第40話 何これ、気まず……
「……何だよ?」
「あ……いや、別に」
俺が伊色に声を返すと、露骨に顔を逸らされた。……まあ、どうせ中学の時に付き合ってた時の事を思い出したんだろうが。
とはいえ、俺はそんな事を突いて藪から蛇を出すつもりは無い。
依代も伊色を見て同じような考えを持ったのか、少しバツの悪そうな顔を浮かべていたが、俺はそんな二人から視線を外すと疲れたように窓の外を眺めながら言葉を返してやる。
「……まあ、中学なんて陽キャにとっては良い場所かもしれねぇけど、陰キャにとっては高校も中学も大して変わらねぇけどな。参照は俺」
「え? それ、何の話……?」
「お前の妹の話の延長線上だよ。ここの生徒に惚れたんだろ? 青春大いに結構。姉ちゃんとして、応援してやれば良いだけじゃねぇか」
「まあ、それはそうなんだけど……相手が誰だか分からないから、どうしようもないんだよね」
「何だよ? 名前くらい聞いてないのか?」
俺は気だるげに顔を二人の元へと戻すと、伊色も依代の方へと視線を向けていた。
すると、依代は俺と伊色から注目される形になり、椅子に寄り掛かるようにして声を返してきた。
「そうなんだよね~。見た目も曖昧っていうか……黒髪だったって言われても、黒髪の男子なんていくらでも居るじゃん?」
「まあ、高校デビューに失敗している俺を始め、大体はそうだろうな」
「……須藤くん、高校デビューしようとしてたの?」
「いや、別に。模範的な男子高校生として言ってみただけだ」
「茶髪のスド……ごめん、全然想像付かないんだけど……」
安心しろ、俺にも想像付かないから。
部員である二人から怪訝な表情を向けられながらも、俺は軽口を叩くように言葉を返していく。
「んで、話を戻すが……無い頭を使ってあえて推理するなら、そいつは間違いなくイケメンだな」
「う~ん……まあ、愛華が惚れちゃうくらいだしね~」
「そうかな? 人を好きになる理由って何も見た目だけじゃないと思うけど……困っている所を助けてもらったんでしょ?」
「なるほど、一理ある……が、それでも、一目惚れするくらいだろ? だったら、相手はやっぱりイケメンの方が可能性が高いんじゃね? どう思う? 元凶のお姉ちゃんよ?」
「げ、元凶とか言わないでよ!? こ、この場合、恋のキューピットポジでしょ!?」
「キューピットってタマかよ、お前……それに、妹に高校まで弁当を持ってきてもらってた奴が何だって?」
「あー! あー! 聞こえない聞こえない!」
「子供かお前は……」
「べー! どうせ私は子供ですよ―って、あ、やば」
そう言って、軽く舌を出してみせていた依代だったが、ふと何か思い出したように声を上げる。急いだ様子で時計を確認する依代に、俺は軽く言葉を返してやる。
「何だよ? 予定でもあったのか?」
「うん……実は今日オーディションがあって……まあ、主演とかじゃないんだけど。でも、事務所から出てみたらって勧められてるんだよね」
「そういや、お前、女優目指してたんだったな……」
普通にいつも部活に参加してたから完全に忘れてた。
驚く俺に対し、依代の親友である伊色は普段通り動揺した様子も見せずに依代へと鞄を手渡す。
「はい、鞄」
「あ、ありがと、悠香! それじゃあ、私行ってくるね!」
「うん、気を付けて」
そんな伊色の言葉に依代は軽く手を振ってみせると、今度は俺に目を向けてくる。……何だよ、見送れってか?
「……じゃあな」
「……うん! また明日ね!」
俺がぶっきらぼうに挨拶を返したにもかかわらず、依代は倍以上のパワーがある声でそう返してくる。……女子とわざわざ帰りの挨拶するとか、普通に恥ずいんだが。何これ何の罰ゲーム?
そんな騒がしい依代が部室を出ていった後、部室には俺と伊色だけが取り残されたわけだが―
(―って、待てよ、おい)
よく考えたら、元カノの部室で二人きりとか……何これ、気まず……。
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