第22話 酔っ払い


「まあ、良いか。困ったことがあったらお姉さんになんでも相談しなさい」

「アホか。そんなガキみたいなことするかよ」

「愛しの弟の為ならどこにでも飛んで行くよ、私」


「お前を呼ぶようなことは無いから安心しろ」

「あらら、反抗期~?」

「言ってろ。なら俺は万年反抗期だ」


「でも、私はツンツンしてるヒロのが好きだけどね」

「あいにくと俺は面倒な女は嫌いだが?」

「出た、ヒロのツンデレ」


「勝手に抜かしてろ、酔っ払い」


 下らないやり取りに呆れながらコーヒーを傾ける。チビチビとしか飲めないのはまだまだ俺がガキだからか。


 それでも、過去のことを忘れるにはこの苦味が丁度良かったりする。


 そんな俺の様子をソファーから眺めていた緋由はニヤニヤとした笑みを浮かべると、酒を片手にカラカラと鳴らしながら言葉を向けてくる。


「そういえば、コーヒーをブラックで飲む人って何か忘れたいことがある人なんだって。それって酒飲んで忘れようとしてるの同じだよね」

「……初耳なんだが?」


「うん。だって今、私が考えたからね」

「……さも当然に誰かから聞いたように言うのやめろ。嘘かどうか分からねぇだろ」

「大人っていうのは噓が得意だからね~。そんな噓に騙される純粋な弟が可愛くて仕方ないよ~」


「……とんでもねぇ女に引っ掛かっちまったわ。詐欺で訴えられねぇかな」

「他人を騙したら犯罪だけど、弟はいくら騙しても平気なんだって。知ってた?」

「……俺、一生不幸じゃねぇか、それ」


「大丈夫、姉ちゃん辞めたら平気」

「……いや、意味分からねぇよ」

「あ、そうそう。そういえば、近々あんたのところに遊びに行くかもしれないから」


 唐突な話題転換に付いていけず、相変わらずの傍若無人な姉に俺はため息を吐くしかない。


 しかし、ここで元の話題に持って行っても興味の無くなった話題には食いついてことないことを知っている為、俺は呆れつつも緋由に合わせたテンポで言葉を返してやる。


「はあ? だから、もう少し脈絡のある会話してくれよ……」

「会話って言うのはね、相手が理解してればそれで良いの」


「いや、してねぇよ、理解……てか何? 遊びに行くってどこに? 俺の部屋?」

「それはいつもしてるじゃん」

「は? 俺、お前を部屋に上げたのなんて小学以来してねぇんだけど?」


「やべ、口が滑った」

「何? マジで言ってんの? プライバシーって知ってる?」

「姉弟の間に隠し事は無しだよ、弟」


「普通にそれ、プライバシーの侵害なんだよなぁ……つーか、遊びに行くってなんなんだよマジで」

「あんたの学校。私、OBだからね」


「勘弁してくれよ……面談で親の代わりに姉貴来るとか最悪じゃん、それ」

「いんや? 私のプライベートで行くだけ」

「いや、来んなよ……もし来ても他人のフリしろ」


「何? 美人な姉ちゃんを独占したい?」

「学校来る前に耳鼻科が行け。あるいは頭の医者」

「照れるな照れるな。姉ちゃんには全部分かってるから」


「そういうことを言う奴が一番分かってねぇんだよなぁ……」

「まあ、ともかく近いうちに学校に行くから。あんたはいつも通りにしてれば良いの」


 なんなんだよ、マジで……。


 呆れて肩をすくめる俺に、緋由は酒の入ったコップを見せると再び勢いよく飲み始めたのだった―。

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