第41話 俺じゃない事だけは、確かだな
「…………」
「…………」
伊色と二人で取り残された俺は、絶賛気まずい状況に陥っていた。
なんやかんやで、依代と三人で居る分には適当に茶化せるからそこまでの空気にはならないんだが……。
とはいえ、この空間は非常にキツい。
とりあえず、ここはさっきまで話してた依代妹の話でも続けておくか。
「あー……依代妹の相手、見付かると良いよな」
「あ、うん……そうだね」
会話終了。
いや、下手過ぎかよ……。
まあ、陰キャの俺が頑張ったってこんなもんだ……俺、よくこれでこいつらと表面上でも付き合おうと思ったな。
しかし、ここで露骨に帰ると、それはそれで後を引きずる可能性がある。
部活の仕事もせずに幽霊部員としてやっていくにはそれは困るわけだ。断じて、こいつらとの仲が微妙な空気になる事を恐れているわけじゃない。
「……あの、さ」
「何だよ?」
「さっきの翠の話……あの場ではああいう風に答えたけど……私、多分、愛華ちゃんの相手、分かったと思うんだ」
「はあ? だったら素直に言おうぜ? まあ、相手が分かったら、あいつ姉貴面してお節介焼くかもしれねぇけど」
「うん……まあ、それも心配だったんだけど……。伝えなかったのはまた別の理由っていうか……」
「あぁ、なるほど……もしかして、槇村か?」
槇村 透(まきむら とおる)。
ノリが非常に軽く、女子からのウケが良いモテモテな男だ。
まあ、あいつなら惚れられてもおかしくはない。何せ、噂じゃ結構な女子から好かれてるらしいしな。
それに、いわゆるチャラ男って感じもするし、伊色の奴があえて依代に教えなかったのも分からないでもない。親心って奴だろ、多分。
俺でも躊躇うしな、うん。親じゃねぇけど。
「ん……? つっても、あいつは茶髪だろ? さっき言ってた依代の黒髪ってのには当てはまらないんじゃね?」
「うん、だから槇村くんじゃない」
「じゃあ、俺の知らない奴か?」
「ううん。知らないっていうか―」
伊色がそこまで言い掛けた時だった。
ガララッと部室のドアが勢いよく開くと、廊下からこの部活の顧問である三日下先生が顔を出してきたのだ。
「須藤くん、居る? って、あら? お邪魔したかしら?」
「……先生、どこに目ぇ付けてんですか? 部活やってんすよ、部活」
「……伊色さんはともかく、堂々と雑誌開いて座っているだけの生徒に言われても、先生反応に困るんだけど」
「これはあれですよ。雑誌に何かアイディアが詰まってるかもしれないって事で話し合ってたんです。俺、ピーンと天啓が無いと動かない派なんで」
「いや、入学してから一度も部活動らしい事してないでしょ、あなた……まあ、良いわ。ちょっと男手が欲しいから、須藤くん来てもらえる?」
「いつからここは体育会系になったんすかね……」
「文系だろうと、体育会系だろうと、いつの時代も男子が力仕事という風に相場が決まってるの。分かったら、準備して来てちょうだい」
「うへぇ……」
とはいうものの、今の気まずい状況を脱するのには丁度良い。
我ながらヘタレ極まりないが、これなら伊色を傷付ける事無く部室を出る事が出来るしな。
(まあ……あいつが言い掛けた事は少し気になるが……)
それはまた依代と三人の時にでも聞けば良いだろ。部外者の俺だけが聞く方が本来はおかしいしな。
「んじゃ、俺は行くわ」
「あ、うん……また明日」
「おう」
咄嗟に別れの挨拶を返されてしまい、反射的に手を上げて答えてしまう。……いやまあ、減るもんじゃないし、良いけど。
そうして俺は、三日下先生と共に部室を後にした。
部室から出る最中にふと伊色の言っていた事を思い出す。
『さっきの翠の話……あの場ではああいう風に答えたけど……私、多分、愛華ちゃんの相手、分かったと思うんだ』
依代妹が惚れたっていう相手は、やはり困っていた依代妹を助けた人間には違いないだろう。危機的状況を救う先輩ってのは、なかなか魅力的に写りそうだもんな。
(けどまあ、少なくとも―)
俺じゃない事だけは、確かだな。
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