第17話 八八艦隊初陣①
1941年7月22日
「『海雲』の報告通りだな。敵戦艦4隻確認だ」
第2戦隊3番艦に位置している長門型戦艦「陸奥」の艦橋で、艦長小林謙五大佐は満足そうに呟いた。
「陸奥」と4番艦の「長門」は日本海軍が大正年間から整備を開始した八八艦隊計画艦の記念すべき1、2番艦である。
「八八艦隊計画」とは、「四十センチ以上の主砲を搭載する戦艦16隻(戦艦8隻、巡洋戦艦8隻)をもって、海軍の主力とする」という計画であり、その根底には、海軍の主流派をなす大艦巨砲主義が存在していた。
1番艦「長門」は1920年(大正9年)11月25日に竣工、2番艦「陸奥」は1921年(大正10年)10月24日に竣工し、その当時長門型戦艦は、世界最大・最強・最速の戦艦として日本海軍の誇りとなった。
その後の改装によって、竣工当時の姿と現在の姿は大分異なるが、「陸奥」の全長224.94メートル、最大幅34.60メートル、基準排水量39050トンの巨躯は、伊勢型以前の戦艦とは一線をかしていた。
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日本海軍 長門型戦艦「陸奥」
全長 224.94メートル
全幅 34.60メートル
基準排水量 39050トン
速力 26.5ノット
兵装 45口径41センチ連装砲 4基8門
50口径14センチ単装速射砲 20基
40口径7.6センチ単装高角砲 4基
25ミリ連装機銃10基20門
同型艦 「長門」
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そして、「陸奥」の前方を行く2隻の戦艦は加賀型戦艦に属する「加賀」「土佐」である。
「加賀」「土佐」は長門型戦艦の改良型として計画され、八八艦隊計画艦の3番艦、4番艦として竣工した戦艦である。加賀型戦艦は防御力に重点が置かれており、一部の装甲に傾斜式を導入したり、日本海軍の戦艦として初めてバルジを搭載するなどして、一部の海軍軍人から、「加賀型戦艦こそが日本海軍最硬の戦艦である」との声が上がる程であった。
主砲も長門型の4基8門から1基2門増やされて5基10門となっており、その配置は、前部に2基、後部に3基となっていた。
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日本海軍 加賀型戦艦「加賀」
全長 234.09メートル
全幅 31.34メートル
基準排水量 39979トン
速力 28.3ノット
兵装 45口径41センチ連装砲 5基10門
50口径14センチ単装速射砲 20基
40口径8センチ単装高角砲 4基
25ミリ連装機銃10基20門
同型艦 「土佐」
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「観測機より受信。『敵戦艦1番艦は既に戦闘航行不能の模様。4戦隊、5戦隊の残存戦艦は5隻』」
「陸奥」通信長小野寺正武大尉が艦橋に報告を上げ、「陸奥」の艦橋内がしばしざわめいた。4戦隊、5戦隊が8対4という圧倒的数の優位を確保して敵のレキシントン級巡洋戦艦4隻を基幹とする部隊と砲戦を開始したという情報は2戦隊各艦でも把握しており、いくら4戦隊、5戦隊に配属されている戦艦が旧式戦艦だからといって後れを取るものではないと、殆どの者が考えていたからだ。
「静まれ。開戦前の時点で、伊勢型以前の戦艦が、米軍のダニエルズ・プラン艦に対して1対1では対抗不可能、数の優位を確保したとしても厳しい戦いを強いられるというのは予想されていたことだ。この状況はその予想が当たったに過ぎない」
小林はそう言い、旗艦「加賀」より命令電が飛んできた。
「旗艦より命令。『「陸奥」「長門」目標。敵戦艦4番艦』」
「本艦目標、敵4番艦!」
「敵4番艦・・・。『比叡』『霧島』が相手取っている戦艦ですね」
「陸奥」副長加藤昇平中佐が呟き、次の瞬間、名前が挙がった「比叡」の舷側に2本の水柱が奔騰したのが確認された。
「敵4番艦の次の狙いは『霧島』だな。敵4番艦との距離報せ!」
小林は艦橋見張り員に敵4番艦との距離を報せるように命令した。
金剛型戦艦の「霧島」がレキシントン級巡洋戦艦と戦って、持つ時間は限られており、「霧島」が力尽きる前に、「陸奥」と「長門」が40センチ主砲をもって敵4番艦を撃沈する必要があった。
「距離26000!」
「旗艦より入電。『各艦長の裁量で砲撃開始』」
「砲撃始め!」
2戦隊司令長官近藤信竹少将から新たな命令が飛び込むや、小林は即座に射撃指揮所に砲撃開始を命じた。
「砲撃開始。宜候!」
砲術長一宮湊中佐が復唱を返したとき、「長門」の砲声が「陸奥」の艦橋にまで届き、それに主砲発射を報せるブザーの音が重なった。
40センチ主砲発射という場面自体は、訓練で何度も経験していたが、やはり、実戦ともなるとひと味違う。
基準排水量35000トンに迫ろうかという「陸奥」の艦体が大きく右舷側に傾いた。
「『長門』砲撃開始しました!」
艦橋見張り員から新たな報告が報された。
1941年7月22日午前10時過ぎ、この戦争に置ける長門型戦艦の戦いが始まった瞬間であった・・・
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