顔面偏差値制度 - おまけ

 突然だが、あなたは『顔面偏差値がんめんへんさち』というものを知っているだろうか。

 

 言葉の通り、顔面の偏差値――つまり顔の良し悪しを批評する基準、のようなものだ。


 これだけだとピンとこないだろう。もっと分かりやすく言おう。


 あなたは自分の顔をどう思いますか。イケメンですか? それとも、ブサイクですか? こんな事を一度は考えたことがあるのではないだろうか。


 イケメンである。そう自信を持って言える人は少ないだろう。というか、私イケメンですとしゃしゃり出てくる者がいればちょっと引くだろう。


 だがその人が本当にイケメンなら、すぐにちやほやされだす……かもしれない。そう。そうなのだ。


 イケメンは最高のステータスなのだ……!


 ならブサイクな人は? ブサイクだという人が本当にブサイクだったら普通に嫌われる。それどころか見下され、さげすまれ、そして……。


 でもブサイクだという人が実は皆から見ればイケメンだった、という場合はどうだろう。これは謙遜けんそんとしか思われず、たちまち黄色い歓声を浴びる事だろう。


 このことからわかるように、イケメンかブサイクか、という生まれ持った個性で人生が大きく変化するのだ。その〝生まれ持った個性〟の偏差値が、顔面偏差値である。まあつまり、世の中外見ってのを皮肉にも値として示してきやがるのが顔面偏差値だ。


 顔面偏差値は数値化されるなど分かりやすい基準を持たないため、不鮮明でわかりにくい。


 だがそれは君たちの世界で――の話だ。この――全宇宙最悪と呼ばれた世界では違う。


 これはまあ――都市伝説のようなものだと思ってくれ。


 君たちの住む世界の他にも、たくさんの世界が存在し――そのそれぞれにたくさんの宇宙が存在する。その宇宙の一つ一つには、それぞれ一つだけ、地球のように生き物が生息できるがある。


 たくさんの宇宙では、各々で惑星の総数も様々だ。地球からは『月』を鮮明に見ることができるが、そんな風な星が数百個もあり夜空を埋め尽くす惑星もある。君たちからしたら信じにくいことかとは思うが。


 異世界転生ってのがあるだろう。それが他の宇宙の他の惑星に移動してるって事だといえば理解しやすいかな? ――まあ普通そんなことは起きないんだけど。


 さて、 本題に入ろうか。なぜ例の世界は全宇宙最悪と呼ばれているのか……。


 ――その答えは、実に明白だ。


 実は、この世界にはある制度が存在しているのである。


 それも――学校や会社での評価もというもの。学業も仕事もしなくていい。読み書きや簡単な計算すらできず、給料がもらえないと生活に支障が出るからしているというだけだ。金持ちのセレブなんかが学校や会社に行くことは滅多にない。


 この理不尽な制度こそが顔面偏差値制度――通称《FDMエフディーエム》である。


《FDM》は、無論、神たちの間でも波紋を呼んだ。


 だがしかし、こればかりは神でも救えなかった……。


 顔の良い人は、愛され、慕われ、そして権力、財産、地位――全てを手に入れ…………。対して顔の悪い人は、それらを全て失う。


 美人でセレブなお嬢様は、極力外出しない。しかしそんな君らからすればニート同然の金持ちも外出しなければならない日が存在する。


 それが顔面偏差値測定――頭文字をとって略して〝GHSジーエイチエス〟――という1年に2回のイベントである。


 〝GHS〟――それは顔面偏差値を測定――つまり数値化するというイベントだ。顔も時が経てば変わってくる。〝GHS〟で出た結果によって、これからの人生が決まると言ってもいいだろう。


 では、顔面偏差値とかいう不明瞭なものをどうやって数値化するのか。実は、これは機密情報で一般人は殆ど知ることができない――が、誰でも知っていることが一つだけある。


 それは、〝GGFジージーエフ〟と呼ばれるAIのような機械が、顔面偏差値を数値化しているということ――それだけ。


 何を基準に数値化しているのか、GGFがどんな原理で製造・稼働しているのか、この星の人々はなぜ顔面偏差値を測定するのか…………などなど。


 この世界に問うべき疑問はいくらでも思い浮かぶが、この世界の人々はそれを口には出さない。顔面偏差値で人間を、時には見下して、時には見下されて。そうやって今を生きている。


 この世界は――非常に不平等だ。


 ド美人で超金持ちで、気高く上品な暮らしをしている者もいれば、どんな工夫を施しても顔がブサイクで、隠れてひっそりと暮らす者もいる。


 この世界では性別や家柄は関係ない。一国のお嬢様が顔面偏差値測定で低い得点を叩き出し、あらゆる貴族たちのノケ者にされ、その環境に耐えきれず、命を絶ったという例もある。


 機械が勝手に決めたいい加減な数値で、その人の人生が決定されるのだ。


 人生は、その人の〝全て〟。


 この世界は、たくさんの人間の〝全て〟を奪っているのだった。 



 ――――許せない。



 当然に神たちは、この現状を許さなかった。


 しかし、〝人間の決断に干渉してはいけない〟という不可侵の盟約があるため、彼らはこの世界を救うことができなかった。


 元々はこんな理不尽な世界ではなかったことを神たちは知っている。どうしてこうなってしまったのかも知っている。神たちは――全てを把握している。


 しかしそれでも救えない……。神たちはそれがとても悔しかった。



 ――この世界を元に戻す方法はただ一つ。



 人間がその人間自身の力で、顔面偏差値制度を撤廃するのみ。そして――


「…………君が最後の望みじゃ」


 ――神は、一人の少年を最悪の世界へと招き入れた。


 この少年こそが、後にこの世界を救う――英雄となる……のか?

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