モブキャラ共の集会ですか?◇◇◇◇◇💎◇◇◇◇

「セレン。さっきの話としっぽの炎はどう関係してるんだ?」


 俺たちはマンホールの奥――ほかの顔面偏差値により社会的に排除された人々(顔面偏差値制度排除要員――通称『GEPジーイーピー』というらしい)のいる場所へ向かっていた。


 俺はさっきの『セレンのしっぽの炎』に関して、正直あまり要領を得ず、落ち着いて元の状態に戻りつつあるセレンに詳しく尋ねたのだが。


「あぁ……少年。君はまだそんなことが分からなかったのかい?」


「馬鹿にしてんの?」


「違うよ。フェアリーちゃんとグラヴィスさんは気付いてるはずだし。君も気づいてると思ってただけだよ」


 それ馬鹿にしてない説明にはならないだろ。まあでも、フェアリーさんはともかく、グラヴィスさんも分かったんだろ? ……え、ってことは俺頭悪い? 分かんないとダメなやつだった?


「あ、あの……グラヴィスさん本当にわかったんですか?」


 俺は隣の隣――フェアリーをはさんで向こう側にいるグラヴィスさんに話しかけた。グラヴィスさんとフェアリーが何かこの世界について話していたようだったが、たぶんこちらの話も聞こえていたことだろう。


「ま、まあね。フェアリーちゃんがしっぽのことを言った時、まさか! って思ったよ」


 そ、そうなのか……。


「あんたまだわかんないの? これそんなに引っ張るようなことでもないのだけど」


「…………っ」


 フェアリーに煽るように言われて、悔しさと共に唇をかみしめる俺。


 さっきまでフェアリーさんかっこいいって思ってたのに。なんだこいつは。めっちゃウザいんだが。それに何この顔。ブサイクなんだが。とってもブサイクなんだが。まあ俺が言える事ではないのだが…………


 そんなことはともかく、「すぅ」と大きく息を吸い込んで、


「ネタ晴らしお願いします!」


「あんたプライドのかけらもないのね」


 俺は土下座してネタ晴らしを願ったのだった。


「少年。さすがに僕にも罪悪感が芽生えてくるよ。誰もがわかることなのに、土下座してまでネタ晴らししてほしいだなんて。聞いてもつまらないのに」


「そうよあんた。さすがに私も引くわよ。いくらあんたのプライドがゴミでも、ここで土下座はないんじゃないの。本当に使いたいときに効力が薄れるわよ」


「そもそも土下座なんてする必要ないよ。謝るべき時でもないんだし……あれ? もしかして君たちの世界ではその恰好は別の意味で使われるの? 盛大にふざける時とか」


 ……三人そろって俺を虐めてくるんだが。グラヴィスさんに関しては、そのつもりが微塵もない感じが何とも…………みんなヒドいよ。


 そういや土下座この世界にもあったんだ……というか、盛大にふざける時とは一体……。


 俺は顔を上げる。怒りが込み上げてくるが、俺はそれを顔に出したりしない。俺は最大のニッコリ笑顔をして返してやる――


「きもっ」「気持ち悪いわね」「さすがに援護しきれないね。ラルク君のそれはまるで…………」


「まるで……?」


「……魔物だよ」


 単純な二人の悪口に、グラヴィスさんの口調は優しいが鋭い毒針みたいな言葉が重なり、俺は一人その場にうずくまる。もう俺のHPは残り少ない。……もうやめてくれ……。


 俺が倒れかけた、その時だった。


『うわーい』『ふぅぅぅぅ!』『ぐらっちがいないのは最高だぜ!』『ダメですよ暴れちゃ』『後で怒られるよ!』『どっかーん! ばっこーーん!』『はぁ……もう!』


 目の前に現れた扉の向こうから、たくさんの声が聞こえてきたのだ。それも全部――


「――子供ですか?」


「ああそうだ。この部屋には子供しかいない。ラルク君とフェアリーちゃんは、ここで一緒に暮らしてもらうことになる」


「子供と一緒に……?」


 俺とフェアリーは顔を見合わせる。


「ちょっと待ってください。大人もいるんですよね?」


「ああ。もちろんいる。成人している人と、成人していない人で分けてある。だから君たちはこっちなんだ」


「ちょっと待ってください。子供って言ったって小学生とか……少なくとも中学生ぐらいまでしかいないような気がするんですけど。それより上の人はいないんですか?」


「ああ…………そうなんだよね……。実はね――」


 俺は息を呑む。もしかしてみんな殺されたとか? ……いやいや。物騒なこと考えるな。きっともっとほかの理由があるはず……はず……。


 グラヴィスさんが口にした答えは、俺の予想とは異なるものだった。


「――つい一昨日おとといね、13歳以上の未成年の子たちが、全員いなくなってしまったんだよ」


「「…………え?」」


 俺とフェアリーの疑問の声が重なる。フェアリーの方を見ると、俺よりもよっぽど彼女の方が顔色が悪かった。


「どういうことよ……? 少なくとも私が動画を見た1週間前まではここで普通に暮らしてにいたのに」


 1週間前までは何事もなかったのに、一昨日突然に姿を消した人たち。


 グラヴィスさんに話を聞けば、いなくなったのは6人。6人もの人たちが、突如姿を消したらしい。13歳未満の子供たちは事情を何も知らないようで、その6人のことをひどく心配しているらしい。


「どういうことだよ? ヴェイス騎士団とか……いやあいつらがここをもし見つけたんだとしたら、すぐ全員引きずり出すだろうし……」


「そうよ……ね…………。ほかのだれかがやったとしても、その理由がわからない。顔面偏差値が低い人に狙いを定めているのではなくて、13歳から19歳だけをピンポイントで狙った犯行。それかもしくは……」


「何かの理由で自分たちの意思で出ていったか」


 グラヴィスさんがフェアリーの言ったことに付け足した。それからグラヴィスさんが続ける。


「僕は後者じゃないかなと思うね。自分たちの意思で出て行って……誰かに捕まった可能性もあり得るし」


「そ、そうですよね……13歳から19歳だけを狙うって明らかにおかしいですし」


「そうだね。でもまあとにかく――」


 グラヴィスさんは扉を開けて、


「――まずは彼らと仲良くなってくれないとね。考えても何もわからないさ。きっといつか帰ってくると信じよう」


 グラヴィスさんは扉を全開にしてから、


「おい、子供たち! 新入りだよ! 挨拶しにおいでね!」


「うおーっ!」「新入り……めんどくせぇ」「うわまたぶっさいくなのきた」「そんなこというなよ」「もうあんたたちうるさい! 行くわよ」「なんだか眠いけどまあいい!」「なんだか眠いけどまあいい!」


「みんな1人ずつ自己紹介ね! まずはライエルから!」


「はい!」


 グラヴィスさんが言うと、一人の少年が前に出てき……た。


「――――――っ…………」


 短い茶髪に、エメラルド色の瞳。子供たちの中で一番背が高く、気の強そうな彼は、威勢のいい大声で自己紹介を始める。


「俺はライエル・ベッセル! このマンホールの長だ!」


「――マンホールの長はグラヴィスさんだよ、お兄ちゃん」


 ライエルの背中から、一人の少女がひょっこり出てきて声を発した。ライエルを『お兄ちゃん』と呼ぶ彼女は、髪色と瞳の色はライエルとほぼ同じで、肩くらいまである長い髪が特徴だった。背は兄より少し低いくらいだ。気恥ずかしそうに顔を少し俯かせながら、彼女はライエルと同じように自己紹介をした。


「私はロッテ・ベッセル……。さっきのが私のお兄ちゃん。よろしくお願いします」


 ロッテの方は、兄よりも礼儀正しいようだ。


 次に前に出てきて自己紹介をしたのは…………珍しい緑の長髪の少女だった。大きな透き通るような青の瞳と、色白の美しい肌が特徴だ。


「私はエスティー・ナッサだ。よろしくな! じゃっ!」


 美しい肌とは裏腹に、彼女は非常に陽気な、覇気のある声で言って去っていった。


 続いて出てきたのは…………仲のよさそうな少年2人。


「ちょっとやめてよ、ナーくん」


「いいでしょべっつにぃ! お前はラクラなんだからっ!」


「それは理不尽だよ……」


 その『ナーくん』と呼ばれた少年が、もう一人の『ラクラ』と呼ばれた少年の肩に手を回し、ちょっかいをかけている。


「俺はナーシル・ガラックスっ! よろしくねっ!」


「はぁ……こういうの苦手なんだよ……めんどくせぇ……ハイハイ。僕はラクラ・マレードと言います。お願いします」


 ナーシルの方が、金色の短い髪の少し女っぽい感じの少年。


 ラクラの方は、桃髪短髪の真面目そうな少年。俺たちが来たことをとても面倒くさがっているようだ。背は二人とも子供たちの中では中くらいで、小学校高学年の平均身長と言ったところだろうか。


「もう! あんたたち! 何やってんのよ!」


 向こうで気の強そうな少女が、すでに自己紹介を終えた子供たちに向かって叫んでいる。


「ちゃんと自己紹介しなさいよ。名前だけじゃ何もわからないじゃないの! もっとこう、好きな食べ物とか……あるでしょ。私がお手本を見せてあげるわ」


 そう言ってこちらへ向かって歩いてきた黒髪ロングの彼女は…………まあ清廉潔白――――というよりかは、チームをまとめ上げる真面目な少女、という印象だ。


「私の名前はニーチェ・レウスよ。好きなことはトランプ! 好きな食べ物は…………私の好きな食べ物は…………そう! 私に好きな食べ物なんて存在しないわ。この世にある食べ物は、み〰〰んなおいしいんだから!」


「おい自己紹介になってないぞ!」


「トマト食えないでしょ、ニーチェは」


「もうっ、うるさいわよ。トマトぐらい食えるわよ!」


 ライエルやらラクラやらに文句を言われ、お怒りの様子だ。まあこの子は負けず嫌いのいい子なんだろう。


 ……そして。次に来たのは…………少女2人。


 えっと……彼女らを説明するのならば、何を言えばいいのだろう。身長で言えば……まあライエルぐらい高い子と、それに比べると低い子……かな。姉妹だろうか。でもそのほかは……。


 さっきからが、ちょっと厳しいな。この場所は顔面偏差値の低い人の集まりだし、そういうこともあるのだろうが……これはあまりにもかわいそうな気がしてならない。


 一つずつ例を挙げていくならば。


 その少女2人はまず、髪の毛が生えていなかった。……目はある。鼻もある。口も、耳もある。そういうパーツはそろっているのだが、2人ともそのパーツの一つ一つの位置がズレていた。明らかに、誰が見ても『おかしい』と思うようなくらいにだ。


 自己紹介が始まるときにはもう、俺は本当にここにいていいのだろうかと思うようになっていた。なぜなら、彼らは全員俺らよりも断然ブサイク……というか何というか…………そもそも顔のパーツが抜けていたり、顔の周りが異常な人が多い。


 ライエルには片耳がない。


 ロッテは鼻だけが異様に青い。


 エスティーはねばねばした緑色の髪の毛。


 ラクラは何があったのかはわからないが、片目だけ眼帯をしている。


 ナーシルは唇の色が真緑だ。


 ニーチェは黒髪――と言ったが、老人のような白髪が生えている。老人のよう――というのは髪の毛だけではない。顔が全体的に老けていて、おばあちゃんのようになっていたのだ。


「………………」


 俺は完全に黙り込んでしまった。俺がここにいる場違い感がヤバすぎる。俺が少し焦っていると――先ほどの少女2人が自己紹介を始めた。


 彼女たちは声をそろえて、2人同時に言った。


「「私たちは姉妹! ボリネア・シレナ(お姉ちゃん)と、マリナン・シレナ(マリナン)だよっ!」」


 姉のボリネアと、妹のマリナン。彼女たちは元気な声でそう言った。


 ――そう。みんな、全員が元気なのだ。


 このような境遇なのにも関わらず、みんな元気にしているのだ。


「俺、泣きそう……」


「今泣いてちゃだめよ。気持ちはわからないでもないけど……これからずっとここで暮らすんだから」


 俺がフェアリーに小声で囁くと、フェアリーは呆れたように言った。だったら……


「やっぱりやめない?」


「じゃあどこで暮らすっていうのよ?」


「さ、さあ?」


 そんなの知らないし。


「さあじゃないでしょ。それに、あんたの泣き顔なんてもう見たくないか

ら。絶対キモい」


「いやお前もだろ」


「私は神聖な女神だからキモいわけないわ」


「おい! …………あはは。まあ、ありがとう。なんか気持ちが晴れてきた気がする」


「は? あんたに感謝される筋合いはないわよ。私はあんたのために何も――」


「――ねえさっきからなにごちゃごちゃやってるの?」


 一人の少年が、俺たちの会話(?)を遮った。自己紹介は全員終えたのだが――確かに何も言わずに俺たちがここでぺちゃくちゃ言い合っているというのは、おかしな話だった。


 それを気付かせてくれたのは……ラクラ――俺たちが来たことを面倒くさそうにしていた少年である。


「はぁ……めんどくせぇめんどくせぇ…………人見知りな僕んところにまだ新入りが来るのか…………あいつらがいなくなって清々してるってのに…………あーあ。……なんだよ? あんまりブサイクじゃないんじゃないか……っていっても、その顔じゃ外出れないのか。GHS10点ぐらいですかね? まあそんなのどうでもいいんだけど」


 ラクラはけだるそうな片目をこちらに向けて、言った。


「なにこれ……? セレンっていう圧倒的可愛さの塊以外は嫌な奴ばっかじゃないですか。僕も、ほんと、嫌い…………あーあ。この世界つまんないな。……何? モブキャラ共の集会ですか?」


 眼帯をしているからか鋭い片目が目立っており、脱力したような言葉にも、強い圧のようなものが感じられる。


「君たちさんもどうせさ…………前押しかけてきたイケメンと同じだろ?」

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