09話.[変わらないがな]

「学校では普通ですよ、安心してください」

「そうか、教えてくれてありがとう」

「いえいえ、そのかわりにこうして貰っているんですからね」


 ジュースを奢るという約束だった。

 これは香菜が教えるかわりにそうしてほしいと頼んできたわけではなく、無償で教えてもらうのは申し訳ないから言わせてもらったんだ。

 茉莉が普通に学校でも来てくれればいいのだが、残念ながらそうではないから誰かを頼るしかないというのが現状だった。


「宏一、ご飯食べよー」

「おう」

「今日風心は茉莉と食べるみたいなので私も一緒に食べていいですか?」

「当たり前だろ、自由に参加してくれ」


 でも、いまこうしてここにある弁当は依然として茉莉が作ってくれたものだ。

 話そうとはしないのに毎朝作ってくれて、出る前に渡してくれる。

 終わりそうで終わらないで済んでいるのは茉莉のおかげだ、感謝しながらいただくことにしよう。


「本気なら積極的にアピールすればよかったのにね」

「血の繋がった兄妹なんですよ?」

「関係ないよ、それに結局しなくてもいまみたいに傷つくぐらいなら動いた方がいいでしょ?」

「うーん」

「茉莉ちゃんはもったいないことをした、それで終わってしまう話だね」


 もったいないことをしたとも言えない気がするが。


「さてと、というわけで茉莉ちゃんのところに行ってくるよ」

「もしかして……」

「あ、狙っているわけじゃないからね、茉莉ちゃんや風心ちゃんとも喋りたいというだけだよ」


 前坂は積極的に三人と一緒にいるというわけでもないし、意図的にそうしているようにも見える。

 時間つぶしのためというわけでもないだろうが、そこまで大事な存在達というわけでもないのかもしれない。

 まあ、まだまだ出会ったばかりとも言えてしまう時間しか経過していないから普通のことなのかもしれないが。


「宏一先輩は私のです、私が急にそう言ったらどう反応します?」

「冗談はやめてくれよと言うだろうな」

「えー、少しは動揺してくださいよ」

「風子がなにもしてきていなかったらな、なに言っているんだよと反応していたよ」

「なるほど、じゃあ頑張ったら違かったんだ」


 それはそうだろう、なんにもされていないのに好きになることなんてできない。

 俺みたいな人間であれば尚更のことだ、って、風心もあんまり変わらないがな。


「後悔はしていませんけど、頑張ってみるのもありだったかもしれませんね」

「俺は普通に相手をさせてもらっていただけだが」

「いつも一緒にいてくれればそれだけで影響を受ける子もいますよ」


 俺も同じ、だからそのことについては言わなかった。

 弁当はいつもと同じで美味しかったからそちらに意識を向けておいた。

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