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Nora
01話.[分からないだろ]
「おーい」
「ん? あ、よう」
「うん」
玄関前の段差に座ってぼけっとしていたら友達がやって来た。
前坂
こういう風に自分もできたらと考えることはたまにあった、まあ、真似をしようとはしていないが。
「歩いていたら玄関のところにいることが分かったから来たんだ」
「俺らの家は近いわけでもないがな」
「だから言ったでしょ? 歩いていたらって」
今日は休日というわけではない、しかも先程別れたばかりだった。
学校やそれなりの店がある側からすれば反対方向に該当するそんな場所だ、散歩をするにしても敢えてこちら側でなくていいと思うが。
「春だねえ、暖かいから君も積極的に外にいるんでしょ?」
「別にそういうことじゃない、たまたまだ」
「素直じゃないねえ」
気分が良ければ例え冬だろうと俺は同じことをする、夏だって同じだ。
特になにかがなくても今日も問題なく学校で過ごせたというだけでいいんだ、寧ろそれ以外のなにかがある方が俺的には嫌だった。
いつも変わらないままでいい、変化なんて望んでいないからこのままでいい。
同じような感じであってくれないときっとついていけなくなるから毎日内で願っているぐらいだ。
「こんなところで足を止めていいのか?」
春とはいえ、悠長にしていたら普通に暗くなる。
休日ならこれでもいいが、今日は学校が終わった後だからしっかり意識して動いた方がいいだろう。
「だってここがゴールだからね」
「そうか、なら家に上がれよ」
こちらもそろそろ家の中に入って飲み物を飲もうとしていたところだった。
今日の弁当のおかずの味が少し濃い目だったから結構影響を受けている。
ただ、飲み物を買うほどではなかったから帰宅するまで我慢していたんだ。
「んー、外でいいよ、外で語り合う方が青春って感じがするでしょ?」
「語り合えることがあるのかは分からないが」
結局、そんなことを言った前坂に付き合うことになった。
それから大体三十分ぐらいが経過した頃だろうか、
「あれ、こんなところでなにをしているの?」
と、俺の妹の
丁度いいからこの機会に一緒に入ってしまうことにする、外にいることが趣味というわけではないからこれでいい。
「直輝君は今日も格好いいね、兄貴も悪くないんだけどどうしてもね……」
「見た目が全てではないから」
「そうだね、だってどんな見た目でも生きられる権利があるもんね」
当たり前だ、そもそも見る人間によって見え方が違うから難しすぎるだろう。
まあ、なにかが間違ってそういうことになったとしたら俺はあっという間に死んでいるのだろうが。
「はいどうぞ」
「ありがとう」
「兄貴もちゃんと飲んでね」
「おう、ありがとう」
一気に飲み干して流しへ持っていく、そうしたら妹が「いい飲みっぷりだね」と言ってきたから頷いておいた。
それと弁当の方の礼もちゃんと言っておいた、そうしたらなんとも言えない笑みを浮かべられてしまった。
「実は今日のお弁当のおかずについてなんだけど、ちょっと失敗をして調味料をかけすぎちゃったんだよね――あ! 兄貴のだけじゃなくて私の分も濃かったから意地悪はしていないからね!?」
「気にしなくていいよ、茉莉ちゃんが作ってくれているというだけで
「そうだな、前坂の言う通りだ」
俺も作れるが残念ながら作らせてもらえないようになっている、母も「茉莉ちゃんが作りたがっているなら作ってもらえばいいよ」としか言わないから困る。
俺としては高校に入学したばかりなんだから学校へ登校をするだけでも緊張するだろうし、朝ぐらいはゆっくりしてほしいと思うがな。
「高校生活はどう? 上手くやっていけそう?」
「どうだろう、まだあんまり分かっていないからなあ」
「ははは、そうだよね、二週間とかそれぐらいじゃ分からないよね」
ついでに言えば茉莉は彼のことだってあまり知らないことになる。
いや、それは俺もそうか、何故ならこの前話し始めたばかりだからだ。
「でも大丈夫、心配しなくても上手くやれるよ」
「それならいいんだけど……」
「さてと、言いたいことも言えたからこれで帰るよ」
そういうことらしいから挨拶をしてソファに寝転んだ。
窮屈だから家に帰ってこれができると一気に変わる、学校にもソファがあればなんていつも考える。
まあ、蛇口からジュースが~ということぐらいありえない話ではあるが、こういう無意味なことをするのも嫌いではなかった。
「ちょっと兄貴」
「ん?」
「私も転びたいよ」
「それなら部屋のベッドでした方がいい」
やっぱりあっちには勝てない、まあそれも当たり前のことだ。
なので、仕方がないからここはこっちが動くことにした。
いつも世話になっているのと、一応年上としてしなければならないことだった。
「ねえ、一年生の教室に行こうとしているんだけど宏一も行こうよ」
「俺はいい、行っても意味がない」
「まあまあ、ここはひとつ付き合ってよ」
行っても意味がないはずなのになんで従っているのかという話だ。
残念ながら昔からこうだった、付き合ってとか頼むとか言われると断れない。
別にそれでなにか損をしてきたとかそういうことではないものの、嫌なことは嫌だと断れないと詰む気がする。
「目的地はここだよ」
「四組って茉莉のクラスに用があったのか?」
「まだまだ茉莉ちゃん以外は知らないからね」
「だったら普通に『茉莉に会いに行こうよ』でいいだろ」
「それだとつまらないでしょ。あと、宏一は『家で会えるからいい、邪魔をしたくない』とか言いそうだからさー」
直接言われていたら確かに俺はそう返していた、こいつはエスパーか……?
なんか出会ったばかりの人間に分かられているというのも微妙だ、俺が女子なら尚更そう感じていたことだろうな。
「おーい、茉莉ちゃーん」
って、おいおい、もう少しぐらい考えてやれよ……。
いま目立つのはあまりよくない、って、これが他の人間にも該当するかは分からないか。
少なくとも俺とは違うから余計な心配をしていないで自分のことに集中しろと言われてしまいそうな件だった。
「こんにちは」
「珍しいね、兄貴も来るなんて」
「ははは、僕が無理やり連れてきたんだ」
ちなみに中学時代は彼ではない男子がよくこうして俺を教室から連れ出していた。
残念ながらある程度の仲だったのに違う県に行ってしまったが、俺にしては珍しくまた会いたいという気持ちが内にある。
ゴールデンウィークとか夏休みとかに帰ってくるだろうか、帰ってくるなら茉莉だって喜ぶから悪くはないのだが。
「それより前坂がすまん、いきなり呼ばれたら嫌だよな」
「んー、ちょっと驚いたけど嫌だってことはないよ?」
「そうなのか? ならいいが」
それでも言わないままで終わらせるよりはこっちの方がよかった、これで気にせずにここにいることができる。
自分を守りたいという感情だけで動いているから見る人が見ればあっさりと見破られると思う……。
「ふむ、これは僕が悪かったね、ごめん」
「気にしなくていいよ。それよりどうしたの、私のクラスメイトに用があったの?」
「いや、僕は茉莉ちゃんの様子を見にきただけなんだ」
「私はこんな感じだけど」
なにかがあってもこんな教室が近いところで話す人間はいない気がする。
そういうのは信用できる相手と落ち着いて話せるようなそんな場所でするものだ。
「茉莉ー、その人達は友達?」
「うん、片方は兄だけどね」
友達がいるのか、それならよかった。
俺が知っている女子ではないから高校で知り合ったのかもしれない。
名前で呼んでいるのは本人がすぐに許可をするからだろう。
「へえ、えっと、こっちの人かな?」
いまのは確実に容姿だけで判断したな、分かりやすすぎる。
前坂の方が茉莉の兄として相応しいということなら変わりたいぐらいだった。
兄が俺ってことでいつか問題になるかもしれないから、そこまで影響力はないのかもしれないがな。
「直輝君じゃないよ、こっちの人」
「おお、茉莉のお兄さんは高身長なんだね」
本人がいる前では微妙そうな反応をしなかったという時点で大人だと思った。
いや、中にはこの段階で分かりやすく態度を変えてくる人間がいるんだ。
経験したことがないならそれを喜んでおけばいい。
「茉莉が世話になっているな、ありがとう」
「いやいや、私が茉莉に優しくしてもらっている側ですから」
いらないだろうが俺の中で彼女の評価はかなり高くなっていた。
中々できることではない、俺もこうやって大人な対応ができるようにならなければならない。
類は友を呼ぶ、茉莉がいい子なんだからその友達がこうなのは当然のことなのかもしれないが。
「茉莉、なんで教えてくれなかったの?」
「逆に聞くけど、兄貴の話をされても困っちゃうでしょ?」
「いや、私は友達の色々なことが知りたいから困らないけど」
「じゃあ今度からは話すよ、って、出会ったばっかりだけど」
「それねっ、だけど茉莉は昔から一緒にいたみたいに話しやすいんだよねー」
そんなことを横でにこにこしている前坂も言っていたから茉莉の能力と言えるのではないだろうか。
「あ、予鈴が鳴ったね」
「戻るか、それじゃあまた」
「遠慮しないでどんどん来てくださいねっ」
「行くときは必ずここにいる前坂も連れて行くよ」
ああいう明るい人間は苦手だ、あとは勝手に決めつけたことを申し訳なく思う。
そういうのもあって関わることがなければいい、そんな風に内で呟いた。
変わってしまうのも恐ろしい、何度も言うがずっと同じままでいいんだ。
まあ、求めているのは前坂だろうから盾になってもらう必要すらない。
そのため、ただの考えすぎとも言えることだった。
「あ、丁度いいところで来てくれたね」
「……一応聞いておくが、なにをしているんだ?」
あまり奇麗とも言えない廊下で四つん這いになってなにをやっているのかと言いたくなる、それともう少しぐらい女子なんだから気をつけてほしかった。
「掃除道具入れとロッカーの隙間に物が落ちちゃってさ、ちょっと動かしてほしいんだよね」
「分かった」
物凄く奥にいってしまったとかそういうことではなく、意外と手前のところに探していた物があったらしい。
これこそ掃除道具を使ったら駄目だったのかと、いや、この場合は言わない方がいいのだろうか。
まあいい、これで女子なのに変なことをしているところを見なくて済む、残っていても仕方がないから帰ることにしよう。
それにしても学校でまた茉莉と会えるようになるとはな、一年というのはあっという間に経過するものだ。
変化を恐れているが、ぼうっとしているだけの一年間でいいのかと自問することはある、だが、出てくるのはそれで大きな問題などが出てきたわけではないからいいだろというもので。
「へへへ、まさかいきなりお礼を言うなんてね」
「ああいう風にしておけば少なくとも変な兄がいるということにはならないはずだ、だから俺はそうしたんだ」
「兄貴のことで特に問題が起きたことはないけどなあ、私の友達からもそこそこの評価だったじゃん」
「裏では分からないだろ、だからなるべく学校では一緒にいない方がいいんだ」
家だったら家だったで茉莉が相手をしてくれるかどうかが分からないのだが。
したいことが多いから仕方がないと分かっていても寂しいと感じるときはある。
でも、年上である俺が相手をしてくれよなんて頼むのは違うから来てくれるのを待つしかないのが現状だった。
「兄貴って昔からそうだよね、私優先で動いてくれるというかさ」
「それは違う、自分が悪く言われたくないから行動しているだけなんだ」
「そっか」
ここで違うとか言ってこない妹のことが好きだった、もし言ってくるようだったらここまで仲良くはなれていない。
「兄貴のいいところは嫌そうな顔をしないところだよ、無理やり連れて行かれたとしてもね」
「一応、不快な気持ちにさせないようにこっちも動いているから」
「うんうん、そういうところが好きだよ」
嫌な顔をしない程度で好きとか言っていたらきりがない、上手く隠せる人間に騙されるのではないかと不安になってしまった。
とはいえ、やめろとも言えないからそのことについてはなにも言わずに離れ、ソファは茉莉が大好きだから部屋に戻った。
「はぁ」
あれは俺にとっては危険なことだ、ああいうことが連続するようだったらしっかり嫌だと断らなければならない。
俺にできるだろうか、それにしたっていつもと比べれば変化するということだから悪い結果しか想像できないが……。
「兄貴、友達が会いたいって言ってきたんだけど」
「友達って今日の子か?」
まあ、自分が考えたいい方には傾かないということは分かっている、だからそのことについては片付けられている。
「ううん、違う子」
「は、え、まさか茉莉がなにか言ったのか?」
「ううん、なにも言っていないよ」
って、当たり前だ、本人が言っていたように身内の話をしたところで相手を困らせてしまうだけでしかないんだ。
「悪い、断っておいてくれ」
「そっか、それなら仕方がないね」
ふぅ、心臓に悪いことを茉莉はすぐに言うから困る。
一番問題なのはこの弱い脳や心だが、いつだってきっかけを作るのは他者だから警戒しておかなければならなくて疲れてしまう。
「あ、ごめん、もう家の前にいるみたい」
「それなら今日だけ会って終わらせるか、どうせ前坂に会いたいとかそういうことだろうから」
別にそういうことで利用されても全く構わない、中学のときによくされて慣れているというのも影響している。
俺にできるのは精々前坂に会わせるとかその程度だが、女子からすればそれ以外の余計なことを望んではいないだろうからこれでいい。
「こんにちはー」
「よう、あのときぶりだな」
「そうですね、まさか自分から行くことになるとは思いませんでしたが」
この感じだとこの子が前坂と会いたがっているわけではないみたいだ、となると、その後ろにいる女子ということになる。
いまでも彼女の後ろに隠れていてひとりで先輩である前坂に近づくのは無理そうだった。
「宏一先輩、この子は大越
「ああ」
「宏一先輩とお友達になりたいそうなんです」
「罰ゲームとかそういうことじゃなくて?」
「当たり前じゃないですか、まあ、宏一先輩が言いたいことは分かりますよ」
彼女は茉莉の横まで移動すると「友達になりたいなら自分で言え、そう言いたいんですよね」と言ってきたが、正直俺が言いたいのはそんなことではなかった。
もう会いたくなかったのにまさか茉莉に嘘をつかれるとは……、いることには変わらないんだからちゃんと言ってほしかった。
「では、私と茉莉はお家の中で待っていますね」
「分かった」
やらなければいけないことは変わらない、待っていても時間だけが経過しそうだから前坂に興味があるのかとぶつけてみたのだが、
「……ます」
「え?」
割と自信を持っていた耳でも聞き取ることができなかった。
ただ、聞き返しておいてあれだが、~ますと言われた時点で答えは分かっているようなものだった。
そのためこれは馬鹿のことをしてしまったことになる、その瞬間にかなり申し訳ない気持ちになってしまった……。
「あ……、ち、が……います」
「そ、そうか」
「山下さんから山下先輩のことを聞いて……」
「それで興味を持ったのか?」
頷いてくれたときについつい内でおお、と。
普通に会話ができるということは幸せだな、彼女と話していると尚更そう感じる。
「今日会ってみたら分かりました」
「普通に話せるんだな」
「あ、はい、少し緊張しすぎました」
「それでなにが分かったって?」
茉莉の兄にしては似ていない……とかか? それは俺も感じていることだから不満もないが。
が、結局教えてくれる前にふたりが出てきて知ることができなかった。
なので、物凄く気持ちが悪い状態で終わることになったのだった。
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