第14話 楽しいステージ
日は既に西の空に沈み、青い闇夜を照らす満月がうっすらと輝く。
仕事を終えた労働者や冒険者が、一日の締めくくりとばかりに、今夜の酒盛りの場所を探し、中央広場のメインストリートに溢れかえる。
だがこの街の楽しみは酒盛り以外にももう一つある。
それは芸事の鑑賞である。 特に人気が高いのが
あの小さくて物臭な猫が機敏な動きで、芸を披露するんだ。
それだけで話題性には事欠かないし、実際芸のレベルも非常に高いらしい。
この
あいにく今夜は
メイリンやエリスは残念がったが、
だがそれ以外の旅芸人一座による公演も活発であり、夜になると中央広場で物見高い見物客が集い、歓声と拍手で夜のリアーナを埋め尽くすらしい。
そして今宵は旅芸人一座『暁の大地』が公演予定であり、会場である大きなテントの中には既に五十人を超える観客で席が埋まっている。 俺達はドラガンに貰った招待券を握り締めて、ステージから近い最前列の席に座った。
俺の左隣にメイリン、右隣にエリス。
エリスの右隣にアイラという席順だ。
しばらくして、ジャーンという音と共に開演の合図と共に、壇上の赤い幕が上がる。
陽気なメロディが会場に響くと、同時に華やか衣装の
子猫達が、ステージに元気よく飛び出してきた。
ようこそ! この笑いと喜びに満ちた希望の世界へ!
一緒に歌って踊ろうよ! 笑顔がいっぱい! オイラ達もハッピー!
それじゃみんな! リズムに合わせて踊るよ! ニャンニャンダンス開始!
壇上に横一列に並んだ六匹の
子猫の耳が左右に可愛らしく動き、お尻を振る動作に合わせて、
長いしっぽが綺麗に弧を描く。
壇上に流れるメロディのテンポがアップする。
子猫達は曲に合わせてくるくると舞い踊り、ぴょんぴょんと
リズミカルなステップを踏んだ。
高速ステップの合間に観客席を向いて、ウィンクや投げキッスをする。
観客席から歓声が沸き起こる。
特に俺の両隣に座るメイリンとエリスの歓声がスゴい!
「リアル天使キタ――――――!
「可愛い、可愛いんです!ホントに可愛いんです!お持ち帰りしたいです!」
年甲斐もなくはしゃぐ二人を見て、俺とアイラは思わず苦笑する。
だが二人はノリノリでスタンティングオベーションしている。
後ろから「姉ちゃん、見えねえよ!」と注意されて、渋々席に座る二人。
歓声に向って、手を振り返す壇上の
両手を揃えて、左を向いてニャン。
片足を軽く上げて、右向いてニャン。
軽快なステップを踏み、両足を素早くシャッフルさせる。
五分くらい可愛い子猫達のダンスが続いて、会場の熱気も上がる。
そしてダンスが終わると、子猫達は懐に手を入れてお手玉を取り出した。
そして一つ、二つ、三つと数を増やして、見事なジャグリングを披露。
歓声と拍手で会場が興奮の坩堝と化した。
子猫達はせっせとジャグリングを繰り返しながら、軽やかなステップを刻む。
その時、会場のステージが暗転。
「小賢しい生意気な
俺の魔剣でお前等、
再びステージに照明が
すると白銀の長髪をなびかせて、兄貴がさっそうと壇上に現れた。
悪いヒューマンが来たんだニャ!
みんな、急いで逃げるんだニャ!
ステージ上で慌てふためく子猫達。
手にした長剣を握り、ゆっくりと迫る兄貴。
一歩、二歩、三歩と子猫達と兄貴の距離が狭まる。
だがその時、会場に大きな声が響き渡った。
「天知る、地知る、
この正義の
という声と共に、ステージの上から、ドラガンが飛び出してきて、
空中で一回転して、華麗に着地する。 ドラガンは剣帯から
刺突剣を抜剣して、その切っ先を兄貴に向けた。
「やい、悪いヒューマン! 子猫を虐めるなんて言語道断!
だが壇上の兄貴は不敵に笑った。
「フン、生意気な
そしてステージ上で二人がチャンバラ開始。
ドラガンと兄貴が斬り合う。 斬る、突く、払う。 避ける、弾く。
チャンバラの音が会場に響き渡る。
「クッ……やるなニャ!」
ドラガンがやや押される。
「――我が魔剣は無敵! さあ大人しく降参しろ!」
兄貴が長剣を縦横に振るう。
ドラガンは防ぎ、かわし、後ろに跳躍する。
だがやがて、ステージの隅っこまで追いやられた。
子猫達が「頑張れ、ドラガン!」と声援を送る。
「ふふふ。 もう後がないぞ。 大人しく降参しろ!」
「諦めない! 正義は必ず勝つのだニャ!」
繰り出された剣を、ドラガンは見事な剣裁きで弾き、
兄貴の長剣を遠く弾き飛ばす。
「なっ……こんな筈では!?」
思わずうろたえる兄貴。
「正義の力を思い知れだニャ!」
ドラガンが素早く突撃して、兄貴と交錯する。
「ぐふっ……ば、馬鹿な!?」
壇上に崩れ落ちる兄貴。
「ニャニャ! 思い知ったかニャ!
これに懲りたら、もう子猫を虐めるなニャ!」
「わ、わかった。 改心するから許してくれ……」
兄貴は手を合わせて許しを請う。
というか兄貴、役になりきってるな。
「いいだニャン。 リアーナは自由の街。
ここではヒューマンも
大切なのは他人を思う心だニャ。 それがあれば何でも出来るだニャ!」
「ありがとうニャ、ドラガン!」
と、子猫達がドラガンに近づいてじゃれる。
会場内にほんわかとした空気が流れる。
だがその時、テント外から複数の人影が突如現れた。
フード付きのマントを着た連中が七、八人は居た。
なんだ? これも演出か? と俺だけでなく周囲の観客も眉根を寄せる。
だがその急な来訪者が手にした
――まずい、これはもしかして!?
「――ドラガン、ライル! 死ねええええええええええええぇぇぇっ!!」
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