9章 だから、その恋を『俺達』は語らない
第32話 多分、俺の弱さだ
―翌日。
教室に俺が入ってくると、すでに登校していた伊色と依代から一斉に視線を向けられた。
(うわ、気まず……)
明らかに動揺している様子の二人に俺は疲れた表情を返すしかない。……いや、マジで何してくれちゃってんの、あの姉。
(……とはいえ、教室で変に関わってばっかいると噂になるしな。とりあえずは部活だ、部活。触らぬ神に祟りなし……と)
俺は二人の視線から逃げるようにして自分の机へと戻ろうとしたが―
「……ねえ」
(は……?)
そんな俺に、まさか依代が声を掛けてきた。
どこか戸惑いつつ、さらに少し泣き出しそうな潤んだ目で見られ、俺はぶっちゃけきょどっていた。
(落ち着け……。部活に誘ってきた以外、ほとんど教室で声を掛けてきたことなかったくせに……一体、どういうつもりだ?)
しかし、突然のことに驚いてはいても反応しないわけにもいかず、俺は荷物を取り出しながら何気ない様子を装い鞄から応じる。
「……なんだよ?」
「えっと……」
あまり長く話していては周りから変に勘繰られる可能性もある。余計な時間を掛けるのはこいつにとっても良いことじゃないだろう。
だったら―
(……勘繰られる? 何が?)
いまだ言い淀む依代の様子に疑問を抱きながらも、気付けば俺は自分の感情に一番の疑問を抱いていた。
(俺はこいつらとは部活仲間だって知られてんだろ……だったら、変に勘違いを起こされることもないだろうが)
だったら、俺は何に苛立ってる?
こいつらにも事情があるんだ、別に今さらこいつらに怒りを感じることなんてない。
それなら昨日の緋由の言葉にか?
……いや、多分、そうじゃない。
(……周囲の連中に俺達のことを勝手に……伊色や依代のことを好き勝手言われるのが気に食わないんだ)
別に、俺は今さらこいつらとどうこうなりたいわけじゃない。
ただ……それでも、こいつらが不幸せになることだけは絶対に許せないんだ。
念の為、周囲に視線を向けてみるが、まだそこまで注意を向けられてはいない。
なら、まだ間に合う。
こいつらのことを考えれば、俺達は必要以上に教室で関わり合いを持つべきじゃない。
「あの……さ―」
そんなこと、ずっと前から分かっていた。
部活に入部するのに承諾したのはどうしてだ?
こうして、あいつらからの関わり合いを拒絶しないのはどうしてだ?
(……そうだ、俺はずっとそれが分かっていた。それなら最初から部活に誘われても断れば良かったんだ)
その所為で、余計に苦労をして。
その所為で、余計に気を使わないといけなくて。
その所為で、俺は―こいつらのことで頭を毎日悩ませてるんだ。
それでも、そんなこいつらの誘いを拒絶出来ないのが―
「―ちょっと、私に付いて来てくれない?」
―多分、俺の弱さだ。
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