第7話 同調
ネーネリアの成長は巻いていく、それがアスカの方針だった。
「十二支族の直系が担う、すべての契約紋を集める。
それがプレイヤーの目的だ――まずは武器選びだな」
彼女から見て、アスカは面倒見がよい。
ネーネリアが実際に契約を結んでいるのは、ミユキとなのにも関わらず。
「これまではなにを使っていた?
ギルドやパーティのとき」
「えぇと、これっす」
工房内に、でかでかと展開される。
「大斧――そんなものと、きみのレベルで、これまでよく生き残れたな」
「取り回しはクソです。
前のパーティリーダーが、見栄えするから筋力値を上げとけって。
おかげで敏捷性が後回しにされて」
「なるほど、きみは自分の力量はわかっているわけか。
見栄え――タネガシマでは、自分たちはアウトレンジに置いて、掃討戦を行うようだが」
おおかた状況に対する制圧、コントロールすることに対する自己顕示欲が強いのだろう。
「ゼロ距離で、もうレベルが30ほどあるならば、火力も多少の跳ね上げられたんだが。
……けども、それまで十全に扱うにはステータスが低すぎる。
元々大斧は敏捷値による累乗性反射速度係数の底上げ、単純な筋力値、使役するモンスターの纒による憑依強化を前提としていて、これを纒うモンスターの属性ごとに取り回す、三拍子が揃ってようやく運用できるし、それまでは活用できる範囲が極めて少ない。
ステータス強化は一度リセットをかけてから、ミドルレンジで扱える主武器に直した方がいいんじゃないか?」
「リセット、ですか。プレイヤーさんだけができるっていう」
「ああ、きみの直轄はミユキだ。
武器を選んでから、彼女に頼むといい」
「だったら贅力値を多少残して、普通のリーチの
「希望はわかった。
金まわりはとにかく、カレンに頼もう。
なんとかしてくれるはずだ」
奥の武器庫から、ちょうど彼女が出てくる。
「はいはい、聞こえておりました。
戦斧とメイスね、どぞ。今ここにある最上級品だけど、そっちは使い手も少なくてね。ミユキへのよしみで、ツケといてあげる」
「本当ですか!?」
「ついでに、装備品もおさがりだけど、替えましょうか。
レアリティはあなたが今身に着けているいずれよりも高いはずよ」
「ありがとうございます!
ここ、なんでもあるんですか?」
「プレイヤーに必要なものは多少なり常備してるから。
でも鍛冶職じゃないから、装備品や軽量武器の売買はやってるよ。
――」
それからアスカを一瞥して、俯く。
「同調率。大丈夫なの」
「これまでとさして変わりない」
「そう」
アバター適応同調率、それはゲームシステムではなく、VRハード端末本体側のシステムで計測できる。通常、どんなに低くても60パーセント前後、高ければ93パーセントでシステム側が自動で生命維持機能に支障をきたさないよう制御する。
しかしアスカのハードは、あるとき、最初にヤドリギを扱った頃から、明らかに異常な数値、恒常的に100パーセントを超えた値とアラートを鳴らすようになった。これがシステム元来の制御を逸脱して高いと、なにが起きるのか、具体的なことをプレイヤーは知らないし、知りようがない。
だが、どうせろくな内容ではあるまい。以前カレンに見られてしまったとき、173だったから激しく叱られたが、この頃は200を超えている。
岩龍に使った後、213になっていた。上昇率もこれまででもっともひどい。
ちなみにシステムアラートは、ずっと前からミュートにしてある。
……果たして現実世界にあるべきはずの、アスカの身体はどうなっていよう。仮にゲームが攻略されたところで、アスカの意識は、元の肉体に馴染みなおせるか。
*
さっきマリエから、やたら気がかりな話を聞かされ。
「塑性ストレス神経疾患、フルダイブヴァーチャルリアリティに恒常的に接続し、仮想空間に適応しやすい人間の、常時活性化する脳と脊髄以外の
――という観測未知の奇病よ」
「身震いしそうになりますね。それってゲームを攻略できたところで、俺たちの社会復帰に関わることでしょう?」
あの人は頷いて、それからとんでもないことを言い放った。
「この世界に、私たちの世界とは別の時間からやってきたプレイヤーがいるかもしれない」
「……マリエさんでも、そんな冗談をおっしゃることあるんですね」
「まぁ無理して、これを真面目に聞けとは言わないよ。
ただ私たちは本来、日本というか、有史において初めてのフルダイブVRMMOの体験世代になりうるはずだったでしょう、マテリアルシード社が開発した、このゲームを通じて。
フルダイブ環境への長期間の接続と、肉体のフィードバックに関する統計は、私たちがゲーム内部へ閉じ込められた時点で、十全ではなかった。
今言った」
「奇病の名が聞かれるようになったのは、ごく最近。
そして同時に多数の出自不明なプレイヤーが、増えている。
別の時間から、流入していると?」
「というより、世界、かもね。
人の意識を閉じ込めるゲームなんて、欠陥品以外の何物でもない。
そんなものを多人数が再び扱っている『未来』なんて、文明が学習しなさすぎでしょう。だったら、我々の現実世界に極めて近しい、ないし超えうる技術力を持つ、それでいてフルダイブヴァーチャル環境に対する基礎統計の蓄積がある『異世界』とでも考えた方が、もっともらしい」
「根拠もないなら、そいつはただのトンデモじゃないです?」
「じゃあここ最近一連の出来事、詐欺師の多かったってことで、あなたは一笑にふせる?」
「――、プレイヤー連合にも協力を仰いで、認識を調査してみますか」
「その方向で調整は進んでいる」
「けど……ならそれを、なぜ今このタイミングで、俺に話すんでしょう」
「一応私は、これを便宜上『プレイヤー第二次世代』と呼んでる。
もしこれが、私たちとは違う起源でもって動いている存在だとしたら。
あなたにはこれを確かめてきて欲しい。
その後の対策は、プレイヤーギルド連合で協議することになるでしょう。
今ならまだ、右往左往している彼らに先んじて動ける」
場合によったら、彼らとの決裂の可能性まで、マリエは見越している。
アスカらを通じて得た情報で、『プレイヤー第二次世代』の存在に確心を得られるようなら、先んじて彼らを牽制し、または、プレイヤーによるゲーム攻略へ、なんらかの形で利用や協力させるつもりだ。
「この大事な時期に、またしてもですか。
なぜギルドのメンバーでなく、始末屋の俺なんです。
……俺が始末屋になってまで、あなたはいまだ、愛想を尽かさないのも」
「私はカレンを信じてる。
カレンの信じる、きみの目もね。
確かに、きみが今日までに発見してきたツールや技術、それらはいちいち、プレイヤーの治安に甚大な影響を与えてきた。きみも責任を感じているんでしょう。でも大概は、元から埋もれていたものを、きみが掘り出してしまったに過ぎない。
『上位調教』、『
それらの使い方は、もっと丁寧な段階と熟慮を経て、議論されるべきだった。
ただきみが新しい発見をしていくたび、私は思ったのよ。
きみには物事の裏側にあるものを視る目があって、上位調教の頃はとかく、クリスタライズなどについては、システムの裏側にある必然を見抜こう、眼力があったんだってね」
「……買い被りですよ」
アスカは、自分の後頭部をかいた。
「まぁ大事な時期に違いないわね。
どうする? 絶対支配のレシピ、公表はやめとく?」
彼は首を横に振る。
「遅かれ皆さん、知ることでしょう。
いつか必ず、俺だけの持ち物ではなくなる。
俺は人より先んじて、いくつかのシステムを見つけたに過ぎない。
皆さんはそれを『優位性』だとか言いますけど、くだらない。
……だったら使ってみればいい。無生物を使役できるスロットがいくつか増えたところで、互いに攻略の足を引っ張ることしかしないなら」
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