第3章 新時代の力
第26話 新時代の力①
1941年8月19日
マレー沖海戦から丁度1ヶ月、八八艦隊計画艦最後の1隻が戦列に加わろうとしていた。
全長278.3メートル、全幅34.36メートル、基準排水量49500トンの艦体は壮観そのものであり、艦の中央部より後ろにそびえ立っている艦橋は凄まじい存在感を放っている。
主砲塔も、過去の日本製戦艦とは一線をかしている。
主砲の門数は連装4基8門と長門型戦艦と同数であり、加賀型戦艦よりも2門少なかったが、特筆すべきはその口径である。口径は50口径46センチであり、1941年8月現在、この砲を装備しているクラスは、この地球上に、他には存在しない。
主砲以外の副兵装も充実しており、出力15万馬力で、速力30ノットを叩き出す。
戦艦「松山」。
「長門」より始まる全16隻の八八艦隊の16隻目として設計・建造され、今からたったの1ヶ月半前に竣工した巨艦が、呉軍港のその姿を浮かべていた。
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日本海軍 富田型戦艦「松山」
全長 278.30メートル
全幅 34.36メートル
基準排水量 49500トン
兵装 50口径46センチ連装砲 4基8門
50口径14センチ単装砲 24門
45口径12センチ連装高角砲 10基20門
25ミリ3連装機銃 24基72門
同型艦 「富田」「上田」「春日山」
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この日、多数の海軍高官が「松山」の艦上を訪れており、その中には海軍大臣嶋田繁太郎大将と連合艦隊司令長官山本五十六大将の2人の姿もあった。
「いやいや、この巨艦が竣工して海軍大臣として非常に心強い限りだな」
「同意する。この艦と『富田』『上田』『春日山』の3隻を一緒に前線に投入すれば、米軍のダニエルズ・プラン艦とも互角以上に戦う事が出来るだろう」
嶋田が呟き、山本が同意の意を示した。
「天城型巡洋戦艦と比べるとどれくらいでかいんだ?」
「『愛宕』は全長252.37メートルですので、この『松山』はそれよりも25メートル程全長で勝っています」
嶋田は「松山」初代艦長有馬正文大佐に質問を投げかけ、有馬は「松山」の隣に停泊している天城型巡洋戦艦の3番艦を指さしながら質問に答えた。
天城型巡洋戦艦は八八艦隊計画艦の5番艦、6番艦、7番艦、8番艦として建造された艦であり、加賀型戦艦に匹敵する砲力、防御力を持ちながら速力30ノットを誇る。
「だが、新たな富田型戦艦が4隻揃ったとしても、油断は出来ません」
有馬は、これから訪れるであろう厳しい未来を予見するように呟いた。
栄えある連合艦隊最強戦艦の初代艦長に任命されたのにも関わらず、有馬の中に高揚する気持ちは微塵も存在していないようであった。
「マレー沖での戦艦5隻喪失か・・・」
有馬の言葉を聞いた山本が呟いた。
7月に生起したマレー沖海戦の戦闘結果は内地にも伝わっている。
戦果はレキシントン級巡洋戦艦4隻、巡洋艦2隻、駆逐艦3隻撃沈、レキシントン級巡洋戦艦2隻、巡洋艦1隻、駆逐艦2隻撃破と大戦果であったが、この海戦に参加した戦艦の内、扶桑型戦艦2隻、金剛型戦艦3隻が沈没し、多数のベテランが乗艦していた軽巡「川内」、重巡「米代」といった艦艇もまた失われた。
戦死者は5500名にも及び、開戦早々連合艦隊は甚大な損害を受けたのであった。
「戦艦5隻の喪失は確かに痛いが、ダニエルズ・プラン艦に所属するレキシントン級巡洋戦艦4隻と引き換えと思えば、悪い取引ではない。今考えなければならないのは今後の事だ」
嶋田はそう言いながら山本の肩を叩いた。
今度は山本が有馬に質問を投げかけた。
「この艦が慣熟訓練を完全に完了するまでにあとどれくらいの時間がかかる?」
「今すぐにでも最前線に馳せ参じます――そう答えたい所ですが、富田型巡洋戦艦ほどの巨艦ともなると慣熟訓練に最低でも4ヶ月程度は見て貰う必要があります。既に竣工から1ヶ月半経過しているので、この艦を前線に出せるのは2ヶ月半後といった所でしょうか」
「2ヶ月半か・・・。敵さんも体勢を整えて再び勝負を挑んでくるな」
有馬の答えを聞いた山本は言った。
「2ヶ月半なら、ドックでの整備が始まりつつある『長門』『陸奥』『加賀』『土佐』の整備が完了する期間と重なる。米軍に立て直しの期間を与えることになるのは確かに癪だが、2ヶ月半後にはこっちの最大戦力をぶつけることができる」
嶋田は頭の中で戦力図を描きながら持論を述べた。
その後も、3人は様々な意見交換を行い、嶋田と山本の2人が「松山」から離れたのは1時間後の事であった。
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作品読んで頂きありがとうございます。
遂に八八艦隊計画艦最強の富田型戦艦の登場です。
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2022年4月26日 霊凰より
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