第168話 試練の聖殿


 翌日。

 俺達は旅の準備をして、リアーナから少し豪華な馬車に乗った。 

 馬車の搭乗員は俺、エリス、メイリン、ミネルバ、マリベーレ。

 それと妖精フェアリーのカトレアと小竜族ミニマム・ドラゴンのブルー。


 小竜族ミニマム・ドラゴンのブルーを同行させたのは、ミネルバの意向だ。

ブルーは中途半端に人語を喋る為に、あまり外へ連れ出しにくい状況だったが、ミネルバが職業能力ジョブ・アビリティの『竜の調教ドラゴン・テイム』の練習がてらに、ブルーをじんわりと調教テイムしたいとの事。


 まあ特に問題もないので、みんなそれには賛成した。

 とりあえず今のところはブルーも大人しく人語を喋ってない。

 ちなみに俺は今回の旅に限って、戦士ファイターで参加。

 まあ基本的に道中は安全だが、たまにモンスターが出ることもあったそういう場合は、俺とミネルバでモンスターを駆除した。


 なんというか戦士ファイターのレベル上げも兼ねているが、少し真剣に剣術も鍛えようと思ったのでな。 そんな感じで途中何度か野営を挟んで、二日目の昼頃にヒューマン領の試練の聖殿に到着。


 試練の聖殿はとても荘厳な雰囲気を放っていた。

 なんとなくヒューマン領にある教会や神殿と雰囲気が似ているな。

 まあここの聖殿はヒューマン領にあるからな。

 だから多少なりともレディス教の影響を受けているだろう。

 他の領土の聖殿だと、やはり種族ごとによる風習や文化の違いの影響を受けているのだろうか?


 まあいいや。

 今大事なのは、エリスとメイリンを合格させることだ。

 この二人が上級職になれば、もっと戦力になるし、パーティ戦における戦術の幅が広がるのは間違いない。


「じゃあラサミス。 わたしとメイリンは受付に行ってくるわ」


「ちょい時間がかかると思うから、この辺りで適当に時間を潰しててね!」


「あいよ、二人とも合格できるといいな」


「「うん」」


 俺はそう言って二人を送り出した。 

 とりあえず二人は聖殿の正面入り口にある受付で色々な手続きを済ませた。

 試験――試練の内容は不明だが、まあ簡単ではないだろう。

 でもきっとあの二人なら合格できると信じている。

 とはいえ待ち時間が暇なのも事実。 なので俺は――


「待ち時間は暇だろうから、その辺の川で釣りでもしねえか? 一応人数分の釣り竿を持ってきたよ」


 するとミネルバとマリベーレも「そうね」と頷き、俺達はこの聖殿の近くにある川へ移動して、釣りをして適当に時間を潰すことにした。



 受付が終わると、エリスとメイリンは、案内係の若い女性のレディス教の信徒に待機室へ案内された。 待機室の広さは特別広くもなければ、狭くもなかった。 とりあえず二人はそこにある木製のベンチに腰掛けた。


 室内には彼女等以外に、十名程の男女が居た。

 年齢に関してはまばらだ。 

 だが彼女達くらいの年齢の者はほとんど居なかった。

 すると案内係に呼ばれた者がこの待機室を出ていく。

 一人、一人、呼ばれていき、とうとうメイリンの番がやってきた。


「受付番号七番、メイリン・ハントレイム!」


「はい!」


「ついて来なさい!」


「はい。 じゃあね、エリス」


「うん、頑張ってね!」


 そして案内係の後を追うように歩くメイリン。

 五分ほど歩くと、聖殿にある中規模の闘技場コロシアムのような場所に辿り着いた。

 闘技場コロシアムの地面は土で、形状は円形だ。


 円形の闘技場コロシアムを囲む階段状の観客席に試験官と思われる者達が居た。

 見た感じ魔導士や魔法使いに見えるローブを着た三十代~六十代のヒューマンの男女がこちらを観察するように、ジッと見ていた。


「では中央の魔法陣まで進むが良い!」


「はい!」


 観客席から中年男性と思われる声でそう指示をされて、メイリンは闘技場コロシアムの中央にある中規模の魔法陣の上に乗った。


魔導士ソーサレスの試練は至極簡単だ。 そこの中央にある魔法陣の上に乗り、東西南北に配置された吸魔石きゅうませきに向かって、四大元素の火、水、風、土の精霊魔法を放つのだ! いいか、必ず四つの属性の精霊魔法を放て! ……では準備は良いか?」


「はい!」


「では試練を開始する!」



 ――なる程ね。 確かに単純軽快な試験だわ。

 ――とはいえ両手杖の補助がないことを忘れては駄目ね。

 ――とりあえず火、水、風は大丈夫ね。

 ――問題は土ね。 あたしは土属性の精霊魔法苦手なのよ。

 ――それと魔力量もよく考えて、魔法を撃たないとね。

 ――まあいいや、とりあえずちゃっちゃと終わらせよう。


 そしてメイリンは右手で印を結んで呪文を詠唱した。


「ハアッ! 我は汝、汝は我。 我が名はメイリン。 ウェルガリアに集う炎の精霊よ、我に力を与えたまえ! 『フレア・ブラスター!!』」


 メイリンは柳眉を限界まで吊り上げ、英雄級の火炎精霊魔法を唱えた。

 するとメイリンの右手の平から緋色の光が迸り、北の方角にある台座に乗った吸魔石目掛けて放たれた。 しかし放たれた緋色の光は、吸魔石に吸収された。 すると透明状の吸魔石が火属性の魔力で七割くらい満たされた。


 なる程ね、多分四つの吸魔石の吸収した魔力量で合否を判断するのね。

 まあいいや、とにかく土属性の精霊魔法が問題。 

 それまでは問題ない。

 そう思いながら、メイリンは今度は両手で印を結んだ。


「我は汝。 汝は我。 我が名はメイリン。 ウェルガリアに集う水の精霊よ。 我に力を与えたまえ! せいやぁっ! 『シューティング・ブリザード』ッ!」


 呪文の詠唱と共にメイリンの周囲の大気がビリビリと震える。 

 そしてメイリンは両掌を上下に合わせて、魔力を練った。

 するとメイリンの両掌から大冷気が迸り、西方向の吸魔石に命中。

 しかし吸魔石は先程と同様に綺麗に魔力を飲み込んだ。

 透明状の吸魔石が魔力で満たされる。 大体六割といったとこか。

 メイリンに残された魔力はまだ六割強以上ある。


「我は汝、汝は我。 我が名はメイリン。 ウェルガリアに集う風の精霊よ、我に力を与えたまえ! せいっ……『アーク・テンペスト』!!」


 メイリンは立て続けに上級風属性魔法を詠唱。

 メイリンの右手の平から放たれた激しい旋風が東側の吸魔石に命中。

 またまた同じように魔力が吸魔石に綺麗に呑み込まれた。

 残すとは後一つ、残す魔力は四割弱といったところか。

 ならば三割程の魔力を全身全霊で練るべし!


「我は汝、汝は我。 我が名はメイリン。 ウェルガリアに集う土の精霊よ、我に力を与えたまえ! はいやぁっ! 『ロック・シャワー』!!」


 メイリンはそう呪文を詠唱しながら、全力で魔力を練った。

 すると地面の土が盛り上がり、岩状になってメイリンの頭上に浮かんだ。

 そして全神経を集中させて、残り一割だけの魔力を残して、残り三割の魔力を使って中級土魔法を南側の吸魔石目掛けて放った。


 宙に浮いた岩状の土塊どかいがぐるぐると回りながら、南側の吸魔石目掛けて、一発、二発、三発と放たれた。 そしてまた先程のように吸魔石がそれらの魔力を吸収した。 すると南側の吸魔石が魔力で半分くらい満たされた。


「そこまでだ!」


「はい!」


 観客席から黒いローブ姿の老人がそう叫んだ。

 そして周囲の者達も観察するように東西南北の吸魔石に視線を移す。

 残り魔力が少ない為、メイリンは立つのもしんどかったがなんとか我慢する。

 すると黒いローブ姿の老人が右手をゆっくり上げた。


「メイリン・ハントレイム! そなたは見事に試練を乗り越えた。 故に魔導士ソーサレスの転職の証を与えよう」


 そう言いながら、観客席に居たローブを着た一団が観客席から飛び降りて、こちらに向かって歩いてきた。

 

「これが魔導士ソーサレスの転職の証である金のブレスレットである。 このブレスレットを両手の好きな方につけるが良い!」


「は、はい!」


 言われるがままメイリンは左手に金の腕輪をはめた。

 すると眼前のローブを着た集団が満足そうに頷いた。


「これで今日からそなたは魔導士ソーサレスだ。 今後とも魔法や魔力を高めるために精進するが良い!」


「は、はい! ちなみ大体でいいですから、試験の出来を点数化していただけませんか?」


「そうだな、火、水、風は九十点以上。

 だが土に関しては七十点ってとこだな。 もう少し精進するがいい!」


「はい、今度とも頑張ります!」


 こうしてメイリンは見事試練を乗り越えた。

 またエリスも同様に試練を乗り越えて、神秘術師シーアージストの転職の証を手に入れた。 彼女の場合もメイリンと似たような試練であった。


 東西南北にある吸魔石に目掛けて、それぞれ回復魔法、解毒魔法、補助魔法、神聖魔法を打った。 解毒魔法だけは平均レベルであったが、それ以外は比較的高水準。

 そして試験官を務めた司祭から銀の指輪を受け取った。

 エリスはそれを右手の中指にはめた。


 こうしてメイリンは正式に魔導士ソーサレス、エリスは神秘術師シーアージストへと転職クラスチェンジした。 これによって「暁の大地」の戦闘構成員の八名は、ラサミスと魔法戦士のドラガンを除いた六人が上級職ハイクラスとなったのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る