第2話 脅威の接近②

1941年7月20日


 伊17からの「米艦隊発見」の報告電は第4戦隊旗艦「日向」でも受信され、事態を重要視した4戦隊司令長官塩沢幸一中将は、即座に緊急会議を招集した。


「レキシントン級巡洋戦艦6隻を中心とする強力な米艦隊が西太平洋に侵入したとの事だ。狙いは我らと我らが護衛する陸軍部隊を満載した輸送船団で間違いないだろう」


 開口一番、塩沢は幕僚全員の顔を見渡して言った。声にも顔にも懊悩の色がくっきりと浮かび上がっており、緊張感のあまり今すぐその場に倒れてしまうのではないかと思わせる程であった。


 そして、「レキシントン級6隻」という言葉に何人かの幕僚が一斉にざわめき始め、4戦隊参謀長小野弥一少将すらも明らかに動揺していた。


「米艦隊は本当に4戦隊、5戦隊が守る輸送船団を狙ってくるのですか? 。」


 甲参謀三木森彦大佐が発言し、それに同調するかのようにして乙参謀柿本権一郎中佐が自分の意見を述べた。


「発見されたレキシントン級巡洋戦艦6隻を中核とする部隊はフィリピンのアジア艦隊に対する増援部隊ではないのでしょうか? 具体的な用途は我が軍に対する抑止力であり、それ以上の意味は無いと本官は考えます」


「甲参謀と乙参謀の意見は分かった。逆に出現した米艦隊が我が軍に襲いかかってくると考える者はいるか?」


 塩沢は全員の顔を見渡しながら聞き、一人の参謀が即座に手を挙げた。


 情報参謀の森友一少佐だ。情報参謀はほんの数ヶ月前に新設された新たな役職であり、第1次世界大戦を境にして急激に重要性が高まった「情報」を一手に管理し、司令長官を始めとする司令部の判断を助ける役割が期待されていた。


「伊17から『米艦隊発見』の報を受信した5分後に、隣の索敵線を担当していた伊23から『米艦隊は2隊に分かれ、1隊は北に、もう1隊は南に転針す』との報を受信しております。もし、米艦隊が単なるアジア艦隊への増援ならばわざわざ艦隊を分離する必要性はありません」


「おそらくだが、森少佐の意見が正しいのだろうな。米艦隊が部隊を二分したのはマレー沖で我が軍と輸送船部隊を挟撃しようとする意図があるのだろう」


 塩沢が森の意見に賛意を示し、会議の話題は如何にして接近してきている米艦隊を迎え撃つかという話に移っていった。


「米艦隊の主力がレキシントン級巡洋戦艦6隻のみで、更に艦隊を分離しているという話ならば、我が方にも十分に勝機があります」


 三木がそう言い、全員が「日向」の艦橋の壁に貼られている編成表に視線を向けた。


 戦艦は4戦隊、5戦隊合わせて8隻を数える。


 伊勢型戦艦が2隻、扶桑型戦艦が2隻、そして、巡洋戦艦の金剛型が4隻であり、伊勢型戦艦「日向」「伊勢」の2隻に関しては去年、36センチ主砲を従来の物から、長砲身の物へと換装し、その装甲貫通力を高めていた。


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日本海軍 伊勢型戦艦「日向」


全長 215.8メートル

全幅 33.83メートル

基準排水量 36000トン

兵装 50口径36センチ連装砲6基12門

   14センチ単装速射砲 16門

   89式12.7センチ連装高角砲4基8門

   25ミリ連装機銃10基20門

同型艦 「伊勢」

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 そして、4戦隊、5戦隊の他にも第11戦隊の重巡「高瀬」「鳴瀬」「米代」「子吉」、第13戦隊の軽巡「伊吹」「浅間」、第3水雷戦隊、第22駆逐隊、第43駆逐隊と巡洋艦以下の艦艇もある程度は数・質共に揃っていた。


「甲参謀が言いたいのは各個撃破だな?」


 これまで静かに話を聞いていた小野が三木に尋ねた。


「我が軍は2つに分離した米艦隊の内、最初に来た方に全戦艦をぶつけて、戦艦の数の圧倒的な優位を確保する戦術を取るべきだと考えます。4戦隊、5戦隊の戦艦が個艦の戦闘力で劣っている以上、数の力によってその差を埋めるしかありません」


 三木が自分の意見を述べ、塩沢も含めた幕僚全員が納得した。


「米軍が誇るレキシントン級巡洋戦艦6隻を相手取る以上、厳しい戦いになることが予想されるが、相手がわざわざ艦隊を分離してくれた以上、我が軍は各個撃破の要領で敵を叩くのが最善と考える」


 塩沢がそう言い、小野が話を引き継いだ。


「・・・となると、問題は戦う場所ですな。米軍の狙いが輸送船団と予想される以上、こっちが展開している場所に来るでしょうが、現れる場所によっては我が艦隊が不意を突かれて先手を取られる場合や、最悪の場合、大損害を被ってしまう危険性があります」


「その事に関して、事前に敵艦隊の動向をつぶさに把握できる方法が1つあります」


 森が手を挙げて発言許可を求めた。


「何かね?」


 塩沢がそれを許可し、森が情報参謀らしい意見を述べた。


「先月、台湾に進出した2個航空隊の中に計24機の新型偵察機が配属されています。これらの機体を活用してはいかかでしょうか?」


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次回、日本軍の新鋭偵察機が飛翔する――!!!


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2022年4月2日 霊凰より




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