そわそわするとき

セミワイヤレスイヤホン

第愚話

携帯をいじってしまうのは良くないとわかっている。

やることが終わらないのに違うことをしている罪悪感はある。

しかし。今も、情報の波に飲まれていないとどこか不安になっている自分がいる。

繋がっていないと何も手につかない気がしてならない。

通知の音をつけたまま、来るはずのないメールに期待し、それでまた耐えきれずスマホを撫でる。

いつもこうではないはずなのである。

液晶画面に時間を吸われる者たちを嘲笑し、「全く贅沢な時間の空費である」と陰で高笑いしていたあの頃。

まさか自分がこうなるとは思いもしなかっただろう。

一体私はどうなってしまったのか。

自分より劣ったひとを見ては安堵し、彼らが簡単に私を超えたところに行ってしまえば途端に不安になる。 

いっそ電源を切ってしまおうか。

人間関係に疲れたと言いつつ、人恋しさを断ち切れない矛盾。

誰にも縛られない自由を手にしたかと思えば、すぐに縛られたくなっている自分を見つける矛盾。

この愚かしさ。


文章を書くと心は落ち着くか。

音楽を聴くと心は落ち着くか。

それらすべて、スマホに集約させてしまってはいないか。

そんな嘆きをウェブ小説に吐き出す矛盾。



紙の本を取り出して匂いを嗅いでみる。

本の匂い。雨の音。蛍光灯。

それだけできっと十分だ。

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