第2話

 今日のために誂えた可愛らしいドレスを身に纏っているというのに鬱々とした暗い気持ちのままで、出席したお茶会ではあった。だが、自分の婚約者になるはずの王太子アンドリューとその弟の第二王子エリオットは、常に婚約者候補の可愛い女の子たちに囲まれている。彼らは華やかな一角で、和気藹々と楽しく過ごしているようだ。


 ちなみに二人の王子は、どちらも乙女ゲームの攻略対象であるだけに、双方共に素晴らしく目鼻立ちの整った美形だ。


 乙女の夢を体現していると言って過言ではないアンドリューは王子という身分らしく金髪碧眼で、今はまだ幼い可愛らしい顔には将来の王者たる者特有の余裕のある笑みを浮かべている。


 対して弟のエリオットは、黒髪金目で腕白そうな男の子だ。彼は成長すればワイルド美形枠になるのが今でもわかってしまうくらいに悪戯好きな様子で、自分に群がる女の子を冗談を言っては笑わせているようだ。


 彼らの様子を何の感情も持たず遠目に見ながら、王室付きのシェフが作ったというケーキを美味しく食べていたオフィーリアははたと気がついた。お茶会には全く乗り気ではなかったので、少し時間に遅れてしまい本来であれば彼らの程近くに座っている予定が身分上では下位の伯爵令嬢と共に末席辺りに座っていた。


(ちょっと……待って。これって、もしかして。私がぐいぐい押さなければ、アンドリュー殿下は私を婚約者に選ばないのでは……?)


 乙女ゲームで悪役令嬢として登場するオフィーリアは、王太子の婚約者であると言われれば自然と納得出来るような素晴らしい容姿の持ち主ではあった。


 輝く金属の滝を思わせるような金髪は焼きごてを使わなくても美しく整って巻いているし、海の青を思わせる瞳はまるで宝石のよう。腕の良い職人が丹精込めて造った人形のような顔を持つ、どこから見ても美しい令嬢だ。


 乙女ゲームのメインヒーローである王太子アンドリューの隣に立つのに、相応しいと言える。


 そして、オフィーリアは前世の記憶を取り戻すまで、自分が押しの強い性格であるということには自覚があった。


 年の離れた自分を猫可愛がりする二人の兄を持ち、遅くにやっと出来た女の子に対し両親も甘い。身分も気も強くて、我が儘放題になってしまう素地があった。


 そんなオフィーリアが自分より完全に下の存在に見ていたヒロインが、自分の婚約者に手を出しそうな場面を見て、いじめ役として逆上してしまうのはとても自然の事だったのだ。


(そうよ……! アンドリュー様に選ばれなければ、私は悪役令嬢ではなくてゲームの進行には全く関係のないモブになることが出来るわ。このまま、モブになりたい!)


 大人しい性格だった前世の記憶のあるオフィーリアは奥ゆかしさが美徳の日本人の民族性を遺憾なく発揮して王子たちが笑いさざめく華やかな一角になど、とても近づけない。


 公爵令嬢たる高い身分にある者特有の威厳なども今は失ってしまっていて、他の令嬢たちもこちらを窺ってプライドの高さを隠しもしなかった以前とは全く違うオフィーリアを見て、どう扱って良いのか判断しかねている様子だ。

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