【KAC20227】ペットと生きる

いとうみこと

会うは別れの始め

 知り合いのワンコが虹の橋を渡ったそうだ。享年十五歳、最後までふさふさふわふわの綺麗なコだった。小型犬ではないので長生きな方だと思う。でも、どれだけ長生きしてくれたところで別れが切ないことに変わりはない。


 我が家には三匹の猫がいる。どのコも保護猫だ。早いもので、最初のコを飼い始めて七年半が経った。実家で飼っていたので猫と暮らすのは初めてではなかったけれど、家にいることと飼い主になることは全然違うと思い知らされる年月だった。


 当たり前のことだが猫は生きているから世話をしなければならない。食べるし、出すし、病気もする。人間の子どもと何ら変わりがない。当然出費もバカにならない。いちばん上のコが四歳の時に手術をしたのだが、突然十数万の現金が必要になって青ざめた。夫の給料は安いし家のローンはあるしで、我が家の家計に余裕がなかったからだ。


 貧乏人のくせに三匹も猫を飼うなんてどうかしていると言われたことがある。確かに、金持ちの家のコと違って十分な世話をしてやれないことはわかっている。けれど、貧しいなりに暖かい寝床とそれなりのご飯と惜しみない愛情を与えることはできる。そうして消えてしまったかもしれない命を繋いでいるという自負はある。ただの自己満足でしかないとしても。


 さて、我が家の事情はさておいて、私はこの国のお偉いさんに言いたい。今すぐペットの対面販売を中止して、ブリーダーには厳格な免許制度を作れと。更に多頭飼育は保健所への届け出を義務付けろと。


 ペットコーナーの子犬や子猫が幸せだろうか。幼くして親から引き離され、狭いケージに押し込められ、買い手が付けばまだしも、売れ残れば……


 昨今の悪質なブリーダーによる劣悪な環境での繁殖行為。獣医でもないブリーダーが麻酔無しで帝王切開したというニュースを読んだときは本当に胸が張り裂けるかと思った。そいつに同じことをしてやりたいと本気で思った。そんなことが許される国なのだろうか日本は。


 そして、無知と怠慢で起こる多頭飼育崩壊。多くのボランティアが保護のために汗水を流さなければならない現状はどう考えてもおかしい。いずれも根本的に正さなければならない。そのためには法整備が欠かせないのだ。


 猫に限らずペットは可愛い。また、可愛いだけではないのもペットだ。このコロナ禍でペットブームが起こり、その反動で飼育放棄されるコも多いと聞く。ペットを飼い始めることに多少なりともハードルを設けなければ、この不幸は繰り返されるのではないだろうか。


 今日も我が家の猫たちはお気に入りの場所でのんびりと過ごしている。不満はあるだろうが一応幸せそうだ。それを見ながら私はせめてもの祈りを捧げる。人間とペットとの出会いと別れが、可能な限り愛に満ちたものでありますようにと。

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