな事ないですよ。ユウトさんは確実に強くなっています」彼女は真剣な眼差しで言う。
「そ、そうですか……」僕は照れ臭い気持ちになり、思わず顔を背ける。
「ええ、そうですよ」彼女は嬉しそうに微笑む。
「ところで……ユウトさんはどうして、強くなりたいと思ったんですか?」彼女は興味津々といった感じで尋ねる。
「えっと……それは……その……」僕は言葉に詰まる。
「ユウトさん?」彼女は不思議そうに尋ねる。
「あの……その……僕は弱いままでいたくないんです」僕は俯いて言う。
「そうですか……でも、どうしてそこまで強さを求めるんですか?」彼女は僕の目を真っ直ぐに見つめて尋ねる。
「あの……その……えーと……」僕は視線を泳がせる。
「あの……無理に話さなくても良いんですよ?」彼女は申し訳なさそうに言う。
「いえ、そういうわけではないんですけど……」僕は困った様子で口籠る。
「あの……もしよろしかったら、私に聞かせてくれませんか? ユウトさんが何故、強さを求めたのか……」彼女はそう言うと、僕に一歩近づく。
「そ、そうですか……」僕は困った様子で答える。
「はい」彼女は笑顔で返事をする。
「わかりました。実は……レイナさんの為に、少しでも役に立ちたかったんです」僕は観念した様子で答える。
「レイナさん……確か、ユウトさんのお姉さんですよね?」彼女は確認するように尋ねてくる。
「ええ、そうなんです」僕はそう答えて、レイナさんとのやり取りを思い出した。
『ねぇ、ユウト君』彼女は僕の耳元で囁いた。
『どうしました?』僕は不思議そうに尋ねる。
『私ね……ユウト君の事が好きなのよ』彼女はそう言って、僕の頬にキスをした。
『えっ……ええっ!? レ、レイナさん……急に何を言っているんですか!!』僕は動揺して叫ぶ。
『ふふっ、冗談よ♪ 本気にしないでね』彼女は楽しげに笑うと、僕の額にキスをした。
「なるほど……ユウトさんの想いが伝わってきました」彼女は納得したように言う。
「そ、そうですか……」僕は照れ臭そうに言う。
「はい、とても素敵な理由だと思います」彼女は満面の笑みで答える。
「ありがとうございます」僕は恥ずかしそうに言う。
「いえいえ、こちらこそありがとうございました。ユウトさんの事を知れて、私は嬉しいです」彼女はそう言うと、僕の手を握る。
「あはは……そう言っていただけると、僕も嬉しいです」僕はそう言うと、彼女の手を握り返す。
「ユウトさん、これからも一緒に頑張りましょうね」彼女はそう言うと、僕の手を強く握ってきた。
***
「ユウト君」彼女は僕の手を握ると、笑顔で見上げてくる。
「どうされました?」僕は首を傾げる。
「今度、二人でデートしない?」彼女は少し上目遣いで尋ねてくる。
「えっ……」僕は戸惑って彼女の顔を見つめる。
「ダメかしら?」彼女は悲しげに言う。
「あ、いえ……別に構いませんよ」僕は慌てて答える。
「本当に?」彼女は期待に満ちた瞳で僕を見る。
「ええ、大丈夫です」僕は力強く答える。
「良かったわ。それじゃあ、また連絡するわね」彼女はそう言うと、僕の頬にキスをして立ち去ったのであった。
(あれ……これって……やっぱり、誘われているんだよな?)僕は困惑して考え込む。
(いやいや……そんなわけないよな……)僕は慌てて考え直す。
(でも……あの時のレイナさんの態度って……)僕は先ほどの彼女を思い出す。
(いやいや……でも……)僕は頭を振って、邪念を振り払う。
(よし! とりあえず……今は訓練に集中しよう!)僕は気合いを入れて訓練を再開したのであった。
次の日――いつものようにギルドに向かうと、既にアリシアの姿があった。
「おはようございます」僕は挨拶をしながら彼女の隣に立つ。
「お、おはよう……」彼女は少し緊張した様子で言う。
「どうかされたんですか?」僕は不思議に思って尋ねる。
「えっと……昨日の事だけど……」彼女はそう言うと、僕の顔色を窺うような仕草をする。
「あ、はい」僕は少し身構えながら答える。
「ええと……ユウト君は、私と一緒に居ても楽しくないのかな……と思って」彼女は不安そうに言う。
「えっと……そんな事はありませんよ」僕は戸惑いながら答える。
「ほ、本当に?」彼女は恐る恐る尋ねる。
「ええ、勿論です」僕は安心させる為に微笑んで答える。
「そっか……よかった」彼女は安堵の息を吐くと、僕の腕に抱きついてきた。
「あ、あの……アリシアさん?」僕は戸惑いながら声をかける。
「ん、何?」彼女は不思議そうに尋ねる。
「えっと……これは一体どういうことなんでしょうか?」僕は戸惑いながら尋ねる。
「え? ユウト君、わからないの?」彼女は意外そうに言う。
「ええ、まぁ……」僕は恥ずかしそうに言う。
「そう……なら、教えてあげる」彼女はそう言うと、僕に抱きついたまま耳元で囁く。
「私ね……ユウト君と一緒だと、凄く幸せな気分になれるのよ」彼女はそう言うと、僕の首筋にキスをする。
「ちょ、ちょっと……アリシアさん」僕は少し焦りながら言う。
「ふふっ、ユウト君可愛い」彼女は悪戯っぽく言う。
「い、いえ……そんな事はないですよ」僕は照れ臭そうに答える。
「あら、そう?」彼女は少し不満げに言う。
「ええ、そうですよ」僕は照れ隠しに答える。
「そう……残念ね」彼女はそう言うと、少し寂しそうに微笑んだ。
「それで……今日はどんな依頼を受けるんですか?」僕は話題を変える為、依頼書を見ながら尋ねる。「そうね……ユウト君は何か希望はある?」彼女はそう言いながら、依頼書を僕に見せてくれる。
「そうですね……それなら、討伐系のクエストにしませんか?」僕は提案しながら、ある事に気づく。
「ええ、いいわよ。それなら……この辺りの依頼なんてどうかしら?」彼女はそう言うと、僕に一枚の依頼票を見せてくれる。
***
【ランクB】
依頼者:冒険者の方へ 最近、街の近くで魔獣が大量発生しているという報告を受けています。至急、調査をお願いします ***
「なるほど……確かに良さそうですね」僕は感心した様子で言う。
「でしょう? 早速、受けに行きましょう」彼女は嬉しそうに言うと、僕の腕を引っ張った。
***
「ここが、問題の地点ね」彼女はそう言うと、目の前に広がる光景を見る。そこには無数の魔獣が闊歩していた。
「凄い数だな……」僕は呆れた様子で呟く。
「ええ、そうね……」彼女は同意するように呟く。
「それにしても……どうしてこんなに集まっているのかしら?」彼女は不思議そうに呟く。
「多分……餌でも見つけたんじゃないですか?」僕は少し考えてから答える。
「ああ、そういう可能性もあるかもね」彼女は納得したように言う。
「取り敢えず……調べてみますか?」僕はそう言って、剣を構える。
「そうね……まずは数を減らさないとね」彼女は微笑むと、魔法陣を展開する。
「ええ、そうしましょう」僕はそう言うと、一気に駆け出した!! 数分後――僕達は大量の魔獣に囲まれていた。
「はぁ……キリがないわね……」彼女は疲れた様子で言う。
「そうですね……でも、あともう少しで片付きそうですよ」僕は余裕そうな表情で答える。
「そうみたいね……」彼女は苦笑すると、再び魔法陣を展開させた。
それから更に数十分が経過した頃――ようやく全ての魔獣を倒し終えた。
「ふぅ……」僕は大きく息を吐き出すと、その場に座り込んだ。
「お疲れ様……ユウト君」彼女は労いの言葉をかけながら、僕の肩に手を置く。
「ええ、ありがとうございます」僕はそう言うと、立ち上がる。
「ところで……ユウト君のレベルはいくつになったのかしら?」彼女は興味深そうな様子で言う。
「レベルですか……えーと……」僕はステータス画面を確認する。
***
名前:ユウト・アサクラ
種族:人族
年齢:15歳
職業:剣士
LV:25
HP:1000/1200
MP:500/600
攻撃力:700
防御力:650
魔力 :300
敏捷性:450
幸運度:50
スキル:剣術(Lv5)
固有能力:全属性耐性(Lv4)
神眼(Lv3)
経験値増加(Lv2)
獲得経験値上昇(Lv1)
自動回復(Lv10)
鑑定(Lv8)
解析(Lv7)
隠蔽(Lv6)
偽装(Lv6)
収納空間(Lv5)
成長促進(Lv9)
称号: 女神の加護 異世界からの転移者 神々の使徒 限界を超えし者 魔王殺し 聖女の恋人 勇者の相棒 特殊進化個体 龍神の盟友 精霊王の親愛 悪魔王との絆 吸血鬼の王 竜人の友 妖精女王の祝福 邪竜の友 巨人族の信頼 魔導を極めし者 悪魔の天敵 天使の守護者 不死鳥の庇護 不屈の精神 武の頂点に立つ者 無慈悲なる者 ***
(うん……相変わらず、凄まじい強さだな……)僕は改めて自分の数値を見て驚く。
(しかし……本当に、とんでもないな……)僕は少し呆れながら考える。
(まぁ……今更、驚きはしないけどな……)僕は小さく笑うと、アリシアの方を見る。「どうしたの?」彼女は不思議そうに尋ねてくる。
「いえ、なんでもありませんよ」僕はそう言うと、彼女の手を握る。
「そう……それなら、いいんだけど」彼女は少し照れ臭そうに言う。
「それより……そろそろ、街に戻りませんか?」僕は周囲を見渡して言う。
「ええ、そうね」彼女は同意して、僕の手を握る。
「それじゃあ、行きましょうか」僕は微笑んで言う。「ええ、そうしましょう」彼女も笑顔で答えると、歩き始めたのであった。
次の日――僕はアリシアと共に、依頼主の元へ向かっていた。
「すみません……わざわざ来て頂いて」依頼人は申し訳なさそうに頭を下げる。
「気にしないで下さい」僕はそう言うと、依頼人に笑いかける。
「そうよ。困っている時はお互い様なんだから」アリシアも微笑んで言う。
「ありがとうございます」彼は感謝の気持ちを込めて言うと、報酬を手渡してきた。
「確かに受け取りました」僕はそう言うと、依頼人と握手を交わす。
「ええ、また何かありましたら、よろしくお願いします」依頼人は嬉しそうに言うと、立ち去っていった。
(よし! これで、お金は手に入れられたぞ!)僕は喜びながら、ギルドに向かうのだった。
***
ギルドに着くと、いつものように掲示板に向かう。そして、目ぼしい依頼を探していると……ふと、一枚の依頼票が目に止まる。
(あれ? これって……)僕は少し考え込むと、アリシアに声をかける。
「アリシアさん、ちょっと良いですか?」
「ええ、構わないわ」彼女はそう言うと、僕の隣にやってくる。
「実は……この街の近くに、遺跡があるみたいなんです」僕は依頼書を見せながら言う。
「え? 本当?」彼女は驚いた様子で尋ねる。
「ええ、おそらく間違いないかと……」僕は自信満々に答える。
「へぇ……ユウト君が言うなら、確かなのね」彼女は感心した様子で言う。
「ええ、まぁ……」僕は恥ずかしそうに言う。
「それで……ユウト君はこの依頼を受けたいのね」彼女は確認するように尋ねる。「はい、そうです」僕は素直に答える。
「わかったわ。なら、早速出発しましょう」彼女は嬉しそうに言うと、僕の腕を掴む。
「わかりました」僕は少し照れ臭そうに答えると、受付に向かった。
***
「うわぁ……凄い数ね……」彼女は目の前に広がる光景を見ると、思わず呟く。
「ええ、そうですね」僕は同意するように呟く。
「それにしても……どうして、こんなに集まっているのかしら?」彼女は不思議そうに尋ねる。
「多分……餌を見つけたんじゃないかと思います」僕はそう言うと、依頼書に書いてあった内容を思い出す。
「ああ、そういう可能性もあるかもね」彼女は納得したように言う。
「それで……どうやって、調査するんですか?」僕は少し考えてから尋ねる。
「そうね……まずは数を減らさないとね」彼女はそう言うと、魔法陣を展開する。
「ええ、そうですね」僕は同意すると、一気に駆け出した!! 数分後――僕達は大量の魔獣に囲まれていた。
「はぁ……キリがないわね……」彼女は疲れた様子で言う。
「そうですね……でも、あともう少しで片付きそうですよ」僕は余裕そうな表情で答える。
「そうみたいね……」彼女は苦笑すると、再び魔法陣を展開する。
それから更に数十分が経過した頃――ようやく全ての魔獣を倒し終えた。
「ふぅ……」僕は大きく息を吐き出すと、その場に座り込んだ。
「お疲れ様……ユウト君」彼女は労いの言葉をかけながら、僕の肩に手を置く。
「ええ、ありがとうございます」僕はそう言うと、立ち上がる。
「ところで……ユウト君のレベルはいくつになったのかしら?」彼女は興味深そうな様子で言う。
「レベルですか……えーと……」僕はステータス画面を確認する。
**
* * *
名前:ユウト・アサクラ
種族:人族
年齢:15歳
職業:剣士
LV:26
HP:1000/1200
MP:600/600
攻撃力:700
防御力:650
魔力 :300
敏捷性:450
幸運度:50
スキル:剣術(Lv5)
固有能力:全属性耐性(Lv4)
神眼(Lv3)
経験値増加(Lv2)
獲得経験値上昇(Lv1)
自動回復(Lv10)
鑑定(Lv8)
解析(Lv7)
隠蔽(Lv6)
偽装(Lv6)
収納空間(Lv5)
成長促進(Lv9)
称号: 女神の加護 異世界からの転移者 神々の使徒 限界を超えし者 魔王殺し 聖女の恋人 勇者の相棒 特殊進化個体 龍神の盟友 精霊王の親愛 悪魔王との絆 吸血鬼の王 竜人の友 妖精女王の祝福 邪竜の友巨人族の信頼 魔導を極めし者 悪魔の天敵 天使の守護者 不死鳥の庇護 不屈の精神 武の頂点に立つ者 無慈悲なる者 ***
(うん……相変わらず、とんでもない強さだな……)僕は改めて自分の数値を見て、呆れる。
(しかし……本当に、とんでもないな……)僕は改めて自分の数値を見て、呆れてしまう。
(まぁ……今更、驚きはしないけどな)僕は小さく笑うと、アリシアの方を見る。「どうしたの?」彼女は不思議そうに尋ねてくる。
「いえ、なんでもありませんよ」僕は照れ臭そうに言うと、彼女の手を握る。
「そう……それなら、いいんだけど」彼女は少し照れ臭そうに言うと、歩き始めた。
次の日――僕とアリシアは再び遺跡の調査を行っていた。
「それにしても……まさか、遺跡の中にまで入ってくるとは思わなかったわね」彼女は困ったような顔で話す。
「ええ、そうですね」僕は同意して、周囲を見渡す。
現在――僕達の周囲では、巨大な昆虫型の魔物が、壁や天井に張り付いていた。
「とりあえず……あの害虫どもを排除しましょうか」僕はそう言うと、剣を構える。
「そうね」アリシアも同意して、魔法陣を展開しようとするが――突然、何かの気配を感じて動きを止める。そして――次の瞬間には、無数の矢が飛んできた。
(これは!?)僕は慌てて防御するが、防ぎきれずダメージを受ける!
(くっ!)何とか体勢を立て直すと、反撃を試みるも――既に敵の姿は消え失せていたのであった。
***
* * *
* * *
* * *
***
* * *
* * *
* * *
***
* * *
* * *
* * *
*
* * *
* * *
* * *
*
(一体何なんだ?)僕は混乱しながら考える。
(今の敵は間違いなく、アリシアさんを狙っていた……しかし、なぜだ? 彼女がここに居ることを知っていたのか? それとも……誰かに頼まれたのか? いや、そんなことよりも……)僕はアリシアの方を見る。彼女は困惑した様子で周囲を見渡していた。
(とにかく……今は彼女を守らないと)僕は決意を固めると、アリシアに近づく。
「大丈夫ですか?」僕は彼女の手を握ると、心配そうに尋ねる。
「ええ、私は平気よ。それよりも……さっきの奴らは、いったい誰なのかしら?」彼女は不安げに尋ねる。
「わかりません……ですが、一つだけ言えることは……」僕は少し考え込むと、アリシアの目を見つめながら言う。
「アリシアさんの命を狙う存在がいるということです」僕は真剣な表情で語る。
「ええ、そうね」アリシアも同意して、僕の目を見返す。
「だから……絶対にアリシアさんから離れませんからね」僕はそう言うと、彼女を抱きしめた。
「ええ、ありがとう」彼女は嬉しそうに微笑むと、僕の背中に手を回すのであった。
***
***
***
* * *
* * *
* * *
* * *
* * *
* * *
* * *
* * *
* * *
* * *
* * *
* * *
*
(ふふふ……上手く行ったようですね)男は楽しげに微笑みながら、二人の様子を見守る。
(まぁ……本当は、こんな回りくどい方法ではなく、直接殺すのが一番良いのですが……)彼は残念そうに呟くと、その場から立ち去ったのであった。
それから数時間後――僕達は遺跡の最奥部へと到達した。
「うわぁ……凄いわね……」彼女は目の前の光景を見ると、思わず呟く。
「ええ、そうですね」僕も同様に目の前に広がる光景に圧倒されていた。
目の前に広がる光景は……一言で表すなら、まさに異界だった。
周囲には、見たこともない生物が生息しており、僕達の方を見ていた。
「それにしても……ユウト君が言っていた通りね」彼女は周囲を見渡しながら言う。
「ええ、そうですね」僕は同意すると、周囲にいる生物のステータスを確認する。
【種族】:虫人
性別:男
年齢:18歳
職業:戦士
LV:28
HP:1000/2000
MP:500/500
攻撃力:800
防御力:700
魔力 :200
敏捷性:900
幸運度:80
スキル:剣術(Lv3)
固有能力:身体強化(Lv2)
身体能力上昇(Lv2)
称号:なし
「どうやら……この人達が、この遺跡の番人みたいですね」僕は冷静に分析する。
「そのようだね」彼女は同意するように呟くと、杖を構えて戦闘態勢に入る。
「ええ、それじゃあ……行きます!」僕はそう言うと、地面を蹴って走り出す。
「うぉりゃぁぁぁぁ!!」僕は雄叫びを上げながら、剣を振り下ろす。
「ギィッ!?」攻撃を受けた虫人は悲鳴を上げると、吹き飛ばされる。
「まだまだぁぁぁぁぁぁ!!!」僕はそのまま連続で攻撃を行う。
「ガァァ……キシャァァ……」数秒後、虫人の体から光が放たれ始める。
「これで終わりだ!! 必殺!! 雷光一閃!!(ライトニング・スラッシュ)」僕は叫ぶと、全力の一撃を放つ。
「ギャアアアアアアアアアアアア!!!」断末魔の声と共に、全身に電気が流れていく。やがて……完全に絶命すると、光の粒子となって消滅した。
「ふう……」僕は小さく息を吐き出すと、周囲を見渡す。すると――いつの間にか他の虫人も姿を消していた。
「お疲れ様」彼女は笑顔で言う。
「ええ、お疲れ様です」僕も笑顔で答える。それから数分後――僕達は最深部を後にすると、出口に向かって歩き出したのであった。
***
***
***
***
***
***
それから数日後――僕とアリシアは再び遺跡を訪れた。
「それで……ユウト君、何かわかった?」彼女は期待に満ちた瞳で尋ねてくる。
「ええ、いくつか情報は得られたんですけど……」僕は言い淀む。
「どうしたの?」彼女は不思議そうに首を傾げる。
「実は……ここ最近、ある村が謎の集団に襲撃されているらしいんですよ」僕は調査した結果を報告する。
「そうなの?」彼女は興味深そうな様子で話す。
「はい、なんでも……村の人が一人残らず殺されたとか……しかも、全員死体がボロボロになっていたらしくて……」僕は調査結果を思い出すと、顔をしかめる。
「それは……確かに、妙な話ね」彼女は不思議そうな顔を浮かべる。
「そうなんですよ。なので……一応、警戒しておいた方がいいと思います」僕はそう言うと、アリシアの手を握る。
「そう……それなら、気をつけておかないとね」彼女は嬉しそうに言うと、僕の手を強く握り返したのであった。
* * *
* * *
* * *
* * *
* * *
* * *
* * *
* * *
* * *
* * *
* * *
* * *
*
「おい! 早くしろ!!」リーダー格の男が怒鳴るように指示を出す。
「わかっている」男はそう言うと、地面に手を当てる。次の瞬間――周囲の景色が一変した。
「こ、ここは……」部下の一人が呆然とした顔で周囲を見渡す。
「さっきまで俺達が居たのは……遺跡の中だよな?」別の部下が困惑した様子で質問をする。
「ああ、そうだ」リーダー格の男は肯定すると、「お前達も確認してみろ」と言って、自分のステータス画面を開く。
「これは!?」部下達も慌てて自分のステータス画面を開いた。
【名前】:佐藤裕二
【種族】:人間
【年齢】:15歳【レベル】:50/100
【ランキング】:1位
【HP】:1200/1800
【MP】:1400/1500
【攻撃力】:300
【耐久力】:280
【素早さ】:250
【賢さ】:150
【運】:100
「なんで……どうして……こんなにレベルが高くなっているんだ?」一人の若い男が疑問を口にする。
「……恐らくだが、あの女が原因だろう」リーダー格の男は少し考えた後、そう結論付ける。
(それにしても……まさか、ここまで強くなれるとは……)彼はアリシアのことを思い出しながら、笑みを深める。
(それにしても……まさか、こんなに簡単にあの遺跡に行けるとは思わなかったぜ)彼は遺跡での出来事を思い返す。
*
「……あの遺跡に行きたいだと?」リーダー格の男は不機嫌そうに尋ねる。
「ええ、そうよ」アリシアは堂々と宣言する。
「ふざけんな! そんな危険な場所に行かせるわけにはいかねぇよ」彼は怒声を上げると、アリシアのことを睨む。
「別にいいじゃない。私だって、もう子供ではないのよ」アリシアは平然と言い放つ。
「そういう問題じゃねえんだよ!」彼はイラついたように叫ぶ。
「どういうことよ? ちゃんと説明しなさい」アリシアは不満げに話す。
「つまりだ……お前があそこに行くと、ろくなことにならないだろ? だから、駄目だと言っているんだよ」彼は面倒くさそうに話す。
「はぁ? そんなの私の勝手でしょう? というより……そもそも、あなた達に許可を取る必要なんてない筈よ?」アリシアはそう言うと、彼を睨みつける。
「うるせぇな。とにかく、俺は反対だ」彼はそう言うと、アリシアから視線を外す。
「そう……それなら、勝手にさせてもらうわ」彼女はそう言うと、遺跡に向かって歩いていく。
「ちょっ、待てよ!!」彼の制止を無視してアリシアは進む。
(くそが……こうなったら、あいつに頼むしかないな)彼は内心で舌打ちすると、部下に指示を出してアリシアの後を追うように命じたのであった。
*
「それにしても……何なんだ、この能力は?」男は驚きながら呟く。
「はい……どうやら、俺達は遺跡の中でモンスターを倒した際に、大量の経験値を得ることができたようです」先ほどのリーダー格の部下が説明する。
「なるほど……ということは、あの女の言う通り、本当に遺跡の中に居るだけで強くなることができるという訳か……」男は納得すると、改めて周囲を見渡す。
(しかし……この世界に来て、まだ数日だというのに……信じられないことばかり起こるな)彼はそう思うと、苦笑いを浮かべる。
(まぁ……今更、何を言っても仕方ないか)彼は気持ちを切り替えると、今後のことについて考える。
(さてと……とりあえず、しばらくはここで大人しくしているか……)彼はそう決めると、その場に留まることにした。
それから数時間後――突然、目の前に扉が現れる。
「おっ、やっと来たか」彼は嬉しそうに呟くと、目の前に現れた扉を開ける。そして――中に入ると、そこには巨大な空間が広がっていた。
「よし……それでは、早速始めるとするかな」彼はそう言うと、目の前にある装置を操作する。すると――目の前に大きなモニターが映し出される。
『それでは……これより、実験を開始します』
「おう、よろしくな」男は楽しげに言うと、目の前の画面に目を向ける。
『それでは……まず初めに、貴方の名前を教えてください』
「俺の名前は佐藤裕二だ」彼は自信満々に答える。
『わかりました。それでは、佐藤さん。これから、貴女の名前を入力します。よろしいですか?』
「ああ、構わないぞ」彼は笑顔で答える。
『ありがとうございます。それでは…………アリシア・ウォーカー。これで、登録が完了しました』画面の文字が変化すると、彼女は名前を呼ばれる。
「ええ、わかったわ」彼女は返事をすると、男の方を見る。すると――男の顔が真っ青になっていくことに気づく。
(あれ……どうしたのかしら?)彼女は不思議そうな顔を浮かべるが、すぐに気を取り直すと、男に話しかけようとする。だが――それよりも先に男が口を開く。
「おい……ちょっと、待てよ……なんで、その名前を知っている?」彼は動揺した表情で話す。
「なんでって……前にユウト君に教えてもらったのよ」彼女は不思議そうな顔で話す。
「はぁ!? お前……いつの間に、ユウトと会っていたんだ?」男は驚いた顔で話す。
「少し前だけど……それがどうかしたの?」彼女は不思議そうな顔で話す。
「い、いや……なんでもない……」彼はそう言うと、黙り込む。
(ちくしょう……まさか、こんなことになるとは……)彼は冷や汗を流しながら、必死に思考を巡らせる。
(いかん……このままだと、計画が台無しになってしまう。どうにかして、誤魔化さないと……)男は焦り始める。
(いや……でも、どうやって誤魔化したらいいんだ?)彼は悩み始める。
(うーん……そうだ! 確か、こういう時は――)男は記憶を辿っていくと、ある出来事を思い出す。それは――自分が異世界転生する際に、女神と会話をした時のことだ。
『そういえば……どうして、私は選ばれたの?』彼女はふとした疑問を口にする。
『ええっと……それはですね……実は、私が選んだのではなくて、神様が決めたんですよね』
『えっ……神様が私を選んだの!? どうして……どうしてなの!?』彼女は驚くと、勢いよく詰め寄る。
『ええっと……実はですね……私も詳しくは知らないんですけど……なんか、私達の世界は色々と不味くて、そのせいで他の世界の人にも協力して欲しいらしいんですよね……』
『そうなの……それで、私が選ばれたと……』彼女は不思議そうな顔を浮かべる。
『はい、そういうことです。あっ、ちなみに……このことは秘密にしておいてくださいね。もし誰かに話したら……わかっていると思いますけど……絶対に許しませんからね!』
「あの……佐藤君?」彼女は心配そうに話し掛ける。
「は、はい!……な、なんでしょうか?」彼は慌てて返事をする。
「大丈夫なの? さっきから様子がおかしいみたいだけど……具合が悪いのなら、休んでもいいのよ」彼女はそう言うと、彼に近寄ろうとする。
「いえ! だ、大丈夫ですよ!! 全然、元気ですから!!」彼は慌てた様子で叫ぶ。
「そ、そう……」アリシアは困惑した顔で言うと、動きを止める。
(あぶねぇ~なんとか、誤魔化せたようだな……それにしても、どうして、こいつはアリシアと同じ名前を名乗っているんだ? もしかして……アリシアは偽名なのか? いや、だが……アリシアという名前自体は珍しくもない名前だし……どういうことなんだ? まぁ、今はそんなことはどうでも良いか……それより、こっちの方が重要だな)彼はそう思うと、アリシアのことを観察する。
(見た目はアリシアそのものなんだが……性格が違うんだよなぁ……)彼は首を傾げる。
(それにしても……本当にそっくりだな。まるで……双子みたいだぜ)彼はそう思いながらアリシアの顔をじっと見つめる。
「あの……そんなに見つめないで欲しいんだけど」アリシアは恥ずかしそうに言う。
「ああ、悪いな。あまりにも綺麗だったからつい見惚れちまったんだよ」彼はそう言うと、照れたように笑う。
(おっ……意外と反応が良かったな。それにしても……やっぱり、アリシアに似ているな。これならいけるか?)彼はそう判断すると、「なあ、アリシア」と話しかける。
「えっ……な、なにかしら?」アリシアは戸惑いながら返事をする。
「少し頼みがあるんだが……いいかな?」
「ええ、別に構わないわよ」アリシアはそう言うと、微笑む。
「ありがとうな。それじゃあ……ちょっと、俺の頭を撫でてくれないか?」彼は少しだけ不安げな声で話す。
「えっ……頭?」アリシアは彼の言葉を聞いて戸惑ったような声を出す。
「ああ、駄目か? 無理なら、別に構わないが……」彼は残念そうな声で言う。
「い、いえ……別に駄目じゃないわよ」アリシアはそう言うと、彼の頭に手を伸ばす。そして――優しく彼の髪を触る。
「おおぉ!」彼は嬉しそうに声を上げると、アリシアの手を掴む。
「ちょ、ちょっと……急にどうしたのよ?」アリシアは驚きの声を上げる。
「なぁ……もっと、強く握ってくれないか?」彼は興奮したように話す。
「な、何を言っているのよ?」アリシアは呆然とした顔になる。
「頼むよ。もう少し、力を込めてくれ」彼は懇願するように言う。
(よし……ここまでは順調だな)彼は内心でガッツポーズを決める。
(それにしても……この女の反応からすると、やはりアリシアではないな。それにしても……似ているのが不思議なくらいだよな)彼はアリシアのことを観察しながら考える。
(このアリシアに似た女性は、アリシアとは別人で間違いないだろうな)彼はそう結論付けると、別の話題に切り替えることにする。
「ところで……あんたの名前はなんていうんだ?」彼は質問する。
「私の名前?」彼女は不思議そうな顔で聞き返す。
「ああ、そうだ。俺が知っているアリシアという女には、アリシア・ウォーカーという立派な名前がちゃんとあるんだ」彼は真剣な表情で語る。
「そ、そうなの……知らなかったわ」彼女は動揺すると、視線を逸らす。
(この反応を見る限り……どうやら、本当にアリシアという女性と別人のようだな)彼はそう思うと、安心したように息を吐く。
「それで……あんたの名前は何ていうんだ?」彼は改めて尋ねる。
「私の名前は――」彼女は何かを言いかけた瞬間――目の前の空間に扉が現れる。「おっ、ようやく来たか」彼は嬉しそうに呟くと、目の前に現れた扉を開ける。そして――中に入ると、そこには巨大な空間が広がっていた。
「よし……それでは、早速始めるとするかな」彼はそう言うと、目の前にある装置を操作する。すると――目の前に大きなモニターが映し出される。
『それでは……まず初めに、貴方の名前を教えてください』
「俺の名前は佐藤裕二だ」彼は自信満々に答える。
『わかりました。それでは、佐藤さん。これから、貴女の名前を入力します。よろしいですか?』
「ああ、構わないぞ」彼は笑顔で答える。
『ありがとうございます。それでは……アリシア・ウォーカー。これで、登録が完了しました』画面の文字が変化すると、彼女は名前を呼ばれる。
「ええ、わかったわ」彼女は返事をすると、男の方を見る。すると――男の顔が真っ青になっていくことに気づく。
(あれ……どうしたのかしら?)彼女は不思議そうな顔で男を見る。
「おい……ちょっと、待てよ……なんで、その名前を知っている?」彼は動揺した表情で話す。
「なんでって……前にユウト君に教えてもらったのよ」彼女は不思議そうな顔で話す。
「はぁ!? お前……いつの間に、ユウトと会っていたんだ?」男は動揺した表情で話す。
「少し前だけど……それがどうかしたの?」彼女は不思議そうな顔で話す。
「い、いや……なんでもない……」男はそう言うと、黙り込む。
(ちくしょう……まさか、こんなことになるとは……)彼は冷や汗を流しながら、必死に思考を巡らせる。
(いかん……このままだと、計画が台無しになってしまう。どうにかして、誤魔化さないと……)男は焦り始める。
(いや……でも、どうやって誤魔化したらいいんだ?)彼は悩み始める。
(うーん……そうだ! 確か、こういう時は――)男は記憶を辿っていくと、ある出来事を思い出す。それは――自分が異世界転生する際に、女神と会話をした時のことだ。
『実は……私達の世界は色々と不味くて、そのせいで他の世界の人にも協力して欲しいらしいんですよね』
『えっ……神様が私を選んだの?』彼女は驚いた顔で聞く。
『はい、そういうことです。あっ、このことは秘密にしておいてくださいね』彼女はそう言うと、照れたように笑う。
『うん、分かったわ』彼女は元気よく返事をする。
『ありがとうございます。それで……お願いなんですけど……実は、私達の世界は色々と不味くて、そのせいで他の世界の人にも協力して欲しいみたいなんですよね』
『へぇ……神様の世界も大変なのね』彼女は感心したような声を出す。
『ええ、まぁ……それでですね。実は……その……私達の世界に召喚される勇者様の性別が決まっていないんですよね』
『そうなの? どうしてなの? 普通は男の人を召喚するんじゃないの?』彼女は不思議そうに首を傾げる。
『いや……実はですね。色々と事情があって、今回は女の子の方にしようと思っているんですよね。ただ……今回、勇者として召喚するのは一人だけなんですよね。だから、もう一人は適当に決めようと思っていたんですが……せっかくなので、アリシアさんの知り合いの中から選ぼうと思ったわけなんですよ』
『ふぅ~ん……そうだったの。ちなみに、私の友達に勇者が居るのよ。名前は……えっと……そう! 佐藤優斗っていうのよ!』彼女は自慢げに胸を張る。
『な、なんと……アリシアさんのお知り合いでしたか……これは、偶然ですねぇ……それなら、ちょうど良いかもしれません。今から、アリシアさんに佐藤優斗君と同じ名前になって貰います。よろしいでしょうか?』
『ええ、もちろんよ!』彼女は元気よく返事をする。
「ねえ……どうしたの? そんなに怖い顔をして?」アリシアは心配そうに話し掛ける。
「いや……なんでもねぇよ」彼は平静を装いながら、答える。
(くそぉ……どうすればいいんだよ……)彼は心の中で叫ぶ。
(こうなったら……仕方がない。一か八かだな)彼は覚悟を決めると、「アリシア」と名前を呼ぶ。
「なにかしら?」アリシアは首を傾げる。
「実は……俺は、お前のことを愛している」彼は真剣な口調で話す。
「そ、そう……」アリシアは戸惑った様子で話す。
「ああ、そうだ。お前のことが好きだ」彼はアリシアの目を真っ直ぐに見つめる。
「えっ……ええっ!?」アリシアは驚きの声を上げると、顔を赤くする。
「ああ、そうさ。ずっと前から好きだったんだ」彼はアリシアの目を見つめたまま、話し続ける。
「えっ……ええっ!?」アリシアは更に驚くと、頬を紅潮させる。
「だが……俺の気持ちは届かない」彼は悲しげな顔で話す。
「えっ……どういうこと?」アリシアは不安そうな顔で尋ねる。
「実は……俺の好きな相手には恋人が居たんだ」彼はアリシアから視線を外すと、遠くを見ながら呟く。
「そ、そうなの……」アリシアは複雑な表情で答える。
「ああ、そうなんだ。しかも……相手は男なんだ」彼は辛そうな表情で話す。
「そ、そうなの……」アリシアは戸惑ったような声を出す。
「そうだ……そいつの名前は――」彼はアリシアのことを見据えると、彼女の目を見て名前を告げようとする。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」アリシアは突然叫び出すと、両手で耳を抑える。
「ちょ、ちょっと待て!!落ち着け!」彼は慌ててアリシアに近づくと、肩を掴む。
「いやよ……もう、何も聞きたくないのよ」アリシアは泣きじゃくりながら、首を振る。
「頼むから、落ち着いてくれよ」彼は困り果てたように言う。
(しまったな……まさか、ここまで取り乱すとは思わなかったな)彼は内心で後悔すると、アリシアの背中を優しく撫でる。
「ううっ……ごめんなさい」アリシアは涙を流すと、彼に抱きつく。
「別に謝ることじゃないからな」彼はアリシアの頭を軽く叩くと、慰めるように話しかける。
「うん……ありがとう」アリシアは小さく返事をすると、彼の胸に顔を埋める。
「なあ……落ち着いたか?」彼はアリシアの身体を抱きしめると、優しく問いかける。
「ええ、なんとかね」アリシアは小さな声で答える。
「そうか……良かったよ」彼は安心したように息を吐くと、アリシアの髪に触れる。
「ユウト君?」アリシアは彼の行動に不思議そうな顔で尋ねる。
「悪いな……勝手に触って」彼は申し訳なさそうに言う。
「いえ……大丈夫よ」彼女はそう言うと、笑顔を見せる。
「そうか……それは、よかったよ」彼は安心したように息を吐くと、アリシアの髪を指で弄ぶ。
(それにしても……まさか、あんなに取り乱すなんて思ってもいなかったな)彼は苦笑いを浮かべる。
(しかし……本当に、この女がアリシアではないのか?)彼は疑問に思うと、改めてアリシアのことを観察する。
(この女がアリシア・ウォーカーである可能性は低いと思うが……でも、本当に別人なのか?)彼は疑い始めると、アリシアの顔を見る。
(それにしても……こうして見ると、やっぱり似ているな)彼は改めて、アリシア・ウォーカーと目の前の女性が似ていることに気づく。
(まぁ……見た目だけなら、同一人物にしか見えないけど……でも……アリシア・ウォーカーという女が、俺が知っているアリシア・ウォーカーと同一人物であるとは限らないしな)彼はそう考えると、別の質問をすることにした。
「ところで……あんたが、俺の知るアリシア・ウォーカーでないと仮定すると――あんたは一体誰なんだ?」彼は真剣な表情で聞く。
「私は――」彼女は何かを言いかけた瞬間――部屋の扉が開かれる。
「おい……お前達、何をしているんだ?」部屋に入ってきた人物は呆れた顔で話す。
「げぇ!?」男は嫌そうな顔で、現れた人物を見ると――すぐに頭を下げる。
「あっ……すいません。ちょっと、アリシアさんと話をしていただけです」彼は慌てたように話す。
「そうか……まぁ、お前達がそういう関係なのは知っていたがな。それより……お前達、仕事の方は終わったのか? もし終わっていないのなら、手伝ってやるぞ」
「えっ……あっ、はい。そうですね……それでは、お願いします」彼はそう言うと、アリシアから離れる。
「よし! それじゃあ、早速行くとするか。アリシアも一緒に来るか?」男は嬉しそうに笑うと、アリシアに話し掛ける。
「ええ、もちろん行くわ」アリシアは笑顔で答えると、男の後に続く。
「あの……お邪魔しました」彼は二人に挨拶をする。
「ああ、またな」
「ええ、またね」二人はそう言うと、部屋から出ていく。
「ふう……どうにか誤魔化せたみたいだな」男はホッとした顔で言う。
「そうね。だけど……これから、どうするつもりなの?」アリシアは不思議そうに首を傾げる。
「そうだな……とりあえずは、ここを出るとするかな」彼は立ち上がると、窓を開ける。
「なっ……なによ、これ!?」アリシアは驚愕の声を上げると、窓の外を眺める。
「ああ、どうやら閉じ込められていたようだな」彼は窓から外を覗くと、ニヤリと笑う。
「どうするのよ? ここから出る方法はないの?」アリシアは不安そうな顔で尋ねる。
「いや……あるにはあるが……あまり使いたくなかったな」彼はそう言いながら、懐に手を入れると――一本のナイフを取り出す。
「それは……?」アリシアは不思議そうに首を傾げる。
「これはな……昔、とある人から貰った武器なんだよ。まぁ……その人は今頃、地獄に居るだろうけどな」彼はそう言うと、自嘲気味に笑みを浮かべる。
「その人って……もしかして……」アリシアは少し躊躇いながらも、彼の名前を口にする。
「ああ……そうだよ。その人は……アリシアの父親だよ」彼は寂しげな声を出すと、アリシアの目を見つめながら答えた。
僕が転生してから一年が経過していた。
最初は色々と戸惑った事も多かったけれど、最近はだいぶ慣れてきた気がする。
そんな僕は今、一人で街を歩いている。
『ユウト君』
ふいに誰かに名前を呼ばれたような気がした。
『あら? どうしたの?』
『いや……なんでもないよ』
『そう? それならいいんだけど』
どうやら気のせいだったらしい。
『ねえ……ユウト君、今日は私と一緒に遊びに行かない?』
『えっ? いいの?』
『もちろんよ!』
『分かった。それじゃあ、行こうか?』
『ええ!』
僕は彼女と手を繋ぐと、二人で歩き始めた。
***
『ユウト君、次はどこに行きたい?』
『そうだな……アリシアの好きな所でいいよ?』
『そう……だったら、あそこの店に行きましょう!』
彼女はそう言うと、僕の手を握りしめながら走り出す。
『ちょ、ちょっと……待ってくれよ……アリシア……急ぐと危ないよ』
『大丈夫よ。ほらっ、早く来てよ!!』
彼女は楽しそうに笑いながら、どんどん先に進んでいく。
『まったく……仕方がないな』
僕は苦笑いを浮かべると、彼女の後を追いかけた。
***
『さっきの店で買ったもの、開けても構わないかしら?』
『ああ、別にかまわないけど……って!? ちょっと待て!! どうして、そんな物を買っているんだ!?』
彼女の買い物袋の中に入っていたものを見て、思わず叫んでしまう。
『ええっと……ダメかしら?』
彼女は不安そうな顔で、こちらを見つめてくる。
『い、いや……別にダメとかじゃないけどさ……こんな物を何に使うつもりなの?』
『えへへ……内緒よ♪』
彼女は悪戯っぽい顔で微笑むと、自分の口元に指を当てる。
『はぁ……まぁ、いいか。それよりも、そろそろ帰ろうか?』
『ええ、そうね。帰りましょうか』
彼女は嬉しそうに笑うと、僕の腕にしがみついてきた。
『ちょ、ちょっと……アリシア!?』突然の事に驚いてしまい、声を上げてしまう。
『えっ……あっ、ごめんなさい。嫌だったかしら?』
彼女は悲しそうな顔をすると、上目遣いで見上げてくる。
『べ、別に嫌じゃないけど……いきなりだと驚くからさ』
僕は恥ずかしくなり視線を逸らすと、頬を掻きながら答える。
『ううっ……ごめんなさい。もうしないから、許してくれないかな?』
彼女は申し訳なさそうな顔で謝ってくる。
『い、いや……別に怒ってはいないから大丈夫だよ』
僕は慌てて答えると、アリシアの頭を撫でる。
『本当……良かったわ。嫌われちゃうかと思ったのよ』
アリシアは安心したように息を吐くと、嬉しそうに抱きついてくる。
(ううっ……胸が当たるから、離れて欲しいんだけどな)
彼女が抱きついている事で、柔らかな感触を味わってしまう。
正直なところ、このままでは我慢できそうになかった。
『アリシア……とりあえず、離れてくれないか?』
『ええ、そうね。もう少しだけ……こうしていたいわ』
彼女はそう言うと、更に強く抱きついてくる。
(ヤバいな……これ以上は、本当にまずいかも)
僕は内心で焦り始めると、アリシアを引き剥がそうとする。
しかし――アリシアは離れようとしなかった。
結局、家に着くまでアリシアが離れる事はなかった。
***
アリシアと別れて、自宅へと戻る。
家の中に入ると、リビングへと向かう。
そこには一人の女性が居た。
「ただいま」
「おかえり」女性はそう言うと、笑顔で出迎えてくれる。
「母さん、何か変わった事はあった?」
「特にはないわ。いつも通りよ」
「そうか……それなら、よかった」
「それより、お腹空いているでしょう? ご飯が出来ているわ」
「ありがとう」
僕は女性に礼を言うと、椅子に座る。
すると、目の前に料理が並べられていく。
「いただきます」
「はい、どうぞ」
彼女は笑顔で返事をすると、僕の向かい側に腰かける。
「それで……どう? 仕事の方は順調なのかしら?」
「うん、まぁね。それなりに上手くやっていると思うよ」
「そう……それなら、良いのだけど」
「心配しなくても、問題ないよ」
「そうね……でも、油断は禁物よ」
「分かってるよ」
「なら、いいのだけど……」
「それより、父さんは元気にしている?」
「ええ、相変わらずよ。最近は忙しいみたいで、家に帰って来ていないのだけどね」
「そうか……でも、仕事が楽しいなら、いいんじゃないかな?」
「そうね。仕事ばかりじゃなくて、たまには休んで欲しいのだけど……」
「はははっ……それは難しいかもね」
「そうよね……あなたも、そう思うわよね」
「まぁ……それより、明日も早いし、そろそろ寝ようか?」
「そうね。お休みなさい」
「お休み」
***
翌朝、朝食を食べ終えた後、出かける準備をする。
「それじゃあ、行ってきます」
「ええ、気をつけてね」
「ああ、分かっているよ」
「それと……忘れ物はないかしら?」
「ああ、大丈夫だよ」
「そう……それじゃあ、いってらっしゃい」
「いってきます」
こうして僕は、家を後にした。それから、しばらく歩くと待ち合わせの場所に到着する。
「おっ! ユウトじゃないか!!」
僕の姿を見つけたのか、男が嬉しそうに話しかけてきた。
「久しぶりだな」
「ああ、そうだな。ところで……アリシアは一緒じゃないのか?」
「いや、アリシアは別行動だ」
「そうなのかい? 残念だな」
「ああ、悪いな」
「いや、気にするなよ。それじゃあ、行くとするか」
「そうだな」
僕達は街を出て、森の奥地に向かって歩き始めた。
***
森の中に入ってから、どれくらいの時間が経過しただろうか。
僕と男はモンスターを倒しながら、奥へ進んでいく。
「なぁ……少し休憩しないか?」
「んっ? そうだな……俺も少し疲れたし、休むとするか」
二人は近くに座り込むと、一息つく。
「それにしても……今日は、なかなか出てこねぇな」
「ああ、そうだな」
「なぁ……ユウト、お前はなんで冒険者になったんだ?」
「それは……まぁ、色々と理由があるんだよ」
「ふーん……まぁ、言いたくないなら言わなくていいぜ」
「ああ、助かるよ」
「それで……アリシアとは、どうなんだ? 仲良くやれているのか?」
「ああ、今のところは問題ないよ。アリシアは優しいし、一緒に居ると落ち着くんだよな」
「へぇ……そうなんだな。ちなみに……どこまでいったんだ? 手ぐらいは繋いだんだろうな? キスはしたか? まさか……それ以上はないだろうな!?」
「おい……そんな事を聞いてどうするんだよ?」
「いや、ちょっと興味があってな。ユウトとアリシアは仲が良いからさ……そういう話を聞く機会がなかったから、気になってな。で、実際のところ、どこまでいったんだ? まさかな……手を繋ぐだけで満足しているなんて事はないよな?」
「そんなわけあるか。手を繋ぐだけで終わるような関係じゃないさ。もちろん、キスだって済ませてるよ。その先はまだだけどな……」
「マジかよ!? やるじゃねえか!! それで……その後は、どういう感じになるんだ!? やっぱり、結婚する流れになったりすんのかね?」
「さぁな。まだ先のことまでは分からないよ。ただ……いずれは、そうなるかもしれないって考えているけどな」
「そっか……羨ましい限りだな。俺にも、そんな相手が見つかるといいんだけどさ……」
「まぁ……そんなに焦る必要はないんじゃないのか? ゆっくり探せばいいと思うぞ」
「ああ、それもそうなんだが……アリシアは、結構モテるんだ。だからさ……あんまり悠長に構えていられないって言うかさ」
「そうなのかい? まぁ……確かにアリシアは美人だし、性格も良いからな。人気があるのは分かる気がするが」
「へへっ……そう言ってくれると嬉しいな。なぁ……ユウトはアリシアの事が好きか?」
「好きだよ。アリシアの事を嫌いな奴は、この世界にはいないと思うぞ」
「へへっ……そうか。だったら……アリシアは絶対に渡さないからな!」
「別に渡すとか、渡さないとかの問題じゃないんだけどな。アリシアが誰を選ぶかは、アリシア自身が決めることだろ?」
「そりゃ、そうなんだけどさ……それでも、負けるつもりはないからな」
「別に争うつもりもないけどさ……アリシアを泣かせるつもりなら許さないからな」
「ははっ……怖い顔で睨むなって……安心しろ。俺はアリシアを悲しませるような真似はしないさ」
「そうか……それなら、いいけどな」
「ああ、心配してくれてありがとな」
「別に心配なんかしていないけどな」
「そうかよ……素直じゃねぇな」
「うるさいよ」
「はははっ……悪い悪い」
「ったく……それより、そろそろ出発するぞ」
「おう! 分かったぜ」
こうして僕達は、再び森の奥地へと向かって歩いて行った。
***
さらに森の奥へと進むと、目の前に大きな湖が現れる。
「ここが目的地か?」
「ああ、そうだ。ここに魔獣が大量にいるらしいぞ」
「なるほどな……とりあえず、調査を始めるか」「そうだな。でも、その前に……腹ごしらえといこうか」
「そうだな。ちょうど昼時だし、飯にしよう」
「よし! そうと決まれば、早く行こうぜ」
「ああ、そうだな」
僕と男は、近くの木陰に腰を下ろすと昼食の準備を始めた。
***
「美味かったな。ユウトの料理は最高だな」
「ははっ……そう言ってくれて、ありがとうな」
「ああ、気にするなよ。本当に感謝してるんだからな」
「そうか……まぁ、そこまで喜んでもらえるなら、作った甲斐があったってもんだな」
「本当だよ。料理も上手いし、面倒見もいいし……お前みたいな兄貴が欲しかったよ」
「そうなのか?……まぁ、俺で良ければ、いつでも相談に乗るぞ」
「ああ、そうさせてもらうよ。ところで……これからどうするんだ?」
「まずは、周囲の探索をしてから、戦闘に入るつもりだよ」
「了解。それじゃあ、行くとするか」
「ああ、そうだな」
こうして僕達は、湖の周辺を調べる事にした。
しかし――周囲をいくら調べても、特に変わった様子はなかった。
「特に変わった事はなさそうだな……」
「ああ、そうだな。それなら……少し早いが、戦闘に入るとするか?」
「いや、もう少し待とう。まだ日も高いし、今のうちに魔力を回復させておくべきだ」
「それもそうだな。それなら、しばらく休憩するか」
それから、しばらくすると、僕は魔法を発動させる。
『水よ、我が剣となり敵を貫け』
僕は水の刃を放つと、そのままモンスターに向かって飛んでいく。
そして、水の刃が命中すると、モンスターは倒れていく。
「相変わらず凄いな……」
男は感心するように呟いた。
「まぁな……」
「それじゃあ、次に行くとするか」
僕達は、その後もモンスターを倒しながら進んで行く。
***
しばらく歩くと、僕達の前に巨大な洞窟が現れた。
「ここは……?」
「おそらくだが……あの奥にいるんじゃないか?」
「そうか……それじゃあ、行くとするか」
「ああ、そうだな」
そう言うと、男と二人で中に入っていった。
薄暗い道を進んでいくと、大きな空間に出る。
「なんだ……これは?」
そこには、数え切れない程の数の魔物がいた。
「どうしたんだ?」
「いや……こんな数は初めて見たんでな」
「そうなのか? まぁ……これだけの数を相手にするのは、骨が折れそうだな」
「ああ、そうだな」
「まぁ……とりあえず、戦うしかないだろうな」
「そうだな」
僕と男は武器を構えると、戦い始める。
それから、どれくらいの時間が経過しただろうか? 気がつくと、辺りには大量の死体が転がっていた。
「これで終わりか?」
「ああ、多分な……」
「それじゃあ……戻るとするか」
僕達は、その場を離れると、街に向かって歩き始めた。
***
街に戻った後、ギルドで報告を行う。
「それでは、討伐の確認を行いますね」
「はい、お願いします」
それから、受付嬢は書類を確認すると、僕達に話しかけてきた。
「えっと……こちらのモンスターですが、どうされましたか?」
「どうされたとは?」
「いえ……他のモンスターと比べても、かなり強い個体ばかりなので……」
「ああ、それはですね……俺達が倒したんですよ」
「えっ!? そ、そうなんですか!?」
「はい、そうですよ」
「そ、そうなのですか……」
「もしかすると……何か問題がありましたかね?」
「い、いえ……そういうわけではありませんが……」
「なら、良かった。それなら、報酬を貰っても良いかな?」
「あっ! は、はいっ!! すぐに用意させて頂きます!!」
そう言うと、受付嬢は慌てて部屋を出て行ってしまった。
「ははっ……なんだか、変な対応だな」
「そうか? まぁ……問題がないなら、それでいいだろう」
「それもそうだな」
その後、戻ってきた受付嬢からお金を受け取ると宿に戻る。
「はぁ……疲れたな。とりあえず、風呂に入ってくるよ」
「おう! ゆっくり入ってこいよ」
「ああ、そうさせてもらうよ」
そう言うと、僕はお湯に浸かる。
(ふぅ……気持ちいいな)
しばらく浸かっていると、突然扉が開く。
「おっ! ユウト、やっぱり居たか」
「んっ……どうしたんだ?」
「いや……今日は色々とあったからさ。一緒に酒を飲もうと思ってな」
「そうか……別に構わないぞ」
「そうか!! よしっ!! それなら、さっそく飲むか」
「ああ、そうしよう」
「そういえば……アリシアは一緒じゃないのか? いつもは、アリシアと一緒に飲んでいるんだろう?」
「ああ、アリシアは先に寝ているよ」
「そうなのか? まぁ……仕方ないか」
「アリシアは酒が弱いからな……」
「そうなのか……なら、あまり無理に誘うのは良くないか」
「まぁ……たまになら良いと思うけどな」
「そうなのか? まぁ……気が向いたら誘ってみるよ」
「ああ、そうしてくれ」
こうして僕達は、二人だけで飲み始める。
***
翌日――目が覚めると、隣にアリシアの姿がなかった。
「あれっ……アリシアは何処に行ったんだ?」
「ああ、アリシアか? アリシアなら、仕事があるからと言って出て行ったぞ」
「なるほどな……」
「アリシアに会いたかったか?」
「まぁ……会いたいといえば、会いたいけどさ。今は、ゆっくりしたい気分だからな」
「なるほどな。なら……また今度にするといいさ」
「ああ、そうさせてもらうよ」
「よしっ! それなら、今日はユウトの奢りで飯でも食いに行くか!」
「おい……勝手に決めるなよ」
「ははっ……いいじゃねえか。ユウトの金なら使い道もないしな。有効活用してやるよ!」
「まったく……まぁいいけどさ」
そんな感じで僕達は食事に出掛ける。
***
食事を済ませた後、宿屋に戻ると部屋の中は荒らされていた。
「くそっ!!……一体、誰がやったんだ?」
男が悔しそうに呟く。
僕達は、犯人を捜す為に街の人に聞き込みを行うが、結局見つからずに終わった。
僕達はギルドに向かい事情を説明する。「そうだったんですか……すみません。ご迷惑をおかけしました」
「いえ、大丈夫ですよ。それよりも……これから、どうすればいいと思いますか?」
「そうですね……とりあえず、依頼主に連絡を取ってみようかと」
「なるほど……分かりました。よろしくお願いします」
「はい、任せて下さい」
僕と男は、冒険者協会に向かうと、依頼主の元へと向かう。
「それでは……失礼致します」
そう言って、受付嬢は部屋から出て行った。残された僕達は、しばらく沈黙する。
「どう思う?」
「どうと言われてもな……ただの偶然だと思うぞ」
「そうか……確かに、そうかもしれないな」
「ああ、それに……仮に今回の件が偶発的なものだとしても、俺達の手に負えるとは思えないしな」
「そうだな……」
「まぁ……気にするだけ無駄だろ」
「それもそうだな。よしっ! それじゃあ……俺は帰るとするよ」
「ああ、分かったよ。それじゃあな」
「ああ、それじゃあな」
そう言うと、男は去って行く。
***
僕が家に帰ると、アリシアが出迎えてくれた。
「おかえりなさい。遅かったわね」
「ああ、ちょっと用事があってな」
「そう……なら、ご飯にしましょう」
「ああ、そうだな」
そう言うと、僕とアリシアはリビングに向かった。
それから、しばらくすると――玄関のドアが叩かれる音が聞こえてくる。
「誰だろう?」
僕は不思議に思いながらも、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。